街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 09月 09日 ( 1 )

男鹿水族館のクルミの体調不良について考える ~ これ以上の繁殖への挑戦からはもう解放してやるべき

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クルミとミルク (Белая медведица Куруми и медвежонок Милка/Kurumi the Polar Bear with her female cub Milk) (2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

動物園(や水族館)は飼育している動物たちの健康状態を必ずしも全て発表する必要はないわけで、重要なのは動物たちの健康に異常があった時に適切に対処しているかどうかだけが問題です。この点で言えば男鹿水族館はホッキョクグマの健康状態の変化に対する対応について私は非常に信頼しています。
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クルミ (Белая медведица Куруми/Eisbärin Kurumi)
(2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

7月から8月にかけて一か月間にわたって日本を不在にしていた間は日本の動物園のホッキョクグマたちについてのニュースをあまりチェックしていませんでしたが、男鹿水族館のクルミに生じた食欲の減退についてだけは気にしていました。
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クルミとミルク (Белая медведица Куруми и медвежонок Милка)
(2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

男鹿水族館から公開されている情報、特にクルミの写真から読み取れることはいくつかあると思います。まず8月初頭の写真から読み取れることですが、クルミの食欲が減退した時点以前の時期に彼女が年末の出産準備のために給餌量が増やされていたという形跡は読み取れません。一般的に言えば繁殖行動期に繁殖行為があったかどうかについて、その有無を動物園(や水族館)はファンに情報を公開する必要は全くないわけで、その有無については最近私はほとんど興味はありません。ただし以下のことは読み取れるように思います。それは二つの可能性です。一つは、クルミには春には繁殖行為はなかったので出産準備のための給餌量の増加が不要であると判断されていたという可能性。もう一つは、繁殖行為があったかどうかにかかわらず、クルミは7月以前の段階で実はすでに長期間にわたって程度の差こそあれ、健康時よりも食欲がなかったのではないかという可能性です。


クルミとミルク - A Polar Bear Cub with her mother Kurumi, on the day of her first public appearance at Oga Aquarium, Japan, on May 1 2013.

8月下旬のクルミの写真ですが、それを見ると8月初頭の写真よりももっと痩せて見えます。ただしホッキョクグマというのは写真を写す角度によってかなり体の大きさが違って見えますので必ずしも8月下旬のほうが痩せていると100%断言することはできないでしょう。ただし9月に入ってからの写真を見ますとクルミは相当に痩せていることはほぼ間違いないようにも見えます。食欲は戻りつつあるようですが私は楽観的な見方はできないようにも思えます。男鹿水族館はおそらくすでにクルミの腹部の超音波検査を8月に行っているのではないかという感じがします。
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クルミとミルク (Белая медведица Куруми и медвежонок Милка)(2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

こういったことから総合的に考えますと、その情報が公開されたかどうかにかかわらず仮にクルミが春に繁殖行為があって秋から彼女が産室のあるエリアを指向するとすれば(男鹿水族館は開放型システムを採用しています)、彼女が出産した場合に急激に体力を消耗することが予想され危険な状態となる可能性があり、赤ちゃんは人工哺育を余儀なくされるでしょう。ただし仮に彼女に繁殖行為があったとしても出産には至らないだろうと思います。何故ならホッキョクグマの繁殖には.着床遅延(Delayed Implantation)というメカニズムがあり、8~9月までは妊娠したのかしないのかが確定しません。現在のクルミの状態では仮に春に繁殖行為があっても受精卵の着床はない(なかった)だろうと考えられるからです。ですから産室内でクルミが体力を消耗させるということはないわけです。
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クルミとミルク (Белая медведица Куруми и медвежонок Милка)(2013年5月1日撮影 於 男鹿水族館)

