街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

2017年 12月 04日 ( 2 )

エストニア・タリン動物園のノラのウィーンへの旅立ち ~ 父親の生まれ故郷に向かうノラ

a0151913_193515.jpg
ノラ Photo(C)Postimees

エストニアのタリン動物園で2013年11月に誕生した雌(メス)のノラ (Nora) がオーストリアの首都であるウィーンのシェーンブルン動物園に移動することになった件はすでに投稿していました。そのノラは本日月曜日の4日の朝にタリン動物園を出発しました。その出発の様子をタリン動物園はライブで中継しましたのでそれをご紹介しておきます。下をワンクリックして下さい。
a0151913_18535460.jpg

タリン動物園は当初はこのノラを自園で飼育し続けるという方針を示していたわけですが同園に新しい飼育展示場が完成し欧州のEAZAの繁殖計画に加わっていくこととなったために貴重な雌(メス)であるノラを手放さざるを得なくなってしまったというわけです。そうすることがタリン動物園におけるホッキョクグマ飼育を将来にわたって確実なものにしていくという判断でしょう。基本的にこの判断は正しいと思いますが、しかしやはりノラにはタリン動物園に留まってほしかったという気もします。ノラが向かう先のウィーンのシェーンブルン動物園は彼女の父親であるノルトの生まれ故郷です。そういった点でも彼女の移動先としてはタリン動物園はある程度納得できるということではないでしょうか。ノラの無事の到着を願っています。

(*追記)ノラの出発についてのTVニュース映像をご紹介しておきます。ノラの成長を映像で追いかけたもので懐かしいような気持になってきます。ワンクリックして下さい。
a0151913_1654465.jpg

(資料)
rus.eer.ee (Dec.4 2017 - Белая медведица Нора отправилась из зоопарка Таллинна в Вену) (Dec.4 2017 - Jääkaru Nora naaseb isakoju)
Postimees (Dec.4 2017 - Видео: белая медведица Нора отправилась из зоопарка Таллинна в Вену)]
Õhtuleht (Dec.1 2017 - Jääkaru Nora kolib Viini peigmehe juurde)

(過去関連投稿)
エストニア・タリン動物園の気骨のホッキョクグマ、フランツの非業の死 ~ 待ち望まれる新施設
エストニア・タリン動物園、ホッキョクグマ舎改築は予算獲得が難問
エストニア・タリン動物園、懸案の新ホッキョクグマ展示場建設に向け募金活動を開始
エストニア・タリン動物園の「ホッキョクグマの日」のイベント ~ 新施設建設計画が動き出すタリン動物園
バルト海沿岸・エストニアのタリン動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生!
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃんの生後36日目の映像が公開
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃん、間もなく生後二か月へ ~ 3月には戸外登場の予定
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃん、順調に間もなく生後2ヶ月へ
エストニアのタリン動物園でモニターカメラによる産室内ライブ映像が配信開始となる
エストニア・タリン動物園のヴァイダ逝く ~ 自分の娘が母となったことを見届けたかのような死
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃん、順調に生後73日目となる
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃん、産室内での遊びの映像が公開
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃん、産室内でボール遊びに挑戦
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃん、フリーダお母さんと共に遂に戸外に登場!
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃんとフリーダお母さんの戸外初登場の追加映像
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃんの性別への予想 ~ 95% の確率で雌だと考えている同園
エストニア・タリン動物園で誕生の赤ちゃんの性別が 「雌(メス)」 と判明し、「ノラ」 と命名される
エストニア・タリン動物園の雌の赤ちゃんノラの近況 ~ 貴重な雌のノラを手放さない予定のタリン動物園
エストニア・タリン動物園の雌の赤ちゃんノラの近況と 「ホッキョクグマに新しい家を」 の募金プロジェクト
エストニア・タリン動物園の雌の赤ちゃんのノラとフリーダお母さんとの関係 ~ 珍しい授乳体勢
エストニア・タリン動物園の雌の赤ちゃんのノラの近況 ~ 貧弱な飼育環境に負けない逞しさ
エストニア・タリン動物園の雌のノラが間もなく一歳へ ~ ホッキョクグマ飼育継続への同園の強い意志
エストニア・タリン動物園のフリーダお母さんと娘のノラのハロウィーン
エストニア・タリン動物園でノラの一歳の誕生会が開催される ~ 参加する繁殖計画はEAZAかEARAZAか
エストニア・タリン動物園の一歳半の雌のノラの近況 ~ ネット上のホッキョクグマ映像の「強者」と「弱者」
エストニア・タリン動物園の間もなく二歳となるノラの近況 ~ 資金不足に苦悩するタリン動物園
エストニア・タリン動物園のノラがフリーダお母さんと別れて単独飼育へ ~ 同園に残留の見通し
エストニア・タリン動物園、ホッキョクグマたちの「国際ホッキョクグマの日」~ 苦悩が続く同園
エストニア・タリン動物園のノルトの軌跡 ~ 偉大なる雄への階段を登る
エストニア・タリン動物園のノラのハロウィーン ~ ノラを愛するタリンの人々の願い
エストニア・タリン動物園のノラがウィーンのシェーンブルン動物園へ ~ ロシアではなく欧州を向いた同園
エストニア・タリン動物園のノラのハロウィン ~ 生まれ故郷での最後のハロウィン
エストニア・タリン動物園のアロンの満一歳の誕生会、そしてノラの故郷での最後の誕生会
by polarbearmaniac | 2017-12-04 20:30 | Polarbearology

