街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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2017年 11月 03日 ( 1 )

モスクワ動物園が北京動物園よりのホッキョクグマ入手希望を事実上拒否 ~ したたかなアクーロヴァ園長

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シモーナ (Белая медведица Симона/Eisbärin Simona)
(2013年10月4日撮影 於 モスクワ動物園)

ロシアの政府系新聞であるロシースカヤ・ガゼータ (Российская газета) 紙が11月1日付けで非常に興味深い記事 ("Будем дружить пандами") を掲載しています。この記事に隠された本当の意味を理解するためにはロシアのホッキョクグマ界に関する集積した情報が不可欠でしょう。北京動物園の園長さんは、どうもそういったことには無知であったようです。
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モスクワ動物園と北京動物園との覚書締結 Photo(C)XINHUANET.com

中国の北京において開催されている「モスクワの日 ("Дней Москвы в Пекине")」のためにモスクワ動物園のスヴェトラーナ・アクーロヴァ園長は北京を訪問し北京動物園との間での協力関係構築の覚書 ("Меморандума о сотрудничестве между зоопарками Москвы и Пекина") を締結したそうです。つまりモスクワ動物園と北京動物園との間での動物交換とか繁殖に関する協力関係を深めようといたことが趣旨でモスクワ動物園のアクーロヴァ園長は北京を訪問したわけです。ところがアクーロヴァ園長の真の狙いは北京動物園からジャイアントパンダを入手したいということだったようです。
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ウランゲリ (Белый медведь Врангель/Eisbär Wrangel)
(2013年10月4日撮影 於 モスクワ動物園)

さて、そういったモスクワ動物園の園長さんの意図を察した北京動物園の園長さんが持ち出した案はジャイアントパンダとホッキョクグマを交換しようというアイディアだったようです。すでに何度か投稿していますが、ここ数年にわたってロシアの動物園は中国の動物園にホッキョクグマを有償・無償で譲渡することを止めてしまっているわけです。その理由としてはロシアの動物園(これはモスクワ動物園が主導しているわけですが)はホッキョクグマの繁殖計画のない国にはホッキョクグマを出さないという方針を確立し、中国においてはホッキョクグマの繁殖計画の不在のためにパートナーが用意されてないことと飼育展示場の不備の二つの理由を挙げて中国の動物園からのホッキョクグマ入手依頼を拒絶してきたわけです。ノヴォシビルスク動物園のシルカの場合は黄信号が赤信号に変わる瞬間を強行突破したという入手だったことは以前にもその経緯をご紹介したことがありました。さて、ロシアの動物園(つまり事実上それを主導しているのはモスクワ動物園)がホッキョクグマの繁殖に関して協力関係を緊密にしたのは欧州の動物園との間でした。
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ムルマ (Белая медведица Мурма/Eisbärin Murma)
(2013年10月3日撮影 於 モスクワ動物園)

さて、こういった北京動物園の園長さんの希望、つまりホッキョクグマとジャイアントパンダの交換案を聞いたモスクワ市の副市長さんとモスクワ動物園のアクーロヴァ園長が北京動物園の園長さんに対して行った返事は「ロシアと中国の国家指導者だけが決められることですよ。」ということだったそうです。つまりプーチン大統領と習近平国家主席が合意しなければできないという内容だったわけです。この回答は実に巧妙だと思います。北京動物園の園長さんに対して、「あなたには習近平とプーチンを動かす力などないでしょう。」ということです。つまり事実上はホッキョクグマとジャイアントパンダの交換案への拒否回答なのです。ジャイアントパンダは北京動物園の最強の「切り札」です。しかしその「切り札」という概念自体は「パンダを見たい」といった一般大衆の単純で強い欲求だけに立脚しているわけで、絶滅危惧種に対する繁殖計画といった動物園関係者の知的活動と等価に評価されるものであってはならないわけです。さて、モスクワ動物園のアクーロヴァ園長はかなりしたたかな女性のようです。その後のタス通信の報道によりますとアクーロヴァ園長は結局は北京動物園からのジャイアントパンダの単純導入に、ほぼ成功したそうです。つまりホッキョクグマとの交換なしにジャイアントパンダをモスクワ動物園に導入できる見通しになったということですね。(ジャイアントパンダの所有権は常に中国側が保持するというのは世界中で行われているわけですが、今回もそうなるようです。)
(*追記)中国側の報道を読みますと実に興味深いことに気付かされます。その報道ではアクーロヴァ園長の「ロシアと中国の国家指導者だけが決められること」という発言がスッポリと抜け落ちているのです。その理由はおそらく、記者がこのアクーロヴァ園長の発言の本当の意味を理解できていないか、それとも中国にとって都合の悪いことは報道しないということかのどちらかでしょう。

日本の動物園がロシアからホッキョクグマを導入しようとすれば、そのパートナー候補の存在が不可欠であり、さらにしっかりとした将来の繁殖への展望、そして十分な規模の飼育展示場の存在が不可欠なのです。現時点でそれらを満たしている日本の動物園は札幌・円山動物園だけでしょう。

(資料)
Российская газета (Nov.1 2017 - Будем дружить пандами)
ТАСС (Nov.1 2017 - Московский зоопарк ожидает получить из Китая большую панду)
(*追記資料)
环球网 (Nov.3 2017 - 俄媒:俄动物园望引进大熊猫有意愿拿北极熊交换)

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by polarbearmaniac | 2017-11-03 21:00 | Polarbearology

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