街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 04月 07日 ( 2 )

アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 「適応化(socialization)」とエンリッチメントとの関係

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ノーラ (Nora the Polar Bear) Photo(C)Oregon Zoo

アメリカ・オレゴン州ポートランド市のオレゴン動物園に一頭で暮らす現在は一歳五ヶ月の雌(メス)のホッキョクグマであるノーラ(Nora)はオハイオ州のコロンバス動物園で2015年11月6日にオーロラから誕生し人工哺育で育てられた個体です。このノーラの成長もずっとこのブログで追い続けているわけですが、そこにはアメリカのホッキョクグマ界の持つ独特の状況などが垣間見えると言う点でも興味深いところです。

さて、このノーラの最近の様子についていくつかの映像がありますのでご紹介しておきましょう。オレゴン動物園はこのノーラにプラスチック容器などのおもちゃを与え、そして集中してそのおもちゃと遊ぶノーラの姿が記録されています。まず最初の三つの映像はオレゴン動物園の公式映像です。







このオレゴン動物園はノーラをどのようにして飼育して行ったらよいかについてやや迷いのようなものがあるような気がします。彼女のための「遊び友達」の選定をAZAに依頼しているオレゴン動物園ですが、それはノーラが人工哺育されたためにもっと他のホッキョクグマと接することによってホッキョクグマとしての特性の自覚を確かなものにしたいという意図からなされていることです。つまりノーラには「適応化(socialization)」が必要であるという認識です。そして当初はタサルという同園で飼育されていたホッキョクグマをノーラの「遊び友達」にしてノーラの「適応化(socialization)」を狙ったわけですが、それが実現しないうちにタサルは亡くなってしまったわけです。こういった状況からオレゴン動物園はひたすらノーラに対してエンリッチメントとしてのおもちゃを与え続け、そしてノーラはそれに対して単純に喜んでいるといった状況なのです。そういったことから言えば、現在こうして多くのおもちゃを与えて遊ばせていることはあくまでも暫定的な方法であるという位置付けのような気がしますが、しかしエンリッチメントとしての意味は非常にあるということです。ただし以前にも述べましたが私はこのノーラはやや自由奔放で野放図に遊び過ぎるという点で何か気になることもあります。

以下の二つは一般の来園者の撮影した映像です。こういったものを見るとノーラは飽きっぽいという性格でもないようです。





人工哺育された個体に対する「適応化(socialization)」とエンリッチメントとの関係については難しい問題が横たわっているという気がします。たとえば大阪のシルカや徳島のポロロに対するああいったエンリッチメントのやり方(それは成功していますが)を、たとえば人工哺育された個体にそのまま適用させてよいかという問題があるわけです。こういったことは欧州の動物園よりもアメリカの動物園の方が研究が進んでいると思います。しならくこのオレゴン動物園のノーラの飼育について同園のやり方を注視していきたいと思います。これは現在の私にとっては追及していきたいテーマの一つであると思っています。

(資料)
ABC6OnYourSide.com (Apr.7 2017 - Nora fills up the tub, goes swimming)

(過去関連投稿)
アメリカ・コロンバス動物園のノーラがポートランドのオレゴン動物園へ ~ その背景を読み解く
アメリカ・コロンバス動物園のノーラの同園での展示最終日に多くの来園者がノーラとの別れを惜しむ
アメリカ・コロンバス動物園のノーラが西海岸・ポートランドのオレゴン動物園に無事到着
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アメリカ・オレゴン動物園のノーラの来園を歓迎しない地元ポートランド市民の意見 ~ So what ?
アメリカ・オレゴン動物園で検疫期間中のノーラの最近の様子
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園で検疫期間中のノーラの近況
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アメリカ・オレゴン動物園のノーラが満一歳となる
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 今週末にも一般公開開始の予定
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラが初雪を楽しむ ~ 相手役を求めAZAと交渉の同園
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラ ~ 野放図な遊び好きの性格に潜む危うさ
アメリカ・オレゴン州ポートランド、オレゴン動物園が降雪の影響で閉園となった日のノーラの姿
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの自由奔放さ ~ 彼女の遊び友達を探す同園とAZA
by polarbearmaniac | 2017-04-07 14:00 | Polarbearology

ロシア・イジェフスク動物園でアイオンとドゥムカの初顔合わせが行われる ~ 「新血統」誕生への挑戦

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ドゥムカ(Думка)とアイオン(Айон)
Photo(C)Зоопарк Удмуртии

