街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 03月 08日 ( 1 )

ベルリン動物公園のトーニャが息子のフリッツと引き離された後の状態 ~ 難しい今年のシーズンの繁殖再挑戦

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トーニャ (Eisbärin Tonja)
(2013年12月29日撮影 於 ベルリン動物公園)

月曜日3月6日夜のベルリン動物公園での生後四カ月のフリッツの死はドイツで大きく報じられています。それについて同園の記者会見の内容なども報じれていおり、この件については一つ前の投稿に「追記」として要点を述べておきました。肝臓が炎症をおこし、それによって多臓器不全となって死に至ったというのがフリッツの直接の死因であるものの、その炎症が何によって引き起こされたのかという、いわゆる死亡原因 (Todesursache)については現時点としては特定できておらず鋭意解明中であるということが要点です。この "Todesursache" を日本語では単に「死因」としておけば十分だと思いますが、しかしたとえば英語では「死因 (Cause of death)」を "Direct cause of death"(直接死因)と "Underlying cause of death"(原死因)といったように二つに分ける場合もあります。この場合、ドイツ語の "Todesursache" は明らかに意味から言っても後者の「原死因」にあたることは言うまでもありません。つまりドイツ語の方が「死因」に関して英語や日本語よりも突き詰めた考え方、あるいは用語使用が行われるのだという理解でよいでしょう。そして、これがドイツ人の考え方であるということです。つまり今回のケースで言えば、「肝臓に生じた炎症が引き起こした多臓器不全 (Multiorganversagen)」をドイツ人は「死因」であるとはせず、その炎症の原因こそが「死因 (Todesursache)」であるという考え方をするわけです。こういったことが理解できなければ何故ドイツ人があれほどクヌートの死について「直接死因(つまり溺死)」ではなく「(原)死因 (Todesursache) (つまり抗NMDA受容体抗体脳炎)」の解明に拘ったのかがわからなくなってしまうわけです。そしてドイツ人は今回のフリッツの死についてもあくまで「(原)死因 (Todesursache)」の解明に拘っているということなのです。
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フリッツ Photo(C)Tierpark Berlin

さてそういったことはさておき、実は多くの報道の存在するなかで意外なほど情報が少ないのは、月曜日に息子であるフリッツを引き離されてしまったトーニャお母さんの状態です。私がこれを気にするのは、アイラやマルルやポロロを「奪われた」札幌のララの、その直後の姿を見ているからです。また、シルカを「奪われた」ノヴォシビルスクのゲルダが娘を求めて一晩中飼育展示場を歩き回る姿をモニターカメラの映像で見ているからです。
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トーニャ (Eisbärin Tonja)
(2013年12月29日撮影 於 ベルリン動物公園)

さて、このトーニャお母さんの状態についてベルリン動物公園の担当主事であるジックス氏が述べるには、月曜日にはトーニャは懸命に息子の姿を求めていた("Sie hat Montag intensiv nach ihrem Sohn gesucht....." をそう訳しておきます)そうで、極めて不安な精神状態であったそうです。しかし次の日の火曜日、すなわち昨日ですが、トーニャは落ち着きをかなり取戻した ("Dienstag war sie schon deutlich gelassener...“そうです。トーニャお母さんの様子はこういった簡単な内容をやや言い回しを変えた表現でいくつかのメディアの記事に述べられています。以下の映像の最後のほうにこういった内容を語るジックス氏へのインタビューを見ることができますので参考のためにご紹介しておきます。



