街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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よこはま動物園ズーラシアでの「はずれくじ」 ~ "No way casting whichever is the favorite"

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やれ、なんとか見学会やらお披露目会やらの誇りっぽい騒がしさを通り過ごした後を見計らって今日はツヨシの顔だけでも見ておこうかなと、よこはま動物園ズーラシア(以下「ズーラシア」と略記)にやってきた。本当に不便な場所にある動物園である。ここはやっていることは都会っぽいが上野動物園や天王寺動物園のような都市型の立地の動物園ではない。私の感覚ではここは相模原か厚木といった場所に感じるのである。
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ツヨシは繁殖の目的でこの動物園にやってきた。それ以上でもなければ以下でもない。肝心なことは繁殖に向かって歩むツヨシというホッキョクグマの姿と表情を見守っていくことであり来園イベントなどは瑣末な話であるし興味など全くない。だから私は来なかった。
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ジャンブイが歩いていた。
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掲示にはこう書いてある。「今日は誰かな? ジャンブイとツヨシのどちらか一頭をご覧いただけます.....」。 さて、「今日は...」と言うからには「今日一日は」の意味である。これに「どちらか一頭...」という文言が付加されると、これはつまり「どちらか一頭が終日飼育展示場に出ている」という意味である。つまり、一日の間での交代展示はないというのが正しい日本語の解釈である。つまり、今日はいくら待ってもツヨシは出てこないということである。とんだ「はずれくじ」だった。
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ということで、このズーラシアにホッキョクグマを見に来たいという方はご注意いただきたいと思う。一日に二頭は見られないということである。それは上の掲示の日本語の内容で明らかである。このジャンブイならば今日のような木曜日に会えるチャンスが大きいような気がするが、私はそれを保障はできない。
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遠方の方でよくお顔を知っている方がいらしていた。その方はツヨシに会いに来られたそうで失望の御様子だった。お気の毒なことである。是非またいらしていただきたいものである。
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海外の動物園のホッキョクグマ飼育展示場で彼らの個体名を表示している動物園は極めて稀である。ロシアの動物園では私の知る限りない(*追記 - そういえばイジェフスク動物園にはニッサンについてだけ紹介していたのを思い出しました)。欧州でもほとんどない。数少ない例外はアンティーブのマリンランドであるが、プールのどちらの側にいるホッキョクグマがなんという名前なのかについてはやはり掲示は無い。ベルリン動物園でクヌートが存命中に小さな展示場に一頭でいた時は「クヌート」というプレート表示があった。それくらいである。そういうことだから現在展示されているのが何と言う名前の個体なのかを表示する必要もないし、ましてズーラシアがいったいいつジャンブイやツヨシを展示場に出すのかについて明らかにしないのも全く問題はないと思う。それが「世界標準」というものである。ズーラシアは個体別展示に関してはそうした「世界基準」を採用している動物園であるらしい。他の点では知らない。
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ということで、今日はツヨシに会いに来た私は完全に「はずれくじ」だった。しかし、彼女に会うことはそれほど急ぐ必要はないと思っている。ツヨシを観察すべき始点はまだまだ先に設定すべきだと考えているからである。とはいえ、実に疲れた日となってしまった。

Nikon D5500
AF-S DX NIKKOR 18-300mm f/3.5-6.3G ED VR
(Mar.31 2016 @よこはま動物園ズーラシア)
by polarbearmaniac | 2016-03-31 21:00 | しろくま紀行

旭山動物園でイワンとルルの繁殖への同居開始 ~ 飼育下のホッキョクグマの繁殖成功の要因を考える

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旭山動物園の動物たちの姿の24時間ライブ配信を担当している 「Live Zoo In あさひやま」が報じているところによりますと旭山動物園で雄のイワンと雌のルルの繁殖のための同居がすでに始まっているそうです。ということはイワンとピリカの同居の試みは今季は終了したのだという理解でよいかもしれません。

さてイワンとルル....もう以前から何年も繁殖を期待され続けて久しいこのペアであるもののまだ朗報がなく、最近はこのペアの繁殖についてファンの間でもあまり話題にならなくなっているというのは事実です。あの「世界のララ」と双子姉妹であるルル、そして屈指の繁殖能力を誇る「アンデルマ/ウスラーダ系」のエリートホッキョクグマであるイワン、この二頭の間での繁殖の成功がまだないということ自体が私には「日本のホッキョクグマ界七不思議」の一つだと思っています。ホッキョクグマの繁殖というのは解明されていない要素があるというのは事実で、あれこれの予想を立てること自体に若干無理があるわけですが、私は飼育下のホッキョクグマの繁殖への試みをこうして何年か海外の情報やら、そこに自分でも出かけて行っていろいろと聞いた話などの情報を総合すると、大事なことは以下のようなことではないかと思っています。敢えて重要度の高いと考えられる順番から挙げてみます。

① 優れた繁殖能力を持つ雄(オス)の存在
② 普通程度の繁殖(出産)能力を持ち母性発揮への鋭敏な本能を持つ雌(メス)の存在
③ 雌(メス)が心地よく過ごせる産室
④ 雌(メス)に必要最低限の配慮を行う飼育担当者の存在


こんなところです。飼育下のホッキョクグマの繁殖、実はまず雌(メス)ではなく雄(オス)が問題なのだろうということです。①と②の順番が入れ替わるということはないというのが現在の私の考え方です。繁殖というとその成否は雌(メス)にあるという考え方を持つのは多くの方の意見かもしれませんが、私に言わせれば雌(メス)の繁殖能力は並み程度で十分だということです。ただし出産から授乳、そして育児への移行を促す鋭敏な本能が重要だということです。③ですが、これは産室が設備の整ったものであるということと雌(メス)が心地よく感じる場所であるということとは、別の問題であるということです。ホッキョクグマにとってどういった産室が心地良い場所であるかは実は謎であると思っています。何か我々人間にはわからない要素があることは間違いありません。④についてですが、これは担当者がいい加減でも必要最小限の配慮だけはきっちりと押さえていればよいということです。その飼育担当者が来園者に評判のよい人物であるかどうかは無関係だということです。具体例で見てみましょう。ちょっと生々しい話になりますのでお気に障る方は間違いなくいらっしゃると思いますがお許しいただきたく存じます。

札幌・円山動物園ですが、とにかく最も重要である①のデナリが抜群なのです。デナリは五段階評価ならば最高ランクの5です。いや、それ以上かもしれません。②ですが、実は私はララというのは繁殖(出産)能力は五段階評価ならば最高ランクの5ではなく4か4.5だろうと思っています。ところが母性発揮への移行を促す本能は最高レベルの5だと考えています。③についてはララに聞いてみないとわかりません。これは私の憶測にすぎませんが、円山動物園の産室をララが本当に心地よく思っているかについては必ずしもそうではないかもしれないと考えています。④は私はお話したことがないのでよくわからないのですが、かなり無口な方ですがしっかりとやっていらっしゃる手堅い方のように思いますので評価できると思います。単に前任者の方のやり方を踏襲するのではなく、細かいところでいくつもの新しい工夫をされていらっしゃる点で実に素晴らしいと思います。しかしやはり円山動物園はララの場合では①と②で勝負を決めてしまっていると思います。キャンディの場合は①は上と同様でデナリは最高レベルの5の評価ですが、②では母性発揮への本能が極めて低評価とならざるを得ません。これは③や④でカバーすることはできないレベルなのだということです。同園は昨年(いや、その前からも)いろいろなことがありました。いろいろと厳しい意見があるのは知っていますが私はララとデナリの顔を思い出すと同園を批判する側には加われません。このペアを世界的レベルで評価すれば、ウスラーダ/メンシコフが事実上繁殖から引退し、またレネンでは雄が交代した現時点ではララ/デナリはシモーナ/ウランゲリに次ぐ最高レベルでしょう。同園の改革、改良は札幌の市民の方々が担うべきことであり、私のような関東の人間が同園を批判することはしたくないというのが本心です。



