街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

2017年 12月 13日 ( 2 )

アメリカ・ソルトレイクシティ、ホーグル動物園でのノーラとホープの同居が充実への兆しを見せる

a0151913_15213431.jpg
ノーラ Photo(C)Hogle Zoo

アメリカ・ユタ州ソルトレイクシティのホーグル動物園で飼育されているのがオハイオ州のコロンバス動物園で2015年の11月6日に誕生し人工哺育で育てられた雌(メス)のノーラ (Nora)、そして同じオハイオ州のトレド動物園で2015年12月3日に誕生した雌(メス)のホープ (Hope) なのですが、この二頭の同居の目的は人工哺育されたノーラの「適応化 (Socialization)」であることは言うまでもありません。日本でホッキョクグマの人工哺育といえば非常に固定されたイメージで捉えられており、それは「なんとか生かし続ける」といったファンにとっては同情の対象としての意味があまりにも強いわけです。しかしそれは「人工哺育の達成」といった目標の半分でしかありません。コロンバス動物園、オレゴン動物園、ホーグル動物園、そしてAZAがいかにノーラの「適応化 (Socialization)」の達成のために何故これほどまでに懸命になっているかについては過去の投稿で何度もご紹介してきたつもりです。

さて、ホーグル動物園におけるノーラとホープの同居はその開始の様子を以前に投稿しています。その様子はいささか奇妙なものでした。その後の様子についてポートランドのメディアである The Oregonian が報告記事を書いています。The Oregonian というのは最近では飼育下のホッキョクグマに関して全米では最も素晴らしい記事を発表しているメディアであり、それは前回の「アメリカ・ソルトレイクシティ、ホーグル動物園のノーラが満二歳へ ~ 必読の 'The Loneliest Polar Bear'」という投稿でもご紹介しています。こういった記事において語られているのはノーラの成長に立ちはだかってきたいくつかの危機についてであり、その例としては彼女の身体的障害つまり代謝性骨疾患 (Metabolic bone disease) 、と精神的障害つまり鬱症状であり後者は抗鬱剤の投与によって治療がなされたことに触れています。そういったノーラのホープとの同居はなかなか目に見えた好転がなかったものの、最近になって新しい段階に入っており、ホッキョクグマの友達同士の関係が確立されてきたことを報じています。その一例として挙げられているのが下の映像です。この映像においてノーラはホープを自分の外側に存在している個体を認識し、そして自らがホッキョクグマとしての自覚を持ちつつあることを示しています。



上の映像を下の映像、つまりノーラがオレゴン動物園において老ホッキョクグマであるタサルと約10日間同居していた時期の映像と比較してみましょう。冒頭にはノーラの成長記録映像が挿入されています。タサルはこの時期のすぐ後に亡くなってしまいましたが、仮にノーラがタサルとこうした形で同居を続けていても「適応化(Socialization)」は非常に難しかったでしょう。



さて、ノーラのホープとの同居はいよいよ実のあるものになっていきそうで安心しました。それからここで The Oregonian の制作した 'Hope for Nora' というタイトルの教材用の映像を御紹介しておきましょう。"Hope" を「希望」という意味とホープという個体名の二つに引っ掛けています。内容はご覧いただける通りです。解説の必要はないでしょう。



こういった一連のノーラの成長を充実したものにしていこうという関係者の努力を見ていきますとホッキョクグマに関してもアメリカという国の底力を見る気がします。

(資料)
OregonLive.com (Dec.12 2017 - Polar bear Nora passes development milestone, plays with her new companion)
fox13now.com (Dec.12 2017 - Adorable: Polar bears Hope and Nora play for the first time at Utah’s Hogle Zoo)