さらに本日水曜日にはトーニャは完全に通常の状態に戻っているとジックス担当主事は語っています。„Dass Eisbären weinen, ist nicht bekannt.“ (「ホッキョクグマが泣くということは知られていない。」)とジックス氏は語っています。現在このトーニャのパートナーであるヴァロージャはこのベルリン動物公園から旧西ベルリンのベルリン動物園に移動しているわけですが、果たしてこのヴァロージャが数日中にも旧東ベルリンのベルリン動物公園に帰還してトーニャとの同居を開始するかどうかが問題です。つまり、今年の繁殖シーズンに再度繁殖を期待して二頭を同居させるかどうかですが、クニーリエム園長はフリッツの死亡原因 (Todesursache) が明らかにならないうちは、ベルリン動物公園においてこの二頭の間の繁殖を狙わせるわけにはいかないという考えを示しています。これはつまり、ウィルスなどの外部要因がフリッツの死亡原因である可能性も考慮し、ただちにヴァロージャを帰還させることはできないという考えからであると思います。フリッツの死亡原因 (Todesursache) の解明には数週間を要する見通しだそうです。となれば、今年のシーズンにおけるトーニャの繁殖への再挑戦はやはり難しいのではないかと考えます。

(*追記)本ブログの投稿がなされた数時間後にベルリン動物公園はこのテーマ、つまりトーニャは現在どういう状態なのかという点とホッキョクグマの母親は子供の死についてどういう感情を抱くのかという点についての下のfacebookのページの内容を公表しています。非常にタイムリーな記事です。

Viele von euch wollten wissen, wie es Tonja nach dem Tod von Fritz geht, ob sie es realisiert hat und ob sie sich von...

Tierpark Berlinさんの投稿 2017年3月8日


書いているのは多分ジックス担当主事だと思われます。簡単に内容をご紹介しておきますと、まずトーニャの状態については本投稿でご紹介したこととほぼ同じことが述べられています。しかしそれに加えて、トーニャは息子であるフリッツはもう自分のところには戻ってこないということを理解するためにはさらに2~3日かかるだろうと述べています。ホッキョクグマが子供を亡くした場合の悲しみ方についてはほとんどその実相が知られていないと述べ、その理由としてホッキョクグマは本来は食料を求めて長い距離を移動する動物であり、それに付いていけない子供は取り残されてしまい、母親が亡くなった子供のところに戻るということはないというのが生態であることに触れ、この点において人間やゾウとホッキョクグマは異なる種であるとも述べています。つまり、完全に断定はできないものの、人間が自分の子供を亡くした時に抱く感情とホッキョクグマの母親が子供を亡くした時に抱く感情は異なっているという点が趣旨になるわけです。

(資料)
Tierpark Berlin (Mar.7 2017 - Rätsel um plötzlichen Tod soll aufgeklärt werden)
B.Z. Berlin (Mar.7 2017 - Berlin trauert um sein 124-Tage-Eisbärchen) (Mar.7 2017 - Zieht Eisbär Wolodja wieder in den Tierpark?)
Berliner Morgenpost (Mar.7 2017 - Kleiner Eisbär Fritz ist tot - Todesursache bisher unklar) (Mar.7 2017 - Eisbär Fritz kämpfte zwölf Stunden lang um sein Leben)
Berliner Kurier (Mar.7 2017 - Pressekonferenz im Video „Fritz wird nicht ausgestopft!“)
Berliner Zeitung (Mar.7 2017 - Todesursache Leberentzündung Was ist mit dem kleinen Eisbären Fritz passiert?)
Merkur.de (Mar.8 2017 - Das kurze Leben von Eisbär Fritz: Bestürzung und Kritik)
Berliner Kurier (Mar.8 2017 - So geht es Fritzis Mutter Tonja Können Eisbären weinen?)

(過去関連投稿)
ベルリン動物公園がフリッツのために飼育展示場を一部改修の予定 ~ 父親のヴァロージャはベルリン動物園へ
ベルリン動物公園の赤ちゃんのフリッツが肝臓に広範囲の炎症で重体となる ~ 憂慮すべき病状
ベルリン動物公園の生後四カ月の赤ちゃんのフリッツが死亡! ~ さようならフリッツ......
by polarbearmaniac | 2017-03-08 20:30 | Polarbearology

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