デナリに邪魔されず寝ていたいララ (Mar.29 2014)

ララを追い詰めたデナリ (Mar.30 2014)

大阪・天王寺動物園ですが、まず①のゴーゴですが私の印象では五段階評価で4だろうと考えます。ゴーゴの母親はあの偉大なるアンデルマですのでゴーゴに繁殖能力が備わっていることは十分予想できたのですが若干気になる点もあるわけです。以前に何回か触れましたがゴーゴの二年上の姉のアイリシャは母親のアンデルマが母乳が出なくなって人工哺育に切り替えられたわけですが、その二年後に生まれたゴーゴの時はちゃんと母乳が出たとはいえ、実はゴーゴがなんとか成長できる最低レベル程度であり、やはり十分ではなかったのではないかという気がするのです。何故ゴーゴがバフィンの乳を求めたりしたのかということや、彼がなかなか一人前の男になるのに期間がかかったのかは、そのあたりに原因を求めたいという気がするのです。②についてですが、バフィンは繁殖(出産)能力はあっても実はその後の母性発揮への移行に非常に不安感があったわけで評価としては五段階で前者は3、後者は2ではないかという気がするのです。しかし私は彼女がモモの出産・育児に成功したのは、実は天王寺動物園の③に秘密があるような気がします。つまりバフィンは③が心地よかったために母性発揮への本能が働いたのだというのが私の憶測です。④については確かに素晴らしい方だと思いますし十分バフィンへの配慮ができていたでしょう。全体としてみれば天王寺動物園は①②③④の総合力で今回の繁殖に成功したと思います。比較的弱かった②を補ったのは③だったのではないかと思っています。ここで今から4年以上前の2012年1月19日の天王寺動物園でのゴーゴとバフィンの様子を御紹介しておきます。バフィンには発情の徴候が見られ始めたときだったはずですが、ゴーゴはまだこの時点ではバフィンを攻めきれないわけです。

バフィンに接近しようとして拒否されるものの、その後は一定の距離は保っているゴーゴ
接近には成功するものの、それ以上は踏み込めないゴーゴ
一定の距離を見計らっているゴーゴ

モスクワ動物園、ここは①のウランゲリが最高評価の5、②のシモーナは繁殖(出産)能力も5、母性発揮への本能も5ということで、これでもう勝負はついているわけです。さらに同園は④も素晴らしいわけです。③については見せてもらったことがありませんので私はわかりません。ともかく同園は①②だけで、もう圧勝なのです。

シモーナとウランゲリの秋まで続く同居(A) - Sep.20 2014
シモーナとウランゲリの秋まで続く同居(B) - Sep.20 2014

カザン市動物園ですが、現在①は不在ですが過去にはペルミアクとユーコンが飼育されていました。ペルミアクについては五段階評価で4、ユーコンについては彼はカザンでは飼育環境の悪さに影響されて健康面と精神面の不安が見られていたわけでペルミ時代の5ではなくカザンでは3だったと思います。②のマレイシュカは繁殖(出産)能力は5、母性発揮の本能も5の最高レベルだと思います。カザン市動物園があの劣悪な環境で何故あれだけの繁殖実績を誇るのかといえば、それは実は③に秘密があることは間違いないだろうと思うわけです。おそらく産室が雌にとって非常に心地よい場所なのではないでしょうか。④についてはぜいぜい普通レベルの3でしょう。つまりカザン市動物園は①はそこそこ合格のレベルで実際は②と③で勝負してきたということだろうと思います。アメリカのサン・ディエゴ動物園などホッキョクグマの繁殖についてはカザン市動物園の足元にも及ばないのです。

横浜・ズーラシアですが、まず肝心の①がダメです。五段階評価で1か、あるいはどんなに好意的に考えても1.5といった低レベルでしょう。なにしろ比較的若かったチロは繁殖に成功せず、出産経験のあったバリーバですら成功していません。ちょっと考えてみて下さい。物の道理としてペアが繁殖に成功しないときはその責任は雄に50%、雌に50%あるというのが大自然における神の摂理なのです。チロが繁殖に成功しなかった理由が雄にあった確率は50%、チロにあった確率も50%なのです。ところがチロの後継のバリーバは出産経験があって繁殖能力があったのです。そのバリーバと50%の繁殖不能の潜在責任を持っている雄が4回繁殖を試みて成功しないとなれば、雄の潜在的な繁殖不能責任は50%から限りなく100%に近づくのです。これが①がダメな理由です。①がダメだったらもう②以下を考えてみる必要などないというわけです。つまりツヨシに繁殖能力が備わっているかどうかなどは考える必要などないわけです。①がダメなら②③④では絶対にカバーできないのです。多分ズーラシアは③も④も最高レベルに近いかもしれませんが、それをもってしてもカバーできないわけです。どんなに飼育員さんが美人で優しくて気遣いのできる方であっても、そして我々が何日も夜を徹して千羽鶴を何羽も折っても①がダメなら全てダメなのです。

レネンのアウヴェハンス動物園ですが、①が以前のヴィクトルと現在のフェリックスも最高評価の5、②はフギースもフリーダムも最高評価の5です。これで簡単に勝負を決めてしまったわけです。

さて、問題の旭山動物園です。まず②のルルです。実は数年前に同園でうかがった話ではルルはホルモン値の変化は毎年見られるそうで出産の可能性に悲観的になる必要は全くないそうです(もちろん偽妊娠ということもあるわけですが)。それから、「双子姉妹の神話」というものの存在を忘れてはなりません。双子姉妹は一方が繁殖に成功してもう一方が成功しないという例は最近ではほとんどないわけです。 こう考えると私はルルは五段階評価で実は繁殖可能な普通の3のレベルではないかと憶測します。③については全くわかりません。④については多分最高レベルでしょう。そうなると問題は①、つまりイワンなのです。

私は今年の繁殖シーズンについては粘り強く旭山動物園に期待しておきたいと考えています。でも今年が本当に最後の期待だと思っています。それは私がイワンの母親であるシモーナに対する信頼感からなのです。イワンそれ自体というよりは、イワンの母親であるシモーナの力を最後まで信じたいと考えるからです。

瞑想するルル (Oct.11 2014)

瞑想するララ (Oct. 4 2014)

瞑想するシモーナ (Sep.20 2014)

ホッキョクグマの繁殖と言うのはオペラを例にとればヴァーグナーの作品ではなくヴェルディの作品なのです。ヴァーグナーの作品の場合は歌手が非力でも指揮者とオーケストラが優れていれば比較的優れた公演になるのです。ところがヴェルディの作品の場合は主役の歌手がダメならそれでもう全てダメなのです。ホッキョクグマの繁殖は、まず個体の問題なのです。個体(主役を歌う歌手)がダメならいくら飼育環境(指揮者とオーケストラ)を向上させても、それは動物福祉の面での向上にはつながりますが、繁殖の成功には無力なのです。ホッキョクグマの繁殖は個体の問題が重要なのです。そして第一にやはり雄(オス)がカギを握っているわけです。こんなことを書くとまた怒られますが、男鹿水族館のクルミはせいぜい平均レベルかそのちょっと下くらい、つまり五段階評価では3か2のレベルでしょう。しかしあそこが繁殖に成功したのは豪太に実力があったからです。19歳になるまで繁殖経験の皆無だった円山動物園のキャンディもせいぜいクルミと同じレベルでしょう。ところがデナリはキャンディを三回も出産させたわけです。デナリの繁殖能力がいかに最高のレベルであるかを証明しているわけです。雌(メス)がせいぜい普通程度の3のレベルでも雄(オス)が優れていれば繁殖に成功するわけです。ところが、ミレッラ・フレーニの歌う抜群のデズデーモナ、精緻であって輝かしい響きのベルリンフィルハーモニー管弦楽団、精妙かつスケールの大きなカラヤンの指揮、しかしそれらすべてをもってしても主役を歌うテノールのジョン・ヴィッカースのオテロ役の声の不安定さを補うわけにはいかないのです。つまり名演奏にはならないということです。

(*追記 - こういう言い方もできます。それは、①は英語と数学、②は国語です。①②が成績が良ければ全体の成績がよくなるのです。そして①と②についてどちらがより重要かとなればやはり①なのです。)

(資料)
Live Zoo In あさひやま (Mar.29 2016 - イワンとルルの同居開始

(過去関連投稿)
ルル、その剛直さ、朴訥さという「東北人」らしい性格の妙味 ~ 現実主義者ルルと理想主義者ララ
by polarbearmaniac | 2016-03-31 00:30 | Polarbearology

チェコ・ブルノ動物園のコーラ親子の映像を解釈する ~ 育児方法の転換が不十分なコーラお母さん

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Photo(C)Zoo Brno

チェコ・モラヴィア地方の都市であるブルノの動物園で昨年11月24日に誕生した赤ちゃんですが、昨年暮れに世界の動物園で誕生したホッキョクグマの赤ちゃんたちのなかで親子関係を観察するのには、このブルノ動物園の場合が私には最も興味深く思えます。今まで双子の育児経験しかないコーラお母さんなのですが今回の一頭の赤ちゃんに接する姿勢と態度には、今までと異なりやや不安定な様子が垣間見るような気がするわけです。まず同園が公開した最新の映像ですが、赤ちゃんはコーラお母さんと遊びたくてしょうがないのですが、コーラお母さんは居眠りをしたいようです。



この映像から読み取れることは、赤ちゃんの活動が活発な時にコーラお母さんがそれに合わせて活動量を増大させ、そして遊び疲れた赤ちゃんが昼寝を始める時に母親も一緒に休むといった親子の活動量の一致が見られないのではないかということです。こういう点については札幌のララというのは実に巧みなのです。あそこで見られるシーンというのは母親と赤ちゃんが一緒に何時間も昼寝をするというシーンです。つまり親子のエネルギーの発散の周期が一致しているということです。ところがこのブルノ動物園の親子はそこのところが一致していないように見えるわけです。私に言わせれば、コーラお母さんは今までの双子の育児方法からの転換がうまくいっていないように思うわけです。双子の場合ならば二頭で遊んでくれますので母親にとっては負担が減るわけですが、赤ちゃんが一頭の場合はやはり一緒に遊んでやらねばいけない場面もあるわけですが、コーラお母さんはそのタイミングがうまく掴めていないようです。

こうして考えてみますと、あの札幌のララの育児能力の高さというものがよく理解できます。子供たちと活動のエネルギーの周期を見事に一致させることができるのがララの高い育児能力を示しているわけです。ララは最初は一頭への育児(ツヨシ、ピリカ)から母親の道を歩み始めたわけですが、世界のホッキョクグマの母親は大部分がこのパターンです。一頭の育児はかなり手がかかるわけで、そこから学んだ経験はその後の母親としての子育てに非常に重要な経験として生きてくるわけで、この経験のもとでその後の双子の育児(ララの場合ならばイコロ/キロル、マルル/ポロロ)は、どこの部分は手を抜くことができるのかを把握すれば済む話なのです。ところが母親としてのキャリアのスタートを双子の育児から始めたコーラお母さんのような場合には、母親は二頭で遊んでいる双子の赤ちゃんに対しての注意力は必ずしも多くする必要はなく、比較的楽に育児が可能なのです(ただし授乳の面では双子に対するほうが体力が必要です)。その双子に対する育児の感覚で一頭の赤ちゃんの育児を行おうとすると今までより注意力が必要になるのですが、コーラお母さんはどうもその自覚がまだ十分ではないように思います。コーラお母さんは最初の育児も二度目の育児も、いずれも双子に対してであって、一頭への育児というのは今回が初体験なのです。だからなかなか育児姿勢の転換が難しいのかもしれません。このあたりがライブカメラの映像を見る上で興味のあるところなのです。

さて、次のシーンです。赤ちゃんは水に興味があって好奇心の塊といった状態になっています。コーラお母さんの姿に注目して下さい。



コーラお母さんは赤ちゃんが水に興味を持っていることにあまり関心がないようです。しかし私の見たところ、この赤ちゃんは少々危険な冒険を始めようという気配を感じます。母親はもっと赤ちゃんを注意して見守る姿勢が必要だと思います。コーラお母さんは双子が勝手に遊んでいるのだという感覚でたいして気に留めていないように見えますが、この赤ちゃんは遊び相手がいないので自分で勝手に冒険をしようとしているわけです。だからこそ注意が必要なのです。やはりコーラお母さんは子供が双子である感覚から転換し切っていないように思います。

さて次のシーンです。さすがに最初の部分でコーラお母さんは赤ちゃんの危険を察して注意しています。



でもその後はやはり赤ちゃんとは活動の周期が一致していないらしくコーラお母さんは居眠りがしたいようです。

ライブカメラの映像を見ているとこの他にもいろいろと興味深いシーンを見ることができます。コーラは母親としての素質は非常にあると思うのですが、やはりララと比較すると、まだまだだなという感じもします。「チェコのコーラ」と「世界のララ」「世界のシモーナ」との間にはまだ幾分差があるようです。

(*追記1 - 三つ子になりますとまた育児方法が違ってくるようです。私は2012年の春と秋にモスクワ動物園でシモーナの三つ子に対する育児を長い時間観察できたのですが、なんとシモーナは三つ子に対して双子への育児ではなく一頭への育児の姿勢で臨んだのです。つまり、三つ子のそれぞれに対して別個に細かく対応したのです。これには驚きました。こういうやり方を行うと母親には大変な負担がかかるわけですが、シモーナは見事に三頭それぞれに対して個別の対応を行ったわけでした。全くすごい育児能力だと私は驚嘆したわけです。世界の超トップクラスの母親になると、こういう神業のようなことが可能になるようです。)

(*追記2 - 世界のホッキョクグマ界の頂点に存在しているレニングラード動物園のウスラーダは、ララとは正反対のスタイルで育児を行います。ウスラーダは場面場面で常にエネルギーの発散量が一定しています。ララのように子供たちとエネルギーの発散に増減があって、その増減のサイクルを親子で一致させるということはしないわけです。ウスラーダは子供たちと一緒に昼寝するということがほとんどありません。ウスラーダは飼育展示場の空間を完全に支配し、そして子供たちを自分の外側にある客観的な存在ととらえて冷静に見守り子供たちを守るわけです。ララは自分の子供たちを自らの内側にある存在ととらえていますので、子供たちと一緒に遊んだり眠ったりと子供たちと一体感があるわけです。見ていておもしろいのはウスラーダ親子よりもララ親子です。しかしウスラーダ親子というのはある種の乾いた関係があり、そして母親は子供に対して絶対的な優位性を持つという厳しい関係も見えてくるわけで、こういった関係の親子の魅力に気が付くと実におもしろく観察できるわけです。ウスラーダ親子の魅力に気が付くには多くの時間と、そして観察する側の経験が必要になってくるわけです。その点で誰が見てもすぐに楽しめるララ親子とは違っているということです。)

(過去関連投稿)
チェコ・ブルノ動物園のコーラ、今年も出産なるか? ~ 産室の準備万端整えたブルノ動物園
チェコ・ブルノ動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ コーラお母さんが待望の出産
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃん、最初の関門を突破 ~ 屋外で出産していたコーラお母さん
チェコ・ブルノ動物園から遂に待望の産室内ライブ映像の24時間配信が開始!
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんの産室内映像ハイライト ~ コーラお母さんの手堅い育児
チェコ・ブルノ動物園の赤ちゃん、元気に間もなく生後二カ月へ ~ ライブ映像のみに託した情報発信
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんの近況 ~ コーラお母さんに少量の給餌が再開
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんが生後80日を無事経過
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんが突然短時間、戸外に姿を現す ~ 想定外の早さに驚く同園
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃん、明日3月18日より一般へのお披露目が同園より告知
チェコ・ブルノ動物園の赤ちゃん一般公開開始の様子がネットでライブ生中継
チェコ・ブルノ動物園のコーラ親子の一般への公開が開始となる ~ 深夜でも動き回る親子
チェコ・ブルノ動物園のコーラお母さんの育児スタイルに変化 ~ 経験よりも頭数が重要な要素か?
by polarbearmaniac | 2016-03-30 00:15 | Polarbearology

ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園が静岡・日本平動物園に突き付けた法外な条件

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ウスラーダお母さんとピョートル(ロッシー) 
Photo(C)Ленинградский зоопарк

いやはや、まったくレニングラード動物園は常識を外れた極めて高飛車な要求をしてきたものです。3月25日に行われた静岡市長の定例記者会見の内容が静岡市より公開されています。それを以下に要約します。

・3月31日にサンクトペテルブルク市の文化委員長とレニングラード動物園のスキーバ園長などが出席してホッキョクグマのピョートル(ロッシー)の貸与期間延長に関する合意書の調印式を行う。

・ピョートル(ロッシー)の貸与期間延長に関する合意書には、繁殖した子グマ5頭をレニングラード動物園側に引き渡した時点でロッシーの所有権を日本平動物園に譲渡するという内容が新たに盛り込まれることとなった。

こういうことです。欧米やロシアの動物園におけるホッキョクグマの貸与から所有権移転への移行についてこれほど奇想天外な条件を私は聞いたことがありません。完全に足元を見られてしまっていますね。「繁殖した子グマ5頭をレニングラード動物園側に引き渡した時点で...」という文言ですが、そもそもこれと当初の契約書の繁殖個体の所有権の帰属についての条項が抵触・矛盾しないかという重大な問題が真っ先にあるわけですが、とりあえずそういった契約条項の法的整合性の問題は脇に置いておき、「子グマ5頭を繁殖・成育させる」というのは繁殖が極めて難しい飼育下のホッキョクグマでは本当に容易ではありません。日本平動物園がピョートル(ロッシー)の所有権獲得に興味が無く、永遠にずっと不自由であるこのままの貸与でよいのだと考えているのだと理解するしかありません。そうでなければ実におかしな話になってしまいます。

何故レニングラード動物園がこのような新条件を合意契約書に盛り込むように要求してきたかについて私はその理由と背景がかなり理解できます。まず「ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の28歳のウスラーダ (Услада)、出産ならず」という投稿をご参照下さい。レニングラード動物園で飼育されている名実共に世界最高のペアであるウスラーダとメンシコフですが、もうこのペアの間に新しい個体が誕生することは無いだろうという見通しのもとで、レニングラード動物園はホッキョクグマの赤ちゃんを売却して利益を上げることができなくなったわけです。仮に繁殖に成功してもモスクワ動物園が盟主であるEARAZAの繁殖計画に組み入れられてしまい売却しても大きな利益にはならないわけですが、それでもないよりはましなのです。しかしピョートル(ロッシー)はロシア国外で飼育されているために、ピョートル(ロッシー)が繁殖に寄与した個体のうちレニングラード動物園が所有権を主張できるものに関しては有償売却が可能なのです。レニングラード動物園というのはロシアの動物園の中では入園料が最も高く、そして近年ではそれも毎年かなりの上昇を続けているのです。何故ならレニングラード動物園の財政は極めて厳しいために入園料を高く設定し、そしてそれをさらに毎年また上げていくということを行い続けているのです。レニングラード動物園はピョートル(ロッシー)が繁殖に寄与した個体を間違いなく自分たちが売却するという意図であることが今回の新設された条件でハッキリと読み取れるわけです。日本平動物園がいくら繁殖に努力しても日本のホッキョグマ界における頭数維持には相当長い期間に渡って何の寄与もできないということなのです。5頭の成育に成功しようとすれば平均的には連続して3~4回の出産・育児の成功が必要なのです。これができるのはヴァニラがシモーナ・ララ級のホッキョクグマであることが必要なのです。そもそも世界の繁殖現役世代の雌のホッキョクグマで5頭(以上)の繁殖・成育に成功したホッキョクグマを思いつくまま挙げれば、シモーナ、ムルマ、ララ、フギース、フリーダム、オリンカ、クリスタル、コーラといった有名で錚々たるメンバーのホッキョクグマだけのはずです。繁殖引退世代で存命しているホッキョクグマを挙げればアンデルマ、ウスラーダ、ヴィエナだけのはずです。こういった「入会」が「名球会」以上に難しいメンバーにヴァニラが加わるというのは常識的に考えても難しいです。ましてや強制離乳(あるいはひょっとして人工哺育)で育ったヴァニラにとっては酷な話なのです。
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ウスラーダお母さんとピョートル(ロッシー)、そしてクラーシン(カイ - 現ノヴォシビルスク動物園、大阪のシルカの父)
Photo(C)Ленинградский зоопарк