(過去関連投稿)
アメリカ・コロンバス動物園のノーラの同園での展示最終日に多くの来園者がノーラとの別れを惜しむ
アメリカ・コロンバス動物園のノーラが西海岸・ポートランドのオレゴン動物園に無事到着
アメリカ・オレゴン州ポートランドのオレゴン動物園に到着して検疫期間中のノーラの近況
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラとコロンバス動物園の担当飼育員さんの別れ
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの来園を歓迎しない地元ポートランド市民の意見 ~ So what ?
アメリカ・オレゴン動物園で検疫期間中のノーラの最近の様子
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園で検疫期間中のノーラの近況
アメリカ・オレゴン動物園でノーラとタサルの同居開始準備のため二頭の初対面が行われる
アメリカ・オレゴン動物園のノーラが満一歳となる
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 今週末にも一般公開開始の予定
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラが初雪を楽しむ ~ 相手役を求めAZAと交渉の同園
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園のノーラ ~ 野放図な遊び好きの性格に潜む危うさ
アメリカ・オレゴン州ポートランド、オレゴン動物園が降雪の影響で閉園となった日のノーラの姿
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの自由奔放さ ~ 彼女の遊び友達を探す同園とAZA
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 「適応化(socialization)」とエンリッチメントとの関係
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 「遊び友達」の導入に苦戦するオレゴン動物園とAZA
アメリカ・トレド動物園のホープ、及びオレゴン動物園のノーラが共にソルトレイクシティのホーグル動物園へ
アメリカ・オレゴン動物園を去るノーラへの人々の反応 ~ 移動の必要性を理解・納得した地元ファン
アメリカ・オレゴン動物園のノーラの近況 ~ 秋に彼女を待ち受けるソルトレイクシティのホーグル動物園
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園を去るノーラに寄せた深い想い ~ 同園と地元紙の文章
アメリカ・ポートランド、オレゴン動物園でのノーラの最後の一日 ~ 彼女との別れを惜しむ地元の人々
アメリカ・オレゴン動物園のノーラがソルトレイクシティのホーグル動物園に無事到着
アメリカ・トレド動物園のホープがソルトレイクシティのホーグル動物園に無事到着
アメリカ・ソルトレイクシティ、ホーグル動物園でノーラとホープが同居を開始し、一般公開となる
アメリカ・ソルトレイクシティ、ホーグル動物園のノーラが満二歳へ ~ 必読の 'The Loneliest Polar Bear'
by polarbearmaniac | 2017-12-13 15:30 | Polarbearology

ロシア・クラスノヤルスク動物園のオーロラの出産準備体制に同園の大きな誤解の存在の危険性

a0151913_23253541.jpg
オーロラ  Photo(C)Олег Сергеевич Чипура

ロシア・シベリア中部のクラスノヤルスク動物園(正確には、ロエフ・ルチェイ・クラスノヤルスク動物園 - Красноярский зоопарк "Роев ручей")に暮らす12歳の雄(オス)のフェリックスと8歳の雌(メス)のオーロラのペアは共に野生孤児の出身でありこのペアの間での繁殖に成功すれば新血統の誕生になるという点で私は以前から注目しています。このペアが繁殖に成功するかどうかは世界のホッキョクグマ界では最も注目されることとなっているわけです。このペアの11月にクラスノヤルスク動物園からオーロラの出産準備体制に入ることが明らかにされていました。今月12月に入ってからの状況について同園と地元メディアは報じています。
a0151913_23341484.jpg
Photo(C)"Роев ручей" Красноярский зоопарк

クラスノヤルスク動物園ではホッキョクグマの飼育展示場の周辺では来園者は静寂を維持するように求められているそうで、上の写真のように立ち入り禁止の状態になっているそうです。総じて言ってクラスノヤルスク動物園はオーロラの出産準備についてかなり悠長なスケジュールで事を運んできているのが気になる点です。同園はホッキョクグマの平均妊娠期間を7カ月であると語り、そして地元メディアの取材に対して驚くべきことにオーロラの出産は1~2月であると語っています。これは全く不可解な認識なのではないでしょうか。以前に「ホッキョクグマの出産シーズンを迎えて ~ データを基礎にした知識・情報整理」という投稿などでもロシアの生物学者であるトゥマノフ氏の研究報告としてReproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)というデータをご紹介していますがホッキョクグマの妊娠期間(Pregnancy Duration/Total Gestation times) はデータ上は164~294日です。これは確かに大雑把に言えは7カ月ということになりますが、繁殖行為の時期が遅い(つまり6月など)場合にはこの妊娠期間は短くなるという傾向が明確に示されていることをクラスノヤルスク動物園は無視しているのではないでしょうか。つまりホッキョクグマはその繁殖行為は早かろうが(2月上旬)遅かろうが(6月中旬)、出産は11~12月に行われるということなのです。クラスノヤルスク動物園はおそらくオーロラとフェリックスの繁殖行為が6月に行われたために、そこから単純に約7カ月後、つまり1~2月の出産だろうと計算しているような気がします。しかし繁殖行為が6月に行われると妊娠期間(Pregnancy Duration) は短くなるという明白な傾向があることを無視しているためにオーロラの出産予定は1~2月だなどと考えているのではないかと思うわけです。これは相当に危険な考え方だろうと思います。同園が産室準備やらモニターカメラやらの設置を随分のんびりとしたスケジュールで行ってきたことに私は疑念をもっていましたが、そういったことの理由の一端がわかったような気がします。
a0151913_0403342.jpg
フェリックス(手前)とオーロラ(奥)
Photo(C)"Роев ручей" Красноярский зоопарк

