街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 05月 18日 ( 2 )

アメリカ・ウィスコンシン州のヘンリー・ヴィラス動物園の18歳のベリットに人工授精が行われる

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ベリット Photo(C)J.Hart/Wisconsin State Journal

アメリカ・ウィスコンシン州のマディソン市にあるヘンリー・ヴィラス動物園が明らかにしたところによりますと、同園で飼育されている18歳の雌(メス)のホッキョクグマであるベリット(Berit)に対して同園は約二週間前に人工授精の処置を施したとのことです。一般に公表されている限りではこれは世界で三番目の試みです。最初は2012年3月にアメリカのセネカ動物園で、そして二回目は2015年5月にやはりアメリカ・サンディエゴのシーワールドで行われています。ホッキョクグマでの人工授精については「アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園が史上初のホッキョクグマの人工授精を行う」、及び「アメリカ・サンディエゴ、シーワールドの19歳の雌のスノウフレイクに人工授精が試みられる」という二つの投稿でやや詳しく述べていますので、まずそれを御参照いただければ幸いです。この過去の二度の試みですが、残念ながら結果を出すことはできませんでした。

今回の三度目の試みには注目すべき点があるそうです。それは、繁殖脳録が証明さえている雄からの採取されたばかりの精子が用いられているという点でありその精子を提供したのはなんと先日オハイオ州のコロンバス動物園で29歳で亡くなったナヌークだそうです。ナヌークの死については「アメリカ・コロンバス動物園のナヌーク逝く ~ 生涯の最後に咲かせた満開の花」という投稿を御参照いただきたいのですが、ナヌークの病状が悪化して安楽死が不可避となった時点でコロンバス動物園はAZAの繁殖計画(Species Survival Plan)に参加している複数の動物園と連絡をとり、そしてAZAのホッキョクグマの繁殖を推進している委員会が調整を行いコロンバス動物園で死期の迫ったナヌークから精子が採取されてヘンリー・ヴィラス動物園に運ばれ、そしてベリットに人工授精が行われたという劇的な経緯を辿ったそうです。人工授精の措置がベリットに施されたのはコロンバス動物園でナヌークが亡くなった翌日のことだったそうです。こういう話を聞きますと、いかにアメリカの動物園界がホッキョクグマの繁殖に必死に取り組んでいるのかがよくわかります。コロンバス動物園はその生涯の終わりに近いところで繁殖の成功に大きな寄与を行ったナヌークの安楽死が不可避となっていた状況でこのナヌークの精子を他園に提供しようという意思を示すといった、我々日本人から見れば幾分冷徹ともいえる決断を行っていたということなのですから全く凄い話です。そうした死期の迫ったナヌークから精子を採取した行為を「生きている間にとことん搾り取る」といった非情なまでの功利主義と考えるのは多分間違いなのでしょう。ナヌークから採取された精子は結局以前に彼が長く暮らしていたヘンリー・ヴィラス動物園に提供されることとなり、そしてベリットに人工授精が行われたということです。地元のTVニュースをご初回しておきます。



従来から牛や馬については冷凍保存された精子を用いて多くの人工授精の成功例が積み重なっているそうですがホッキョクグマについては精液を冷凍にすることと後から解凍することの両方が非常に難しい技術が必要だというのが現状だそうです。そういったわけで今回は冷凍保存処理のされていない生の精液が用いられているわけですし、提供したのがあの故ナヌークですから果たして年末にベリットが出産できるかに注目すべきでしょう。しかしそれ以前にまず、果たしてベリットが今回の人工授精で妊娠するのかどうかがまず問題なのです。

こういったニュースを知りますと日本の動物園はまだまだ甘いと言わざるを得ません。我々日本人には冷徹さが必要なのです。

(資料)
Madison.com (May.16 2017 - Is Berit bearing a cub? Vilas Zoo polar bear could have historic pregnancy)
WMTV (May.16 2017 - Henry Vilas Zoo hopeful polar bear is pregnant)

