街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 04月 11日 ( 1 )

ロシア・サハ共和国、ヤクーツク動物園の赤ちゃんの早期移動に反対するヤクーツクの地元の人々

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Photo(C)Галина Мозолевская

ロシア北東部サハ共和国のヤクーツク動物園で昨年2016年の11月30日にコルィマーナから誕生した赤ちゃんの性別が雌(メス)と判定されたため、赤ちゃんの父親であるロモノーソフの権利を持つサンクトペテルブルクのレニングラード動物園とヤクーツク動物園との契約によって赤ちゃんの権利はレニングラード動物園が有することとなり、赤ちゃんは6~7月にヤクーツク動物園を離れてサンクトぺテルブルクに向かうということが現在における、かなり確かなスケジュールとなっています。これに対してヤクーツクの地元の子供たちを中心にして反対の意見が地元雑誌に掲載されているそうです。これはもっともなことだと思います。
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Photo(C)Галина Мозолевская

ホッキョクグマの親子をいつ引き離すかについては、その前提として何年サイクルで繁殖を行うかという方針が先に立つことであることを以前にも本ブログで論じたことがありました(「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(11) ~ 母子をいつ引き離すか」)。 欧州、及び北米の動物園では近年ではホッキョクグマは三年サイクルで繁殖させることが方針となっているものの、ロシアや日本の動物園では二年サイクルでの繁殖という従来からの方針が堅持されているというのが現状です(ただし最近これも変化する兆しが見えますが)。欧米の動物園でホッキョクグマの繁殖を三年サイクルで行うこととなっている根拠は野生のホッキョクグマの生態がまさに三年サイクルでの繁殖であるため飼育下でもそれと同じサイクルで繁殖させるのが自然の理であるという考え方に基づくものです。つまり本来ホッキョクグマの雌(メス)は三年サイクルでの繁殖に最も適応して体が形成されているということです。それを「動物福祉(Animal welfare)」という概念によって表現しているわけです。ですから「たった一年ほどで母親から引き離すのは可哀想だ」という感じ方とは少し異なるのが「三年サイクル繁殖論」であるとも言えます。ただし、生まれてから半年ほどで母親と引き離すとなれば、やはりそれそのものについて繁殖サイクルの問題とは離れて、やはり「動物福祉(Animal welfare)」とはかけ離れたやり方であるということは勿論言えると思います。

一方においてロシアや日本の動物園が行っている(行ってきた)二年サイクルの繫殖の考え方の理論的な根拠についてはノヴォシビルスク動物園の故シロ園長(現在の園長さんの父親)が詳しく述べていますので、これについては「ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のシロ園長が批判する近年の欧米の 三年サイクルの繁殖」という投稿を御参照下さい。この故シロ園長の考え方に賛成するかどうかはともかくとして、責任ある立場の動物園関係者としてこの問題に真っ直ぐな形で発言した例としてはかつてなかったと言えるでしょう。賛否はともかくとして、一応は説得力のある主張のように感じます。この「二年サイクル繁殖論」については札幌・円山動物園のホッキョクグマ担当の前任者の方もかなり似たような発言を行っていました。その趣旨の中心は、「飼育下では母親は子供にアザラシ狩りを教える必要がない」という事実が挙げられていたわけです。あの浜松のバフィンが仮に10歳若く、そして天王寺動物園に来園後の2~3年以内に出産(と育児)に成功していたならば、やはり第二子を求めて天王寺動物園はモモを一年ほどで他園に移動させて再びバフィンとゴーゴの間の次の繁殖を狙っていたでしょう。そうしなければならない事情としては日本国内における飼育下のホッキョクグマの頭数維持という方針が背景にあるからです。最近になってロシアの動物園が部分的に「二年サイクルの繁殖」を放棄するケースが出てきているのは、「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」の個体のさらなる増加を抑制するためであるのが一因であるわけです。つまり、日本の動物園での「二年サイクルの繫殖の維持」とロシアの動物園の「二年サイクルの繫殖の部分的放棄」は共に、欧米における「動物福祉(Animal welfare)」という概念と真正面に向き合ってそれに対する回答を出そうとしたものではないということです。あくまでも便宜的な考え方が根底にあるに過ぎないわけです。
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Photo(C)Галина Мозолевская

さて、今回のヤクーツク動物園の雌(メス)の赤ちゃんについてレニングラード動物園は果たして自ら飼育することになるのか、それとも他園に売却(あるいは貸与)することになるのかは現時点では不明です。前者として考えるうる理由はレニングラード動物園はウスラーダの後継者が必要な状況になっているという現状です。後者として考え得る理由はレニングラード動物園の財政の悪化によって個体売却の利益が何が何でも必要であるという現実です。特にこの後者の理由は深刻であり、レニングラード動物園は静岡・日本平動物園で今後誕生が期待される個体の権利を有するわけで、その個体を今後中国に売却することは必至と考えられるわけです。私は本来レニングラード動物園というのは決して好きにはなれない動物園であると感じています。自らホッキョクグマ好きを自認しているあそこの園長さんにはいくつかの大きな問題があります。それでも私がレニングラード動物園に何度も行ったのは、サンクトペテルブルクという歴史と文化を湛えた素晴らしい古都を、ホテルから宮殿広場を歩いてネヴァ河を渡っていく道すがらの風景の酔うような美しさ、そしてウスラーダとメンシコフという、それこそ世界最高のホッキョクグマたちに会うということの素晴らしさという、かけがえのない体験ができるためだったわけです。
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Photo(C)Галина Мозолевская

今回のヤクーツクの地元の子供たちの声は「赤ちゃんをコルィマーナお母さんから引き離さないでほしい。」といったものです。それはかつてノヴォシビルスクにおけるシルカファンの方々がシルカをノヴォシビルスクに留め置くように主張したことと似ています(「ロシア、ノヴォシビルスク動物園のシルカは3月に来日の模様 ~ 地元のファンのシルカへの熱い想い」)。そしてそのノヴォシビルスクのシルカファンの方々の意見が実現するためには地元ノヴォシビルスク動物園の決定が必要であったわけですが、今回のヤクーツクの地元のファンの方々の声が実現するためには地元のヤクーツク動物園ではなくレニングラード動物園の決定が必要なのです。つまり今回の赤ちゃんをヤクーツクからサンクトペテルブルクに移動させるのを一年近く遅らせるという決定が必要であるということです。この点において置かれた状況はシルカの時とは異なっているわけです。レニングラード動物園の判断に注目したいと思います。ヤクーツクの地元の人々はサンクトペテルブルクのメディアに対しても投書などでもっと意見を伝えるべきでしょう。

(資料)
YukutiaMedia (Apr.11 2017 - Якутские школьники просят не разлучать медвежонка с мамой)

(過去関連投稿)
ロシア北東部・ヤクーツク動物園のコルィマーナ、出産成功が濃厚の模様 ~ 2月21日に正式発表となる予定
ロシア北東部・ヤクーツク動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ 5歳のコルィマーナが見事に出産
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ロシア北東部・サハ共和国、ヤクーツク動物園で誕生の赤ちゃんが地元で大人気 ~ 来園者が大幅に増加
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ロシア・サハ共和国、ヤクーツク動物園の赤ちゃんは雌(メス)と判明 ~ サンクトペテルブルクへの移動時期
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(11) ~ 母子をいつ引き離すか
by polarbearmaniac | 2017-04-11 23:30 | Polarbearology

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