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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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ノルウェーで発見された一万二千年前のホッキョクグマの骨格の展示 ~ 氷河期時代の唯一の全身骨格の発見

ノルウェーで発見された一万二千年前のホッキョクグマの骨格の展示 ~ 氷河期時代の唯一の全身骨格の発見_a0151913_20454528.jpg
(C)Terje Tveit/Arkeologisk museum, Universitetet i Stavanger

今から約一万二千年前、まだ氷河期だった頃に生きていたホッキョクグマの唯一の完全な骨格が展示されている場所がノルウェーのスタヴァンゲル市の大学にある考古学博物館 (Arkeologisk museum) です。この骨格が発見された場所はノルウェー南部のローガラン県にあるフィニョイ (Finnøy) という島にある一軒の家の地下にある洗濯場の床の下からだったそうです(以下の地図参照)。 
ノルウェーで発見された一万二千年前のホッキョクグマの骨格の展示 ~ 氷河期時代の唯一の全身骨格の発見_a0151913_20593033.jpg
もちろんこの場所は現在はホッキョクグマの生息地ではないわけですが現在のノルウェーは氷河期には氷で覆われており、海面は現在よりも40m高かったということで、このホッキョクグマは北からこの場所に泳ぎ着いて死亡したとみられるということです。推定年齢は28歳、推定体重は600kgs だそうです。野生としてはかなりの高齢であり、しかも巨体であることに驚かされます。

この骨格の一部はすでに1976年に発見されていたそうですが6年間も陽の目を見ずにこの家の所有者が箱の中で保存していたそうですが、6年後の1982年になって考古学博物館の専門家スタッフが家の所有者の了解のもとで本格的な発掘調査を行い、床から70cmのところでほぼ完全なホッキョクグマの骨格を発見したそうです。その当時すでに氷河期のホッキョクグマの骨の発見は世界で9例あたつぉうですが、このノルウェーのフィニョイのようにほぼ完全な形で発見されたものは初めてだったそうです。そして骨格の若干部分の欠損の補修を行って1985年からスタヴァンゲル大学の考古学博物館で展示されているということです。
ノルウェーで発見された一万二千年前のホッキョクグマの骨格の展示 ~ 氷河期時代の唯一の全身骨格の発見_a0151913_20531110.jpg
(C)Eirik Gjesdal/NRK

この骨格が発見されたときに考古学博物館の専門家スタッフはこのホッキョクグマの死因を推定しようとしたわけですが、少なくとも空腹や飢餓によって死亡したのではないということ以上は突き止められなかったようです。空腹や飢餓が死因ではないということの理由は、このホッキョクグマの骨格のそばにホッキョクグマが主食としているアザラシの骨が一緒に発見されているという事実があるからだそうです。
ノルウェーで発見された一万二千年前のホッキョクグマの骨格の展示 ~ 氷河期時代の唯一の全身骨格の発見_a0151913_23125457.jpg
1982年の発掘調査 Photo(C)Terje Tveit/Arkeologisk museum, Universitetet i Stavanger

ホッキョクグマの起源に関する研究はここのところ新しい説が登場するのがやや止まっているようです。「ホッキョクグマとヒグマは、氷期だった約15万年前に共通の祖先から枝分かれした」といったかつての通説である「15万年前説」はとうの昔にすでに崩壊しており、その後には「60万年前説」が通説になったわけです。しかしその後に「500万年前説」という衝撃的な新説の登場に「60万年前説」は大いに揺らいだというわけです。ところがその次に登場したのは「40万年前説」です。日本では依然として「15万年前説」が定説として定着しているようですが、その理由は、日本ではホッキョクグマの起源について世界でどのような最新の研究結果が発表されているかが報道されていないことに原因があると思われます。その背景として、動物園では人気動物であるホッキョクグマに関して彼らについてもっと知りたいという我々ファンの側からの知的欲求が日本ではやや希薄であるという現実があるということです。そういった知的欲求(つまり「需要」)が薄ければ報道(つまり「供給」)もなされないということです。近年における分子生物学の急速な発展によって、世界では次々と有力な説が登場しており、ホッキョクグマの起源については現時点では明確には確定していないというのが実際のところです。ただし「15万年前説」という以前の通説がすでに崩壊しているということだけは間違いありません。ご興味のある方は過去関連投稿の「ホッキョクグマの起源について」の投稿のシリーズを御参照下さい。また新しい有力な説が登場しましたら直ちにご紹介したいと考えています。ホッキョクグマの起源に関する研究について、世界の最前線の状況をフォローしていきたいと思っています。実に興味の尽きないテーマなのです。

(資料)
Arkeologisk museum/University of Stavanger (The Finnøy Polar Bear)
NRK (Dec.27 2017 - Under gulvet i vaskekjelleren fant Sverre en 12.000 år gammel isbjørn)
Phys.Org (Jan.23 2018 - The Finnøy polar bear)

(過去関連投稿)
ホッキョクグマの最古の化石が語ること
ホッキョクグマの最古の化石が語ること (続)
ホッキョクグマの起源について(1) ~ 諸説の成立過程を整理する
ホッキョクグマの起源について(2) ~ ホッキョクグマ版 「イヴ仮説」 の登場
ホッキョクグマの起源について(3) ~ 画期的な新説が登場するも依然として残る謎
ホッキョクグマの起源について(4) ~ 衝撃的で強力な新説の登場により通説が遂に崩壊へ
ホッキョクグマの起源について(5) ~ ホッキョクグマとヒグマとの進化過程での交配を否定する新説登場
ホッキョクグマの起源について(6) ~ 「新・通説」の結論を否定した新説が登場し謎は再び深まる
by polarbearmaniac | 2018-01-29 01:00 | Polarbearology

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