街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・トレド動物園のホープ、及びオレゴン動物園のノーラが共にソルトレイクシティのホーグル動物園へ

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ホープ Photo(C)The Blade

大変重要なニュースがオハイオ州のトレドの地元紙によって報じられました。同紙の記事の情報元はトレド動物園のランディ・メイヤーソンさんですので間違いないでしょう。この方はAZAで繁殖計画を推進する委員会を主導しで飼育下のホッキョクグマの繁殖計画 (SSP) を作成している方です。日本流に言えば「種別調整者」ということになるでしょう。

メイヤーソンさんの語るところによりますと、トレド動物園で2015年12月3日に誕生した雌(メス)のホープ (Hope)が秋にユタ州ソルトレイクシティのホーグル動物園に移動することになったとのことです。そしてホープは同じ2015年11月6日にコロンバス動物園で誕生し人工哺育で育てられた後に現在はオレゴン動物園で単独で飼育されている雌(メス)のノーラ (Nora)の遊び友達(ここでは "companion" と表現されています)になるとのことです。つまりノーラはオレゴン動物園からホーグル動物園に移動することになるわけです。つい二日ほど前に「アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 「遊び友達」の導入に苦戦するオレゴン動物園とAZA」という投稿を行ったのですが、メイヤーソンさんはまさに決断を下したということですね。その投稿でも述べましたが人工哺育されたノーラには「適応化(socialization)」のために他の若年個体との同居がどうしても必要なのです。メイヤーソンさんは自分が属しているトレド動物園に一歳半のホープにそれを託したというわけです。ここでメイヤーソンさん自身が今回の件について語っているのを聞いてみましょう。映像に登場しているのはホープです。音声はonにして下さい。



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ノーラとホープ Photo(C)Oregon Zoo

ノーラはオレゴン動物園で人気を博していますが、そのノーラの遊び友達はホープとするものの、二頭の飼育場所はつい先日リッツォが亡くなってホッキョクグマが不在となったソルトレイクシティのホーグル動物園にしたというわけです。これでオレゴン動物園はホッキョクグマが不在にあってしまいますが、もともと同園では飼育展示場の改装工事を行う予定だったわけですから文句は言えないでしょう。メイヤーソンさんはホープもノーラもアメリカのホッキョクグマ界にとっては非常に重要な雌(メス)の幼年個体であると考えているそうで、人工哺育されたノーラはホープという遊び友達の存在によってホッキョクグマの種としての特性を身に付けさせていくことが極めで重要であると考え、またホープについては同性の同年齢のノーラの存在によってさらなる成長を遂げてもらうことが彼女の数年先の繁殖可能年齢到達後に繁殖に成功するための重要な要素であると考えていることも間違いないわけです。

やはり雌(メス)の幼年・若年個体は同じ年齢層の同性の個体と同居させたほうがよい....そういうことになるのでしょう。先日、「ロシア・ノヴォシビルスク動物園のロスチクの欧州への移動は2018年以降の可能性が高い?」という投稿でご紹介したオランダ・レネンのアウヴェハンス動物園のヨゼ・コック(José Kok)さんが話していたことを思いだしてみて下さい。「飼育下のホッキョクグマに関する過去からの調査によって、血統的に繋がりのある雌(メス)の二頭を同居させることは非常にうまくいく....」という発言です。ホープはノーラの叔母にあたるわけですがホッキョクグマの世界ではこういったことは意識されません。しかしノーラは人工哺育されているために身体を接する個体としてはホープが初めてとなるわけですから飼育下で血統的に強い繋がりのある個体(たとえば親子、あるいは双子兄妹、双子姉妹)との関係と実質上は似たような関係をホープと築くことになるわけです。「双子姉妹の神話」が何故成立するのかを解くカギがここにあります。つまり「雌(メス)の幼年・若年個体は同性の個体と同居させておいたほうが将来に繁殖にプラスに働くという飼育における経験的な結論が出てくるということではないでしょうか?

だから....だから.....マルルとポロロを引き離すなと私が主張したことはやはり正しかったと思うわけです。欧米では明示的ではない形での「実践」がなされているように思います。そういったものは本などには容易に記述されない内容であり、そして経験にも立脚した認識であると思います。こうして考えれば、大阪のシルカはやはりマルルと同居すべきなのです。

(*追記)- オレゴン動物園からもノーラの移動について告知がありました。同園としては本心ではホープをノーラのいるオレゴン動物園に迎え入れたかったものの、飼育展示場の新装改築工事に重なってしまってそれが果たせないと語っています。またノーラに遊び友達が必要な理由について、
"For a young bear that was hand-raised, the companionship of another bear will be so important for developing social skills." と語っています。この "developing social skills" こそ、「適応化(socialization)」であるということです。ここでノーラのコロンバス動物園、そして移動後のオレゴン動物園での姿を振り返っておきましょう。






(*追記2)ソルトレイクシティの地元TVニュースもご紹介しておきます。



(資料)
The Blade (May.24 2017 - Toledo Zoo’s playful bear being transferred)
13abc Action News (May.24 2017 - Toledo Zoo's polar bear, Hope, moving to Utah)
(*追加資料)
Oregon Zoo (May.24 2017 - Polar bear Nora to get new home, new companion this fall)
kgw.com (May.24 2017 - Nora the polar bear leaving the Oregon Zoo)
OregonLive.com (May.24 2017 - Nora, the Oregon Zoo's polar bear cub, will leave Portland this fall)
KSL.com (May.24 2017 - Hogle Zoo welcoming 2 new polar bears this fall)

(過去関連投稿)
(*ホープ関連)
アメリカ・オハイオ州 トレド動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ クリスタルの安定感
アメリカ・オハイオ州 トレド動物園の赤ちゃんの近況 ~ 一般公開に向け準備中
アメリカ・トレド動物園の赤ちゃんの性別は雌(メス)と判明 ~ 報道陣にのみ公開される
アメリカ、トレド動物園の雌の赤ちゃんの名前が「ホープ(Hope)」に決まる ~ 本日より一般公開開始
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アメリカ・トレド動物園のクリスタル親子の近況 ~ 北米で最高との評価を持つクリスタルの育児を探る
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アメリカ・トレド動物園で満一歳となったホープ ~ 飼育下の繁殖を野生個体保護の延長線上に位置付ける同園
(*オレゴン動物園のノーラ関連)
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アメリカ・オレゴン動物園のノーラの自由奔放さ ~ 彼女の遊び友達を探す同園とAZA
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 「適応化(socialization)」とエンリッチメントとの関係
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 「遊び友達」の導入に苦戦するオレゴン動物園とAZA
by polarbearmaniac | 2017-05-24 18:30 | Polarbearology

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