前回の投稿にも述べましたがクラスノヤルスク動物園はホッキョクグマの繁殖の経験はないわけで、物事の進め方にいささか不安を感じさせることを指摘しましたが、どうもその不安が現実のものになってきたような気がします。これはかなり心配ですね。大切な野生孤児同士のペアですのでしっかりとした情報のもとで万全を尽くしてもらいたいと思います。以下は今年の7月のフェリックスとオーロラの姿です。



(資料)
НГС.НОВОСТИ (Dec.12 2017 - Белой медведице Авроре достроили берлогу с видеонаблюдением в ожидании потомства)
НИА-Красноярск (Dec.12 2017 - В Красноярском зоопарке могут появиться белые медвежата)
Проспект Мира - Красноярск (Dec.17 2017 - Сотрудники «Роева ручья» построили белой медведице берлогу с подогревом и ждут от нее потомства)
KrasnoyarskMedia.ru (Dec.12 2017 - В "Роевом ручье" для белых медведей, ожидающих пополнения, сделали берлогу с подогревом)
Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)

(過去関連投稿)
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の野生出身の新ペアの繁殖への期待 ~ 日本は果実を狙え
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の「プール開き」 ~ 夏に向けたフェリックスとオーロラの姿
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の野生出身のフェリックスとオーロラのペア形成への準備
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の「国際ホッキョクグマの日」のフェリックスとオーロラの姿
ロシア・クラスノヤルスク動物園のフェリックスとオーロラの同居開始 ~ 新血統の誕生への大きな期待
ロシア・クラスノヤルスク動物園、野生出身のフェリックスとオーロラが繁殖に向け驀進
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園のホッキョクグマたちに欧州の来園者からプレゼント
ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか
ロシア・クラスノヤルスク動物園のフェリックスとオーロラ、来年の繁殖シーズンへの大きな期待
ロシア・クラスノヤルスク動物園でホッキョクグマのバレンタインデーが祝われる ~ 冬期の新しいイベント
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園のプール開き ~ フェリックスとオーロラの夏の季節の始まり
ロシア・中部シベリアに記録的な最高気温の夏が到来 ~ フェリックスとオーロラの夏の過ごし方
ロシアのクラスノヤルスク環境監視検察庁が監査で問題視したクラスノヤルスク動物園のホッキョクグマの移動
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の7歳のオーロラに出産の期待 ~ 「新血統」の誕生なるか?
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園のオーロラの出産準備体制 ~ 一抹の不安を感じる経験不足
by polarbearmaniac | 2017-12-13 01:00 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ウクライナ・ムィコラーイウ動..
at 2018-01-17 01:30
ドイツ・ゲルゼンキルヘン動物..
at 2018-01-17 00:15
フランス・パルミール動物園の..
at 2018-01-16 00:15
ロシア・ペルミ動物園のホッキ..
at 2018-01-15 02:00
チェコ・ブルノ動物園のコーラ..
at 2018-01-14 00:30
アラスカで行われる赤外線を用..
at 2018-01-13 00:30
ロシア・イジェフスク動物園で..
at 2018-01-12 07:30
ロシア・ノヴォシビルスク動物..
at 2018-01-12 00:30
ロシア・サンクトペテルブルク..
at 2018-01-11 02:00
ロシア・ペンザ動物園のベルィ..
at 2018-01-11 00:15

以前の記事

2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Lenin's Tomb: The Last Days of the Soviet Empire


Resurrection: The Struggle for a New Russia


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag