街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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スコットランド、ハイランド野生公園で出産が期待されていたヴィクトリアが飼育展示場に復帰

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ヴィクトリア Photo(C)Highland Wildlife Park

イギリス北部・スコットランド、キンクレイグ (Kincraig) のハイランド野生公園 (Highland Wildlife Park)で飼育されている現時点では20歳になっている雌(メス)のヴィクトリアと9歳の雄(オス)のアルクトスというペアはイギリスで25年振りにホッキョクグマの赤ちゃん誕生を可能とするペアとして大いに期待されています。昨年2016年の春にこの二頭の間に繁殖行動があったために昨年10月末からヴィクトリアは出産準備のために産室のある別のエリアに隔離して飼育されていたわけですが、一昨日1月30日にヴィクトリアは飼育展示場に復帰した旨の報告が同園にて明らかにされています。残念ながら2016年の繁殖シーズンでの赤ちゃん誕生はなかったということです。このペアについては「スコットランド、ハイランド野生公園の19歳の雌のヴィクトリアと8歳の雄のアルクトスの歩む繁殖への道」という投稿に詳しく述べてあります。

ヴィクトリアは18歳という年齢でデンマークのオールボー動物園から移動してきた後に環境に慣らすという目的で本来アルクトスとの同居を始めるのを一シーズン遅らせるほどこのハイランド野生公園はヴィクトリアの繁殖成功のために慎重の上にも慎重に事を進めてきたわけで、彼女が19歳であった昨年2016年の繁殖シーズンにおける出産の成功に同園は実は内心かなりの自信を持っていたような言動が多く発せられていたわけでした。ヴィクトリアはオールボー動物園ですでに出産と育児の経験があり、その時に誕生したのが現在カナダのサンフェリシアン原生動物園で飼育されている現在8歳の雌のミラクです。そういったわけでハイランド野生公園の飼育部門の責任者であるダグラス・リチャードソン氏には繁殖成功への静かな自信といったものが発言内容に感じられたというわけです。しかし現実はこうしてそう簡単には問屋が卸さなかったということになります。
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ヴィクトリアとアルクトス Photo(C)Highland Wildlife Park

私は2016年のシーズンのこのペアの間での繁殖にかなり注目していました。出産・育児経験のある19歳の雌(メス)と初めて繁殖に挑戦した8歳のアルクトスということだったのですが、ヴィクトリアに出産経験があることからこのペアの繁殖成功の鍵は雄のアルクトスにあるとみるべきだったわけです。このアルクトスと双子兄弟なのがドイツ・ハノーファー動物園のナヌークであり、仮にアルクトスに繁殖能力が備わっているとすれば双子兄弟のもう一方のナヌークにも繁殖能力がある可能性が高いと想定することはあながち誇張ではないと思うからです。そしてこのことは円山動物園が進めたいと考えている雄の欧州個体の札幌への導入に何らかの示唆を示すことになるだろうと考えたからです。

何故ノヴォシビルスク動物園のゲルダとクラーシン(カイ)や、ヤクーツク動物園のコルィマーナとロモノーソフや、ベルリン動物公園のトーニャとヴァロージャなどの非常に若いペアが繁殖挑戦の最初のシーズンにいとも簡単に繁殖に成功するのかといったことは謎ではあります。ホッキョクグマの繁殖ほどよぅわからないものはないと言ってよいほどです。条件を絞り込んで突き詰めていったとしても、どこかからスルリと抜け落ちてくる不確定な要素が極めて大きいような気がするわけです。しかしその一方で、何度も継続して繁殖に成功するペアがあり私が「大本命(S)」とランク付けしたシモーナやララは期待通りに出産するといった例があるわけです。そこには何かうまく抽出することのできない別の条件があるのだと理解するしかありません。モスクワ動物園の獣医さんが言うには「ホッキョクグマの雌(メス)が出産するかどうかは飼育されている地域の気温にはそう大きく影響されないが、雄(オス)は夏の気温の高い地域では繁殖能力が低下する。」といった内容のことをかつて私に述べていました。そうなると日本について言えば雄(オス)は北海道の動物園の方が繁殖の可能性は高い」ということになるかもしれません。世界的なスケールで考えればやはり冬の寒さの厳しいロシアは有利だということになるわけです。しかしそれはあくまでも何らかの解釈に過ぎないようにも思います。どういった客観的な条件があればホッキョクグマの繁殖には有利なのかをこのブログでは過去何年間にもわたって考察してきたわけですし、そういった考察の中ではデータを用いた研究報告なども引用してきたわけです。しかしこれといった明確な条件が依然として掴みきれないというのが現状なのです。全てを個体差に帰してよいのかについても疑問は残るということです。飼育環境の良し悪しもあまり関係はないようです。ただしかし産室内の居心地の良さには何か関係があるような気がします。しかし彼らにとっての「居心地の良さ」が具体的・客観的にどういう条件があれば達成できるのかについてもわからないということです。
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ヴィクトリアとアルクトス Photo(C)Highland Wildlife Park

しかし間違いなく言えることは、「ホッキョクグマの繁殖の成否は周囲の人間の期待の大きさや声援の多さとは全く無関係である。」という、ごく当たり前の冷徹な事実の再確認以上のものではないということです。

(資料)
Highland Wildlife Park (Jan.30 2017 - Polar bear update from RZSS Highland Wildlife Park)
BBC News (Jan.31 2017 - Scottish park's polar bear not thought to be pregnant)
STV News (Jan.31 2017 - UK's only female polar bear not pregnant, keepers say)

(過去関連投稿)
ドイツ・ハノーファー動物園のウィーン生まれの双子に別離の時来る ~ アルクトスがスコットランドへ
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スコットランド、ハイランド野生公園の19歳の雌のヴィクトリアと8歳の雄のアルクトスの歩む繁殖への道
by polarbearmaniac | 2017-02-01 02:00 | Polarbearology

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