ロシアのホッキョクグマ界ではここのところ明らかな方針のもとにホッキョクグマの個体移動が行われています。そしてそれは欧州を巻き込んだ形で行われているわけです。これを敢えて言うならばロシアのホッキョクグマ界はいわゆる「アンデルマ/ウスラーダ系」(つまりカザン血統 - Белые медведи Казанской линии)の個体を国外に出すことによってロシア国内の飼育下のホッキョクグマの血統の遺伝的多様性を維持しようと懸命になっているということです。それに対して欧州側としてはこのロシアの「アンデルマ/ウスラーダ系」の個体を受け入れる余地がまだ十分にあったという事情があって今回の欧露間の個体移動が実現したというわけです。
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ロシア国内でいえば、イジェフスク動物園(公式にはウドムルト動物園 - Зоопарк Удмуртии)の雄のノルド (Норд) と雌のドゥムカ (Думка) のペアはすでに二回の繁殖成功の実績があったもののペアは解消されてしまうという結果になりました。これはノルドがモスクワのシモーナの息子(つまり「アンデルマ/ウスラーダ系」であったという理由によるものです。ロシアにおいて個体数の多い「アンデルマ/ウスラーダ系」に野生出身のドゥムカをパートナーとさせておくのは野生出身の血という貴重な繁殖資源の浪費につながるという考え方なのです。野生出身の個体には同じく野生出身の個体をペアにして今までにはなかった「新血統」を誕生させようという狙いであり、それによって12歳の雌(メス)のドゥムカの新しいパートナーはモスクワ動物園のヴォロコラムスク附属保護施設で飼育されていた野生孤児出身の7歳の雄(オス)のアイオン(Айон)ということになり、アイオンは昨年の末にモスクワからイジェフスクに移動してきたというわけでした。非常に考え抜かれた決断だったと思います。
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アイオン(Айон)とドゥムカ(Думка)
Photo(C)Зоопарк Удмуртии

さて、そのドゥムカとモスクワから来たアイオンとのイジェフスク動物園での初めての同居の試みが開始されたようですが、それに先立ってやはり同居までの周到な準備がなされていたようです。室内で直接接触しない形での出会いを行わせて互いが相手に対して攻撃的な態度を示さないことを長い時間かけて確認するなどのプロセスを経て今回の同居試行となったというわけです。そしてその結果としてこの新しいペアの相性は非常に良いということをイジェフスク動物園は語っています。

ドゥムカには過去に二度の出産の成功経験がありまずが、雄(オス)のアイオンについては本当に彼に繁殖の能力があるのかについての証明はないわけです。こういった例は雄(オス)のホッキョクグマの繁殖能力が試される試金石となるということで、今回の個体移動を欧州側と共に実現させたモスクワ動物園にとってもこの個体移動プランの成否を占う大きなものの一つとなりそうです。ここで、春の季節の到来したイジェフスク動物園のホッキョクグマたちその他の様子が紹介されている映像がありますのでご紹介しておきます。



このドゥムカとアイオンの間で繁殖に成功した場合、その個体はロシア国内の動物園、及び欧州の動物園で飼育されることになるはずで、そういった件については「モスクワ動物園が、今後ロシア国内で誕生の個体はロシア国内と欧州だけで飼育の意向を表明」という投稿を御参照下さい。悲しいかな日本は完全に締め出されてしまった状態になっているわけです。

(資料)
Зоопарк Удмуртии (Apr.5 2017 - Новая пара зоопарка)
ИжевскИнфо.РУ (Apr.6 2017 - Белый медведь Айон встретился с «невестой» в зоопарке Удмуртии)
ИА «УДМУРТИЯ» (Apr.6 2017 - Новая пара белых медведей образовалась в зоопарке Удмуртии)
ИА Сусанин (Apr.6 2017 - Белый медведь Айон встретил свою любовь в Ижевском зоопарке)

(過去関連投稿)
ロシア・極北の街でホッキョクグマの赤ちゃん孤児を保護!
モスクワ動物園に送られた赤ちゃん孤児のその後の映像
モスクワ動物園で保護されている孤児のホッキョクグマ、アイオンの近況
モスクワ動物園が期待を持つ将来の新ペア ~ ヴォロコラムスク付属保護施設のホッキョクグマたち
モスクワ動物園・ヴォロコラムスク付属保護施設で暮らすアイオンとミラーナの夏の日
モスクワ動物園・ヴォロコラムスク付属保護施設のアイオンの3歳の誕生祝い ~ WWFが保護した野生孤児の成長
モスクワ動物園・ヴォロコラムスク付属保護施設の野生孤児アイオンの5歳の誕生会が行われる
モスクワ動物園・ヴォロコラムスク付属保護施設の野生孤児アイオンの近況 ~ 間もなく本園にデビューか?
モスクワ動物園 ヴォロコラムスク附属保護施設のアイオンがイジェフスク動物園へ ~ 「新血統」への挑戦
モスクワ動物園が、今後ロシア国内で誕生の個体はロシア国内と欧州だけで飼育の意向を表明
by polarbearmaniac | 2017-04-07 00:30 | Polarbearology

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