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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア・カザン市動物園が誇る自園の雌(メス)の個体の高い「育児成功率」 ~ 根拠薄弱な数字の魔術

ロシア・カザン市動物園が誇る自園の雌(メス)の個体の高い「育児成功率」 ~ 根拠薄弱な数字の魔術_a0151913_13106.jpg
マレイシュカ (Белая медведица Малышка/Eisbärin Malyshka)
(2015年8月14日 於 ロシア・カザン市動物園)

ロシア連邦タタールスタン共和国のカザン市動物園といえばこのブログでも何回もご紹介してきましたし、私自身もカザンには三回出向いてこの動物園の訪問のレポートを現地からご紹介してきました。このカザン市動物園というのは飼育環境が劣悪であることは大いに悲しく感じると共に、この動物園に関係した情報の不透明さというものにはある種の不気味ささえ感じているほどです。しかしこの動物園には私が応援している雌’(メス)のホッキョクグマであるマレイシュカが飼育されていますので非常に気になっている動物園です。
ロシア・カザン市動物園が誇る自園の雌(メス)の個体の高い「育児成功率」 ~ 根拠薄弱な数字の魔術_a0151913_1323228.jpg
マレイシュカ (Белая медведица Малышка/Eisbärin Malyshka)
(2015年8月14日 於 ロシア・カザン市動物園)

さて、そのカザン市動物園では例のロシア最大の石油会社であるロスネフチ社からの多大な援助がホッキョクグマのマレイシュカに対してなされており、現在建設工事中である新動物園においてもホッキョクグマの新しい飼育展示所にロスネフチ社から多くの資金援助がなされていることなどを同園はSNSを通じて述べていますが、その際に同園における過去のホッキョクグマ飼育と繁殖の実績について簡単に紹介する記述が行われています。その中で同園で飼育されている(されてきた)ホッキョクグマたちの優秀さに言及する際に「育児成功率 ("выживаемости молодняка")」という数字を持ち出しています。語学的に言えば「幼児の生存率」ということになりますが、同園ではこの数字を挙げる際に「出産頭数」と「母親が育て上げた頭数 ("самка успешно вырастила....")」という二つの数字を挙げていますので、この "выживаемости молодняка" は「育児成功率」ということを意味していることになります。つまり、出産した赤ちゃんのうち育児放棄や食害などを行わずに何頭の赤ちゃんが無事に(少なくとも生後半年間)育ったのかという数字を意味しているわけです。そしてカザン市動物園は同園で飼育されてきた雌(メス)の「育児成功率」を85.7%であると述べているわけです。さらに、世界の動物園を平均するとこの数字は37.3~48.5%であると述べ、いかにカザン市動物園のホッキョクグマの母親たちが優秀であるかを述べているわけです。特に現在飼育されているマレイシュカについては何と100%であると述べています。(これで言いますと札幌のキャンディはあれだけ出産したものの 0%ということになってしまいます。)
ロシア・カザン市動物園が誇る自園の雌(メス)の個体の高い「育児成功率」 ~ 根拠薄弱な数字の魔術_a0151913_1564418.jpg
マレイシュカお母さんと娘のユムカ
(Белая медведица Малышка и медвежонок Юмка)

(2013年9月28日撮影 於 ロシア・カザン市動物園)

