街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 08月 17日 ( 1 )

ロシアのクラスノヤルスク環境監視検察庁が監査で問題視したクラスノヤルスク動物園のホッキョクグマの移動

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クラスノヤルスク動物園でのセードフ司令官(2013年)
(Командор Седов в Красноярском зоопарке) Photo(C)Красвоздух

私の先日のロシア旅行中のニュースでいささか腑に落ちないものがありました。旅行中でしたので十分に時間がとれず、その内容の妥当性についてチェックすることが難しかったわけですが帰国後にいくらか調べてみましたところ、やはりロシアにおける行政監査の問題点のようなものがあぶりだされてきたように思い、ここで述べておきたいと思います。それはロシア・シベリア中部のクラスノヤルスク動物園(正式には「ロエフ・ルチェイ・クラスノヤルスク動物園」 - "Роев ручей" Красноярский зоопарк)に関するニュースです。
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ロシアにおける野生や飼育下の動物たちの法的保護制度などを研究していらっしゃる方は日本にはいないようです。それを研究するためには非常に高度なロシア語の能力が必要であり、そういった能力のある方々はロシアの政治、社会、軍事、文学などを専門とされている方々であり、動物保護の法制度などには興味を示さないからだろうと思います。また、一般的に野生動物の保護や動物に関する法的保護制度などを専門の一部にしていらっしゃる研究者の方々にはせいぜい英語、あるいは場合によってはドイツ語の能力はあってもロシア語の能力はないのが通常だからでしょう。ひょっとしたら外務省のロシア語の専門職の方あたりにロシアにおける動物保護の法制度に詳しい方がいらっしゃるかもしれませんが、実際にそういった方がいらっしゃるかどうかについては私には何とも言えません。今回の投稿については私の怪しげなロシア語の能力で何年もにわたって積み上げてきた情報を総合して理解したロシアにおける動物保護の法制度を基礎にした内容となりますが、多分間違いはないでしょう。

まず、ロシアにおいて飼育下もしくは野生の動物に対して虐待などの違法な取扱いがあった場合にこれを捜査・立件して起訴するのは環境監視検察庁 (Природоохранная прокуратура) なのですが(捜査だけならば警察も行います)、この環境監視検察庁はロシア国内の動物園に対して監査を行い、その動物園における飼育その他に違法な取扱いを行っていないかをチェックするという機能も有しています。たとえば数年前に起きた円山動物園のマレーグマの事件などはロシアだったらこの環境監視検察庁が調査と捜査を行い違法だったと判断されれば立件・起訴するという権限があるということです。このたび環境監視検察庁のクラスノヤルスク支部がクラスノヤルスク動物園に対して監査を行い、いくつもの問題点を指摘して場合によっては立件を行う構えを示しているそうです。その問題点というのは報道によれば、ロシアの法律では動物園に飼育されている動物たちの全てはその出自や入手、転出が適法に行われていることを証明する書類が完備されていなければならないと既定されているそうで、クラスノヤルスク動物園の動物たちにはその書類による裏付けのない動物たちが何頭も飼育されているといったことだそうです。Red List つまり絶滅のおそれのある野生生物に属している88個体の動物たちのうち同園では入手についての適法な書類上の裏付けのない動物が62個体も存在していることが明らかになったとのことです。要するに簡単に言えば、環境監視検察庁のクラスノヤルスク支部は、クラスノヤルスク動物園はそうした Red List に入っている動物たちを野生の状態で捕獲して動物園に連れてきたのではないかと疑っているというわけです。クラスノヤルスク動物園はこの環境監視検察庁による監査の指摘に対して、現在の動物園が開園する前身の旧動物園時代の70年代から住民たちがケガをしているそういった動物たちを動物園に持ち込んできたりなどしており、動物園としては野生に戻すことは適当でないと考えた個体については動物園で飼育し続けてきたために適法な入手を証明する書類が存在していないのだと抗弁しています。私はおそらくそのクラスノヤルスク動物園の主張は正しいだろうと考えています。個体の入手についての適法な書類上の裏付けが要求されるというのは非常に最近になって定められた条項であり、環境監視検察庁はそれを非常に硬直的に理解して監査を行ったという感じがします。何故そうなのかを類推する事情が次のようなことです。