私は以前にも述べていますが、日本平動物園で繁殖に成功して成育した個体(その最初の5頭)のほとんどは中国に売却されるでしょう。何故ならウスラーダの息子であるピョートル(ロッシー)の血の入った個体を購入しようとするロシアの動物園などなく、そして欧州の動物園も購入しないでしょう。となれば日本のどこかの動物園がその個体をレニングラード動物園から購入する可能性があるかといえば金額面で中国に負けることは必至ですので無理でしょう。つまり、日本平動物園で生まれ育ったた赤ちゃんは次から次へと羽田から中国へと送られ、そしてその後にどうなるのかについてはブラックホールに入ってしまったような問題になるのです。中国の動物園は最近ロシアの動物園からホッキョクグマを購入しようにも、モスクワ動物園がEARAZAの繁殖計画の名目でそのロシアで生まれた個体のパートナーがいることを移動・売却の条件にし始めたために、そういった個体を用意できない中国の動物園はロシアからのホッキョクグマ購入の道を閉ざされつつあるのです(天王寺動物園はゴーゴがいたからシルカの入手ができたのです)。ところがレニングラード動物園が権利を持つピョートル(ロッシー)が繁殖に寄与した個体はロシア国外にいるわけですからEARAZAの繁殖計画を名目に購入希望個体のパートナーの存在の有無を問われることはないのです。つまり中国の動物園にとっては日本平動物園で生まれ成育した個体は金さえあればレニングラード動物園から購入できることになり、まさに絶好のターゲットなのです。レニングラード動物園は本当に日本平動物園で生まれた赤ちゃんを5頭まで根こそぎ自分のものにして売却しようという意図がこれでハッキリと明らかになったわけです。「ピョートル(ロッシー)の貸与期間延長のお願いに静岡市長がわざわざサンクトぺテルブルクに来たくらいだから日本平動物園は貸与期間延長どころか本当はピョートル(ロッシー)の所有権が欲しのだろう。そしてそのためだったら5頭を本当に繁殖・成育させようと必死になるだろう。そういうエサをぶら下げれば必ずこちらの条件は飲む」というのがレニングラード動物園の考え方なのです。それから、「子グマ5頭をレニングラード動物園側に引き渡した時点でロッシーの所有権を日本平動物園に譲渡する」そうですが、実質的には5頭の幼年個体とピョートル(ロッシー)1頭との交換ということと結果的には同じ意味なわけです。ひどくバランスの取れない条件です。レニングラード動物園はもう滅茶苦茶なほど高飛車な態度だと言えます。イジェフスク動物園のペアであるノルドとドゥムカの権利はいずれもイジェフスク動物園が有していないわけで、この二頭の間で繁殖に成功した個体の権利は全てモスクワ動物園に帰属することはおかしくないわけです。ムィコラーイウ動物園のジフィルカとナヌクのペアの権利についてもムィコラーイウ動物園が有しているわけではないのでこのペアの間で繁殖した個体の権利の全てがモスクワ動物園に帰属するのは不思議ではありません。ところが、日本平動物園のペアの片方のヴァニラの権利は日本平動物園にあるわけですから、ペアのもう一方であるピョートル(ロッシー)とヴァニラとの間での繁殖の成果を5頭まで全てレニングラード動物園に引き渡すことをピョートル(ロッシー)の所有権移転の条件にするのは全く理解不能です。
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ウスラーダお母さんとピョートルとクラーシン
Photo(C)Photo(C)Ленинградский зоопарк

私が日本平動物園だったらこのようなレニングラード動物園の新たな条件追加の要求は絶対に承諾しませんね。「そのような条件は受け入れられません。どうしても受け入れろと言うならばピョートル(ロッシー)はそちらにお返しします。」と強気で返事しますね。そしてピョートル(ロッシー)の代わりに、札幌市と交渉してキロルを入手してヴァニラのパートナーにしようと考えます。なにしろキロルは浜松での立場が微妙になっているわけです。バフィン親子の浜松への帰還に合わせてキロルを静岡に移動させて札幌市との間でキロルのBL契約の締結を狙います。それはまさにイコロの所有権が札幌市に残ったままでイコロがBL契約で上野に長期出張してきているのと同じ形を狙うわけです。「キロル/ヴァニラ」の組み合わせは「ピョートル(ロッシー)/ヴァニラ」の組み合わせよりも血統的に数段優るのです。何故ならキロルとヴァニラとの間には血縁関係は全く無いからです。

さて、日本平動物園はこうやってキロル入手のシナリオを前もって用意しておいて、とりあえず日本平動物園はレニングラード動物園の突き付けてきた条件を強く拒否すればレニングラード動物園は必ず折れるのは間違いないのです。以前にロシア国内の情勢については「静岡・日本平動物園のピョートル(ロッシー)、貸与期間10年延長へ ~「塩漬け状態」の日本永住へ 」という投稿で述べた通りなのです。実は弱い立場にあるのはレニングラード動物園であって日本平動物園ではないのです。日本平動物園はレニングラード動物園が語るままの諸々のストーリーを最初から信じ切っているようですが、実は全く違うのです。ロシアの動物園の(ホッキョクグマ)事情などピョートル(ロッシー)入手当時は誰も知っている人などいなかったのでしょう。本当に残念な話です。今回の件は静岡市長がもう決裁していますので、もうどうにもなりません。

ロシアという国、そしてロシアの企業とビジネスを行うのは実に大変なのです。こちらが一度でも低姿勢に出ると(つまり昨年静岡市長がわざわざレニングラード動物園に契約の延長を頼みに行った)、そこを容赦なく付け込んで(つまり今回のレニングラード動物園の条件追加)くるわけです。ロシア人というのは個人としては付き合いやすいし善良で情が厚く実に素晴らしい人たちが多いです。しかしビジネスや交渉事となると、本当にしたたかで手強いのです。

(*後記 - 3月31日のニュースです。)



(資料)
静岡市(市長定例記者会見(平成28年3月25日)- ロシアレニングラード動物園と貸与期間延長に係る合意書の調印式 ロシアレニングラード動物園と貸与期間延長に係る合意書の調印式)
静岡新聞(Mar.26 2016 - ロッシーの貸与期間延長へ 静岡市、ロシアと調印式

(過去関連投稿)
静岡・日本平動物園のピョートル(ロッシー)、貸与期間10年延長へ ~「塩漬け状態」の日本永住へ
静岡・日本平動物園のヴァニラの出産とその後 ~ 想定外の「突発事故」
by polarbearmaniac | 2016-03-29 00:15 | Polarbearology

ロシア・ノヴォシビルスク動物園の赤ちゃんの命名への同園の迷い ~ シルカ同様の過熱を恐れる同園

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Photo(C)Денис Шумаков

昨年12月7日にロシアのノヴォシビルスク動物園でゲルダお母さんから誕生した雌(メス)の赤ちゃんですが、まだ名前が付いていません。報道によりますとノヴォシビルスク動物園の広報担当の責任者はこの赤ちゃんの名前を早く決めたいとは思っているものの、前回のシルカの時のように果たして公募で赤ちゃんの名前を決めるべきかについて迷いを感じているそうです。実は前回のシルカの名前の公募は市民の間で非常に盛り上がったわけで、今回も前回のシルカの時同様に名前を公募すると、それが非常に過熱してしまい、そして前回の時のようにまたこの赤ちゃんがノヴォシビルスク動物園を離れる際に強い反発を招くようなことが再燃することを恐れているようです。
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Photo(C)Денис Шумаков

ノヴォシビルスクの地元ではSNSサイトですでにこの赤ちゃんの名前の候補の試案がいつくか出ています。"Эльза"(エリザ)"Льдинка"(リディンカ)"Снежинка"(スネジンカ)、などという案が出ているのですが、もう一つこれはこの赤ちゃんの両親であるゲルダ(Герда)とカイ(Кай - クラーシン)との名前の両方を部分的にとって "Герка"(ゲルカ)という案も出ています。実はこの両親の名前の一部をとってくっつけて赤ちゃんの名前にするというのはロシアの動物園ではよく行われており、そういった意味では "Герка"(ゲルカ)という名前の試案は一理あるかもしれません。あのカザン市動物園で2012年に誕生した個体で、母親であるマレイシュカ(Малышка)と父親であるユーコン(Юкон)の名前を部分的にとって付けられた名前がユムカ(Юмка)であったことは記憶に残っています。このユムカは生後1年に満たないうちにペルミ動物園に移動したわけですが、ペルミ動物園は無残にもこのユムカという名前を彼女が同園に到着直後にミルカ(Милка)に改名してしまったのには私は非常に残念に思っています。

