街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

2010年 11月 04日 ( 1 )

クルミ・ツヨシ・豪太に関する報道記事の深層を読み解く (後)

a0151913_2016175.jpg
クルミとツヨシ Photo(C)釧路新聞社

前投稿よりの続き)
実はこの「クルミ・ツヨシ・豪太問題」の発端は、私はこのブログを開設する直前の出来事でしたので私はそれを記事にできませんでした。しかし、その昨年暮れの時点で実はやや腑に落ちないものを感じていたわけです。次に2009年12月2日付けの朝日新聞の報道(下記資料参照)です。一部コピーします。

>メスとわかり全国を驚かせた北海道・釧路市動物園のホッキョクグマ・ツヨシ(5歳)が来年、秋田県男鹿市の水族館に「嫁入り」する可能性が出てきた。

この報道では、GAOに行くのが「クルミかツヨシか」という面よりも「ツヨシの可能性」のほうにニュアンスが置かれています。それで非常にひっかかるものを感じたわけでした。正確な報道を心がけるならばやはり2009年12月2日付けの共同通信(下記資料参照)のような「クルミかツヨシか」という報道になるはずです。朝日の記者はおそらく関係者にも取材したものと思われますが、どうでしょうか、釧路の関係者の中に、「GAOに出すのはクルミではなくツヨシだ。」というニュアンスの発言を記者に対してした方がいたのかもしれないような気がします。私は実は、それこそが「クルミ/ツヨシ」の二者択一の場合の釧路関係者の心情ではないかと推察しています。その根拠は、ツヨシ(そしてピリカ)が雌だと判明して大阪(ゴーゴ)と男鹿(豪太)がパートナー候補としてツヨシに手を上げた時に、釧路がそれへの対応として俎上に上げたのはクルミではなくツヨシだったからです。 ツヨシの繁殖問題については当時北海道の4園会議においては「ツヨシ繁殖までにはまた余裕あり」として結論を出さなかったわけです。

さて、それならば、クルミの妊娠の確認、出産、子育ての成否などは無関係に早々とツヨシをGAOに貸し出す決定がなされてもおかしくないようにも思われますし、そういう考え方には一理あります。 ところがその一方で、クルミが釧路に残る条件を「クルミの妊娠の事実」から「クルミの出産の事実」、そして「クルミの子育て」までとハードルを微かに上げてきている印象を受けます。これは、私には釧路関係者の心情とは方向性が逆ではないかと感じますね。「育たなくてもとにかく出産だけでもしてくれたらよい。育児放棄があれば人工哺育だってやるし、それがだめでも次は旭山のイワンもペアリングの相手として控えている。だからクルミが残ればよい。」と思って当然なわけですが、クルミが釧路に残る条件が「子育ての成功」まで上がってしまったような印象にも感じます。つまり、 「釧路にとってはクルミは重要な存在だからクルミは釧路に残したい。」という釧路関係者の心情とは逆の考え方の力学の存在があるわけです。ではなぜそのような力学が働くのでしょうか? その力学とは、北海道4園会議の4園長声明で北海道の動物園のホッキョクグマの異動計画が発表され、これに基づいて行われた2~3月の移動を推進した考え方です。 この考え方には、ホッキョクグマの繁殖に関して以前よりも遥かに「血統」、そしてその「多様性」を重視した考え方が背景にあります。それは旭山動物園だとみて、まず間違いないように思われます。「豪太とクルミとのペアのほうが豪太とツヨシのペアよりも血統的観点からいって優位性がある。」という考え方です。これについては先日私が自分なりに検証してみましたが、確かにGAOにおける豪太とクルミのペアのほうが幾分優位性があるという結論になっています。

先日の札幌・円山動物園での「ララお誕生会」での園長さんの挨拶の中で、先週にまた北海道で4園会議があったことを知りました。前投稿で述べました毎日の秋田版の報道、私はこの報道の内容はこの4園会議での話し合いの結果が反映しているように思いました。あまりにも時期的に一致しているからです。また、今月に全国レベルの会議が開催され、この北海道でのホッキョクグマの大異動についての正式な報告がなされる予定であることも知りました。そこでさらにホッキョクグマの繁殖についての提案がなされると理解しました。それは、全国レベルでのホッキョクグマの大異動をもたらす可能性を強く示唆します。提案される方は強い自信をもって臨むと理解します。 この動き、「大山鳴動して鼠一匹」となる可能性も十分あります。しかし、そうなったらなったで、ホッキョクグマの繁殖に消極的な動物園の名前が、まるであぶり出しのように浮き出してくるに違いありません。

この新たな計画作成の中で、改めて日本の動物園におけるホッキョクグマの繁殖可能個体についての血統面を含めた洗い出しが行われるでしょう。GAOの豪太も当然有力個体です。そういった新たな繁殖スキームのなかに豪太の繁殖を組み入れようという意図ではないでしょうか。具体的なパートナーとしてはクルミかツヨシになることは間違いないとは思いますが、ことと次第によっては、そのどちらでもない第3の個体の可能性無しとは言えないかもしれません。

豪太のパートナーとして血統的にクルミに優る組み合わせは多分、旭山動物園のサツキとでしょう。サツキがもう5歳若ければ、豪太のパートナーたり得たでしょう。しかし現在のサツキが、やっと今春にイワンと繁殖行動が確認された状態ですから、残された少ない繁殖の機会をわざわざ旭川から男鹿まで移動させて相性が良いかどうかもわからぬ豪太と組み合わせることなどはリスクが大き過ぎて非現実的です。ではほかに候補がいるでしょうか.....などなどといった比較検討において新しい繁殖スキームを作成することになるでしょう。

これからは諸々の報道を注視する必要があります。たとえば、レッサーパンダの繁殖に関する10月11日付けの朝日新聞の報道「レッサーパンダ消える? 国内の半数が『親戚』」(下記資料参照)に見られるように、動物園関係者には今まで以上に「血統の多様性」と「近親交配への危険性」を意識せねばならない時代なのです。常に血統の問題を比較考量しなから、このペアリングが2年間でうまくいかなければ次の可能性を用意しておくということです。勿論そこには輸送コストの問題も影を落とすでしょうが、頭が痛いにしてもそれは克服せねばなりません。

こういう流れを受けてホッキョクグマの繁殖に関する報道を読み解く必要ありと思います。

*(資料)
朝日新聞 (2009年12月2日付
共同通信(2009年12月1日配信
朝日新聞 「レッサーパンダ消える? 国内の半数が『親戚』」(2010年10月11日付
by polarbearmaniac | 2010-11-04 09:00 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

モスクワ動物園の二歳半の雄(..
at 2017-04-24 01:30
ロシア・西シベリア、ボリシェ..
at 2017-04-24 00:30
オランダ・ヌエネン、「動物帝..
at 2017-04-23 00:30
ベルリン動物公園で死亡した赤..
at 2017-04-22 01:00
ロシア・シベリア中部、クラス..
at 2017-04-22 00:30
アメリカ・コロンバス動物園の..
at 2017-04-21 12:00
アメリカ・コロンバス動物園の..
at 2017-04-20 15:00
ロシア・サハ共和国、ヤクーツ..
at 2017-04-20 14:30
アメリカ・コロンバス動物園の..
at 2017-04-20 01:00
アメリカ・コロンバス動物園の..
at 2017-04-19 15:00

以前の記事

2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag


The Guest from the Future: Anna Akhmatova and Isaiah Berlin