街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・デトロイト動物園のタリーニとヌカの冬の日 ~ 繁殖に輝かしい歴史を誇る同園期待のペア

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ヌカ(左)とタリーニ(右) Photo(C)Detroit Zoo

ホッキョクグマの繁殖や移動についての記事や情報が多いのは欧州の動物園の個体ですが、アメリカの動物園については必ずしもそうではありません。しかしだからと言ってアメリカの動物園のホッキョクグマに関する情報が少ないのかと言えば決してそうではありません。イベントの開催に関する情報と、そういったイベントに登場する彼らの姿については非常に多くの記事が発信されているのがアメリカの動物園なのです。そういったことと比較すればロシアと日本の動物園に暮らすホッキョクグマの情報は動物園やメディアからの発信は比較的少ないと言えます。

さて、アメリカの動物園におけるホッキョクグマのペアで繁殖が期待されている有望なペアの一つがデトロイト動物園に暮らす共に現在12歳の雌(メス)のタリーニと雄(オス)のヌカです。この二頭の姿を一昨日、同園からライブにて中継されたTV局の映像がありますので、まずそれを見てみたいと思います。音声はonにして下さい。途中から水に入っているのがヌカで陸の上にいるのがタリーニです。デトロイトには積雪は無いようです。



雌(メス)のタリーニですが、彼女はファンにとっては特別な意味のあるホッキョクグマだと言えましょう。何故ならば彼女はメキシコのサーカス団から救出されてこのデトロイト動物園で保護された故ベアレの娘であるからです。このベアレについては是非「アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯」という投稿を御参照下さい。それまで一度も雄との同居のなかった雌(メス)のホッキョクグマが20歳にして初出産・育児に成功し、その時に生まれたのがタリーニなのです。初出産・育児に成功したこの20歳という年齢は少なくとも世界の飼育下の過去20~30年のスパンではおそらく唯一の例なのです(例えばバフィンは大阪に移動する前の彼女が20歳以前の段階で浜松で複数回の出産を行っていますので大阪でのモモの誕生はベアレの記録には匹敵しません)。 
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タリーニとベアレお母さん(2005年)
Photo(C) Betsie Meister, Detroit Zoological Society

ちなみにこのデトロイト動物園における故ベアレに関して本ブログの右下欄にあるライフログで紹介しています "Bärle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life as a Circus Act" は実に素晴らしい本です。ベアレがサーカスで受けた心の傷から快復していく過程を記録したこの本は我々に深い感動と多くの示唆を与えてくれます。少なくとも(欧米の)ホッキョクグマファンでこの本を読んだことがないなどという人はモグリのホッキョクグマファンでしょう。ホッキョクグマに対する透徹した観察力と深い洞察に富み、そして彼らの行動から多くのものを読みとる優れた感性と卓越した能力、そして深い知識と愛情に溢れているのがこの本の著者であり、ホッキョクグマファン以外の動物ファンからも極めて高い評価を得ている本です。私もこの本から多くのことを学びました。この本のごく一部はこちらでも読むことができます。「サーカス出身のホッキョクグマ」というのは我々日本人にとっては馴染みのない世界です。しかし私はこの本を読んだり、あるいは実際にロシアでゴシやイョシといったサーカス出身のホッキョクグマたちに実際に会ってみて、ようやくその複雑で悲惨な世界を認識したというわけでした。話がすっかり外れてしまいました。この故ベアレの娘であるタリーニの映像を下に一つだけ紹介しておきます。



このタリーニという現在は12歳のホッキョクグマは遊び友達にしてもパートナーにしても、なかなか相性の良し悪しが存在するホッキョクグマのようです。そしてこのタリーニのパートナーとして2011年にピッツバーグ動物園からデトロイト動物園に移動してきたのがタリーニと同じ年齢の雄(オス)のヌカなのです。このヌカのデトロイト動物園への移動はAZAのSSP (Polar Bear Species Survival Plan) 推進委員会の推薦と決定によるもので、その理由はヌカがタリーニと同じ年齢であることと血統的にタリーニとは無関係であることが決定的に重視されたそうです。
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ヌカ Photo(C)Royal Oak Patch

このヌカの映像も下に一つご紹介しておきます。



このヌカとタリーニの相性についてはヌカ来園の時点では不安視する見方もあったようですが、現実に同居させてみると非常にうまくいっているそうです。彼らが7歳の2012年の繁殖シーズンからこの二頭はペアを組んで繁殖が試みられているわけですが、まだ結果は出ていません。しかし年齢的に彼らはまだ12歳ですので、まだまだチャンスがあることは間違いありません。下に昨年3月のこの二頭の映像をご紹介しておきます。



このデトロイト動物園のホッキョクグマ飼育展示場である "The Arctic Ring of Life" は全米でも屈指のスケールを充実さを誇る飼育展示場だそうです。それからまたこのデトロイト動物園には以前にも何度かご紹介していますが、もうこれは「歴史的・伝説的ホッキョクグマ」であるドリス(1948-91)が飼育されていた動物園なのです。このドリスというホッキョクグマは飼育下の「ホッキョクグマの三冠王」とも言ってよい存在の偉大なホッキョクグマでした。彼女が依然として保持している「三冠」の記録とは、

・史上最高齢記録 (43歳10ヶ月)
・史上最高齢出産記録 (38歳2ヶ月)
・史上最高齢出産成功記録 (35歳11カ月)


という驚異的な記録です。仙台のナナの母親であったデビーが史上最高齢記録保持のホッキョクグマであると勘違いされていらしゃる方がいるようですが、デビーは亡くなった当時(42歳)は世界最高齢であったものの史上最高齢ではありませんでした。実はデビーは史上第三位(あるいは第二位)の長寿記録であるということです。それから、上の「最高齢出産記録 (38歳2ヶ月)」については私は依然として懐疑的ですが、学術文献で authorize された記録であることは間違いなく、そしてさらに「最高齢出産成功記録 (35歳11カ月)」は間違いないことが完全に確認されています(この時の出産個体の子孫がきちんと確認できるからです)ので「最高齢出産記録 (38歳2ヶ月)」も間違いないことであるとの推定は十分可能です。このドリスのデトロイト動物園での写真を再びご紹介しておきます。
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ドリス(1948-91) Photo : The Historical Image Outlet

こうしてホッキョクグマ飼育には輝かしい歴史を持つデトロイト動物園です。是非ともタリーニに繁殖に成功してほしいものです。

(資料)
Fox 2 Detroit (Feb.8 2017 - The Detroit Zoo: A peek in on the polar bears)
Oakland Press (May.3 2012 - Detroit Zoo looking to increase polar bear population WITH VIDEO)
Royal Oak Patch (Dec.1 2011 - Nuka Arrives at Zoo as Polar Paramour for Talini)
Polar Bears International ("The Oldest Living Polar Bear" by Dr. Robert E. Wrigley)

(過去関連投稿)
アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯
アメリカ・インディアナポリス動物園がホッキョクグマ飼育から撤退 ~ 29歳のタンドラはデトロイト動物園へ
アメリカ・デトロイト動物園に移動した29歳のタンドラが元気に飼育展示場に姿を見せる
アメリカ・デトロイト動物園のタンドラが亡くなる ~ インディアナポリス動物園よ、恥を知れ!

*記録関連
サツキ、産室から出る...~ ホッキョクグマの歴代最高齢出産成功記録は35歳11ヶ月?
高齢のデビーを愛し、慈しみ、送った人々 (上)
高齢のデビーを愛し、慈しみ、送った人々 (下)
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by polarbearmaniac | 2017-02-09 17:30 | Polarbearology

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