街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 「遊び友達」の導入に苦戦するオレゴン動物園とAZA

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ノーラ Photo(C)Oregon Zoo

アメリカ・オハイオ州のコロンバス動物園で2015年11月6日にオーロラから誕生して人工哺育で育てられた雌のノーラ (Nora) は現在オレゴン州ポートランドのオレゴン動物園で一頭で暮らしています。オレゴン動物園とAZAは当初このノーラをタサルと同居させようと予定していたものの、タサルとの同居が実現して間もなくタサルは老齢のために亡くなってしまったという事情で、なんとかこのノーラの遊び友達となりうる個体を導入しようとしているものの、そう簡単にはいかないようです。こういった過去のことは今まで過去関連投稿で述べてきた通りです。

そういったオレゴン動物園とAZAの苦慮をよそに、ノーラは一頭で比較的伸び伸びと暮らしているようです。そういったノーラの最近の様子を同園は映像で公開していますので見ておきましょう。







アメリカの動物園というのはもともとホッキョクグマ(ホッキョクグマだけに限りませんが)などの人気動物と特定の動物園、そして地域のファンとの三つの結びつきが強いためホッキョクグマを移動させるということには特にファンの間で抵抗感が強いという事情がありますが、それを振り切って昨年の秋から今年にかけて大規模なホッキョクグマの再配置が行われたのは繁殖目的という「錦の御旗」があったためで、人工哺育された個体に必要な「適応化socialization)」を目的とした個体移動を行うというところまではなかなか踏み切れないというところなのでしょう。

この「遊び友達」という点ですが、人工哺育された個体の「適応化(socialization)」のために必要な「遊び友達」は人間によって育てられた個体にホッキョクグマの種としての特性を植え付けさせるために必要なことであり。これはかつてから認識されていたことです。しかし先日、天王寺動物園訪問記の中で述べた「遊び友達」はまた別の意味を述べたわけです。それは、個体にとって「他者」の存在が好ましいといった非常に最近の欧米の先進的な考え方を基礎にしたことです。いつどなたのページでだったか私は忘れてしまいましたが、天王寺動物園でバフィン親子が浜松に移動した後にシルカがバフィン親子の暮らしていた室内のスペースに誰もいないことを見ていたというシーンについて、その方は「シルカはモモ(そしてバフィン)がいなくなったのを寂しく感じている。」といった印象を述べられていたように記憶しています。それに対して別の方が、「そんなことはありえない。ホッキョクグマは単独生活を好む種である。」といったことを述べて反論していたように記憶してます。この「ホッキョクグマは単独生活を好む種である。」ということは確かに正しいです。そしてシルカはモモ(とバフィン)がいなくなったことを寂しくは思っていなかったというのも正しいわけです。この正しさは Zoological correctness といったものなのです。

さて、次の段階ですが「ホッキョクグマは単独生活を好む種である。」という Zoological correctness が直ちに「だからシルカは単独飼育にしておくべきだ。」というように直結していくかといえば、最近の欧米の先進的な飼育の考え方からはどうもそうではないようです。現在のようにシルカに多くのおもちゃを与えて単独飼育していくよりも同性であるモモと同居させたほうがシルカのためにはよい(バフィンの存在は完全に脇に置いてきます)という考え方が出てくるわけです。ここではモモがシルカの「遊び友達」にあたるわけです。種としての「単独生活への指向」と「同性の他者(遊び友達)の存在」は互いに矛盾していると考えられますが、しかしどうも欧米ではこの若年個体にとっての「他者(遊び友達)の存在」を飼育下の若年個体へのエンリッチメントの延長上に位置付けてきている.....それが最新の傾向のようです。「与えられる多くのおもちゃ」vs.「同性の遊び友達の存在」、いったいどちらがシルカにとって好ましいかという問題設定となるでしょう。

さて、話を少し前に戻します。カドリードミニオンでかつてトウチャンが亡くなった時に、長年パートナーだったカアチャンは本当に何も感じなかったのか....「何も感じなかった」というのは Zoological correctness です。そして実際「何も感じなかった」というのが正しいのでしょう。しかし私には「ホッキョクグマは単独生活を指向する種であるからカアチャンはトウチャンが亡くなっても全く何も感じなかった。」と誰かから言われれば、それはまるで「喫煙は健康に良くありません。」という Medical correctness を述べられただけのような気もするわけです。喫煙者は「喫煙が健康に悪い」ことを知っていてもなお、喫煙し続けているのは何故か.....。Zoological correctness や Medical correctness を踏まえてもなお、別の感じ方の存在は否定しえないようにも思います。「シルカはモモ(とバフィン)がいなくなったので寂しく感じている。」という正しいとは言えない印象を持った方に対して、「それは違う。ホッキョクグマは単独生活を好む種である。」という Zoological correctness を述べることは私はしてもあまり意味はないと思っていまし、そうするつもりもありません。それはまさに喫煙者に対して「喫煙は健康に悪い。」といった Medical correctness を述べることと同様に、あまり意味のあることではないと思っているからです。

(資料)
ABC6OnYourSide.com (May.19 2017 - Nora mastering the art of the belly flop)

(過去関連投稿)
アメリカ・コロンバス動物園のノーラがポートランドのオレゴン動物園へ ~ その背景を読み解く
アメリカ・コロンバス動物園のノーラの同園での展示最終日に多くの来園者がノーラとの別れを惜しむ
アメリカ・コロンバス動物園のノーラが西海岸・ポートランドのオレゴン動物園に無事到着
アメリカ・オレゴン州ポートランドのオレゴン動物園に到着して検疫期間中のノーラの近況
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラとコロンバス動物園の担当飼育員さんの別れ
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの来園を歓迎しない地元ポートランド市民の意見 ~ So what ?
アメリカ・オレゴン動物園で検疫期間中のノーラの最近の様子
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園で検疫期間中のノーラの近況
アメリカ・オレゴン動物園でノーラとタサルの同居開始準備のため二頭の初対面が行われる
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アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 今週末にも一般公開開始の予定
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アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラ ~ 野放図な遊び好きの性格に潜む危うさ
アメリカ・オレゴン州ポートランド、オレゴン動物園が降雪の影響で閉園となった日のノーラの姿
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの自由奔放さ ~ 彼女の遊び友達を探す同園とAZA
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 「適応化(socialization)」とエンリッチメントとの関係
by polarbearmaniac | 2017-05-22 21:00 | Polarbearology

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