クルミは現在20歳ですが、繁殖に関してこの年齢をまだ若いとみるか老いているとみるかは難しいところです。これについては「ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの歩む道 ~ 再説: 繁殖可能年齢上限」、及び「北米の過去約100年間の飼育下のホッキョクグマ出産記録が語ること ~ 再び考えるキャンディの今後」という二つの投稿を御参照下さい。出産(と育児)に成功した経験のある雌(メス)ならば、世界での事例を見渡せばクルミは来年もまだ繁殖の成功には十分余裕がある年齢と言えるでしょう。ただし...どうでしょうか、もうクルミは繁殖への挑戦からは解放してやったほうがよいと私は思います。クルミというのは自由を尊び、束縛を嫌うホッキョクグマです。仮に彼女の体調が万全であっても、あえて再び育児を行うという本能が働くかは疑問のように私には思えます。クルミはララやシモーナのような天性の母親タイプのホッキョクグマではなく、またバフィンのように克己的なホッキョクグマともタイプが違うわけです。以下は全く非科学的な話ですが、欧州やロシアで母親となった経験のある雌(メス)のホッキョクグマを何頭も見てきたわけですが、私には彼女たちの気持ちがテレパシーのように伝わってくることがあります。以前にも述べていますが、クルミは「あなたたち人間が期待しているように私は出産した。もうこれ以上私に何を期待しようというのでしょうか?」と言っているように見えます。

やはりクルミにはミルクとの二年目を与えてやるべきでした。仮にそれがクルミの自由をさらに一年奪ったとしてもです。それが実現していたならばクルミの第二子というのは可能性が大きかったかもしれません。しかし現時点としてはクルミは繁殖からは自由にさせてやるべきでしょう。浜松でゆったりと過ごすバフィンとモモの母娘を見ていると尚更そういった気がします。

(資料)
男鹿水族館 (Aug.2 2017 - 夏バテ?クルミ様) (facebook/Aug.2 2017) (facebook/Aug.30 2017) (facebook/Sep.5 2017)

(過去関連投稿)
(*クルミとミルク関連)
・男鹿水族館の赤ちゃん、はじめまして!!
・クルミの赤ちゃん(クーシャ - 仮称) の素顔と性格 ~ 一般公開日初日の印象
・クルミお母さんの性格と母親像 ~ その 「対象非関与型母性」への評価について
・梅雨期の出羽の国、男鹿水族館でクルミ母娘との再会
・美しく成長を遂げつつあるミルク ~ その素顔と性格
・クルミお母さんの母親像を再度考える ~ 「求心性」、「非求心性」の第三の座標軸から見えてくること
・クルミ母娘の夏の日 ~ 大きな展示場へ移動した親子との再会
・"La tristesse allante de Milk" ~ クルミとミルクの母娘関係と行動の基本的構図を探る
・悪天候、そして夏の終わりの男鹿水族館 ~ 転換点を迎えたクルミとミルクとの母娘関係
・驚くべき進化を遂げつつあるミルク ~ "Efforcez-vous d'entrer par la porte étroite..."
・過ぎ去らない夏の残る男鹿水族館 ~ クルミとミルクの母娘模様
・ミルクの楽しいおもちゃ遊び ~ 超一流の遊びの能力
・冬の日の日本海と男鹿水族館、そして別れの迫ったクルミとミルクの母娘 ~ 感傷の存在しない爽やかさ
・クルミ、その特異なる母性へのオマージュ ~ 「母親」 たることを拒絶した、その逆説的母親像への敬意
・独立自尊のミルク、その涙無しの旅立ち ~ また釧路でお会いしましょう、お元気で
(*ホッキョクグマの母親像)
・「情愛型」 と 「理性型」、「対象関与型」 と 「対象非関与型」 のそれぞれの母親像の違いを探る
・クルミお母さんの母親像を再度考える ~ 「求心性」、「非求心性」の第三の座標軸から見えてくること
(*ホッキョクグマの出産年齢)
・ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの歩む道 ~ 再説: 繁殖可能年齢上限
・北米の過去約100年間の飼育下のホッキョクグマ出産記録が語ること ~ 再び考えるキャンディの今後
by polarbearmaniac | 2017-09-09 06:00 | Polarbearology

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