(過去関連投稿)
アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園が史上初のホッキョクグマの人工授精を行う
アメリカ・ニューヨーク州 ロチェスターのセネカ動物園でのオーロラへの人工授精、結果は実らず
アメリカ・サンディエゴ、シーワールドの19歳の雌のスノウフレイクに人工授精が試みられる
アメリカ・シンシナティ動物園で雌のベリットと雄のリトルワンが飼育収容地域から一時脱出する
アメリカ・ウィスコンシン州、ヘンリー・ヴィラス動物園のサカーリが繁殖のために他園移動が決定
アメリカ・ウィスコンシン州マディソン、ヘンリー・ヴィラス動物園のサカーリのお別れ会が開催される
アメリカ・シンシナティ動物園のベリットがウィスコンシン州のヘンリー・ヴィラス動物園へ
by polarbearmaniac | 2017-05-18 16:30 | Polarbearology

ドイツ・ミュンヘン、ヘラブルン動物園の故ヨギの死因は慢性腎不全との最終報告書が明らかになる

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ヨギ (Eisbär Yoghi) Photo(C)dpa/Sven Hoppe)

先月4月13日にミュンヘンのヘラブルン動物園で飼育されていた17歳の雄(オス)のホッキョクグマのヨギが死亡したわけですが、彼の死因に関する検死報告書の内容が明らかになり、彼の死因は慢性腎不全 (Chronisches Nierenversagen) であったとのことです。これはヨギが死亡した時点で推察されていた彼の死因の内容とほぼ一致する結果だったということになります。

ホッキョクグマにおいては腎臓疾患というものは発病後の初期段階では進行が極めてゆっくりとしたもので、事前に容易に症状が顕著に変化するといった性格の病気ではなく、常に定期的な血液検査と超音波診断が行われることによってしか捕捉できないものだそうで、ホッキョクグマに対して頻繁にこういった検査を行うというのは常に麻酔を必要とする検査であるために危険性を排除できず非常に難しいのだとヘラブルン動物園の主任獣医であるゴート氏は語っています。この慢性腎疾患の原因となろうるものはバクテリアやウィルスだそうですが今回のヨギの腎疾患についてはその発病の原因については確定できなかったものの、2010年の6月にドイツのヴッパータール動物園でイェルカが死亡した原因であったヘルペスウィルス(Zebra herpesvirus)ではないということも明らかにされました。

さすがにドイツだけあって徹底的にホッキョクグマの死因についての調査が行われたようです。最近はトレーニングによってホッキョクグマから無麻酔で血液サンプルを採取することがいくつもの動物園で可能となっていますが慢性の腎疾患については血液検査の他にやはり超音波診断も行わねば把握できないようです。非常に頭の痛い話ですね。ヘラブルン動物園の獣医さんたちは動物に麻酔を行うことは極力避けたいという方針があり、麻酔実施には高いハードルを設定しているという話を聞いたことがありますがやはり事実のようですね。しかし私はその方針は正しいと思います。麻酔マニアのような獣医さんが存在しているのでは困るからです。

ヨギの死は本当に痛恨事でした。ヘラブルン動物園はヨギの後継の雄(オス)の個体をどうするつもりなのでしょうか。

(資料)
FOCUS Online (May.17 2017 - Bei Eisbär Yoghi versagten die Nieren) (May.17 2017 - Eisbär Yoghi starb an chronischem Nierenversagen)
tz.de (May.17 2016 - So traurig! So starb Eisbär Yoghi in Hellabrunn wirklich)
Abendzeitung (May.17 2017 - Pathologisches Gutachten: Daran starb Eisbär Yoghi)

(過去関連投稿)
ドイツ・ミュンヘン、ヘラブルン動物園のヨギがシュトゥットガルトのヴィルヘルマ動物園へ繁殖目的で移動
ドイツ・シュトゥットガルト、ヴィルヘルマ動物園のヨギがミュンヘンのヘラブルン動物園に帰還へ
ドイツ・ミュンヘン、ヘラブルン動物園にヨギが無事帰還する ~ 依然として一家同居を狙う方針の同園
ドイツ・ミュンヘン、ヘラブルン動物園のヨギの体調が急に悪化 ~ 早々と予定された「一家同居」は中止
ドイツ・ミュンヘン、ヘラブルン動物園のヨギの体調が快方に向かう
ドイツ・ミュンヘン、ヘラブルン動物園のヨギが亡くなる
by polarbearmaniac | 2017-05-18 01:30 | Polarbearology

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