カナダ・マニトバ州チャーチルの当局者がホッキョクグマ孤児の保護方針の転換を主張 ~ 科学と倫理の相克

a0151913_23564621.jpg
ナナ (Белая медведица Нана/Eisbärin Nana)
(2017年5月25日撮影 於 仙台・ズーパラダイス八木山)

これは非常に重要で極めて注意して扱わねばならないニュースです。カナダ放送協会 (CBC) が報じるところによりますと、カナダ・マニトバ州のチャーチルのマイク・スペンス市長と市議会がマニトバ州の従来のホッキョクグマの野生孤児の保護方針に対して異議を唱えているそうです。

報道によりますと現在チャーチルでは生後11ヶ月の二頭の野生孤児が自然保護官によって保護されており、ウィニペグのアシニボイン公園動物園内の「ホッキョクグマ保護・厚生センター」への移送への待機状態にあるそうです。このアシニボイン公園動物園(仙台のナナの生まれ故郷)内のホッキョクグマの野生孤児保護施設である「ホッキョクグマ保護・厚生センター(Leatherdale International Polar Bear Conservation Centre)」については以前にも詳しくご紹介しており、ここ3~4年にわたって9頭もの野生孤児個体を保護し、そして同園内において飼育下のホッキョクグマとして保護・飼育していることを全てのケースで本ブログで取り上げてきました。

ところがここにきてチャーチルのスペンス市長は現在市内で保護されたばかりの生後11ヶ月の二頭の野生孤児をアシニボイン公園動物園内の「ホッキョクグマ保護・厚生センター」には送らずに位置追尾機能の付いたカラーを装着してホッキョクグマの本来の生息地に戻すことを州政府の持続可能開発省 (Ministry of Manitoba Sustainable Development Minister) の大臣であるスクアイアス氏に提案し、市議会も市長のこの提案を支持しているそうです。一歳になっかたならないかの幼年個体を生息地に解き放ち、彼らのその後の行動をモニターすることは科学的な研究の一環となるといった理由も挙げているのですが、スペンス市長や市議会の考え方には、生息地で保護されたホッキョクグマを保護の名目で結局は動物園に送る結果となることに対しての抵抗感といったものが背景にあるようです。ただしこうした形で今回の二頭の幼年孤児個体を野生に戻すことは彼らの死そのものを意味することになります。このスペンス市長の提案に対して州政府の持続可能開発省は現時点においては予定通りこの二頭をアシニボイン公園動物園に送ってそこで保護・飼育させる方針であることに変わりはないとスペンス市長に述べたそうです。アシニボイン公園動物園からは本件に対する見解は述べられてはいないものの、どうも同園ではここ3~4年にわたって9頭もの野生孤児を保護してために余裕がなくなっているらしく、受け入れには消極的ではないかということをうかがわせる周辺の情報もある模様です。
a0151913_2346516.jpg
ナナ (Белая медведица Нана/Eisbärin Nana)
(2017年5月25日撮影 於 仙台・ズーパラダイス八木山)