今回の監査では環境監視検察庁はクラスノヤルスク動物園が権利を持っている14歳の雄(オス)のホッキョクグマであるセードフ司令官(現在はゲレンジークのサファリパークで飼育)の他園への移動について、連邦政府の自然管理局 (RPN - Росприроднадзор)がその移動を認めたことを示す書類がないと厳しく指摘しているそうです。確かにホッキョクグマは Red List には入っていますがセードフ司令官 (Командор Седов) は2002年にレニングラード動物園でウスラーダから誕生し、そしてクラスノヤルスク動物園がレニングラード動物園から権利を取得している個体であり野生出身の個体ではありません。よって連邦政府の自然管理局は直接的にはロシア国内の移動については関与せず、国外への移動についてはそれを承認する書類を出すといったことしかしないわけです。明らかに環境監視検察庁のクラスノヤルスク支部は野生のホッキョクグマの保護についての行政としての仕組みと飼育下のホッキョクグマの権利取得についての法制度の違いに関する理解を誤っていると思われます。クラスノヤルスク動物園はセードフ司令官を最初はBLとしてスタロースコルィスク動物園に貸し出したわけですがスタロースコルィスク動物園はクラスノヤルスク動物園に無断でセードフ司令官をゲレンジークのサファリパークに移動させてしまい、それを後から知ったクラスノヤルスク動物園はスタロースコルィスク動物園から謝罪を取り付けてゲレンジークのサファリパークと直接、BL契約を事後的に締結し直すといった非常に素早い対応を行ったわけで、おそらくセードフ司令官の転出の日付がそういった契約の日付と一致していないことを環境監視検察庁が問題視したのでしょう。クラスノヤルスク動物園はこのようにホッキョクグマの移動については契約書を更新するなどちゃんと対応しているわけで、環境監視検察庁がセードフ司令官の移動の件については重箱の隅をつつくような硬直的な考え方をしているということが十分予想できるわけです。

環境監視検察庁はクラスノヤルスク動物園でこんな監査を行うくらいだったら早くカザン市動物園、そしてイジェフスク動物園に対して徹底的に監査を行ってホッキョクグマのピリグリムとオーロラのブラジル・サンパウロ水族館への移動についての問題を指摘してほしいと私は思っています。特にオーロラは野生出身であり明らかに自然管理局 (RPN)の許可無しにロシア国外に移動させられたことは明白だからです。

さて、ここでセードフ司令官がクラスノヤルスク動物園にいた時代の二つの映像を見てみましょう。最初は2010年のプール開きの映像、続いて2011年の彼の誕生日の映像です。いずれも写真をワンクリックして下さい。
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Image: «ТРК Прима-ТВ»
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Image:7 канал Красноярск

続いて現在の同園で飼育されているフェリックスとオーロラ(ヴィクトリア)の最新の映像を見ておきましょう。



セードフ司令官は間もなくクラスノヤルスク動物園に帰還すると園長さんは語っています。この環境監視検察庁の監査でセードフ司令官の移動について問題視された結果が出たとあっては、たとえその監査のやり方に問題があったとしても彼の帰還は間違いなく早いと思われます。同園には新しい飼育展示場も完成しますし、人気者のセードフ司令官の帰還は地元の人々も願っていることでしょう。

(資料)
7 канал Красноярск (Jul.31 2017 - У прокуратуры возникли вопросы о законности содержания в «Роевом ручье» части животных из Красной книги)
"Лаборатория новостей - Красноярск" (Jul.31 2017 - «Роев ручей» незаконно отдал в другой зоопарк белого медведя)
НГС.Красноярск (Jul.31 2017 - У прокуратуры возникли претензии по содержанию животных в «Роевом ручье»)
Проспект Мира - Красноярск (Jul.31 2017 - Прокуратура обвинила «Роев ручей» в незаконном содержании краснокнижных животных)
国立国会図書館 「ロシアにおける行政監査制度」(pdf)(小泉悠)

(過去関連投稿)
(*セードフ司令官関連)
ロシア・クラスノヤルスク動物園の2頭の伊達男たち ~ 華麗なる独身生活を謳歌?
ロシア・クラスノヤルスク動物園のプール開き
ロシア・クラスノヤルスク動物園の夏の始まり ~ プールを雌2頭に占領されてしまったセードフ司令官閣下
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園のプール開き
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ロシア・黒海沿岸、ゲレンジークのサファリパークのホッキョクグマ展示場にライブカメラ設置
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ロシア・クラスノヤルスク動物園に所有権のあるセードフ司令官の無断移動問題、ほぼ一件落着へ
ロシア・ゲレンジーク、サファリパークのセードフ司令官が来年2016年にクラスノヤルスク動物園に帰還が決定

(*ピリグリムとオーロラの疑惑関連)
ロシア・イジェフスク動物園のピリグリムとオーロラ、同園から忽然と姿を消す ~ ブラジル行きの真相と深層
ブラジル・サンパウロ水族館に忽然と姿を現したロシア・イジェフスク動物園のピリグリムとオーロラ
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by polarbearmaniac | 2017-08-17 01:30 | Polarbearology

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