さて....このカザン市動物園が言及している「育児成功率 ("выживаемости молодняка")」という数字、これは極めて問題の多い数字であると言わざるを得ません。まず、世界の動物園でホッキョクグマの産室内にモニターカメラが設置されたのはここ20年ほどのことなのですが、ロシアではそれが遅れていてあのレニングラード動物園で産室内にモニターカメラが設置されたのは2004年12月に仙台のラダゴル(カイ)が誕生した時が初めてだったというほど遅かったわけです。そういったモニターカメラが産室内に設置されていない時代には、飼育員さんが産室の外で赤ちゃんの泣き声などから生まれた頭数を判断していたわけですが、そういった時代には実際には母親が何頭出産したのかなどについて正確な把握などできたはずはないのです。食害が行われたケースなどは母親は痕跡など残さないわけです。そういったことから考えればカザン市動物園の言う「出産頭数」は実際にはもっと多かったことは間違いないでしょう。つまり「育児成功率 ("выживаемости молодняка")」を計算する際の分母は実際はもっと多いわけです。となれば、この「育児成功率」の数字はもっと低くなって当然なのです。
ロシア・カザン市動物園が誇る自園の雌(メス)の個体の高い「育児成功率」 ~ 根拠薄弱な数字の魔術_a0151913_1582078.jpg
ユムカ(現 ペルミ動物園)(Белый медвежонок Юмка)
(2013年9月28日撮影 於 ロシア・カザン市動物園)

ホッキョクグマの繫殖(Reproduction)に関することで「XX %」などという数字が挙げられた場合は、おおむねそれらは怪しげな数字であることを認識すべきです。要するにホッキョクグマの繫殖に関することでは定量的なデータの把握がいろいろな理由で正確さを欠いた数字になるというのが現実なのです。

ただしカザン市動物園に関して言えば、同園の劣悪な飼育環境にもかかわらず繁殖実績は賞賛すべきものであることは間違いありません。このカザン市動物園については後日、稿を改めて述べたいと思っています。

さて、ここで一つおもしろいシーンを見ていただきましょうか。カザン市動物園の前園長が賄賂を受け取るシーンです。多分これは警察が汚職事件捜査の段階で「おとり捜査」を行ったシーンだと思います。この前園長は業者から不正な賄賂を受け取って私腹を肥やしたために逮捕・起訴され有罪の判決を受けて刑務所に入れられたそうです。



カザン市動物園というところは一筋縄ではいかない動物園なのです。ロシアの暗黒の闇の世界が垣間見えるシーンです。

(資料)


Казанский зооботанический сад (May.30 2017 - Медведица Малышка под опекунством ПАО "НК "РОСНЕФТЬ")

(過去関連投稿)
ロシア・カザン市動物園の「国際ホッキョクグマの日」のマレイシュカの姿 ~ 昨年末には出産に成功せず
ロシア・カザン市動物園に短期出張したアルツィンがチェリャビンスク動物園に帰還 ~ 行方不詳のユーコン
ロシア連邦・タタールスタン共和国 カザン市動物園の20歳のマレイシュカ、昨シーズンは出産ならず
ロシア・タタールスタン共和国 カザン市動物園のマレイシュカの夏の日 ~ 知られざる偉大な母
ロシア・カザン市動物園のマレイシュカの近況 ~ 再び母としての姿を見せるチャンスはあるか?
ロシア・カザン市動物園のマレイシュカの近況 ~ 「甘いおやつの日」のイベント

(*2011年9月 カザン市動物園訪問記)
カザン市動物園へ ~ 貧弱な飼育環境と大きな繁殖実績との間の巨大なパラドックス
カザンの星、マレイシュカお母さんの素顔
カザンで見たユーコン (天王寺動物園、ゴーゴの父) の素顔
カザン市動物園訪問2日目 ~ 疑惑から事実の確定へ
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成田からモスクワ、そしてカザンへ ~ 別れが目前に迫った母娘への想い
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マレイシュカお母さんの性格と母性
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(*2015年8月 カザン市動物園訪問記)
カザン市動物園、その疑惑と謎に満ちた不可解な状況 ~ マレイシュカとの再会
マレイシュカは年末に出産するか? ~ 劣悪な飼育環境にも逞しく生きるホッキョクグマのロシア魂
ユーコン (Белый медведь Юкон - 姫路ホクト、白浜ゴーゴの父)   (1988 ~ 2014)
by polarbearmaniac | 2017-06-01 02:00 | Polarbearology

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