ホッキョクグマの研究者としては世界の第一人者の一人であるカナダ・アルバータ大学のアンドリュー・ドローシェー (Andrew Derocher) 教授は今回の件について非常に複雑な気持ちでいるようです。通常ではこうした形で幼年個体を野生に戻せば彼らが生き延びていく確率は5%以下であるというのが一般的な認識であるものの、でははたして本来ならば孤児となったホッキョクグマの幼年個体は単独では生きていくことができずに死亡してしまうという大自然の営みに人間が介入して野生孤児を飼育下で保護することが本当に正しのかについても明確な結論は見いだせないという趣旨でインタビューに答えています。そして、これは科学の問題ではなく倫理の問題であるという認識を述べています。そして実際にこういった問題について具体的にどう対応するのかはマニトバ州政府が政治的な決断を行う以外には解決方法はないという立場のようです。マニトバ州政府の持続可能開発相であるクアイアス氏は「チャーチルのホッキョクグマはかけがえない存在であり、マニトバ州政府の持続可能開発省の立場としてはは彼らの生存の保障に注力する一方で、この野生孤児をどうするか、そしてチャーチル近郊のホッキョクグマたちの頭数維持のためには何が最善の方法であるについてコミュニティと科学者との協力によって取り組んでいきたい。」という内容を語っています。

これはかなり危うい状況になってきたように思います。私自身としては「救えるものは救うべき」という立場ですので今回の二頭の幼年孤児については従来行われてきたようにアシニボイン公園動物園に移動させて保護・飼育すべきと思います。ホッキョクグマの保護については一頭一頭の保護という具体的な積み重ねが重要であると私は考えるのですが、しかし一方でもうカナダにはこういった野生孤児個体を保護する場所が尽きかけてきているというのも現実です。アシニボイン公園動物園ではトロント動物園で誕生したものの人工哺育となった個体の「適応化 (socialization)」を行う場所としても機能していたのですが飼育頭数が多くなりすぎてそういった人工哺育の個体をトロント動物園に返してしまったほどになっています。アメリカの動物園はこういったカナダの野生孤児個体を喉から手が出るほど欲しがっているわけですが、しかしこれは現在では同国の法令、つまり海洋哺乳類保護法 (Marine Mammal Protection Act) と絶滅危惧種保護法 (Endangered Species Act) によってホッキョクグマを国外から入れることも国外へ出すことも実質上不可能となっているわけです。よってカナダ国内で保護された野生孤児個体はアメリカの動物園に移動させることは不可能なのです。そうなるとカナダ国内でそういった野生孤児個体を保護・飼育せねばならないわけで施設としては限りがあるのです。

今回の二頭の野生孤児への対応を注視したいと思います。私としては野生に戻すということだけは止めてほしいと思います。仮に今回の二頭を野生に戻すということであれば歯止めが効かなくなるでしょう。

(資料)
CBC (Dec.3 2017 - Town of Churchill says leave our polar bears alone)

(過去関連投稿)
カナダ・マニトバ州、チャーチルのホッキョクグマ保護収容施設 (俗称 “Polar Bear Jail”) について
「ホッキョクグマ 生態と行動の完全ガイド」(日本語版)が間もなく発売 ~ 優れた記述と美しい写真
*アシニボイン公園動物園関連
カナダ・マニトバ州、アシニボイン公園動物園内に建設中のホッキョクグマ保護・厚生センターについて
カナダ・マニトバ州、アシニボイン公園動物園内にホッキョクグマの保護・厚生施設が完成
カナダ・マニトバ州、アシニボイン公園動物園の新展示場施設の建設  ~  偉大なるデビーの遺したもの
by polarbearmaniac | 2017-12-04 00:30 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ウクライナ・ムィコラーイウ動..
at 2018-01-17 01:30
ドイツ・ゲルゼンキルヘン動物..
at 2018-01-17 00:15
フランス・パルミール動物園の..
at 2018-01-16 00:15
ロシア・ペルミ動物園のホッキ..
at 2018-01-15 02:00
チェコ・ブルノ動物園のコーラ..
at 2018-01-14 00:30
アラスカで行われる赤外線を用..
at 2018-01-13 00:30
ロシア・イジェフスク動物園で..
at 2018-01-12 07:30
ロシア・ノヴォシビルスク動物..
at 2018-01-12 00:30
ロシア・サンクトペテルブルク..
at 2018-01-11 02:00
ロシア・ペンザ動物園のベルィ..
at 2018-01-11 00:15

以前の記事

2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Lenin's Tomb: The Last Days of the Soviet Empire


Resurrection: The Struggle for a New Russia


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag