街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 02月 14日 ( 1 )

ロシア・ノヴォシビルスク動物園のロスチクに生じる中国への移動の危険性 ~ 「セカンドライン」へ後退か?

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ゲルダとロスチク Photo(C)Ларисы Сокольниковой/Новосибирские новости

一昨年2015年の12月7日にロシア・ノヴォシビルスク動物園でゲルダお母さんから誕生した雄(オス)のロスチクが果たしてどの動物園に移動するのかについて日本のファンの方々の中にも興味を抱いている方がいるように思います。その理由としてはこのロスチクが大阪・天王寺動物園のシルカの弟であるということと、前回のシルカの移動についていろいろと物議を醸したという状態となったからでしょう。私にとってはそういったこととは異なる観点で実はこの件について非常に注目しています。漏れ伝わってくる情報は非常に少なく、そしてそういった情報の発信者にも広域にわたるホッキョクグマの繫殖に関する繁殖計画のスキームの全体像を必ずしも把握していないようにも思われる点があることです。 そして前回のシルカの場合とは決定的に異なる点は、このロスチクが「繁殖計画」という欧露という枠組みの影響の中で移動先が決まってくるらしいという点です。さて、今週になって地元のメディアがおもしろい情報を報じています。それはアンドレイ・シロ(新)園長(あの有名な故シロ園長の息子)やオリガ・シロ副園長などがこのロスチクの移動に関して行った発言内容です。

そういった発言の内容から見えてくるのは、ノヴォシビルスク動物園はあくまで受動的な立場であり、繁殖計画を作成する側の意向によってロスチクがどの動物園に移動になるかが決まると述べている点で、これは上にも述べましたように前回のシルカの場合とは条件が異なっていることを物語っているわけです。さらに発言の内容ではEAZAのコーディネーターがこれを決するというニュアンスで語っているわけで、そうなりますとノヴォシビルスク動物園のロスチクはモスクワ動物園所有の個体同様、その移動は売却ではなく所有権の残したままの「貸与」となる可能性が大きいということです。つまりこのことはロシアの個体が欧州に移動する場合は原則的には全て欧州側の繁殖計画に組み入れられて、売却ではない形で移動するということになるわけです。これは、ロシアのホッキョクグマの個体はもう単純な売買対象ではなくなってしまったことを意味しています。端的に言えば「ホッキョクグマの市場」の完全な消滅なのです。「市場」がないのですから「市場価格」もないというわけです。仮にホッキョクグマの個体が購入できる場所があるとすれば、それはすなわち全てが「闇市場」としての性格を帯びる存在と化してしまったというわけです。「闇市場」と言ってしまえば誇張感がありますが、「セカンドライン」のホッキョクグマ市場ということになるわけです。たとえば中国国内の個体とか日本平動物園に今後誕生が期待されているものの所有権はレニングラード動物園が持つ個体というのはこのカテゴリーに属することになります。

モスクワ動物園所有のノルド、シェールィ、ビェールィ、そしてその他一頭のシモーナの娘であるミラーナなどがロシアから欧州へ移動することが決定し(すでに移動した個体もあります)、その行先モ判明しています。しかしロスチクの場合はこれが決まらないということは、そこにEAZA側が彼の血統を問題視している可能性を大きく暗示しているとみて間違いないでしょう。残念ながら欧州側には「ロシア血統の闇」というものの存在を認識していないためロスチクの血統を問題視したとしても当然であるとも言えましょう。さらにアンドレイ・シロ(新)園長が述べるには、EUによる対露経済制裁によってノヴォシビルスク動物園は欧州から交換や購入などによる各種の動物の導入が難しくなっているということを語っています。その結果としてノヴォシビルスク動物園はそういったことを実現するためにアジアの動物園に目を向けざるを得なくなっていると語っています。これが意味するところは、ロスチクの移動先をEAZAが指定しないのならばアジアの動物園に移動させる(売却か貸与)ことも十分視野に入れているということになるでしょう。そういった文脈で語られているわけです。これはつまり、ロスチクは「繁殖計画」に組み入れられた個体ではなくなって、ダウングレードして「セカンドライン」のホッキョクグマになることを意味するわけです。そうなるとロスチクは、移動先のパートナーの存在の有無といった条件とは無関係に中国に移動することも可能性としては出てきているということになります。ホッキョクグマが中国に移動すると、その後どうなるかは全く予想がつかないわけで、おおむねそこには「不幸」しか存在しないということになります。ロスチクにとってはアンラッキーです。何故なら彼と同じ「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」の雄が3頭も今年ロシアから欧州に行くことになるわけです。本来はロスチクは欧州に行けたとは思いますがモスクワ動物園所有の個体にはあまりにもロスチクと重なる個体が多いにもかかわらず全て欧州に移動となったわけで、今更ロスチクの欧州への移動は現在ではかなり難しくなってきているようです。繁殖計画による再配置システムの移行期に生じた軋みと言った感じがありますね。

事態の推移を非常に注目して追いかけませんと全体が見えてこないという、極めて難解な状況になっているわけです。



(資料)
Новосибирские новости (Feb.13 2017 - Судьба белого медвежонка Ростика не определена) (Feb.10 2017 - Новосибирский зоопарк не может купить животных из-за западных санкций)
Коммерсантъ в Новосибирске (Feb.13 2017 - Достопримечательное место)

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by polarbearmaniac | 2017-02-14 20:00 | Polarbearology

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