動物たちには名前を付けるという感覚は日本人よりもロシア人に非常に強いわけですが、アメリカ人はロシア人以上にこの名前というものにこだわります。アメリカ人は動物園で動物たちに会って親近感を持った時には動物たちに直接、"Hello! How are you! What's your name?" と名前を尋ねるほどです。ロシア人の場合はその名前をさらに親しみを込めて愛称で呼ぶ傾向が極めて強いですね。シルカ(Шилка)についてはシーロチカ(Шилочка)という愛称がよく使われます。
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Photo(C)Денис Шумаков

さて、ノヴォシビルスク動物園は今回の赤ちゃんの名前を前回同様公募するでしょうか。私は公募すべきだと思います。同園は少し神経質すぎるのではないでしょうか。前回あれだけ市民の間でシルカのノヴォシビルスク残留への署名活動が起こったのは、同園が行った、それ以前からのいくつもの無神経なやり方によって市民の神経を逆撫でし、そしてそれによって市民の大きな反発を招いてしまったからです。赤ちゃんの名前の公募の是非とは無関係な話なのです。ノヴォシビルスク動物園はまだ前回のシルカの件が引き起こしたものについて正しい教訓を得ていないように私には感じられます。

さて、ここで先週末のこの赤ちゃんとゲルダお母さんの様子を伝える映像をいくつかご紹介しておきましょう。









(資料)
НГС.НОВОСТИ (Mar.28 2016 - Как тебя зовут, мимимишка?)
Вести Новосибирск (Mar.28 2016 - Новосибирский зоопарк будет работать на час дольше)

(過去関連投稿)
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ロシア・ノヴォシビルスク動物園の赤ちゃんの登場を待つ人々 ~ その時を親子の意思に委ねる度量
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ロシア・ノヴォシビルスク動物園、ゲルダ親子の「国際ホッキョクグマの日」
ロシア・ノヴォシビルスク動物園で誕生の赤ちゃんの「国際ホッキョクグマの日」の映像を追加
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ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園の赤ちゃん、生後100日を超える
ロシア・ノヴォシビルスク動物園の赤ちゃんは雌(メス)と判明 ~ 赤ちゃんはシルカの妹だった!
by polarbearmaniac | 2016-03-28 21:00 | Polarbearology

ロシアのホッキョクグマ生息数未調査地域への調査進行中 ~ 世界推定生息数約2万5千頭が上方修正必至の情勢

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バフィンとモモ(2015年3月10日 一般公開初日の撮影)

全地球上でホッキョクグマがいったい何頭生息しているかについては実はそれほど精度の高くない推定値しか存在していないという点については以前にも投稿していま。この点については「ロシアでのホッキョクグマ生息数未調査地域で研究者チームが本格的に生態・生息数調査を開始する」という投稿を是非ご参照頂きたいのですが、要するに世界のホッキョクグマの生息地で近年まで生息数調査が極めて不十分だった5つの地域のうち3地域までがロシア領、またはロシア領海内であり、この地域でのホッキョクグマの頭数調査を急ごうということが2013年12月のモスクワでの「ホッキョクグマ保護国際フォーラム」によって方針が打ち出されたわけです。3地域とはチュクチ海カラ海ラプテフ海の三地域であり、それにバレンツ海地域をさらに加え、ロシアにおける野生のホッキョクグマ生息数の精度の高い数字を出そうということです。
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さて、こういったことで調査が行われてきたわけですがラプテフ海地域の調査結果については「ロシア極北・サハ共和国のラプテフ海地域のホッキョクグマ生息数調査 ~ 頭数減少傾向が明らかとなる」という投稿を御参照下さい。バレンツ海地域についてはロシアとノルウェーとの共同調査が2015年に予定されていたわけですがウクライナ問題、クリミア問題などでロシアとNATOとの間の関係の冷却化によってロシア側がノルウェーのスタッフのロシア領海内への立ち入りに難色を示したといった経緯から、予定されていた2015年のロシアとノルウェーとの共同調査はロシア領海内以外での地域に限定されてしまった状況です。今年2016年にこれがロシア領海内まで拡大できるかについては、はっきりとは言えない状態になっているわけです。
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カラ海地域については2014年に初めての科学的調査が行われたのですが実に驚くべきことに、この調査の結果によるロシア科学アカデミーの正式報告書 ("Assessment of the Amount of Polar Bears (Ursus maritimus on the Basis of Perennial Vessel Counts" 2014) では生息数は約3200頭という、実は今まで想像していたよりもはるかに多くの頭数が生息していることが示されているわけです(当初の予想では確かこの地域では800頭~1000頭だったはずです)。ホッキョクグマの生息数の多いチャーチルのあるカナダのハドソン湾西岸地域とさほど変わらない頭数であったということです。
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モモ(2015年3月10日 一般公開初日の撮影)

さて、残るはチュクチ海地域なのですが、これはアラスカが含まれており今までアメリカの研究者はアラスカとその領海についてはデータを収集済みなのですが、今回ロシアはアメリカの研究者を入れて共同で今年の2016年から2018年までの三年間に行われることが発表されています。現時点ではこういった状況ですが、このロシアにおけるホッキョクグマの生息数調査が行われる前に推定されていた地球上でのホッキョクグマの生息数である約25000頭という数字は、最終的には上方修正されることは必至の情勢のようです。その理由はなんといってもカラ海地域のホッキョクグマの生息数が予想をはるかに上回る頭数であったということが理由になるでしょう。ロシア極北の全地域のホッキョクグマ生息数調査が終了する2018~2019年にロシア政府はその調査報告書を正式な形で「国際自然保護連合」 (International Union for Conservation of Nature and Natural Resources - IUCN) の「種の保存委員会」(Species Survival Commission - SSC) の「ホッキョクグマ専門家グループ」 (IUCN/SSC Polar Bear Specialist Group) に提出することとなると思いますが、その結果を踏まえてIUCN/SSCは世界のホッキョクグマの生息数を現在の約25000頭から、上方修正して約27000~28000頭、場合によっては約30000頭近い数字にまで変更する可能性が非常に大きくなったということです。まさに「嬉しい誤算」と言えるでしょう。
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Polar Bear Population Status Map 2014 (by IUCN)

さて、上は2014年におけるホッキョクグマの各生息地における増減傾向を示しています。赤は減少(Declining)、黄色は安定(Stable)、緑は増加(Increasing)、そして灰色は不明、つまりデータ不足(Data deficient)の地域を示しています。上のロシアの調査地域は全て「不明 - データ不足」に該当する地域なのですが、このカラ海地域(つまりKS)のホッキョクグマの増減傾向を知ることが世界規模でのホッキョクグマの生息数の増減を判断する重要な地域として大きく浮上してきたということを意味するわけです。今まで生息数未調査地域であったカラ海地域のホッキョクグマ生息数が事前の予想をはるかに大きく上回る結果となったために、この地域における頭数増減の傾向が地球規模におけるホッキョクグマの生息数増減に大きな影響を及ぼすこととなったわけです。そしてそのカラ海地域の生息数がやっとかなりの精度で判明したにすぎない現時点では、現在に至るまでのこの地域の生息数増減については今後でなければ把握することができないということを意味するわけです。ということが何を意味するかと言いますと、現時点においては「近年ホッキョクグマの生息数は減少し続けている」というテーゼを証明する証拠はないのだということです。減少しているという証拠がないのだから減少していないのだと言い切る根拠も勿論ないわけです。こういった生息数評価に興味のある方は以前の投稿である「カナダ北部、ヌナブト準州の村落近くでホッキョクグマ親子3頭が射殺される ~ 経験と科学の相克」、「ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来..」を御参照下さい。旭山動物園がホッキョクグマのもぐもぐタイムの時に飼育員さんが数年来「ホッキョクグマの数は減り続けている」と、いつも説明していますが、その科学的証拠は全くないものの、私は一般の来園者への説明としてはそれでいいと思っています。ホッキョクグマの未来(後述)は実は今まで言われている悲観的予想以上に極めて厳しいわけで、そういったことに危機感を持ってもらうためには「減り続けている」という便宜的な説明でよいと考えますし、そうしておくべきなのです。
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モモ(2015年3月10日 一般公開初日の撮影)

固い話になってしまいました、ここでロシア極北地域におけるホッキョクグマたちのシーンを二つご紹介しておきます。彼らはこうやってやはり食べ物を求めて人間の活動している場所近くに現れてきている傾向がここ数年非常に多くなっていることは間違いないということです。


ロシア・チュクチ半島のホッキョクグマ親子



ロシア・カラ海沿岸地域でのホッキョクグマ親子


要するに、「ホッキョクグマの生息数は近年非常に減少している」ということを地球規模で言い切るだけの科学的根拠は現時点では全くないということです。私個人の考えですが、実は彼らは近年に至っても地球規模での生息数では安定していたというのが真相だろうと思います。チャーチルのあるハドソン湾西岸地区ばかりを注目してその地域を調査・観察の対象にし、そしてその地域における短期的な小さな時間スパンでの減少をあたかもホッキョクグマ全体の減少の推定に直結させる傾向に問題があったと思うわけです。名の通った欧米の一流のマスコミですらこのことをわかっていないものが数社もあるわけです。世界規模で言えば生息数の安定している地域のほうが多いのです。それから今度また調査の入るチュクチ海ですが、ここは海氷面積が減少してもホッキョクグマの生息数は安定しているわけです。この件については「温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎 」という投稿をご参照下さい。それから、人によっては「ホッキョクグマは食べ物を求めて南下し、グリズリーと混血・共存して生き残る」などという意見を言う人がいますが、それは全くの間違いです。アメリカの地質調査所(USGS - United States Geological Survey)が遺伝子調査を行い調査結果としてホッキョクグマは集団レベルで北に移動しているということが証明されているわけです。これについては「近年の海氷面積減少によりホッキョクグマの集団レベルでの北極点方向への移動傾向が明らかになる」という投稿を御参照下さい。
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バフィンとモモ(2015年3月10日 一般公開初日の撮影)

現時点に至るまで彼らホッキョクグマは温暖化の進行にもかかわらず、ほとんど生息数を減少させた形跡もなく、よくぞしぶとく頑張ってきたと思います。それももうしばらくして続かなくなるでしょう。彼らホッキョクグマの将来については、昨年「アメリカ地質調査所(USGS)の報告書が語るホッキョクグマの将来 ~ 彼らへの挽歌」という投稿で述べた通りに、まさに悪夢の世界でしかないということです。私はこのUSGSの報告書の内容を読んで、一時期ホッキョクグマファンになったことを大きく後悔してしまったほどです。彼らの未来は壊滅的だということなのです。

(資料)
EuroActiv.com (Aug.25 2015 - Polar bears suffer from cooling of Russia-NATO relations)
"Assessment of the amount of polar bears (Ursus maritimus) on the basis of perennial vessel counts" (by Matishov, G.G., Chelintsev, N.G., Goryaev, Yu. I., Makarevich, P.R. and Ishkulov, D.G. 2014) (*Pdf)
Arctic Report Card (Polar Bears: Status, Trends and New Knowledge)
РИА Новости (Mar.25 2016 - Россия и США проведут изучение белых медведей на Чукотке и Аляске)
IUCN/SSC Polar Bear Specialist Group
(The official website for the Polar Bear Specialist Group of the IUCN Species Survival Commission) 
(PBSG global population estimates explained)
(Global polar bear population estimates)
(Summary of polar bear population status per 2013)
(The status table) (PDF 114.5 kB)
Polar Bears International
(Polar Bear Status Report)
(Are polar bear populations increasing: in fact, booming ?)
U.S. Geological Survey (USGS)
(Polar Bear Research)
(New Polar Bear Finding)

(過去関連投稿)
温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎
近年の海氷面積減少によりホッキョクグマの集団レベルでの北極点方向への移動傾向が明らかになる
カナダ北部、ヌナブト準州の村落近くでホッキョクグマ親子3頭が射殺される ~ 経験と科学の相克
ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来..
モスクワで「ホッキョクグマ保護国際フォーラム」が開催 ~ 保護協定締結40周年と今後の行動方針に向けて
ロシアでのホッキョクグマ生息数未調査地域で研究者チームが本格的に生態・生息数調査を開始する
ロシア極北・サハ共和国のラプテフ海地域のホッキョクグマ生息数調査 ~ 頭数減少傾向が明らかとなる
by polarbearmaniac | 2016-03-27 23:45 | Polarbearology

チェコ・ブルノ動物園のコーラお母さんの育児スタイルに変化 ~ 経験よりも頭数が重要な要素か?

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Photo(C)Zoo Brno

昨年11月24日にチェコ・ブルノ動物園で誕生した赤ちゃんとコーラお母さんの姿は同園が配信しているライブ映像をモニターカメラで見ることができることはご紹介していますが、私も最近はこの親子の姿を観察するようにしています。気が付いたことなのですが、このコーラお母さんは以前と比較してやや育児スタイルに変化が生じているような気がしているわけで、それをうまく掴み取ろうと努めているわけですが、なかなかうまく表現できずに苦労しています。

このコーラお母さんの最初の育児は2007年11月に産んだトムとビルの雄の双子、二度目は2012年11月に産んだコメタとナヌクの雌と雄の双子だったわけで、今回は三回目の育児となるわけです。前回のコメタとナヌクの双子についてはやはりモニターカメラでのライブ映像が配信されていたわけですが、その時に見たコーラお母さんの子供たちへの接し方と今回はやや違いがあるように見えます。通常ホッキョクグマの母親の最初の育児は一頭である場合が圧倒的に多いわけで、そういった場合に大多数の母親は子供に対して相対的に「関与的」なスタイルをとり(クルミは全くの例外でしたが)、二回目以降の育児で双子に接するときは幾分「非関与的」なスタイルへと軸足を移動させる場合が多いわけです。ただし育児経験の豊かな母親の場合は一頭でも「非関与的」な要素の強いスタイルを見せることがあるわけで(たとえばウスラーダ)、このあたりは微妙なところです。



このコーラお母さんというのは今まで双子の育児しか経験がないわけで、一頭の赤ちゃんに対する接し方というものがどういったものになるかの予想が難しかかったわけですが、前回のコメタとナヌクの双子に対する接し方よりも今回の赤ちゃんに対する接し方のほうが「関与性」が幾分強く出てきているというのが非常に興味深く感じられるわけです。つまりホッキョクグマの母親は育児経験の回数よりも育児対象である子供の頭数によって関与性が定まってくるという理解のほうが正しいだろうと思い始めています。ただしこれは現時点ではまだ仮説の段階で、一つの説として提示できるほどまで私自身が自信を持っているとは言えない状態です。今回のコーラお母さんの育児は観察の価値が前回よりも高いということだけは間違いなく言えそうです。

私にとってホッキョクグマの母親の育児スタイルの研究はライフワークのようなものになっていますので、これは時間をかけて取り組んでいこうと思っています。

コーラ親子の一般公開開始から現時点までの間に撮影された映像をいくつかご紹介しておきます。これらの映像の内容ではコーラお母さんの育児スタイルの変化といったものは読み取るには不十分に感じます。やはりモニターカメラのライブ映像を根気強く見ていくしかないように思っています。







(過去関連投稿)
チェコ・ブルノ動物園のコーラ、今年も出産なるか? ~ 産室の準備万端整えたブルノ動物園
チェコ・ブルノ動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ コーラお母さんが待望の出産
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃん、最初の関門を突破 ~ 屋外で出産していたコーラお母さん
チェコ・ブルノ動物園から遂に待望の産室内ライブ映像の24時間配信が開始!
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんの産室内映像ハイライト ~ コーラお母さんの手堅い育児
チェコ・ブルノ動物園の赤ちゃん、元気に間もなく生後二カ月へ ~ ライブ映像のみに託した情報発信
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんの近況 ~ コーラお母さんに少量の給餌が再開
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんが生後80日を無事経過
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんが突然短時間、戸外に姿を現す ~ 想定外の早さに驚く同園
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃん、明日3月18日より一般へのお披露目が同園より告知
チェコ・ブルノ動物園の赤ちゃん一般公開開始の様子がネットでライブ生中継
チェコ・ブルノ動物園のコーラ親子の一般への公開が開始となる ~ 深夜でも動き回る親子
by polarbearmaniac | 2016-03-26 07:00 | Polarbearology

「2015年3月25日、忘れもしない日.....」

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シルカ(2014年9月11日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

Белую медведицу Шилку посадили на самолет
до Москвы (Mar.25 2015) - 「シルカの旅立ち」


ノヴォシビルスクのシルカのファンの方々が一年前のこの日を回顧して深い感慨に耽っていらっしゃいます。まさに「忘れもしない日」だったわけです。今でも深い悲しみを忘れない方が多くいらっしゃいます。心より深く共感します。
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シルカ(2014年9月11日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

(資料)
Комсомольская правда (Mar.25 2015 - В Японии заявили, что белая медведица Шилка покинет Новосибирск до 28 марта) (Mar.24 2015 - В Японии заявили, что белая медведица Шилка покинет Новосибирск до 28 марта)

(過去関連投稿)
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカがノヴォシビルスクを出発し空路モスクワへ ~ 日本への旅立ち
by polarbearmaniac | 2016-03-25 23:30 | Polarbearology

日本のホッキョクグマ界、しばし波風の立たぬ安定の「無風状態」へ ~ "Dona nobis pacem."

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ララとリラ(2015年10月25日撮影 於 札幌・円山動物園)

最近の動物園から発信されている情報のうちホッキョクグマに関して若干の印象を述べておきます。まず札幌・円山動物園なのですが最近は私もHPなど見なくなっていたわけですが先日の20日に「ホッキョクグマ・アザラシ館の工事がスタートしています」というニュースが掲載されているのに気が付きました。内容はホッキョクグマ・アザラシ館の工事が平成29年中に行われるためにホッキョクグマのペアリングは行わないためにララとリラの同居が継続されるという点です。これはまあ聞いていた話ですから何の驚きもありません。ララの育児2年目というのは初めてのことだと思いますが、しかし最初の年と異なる場所に入れられているなど環境が大きく異なるために一年目の延長としての二年目については継続的な観察の対象にはなりにくいでしょう。生活空間などの条件があまりに違うからです。それから、「次年以降の繁殖については未定です。」と述べられているのは円山動物園全体としてのホッキョクグマの繁殖スケジュールを現時点で述べるのは時期尚早であるという意味だと思われます。ララについては引き続いて来年以降の繁殖への挑戦はあるでしょうがララ以外の個体についての繁殖への取り組みについては未定であるという意味だろうと思います。

旭川のイワンとピリカの同居も多分3月一杯で終わるだろうと予想します。そうしませんとイワンとサツキ、ルルとの間のペアリングに時間的な十分な余裕を持てなくなるからです。
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ジャンブイ(2014年8月24日撮影 於 ズーラシア)

横浜のズーラシアですが3月18日付けでHPで「3月20日(日)以降、ホッキョクグマの展示個体は不定期となります。ご了承ください。」と述べられています。これはツヨシを飼育展示場に慣らして状態を観察したいので、何曜日にどの個体を飼育展示場に出すかについてはフリーハンドの状態を保ちたいという意図でしょう。まあこれは当然でしょうね。何曜日にどの個体を飼育展示場に出すかなどを現時点で決めてしまえば手足を縛られてしまうという判断でしょう。TVK(テレビ神奈川)は3月19日のツヨシ一般公開開始のニュース映像の中で「ツヨシの繁殖は早くても来年以降となる予定です」と述べています。記者が繁殖について勝手に作文できるとは思えませんのでこれはズーラシアからこの日に得た情報をそのまま語っているのでしょう。ですからツヨシの繁殖への挑戦は今年はないということです。ということは今年はツヨシとジャンブイとの同居は、仮にあったとしても11~12月以降だろうと思います。もともと2月中旬の東京新聞の報道でも同じ内容でしたから、ズーラシアの繁殖スケジュールについての姿勢は一貫しているということです。振り返ってみれば、ズーラシアは今年に入ってからはホッキョクグマに関しては全てそういうスケジュールで物事を運んできたわけです。仮にズーラシアがそれとは異なる見解(つまり「今年からの繁殖も視野に入れている」云々)を示したとしても、それはあくまでその場での表向きの話としてだろうと思います。

旭川も男鹿も仙台も静岡も白浜も姫路も(八景島、そしてひょっとしておそらく上野も)、繁殖成功に向けて物事がそれぞれがいつものスケジュールで進行し、そして11~12月の「審判の季節」を迎えることになるでしょう。

大阪のバフィンも状態が好転してきているようで本当によかったと思います。ということで、日本のホッキョクグマ界は今年の年末の出産シーズンまで波風の立たない安定の「無風状態」がしばらく続きそうです。欧米とロシアのホッキョクグマ界に眼を向け、そして実際に出かけていくにはよい年なのかもしれません。

(資料)
札幌市・円山動物園(Mar.20 2016 - ホッキョクグマ・アザラシ館の工事がスタートしています
よこはま動物園ズーラシア(Mar.18 2016 - ホッキョクグマの展示について
tvk(テレビ神奈川) News (Mar.19 2016 - ホッキョクグマ「ツヨシ」一般公開始まる
by polarbearmaniac | 2016-03-25 00:15 | Polarbearology

ロシア橋北地域で働く人々とホッキョクグマの不思議な関係 ~ 「蜂蜜(мёд)を食べるお方」への敬意

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Photo : AcidCow

ロシア人にとって「熊」というのは我々とは全く異なる感覚があるようです。ロシア語の「熊」(медведь メドヴェーチ)というのは「蜂蜜 мёд を食べるお方 поедатель」という意味から来ているそうで、キリスト教が伝来する以前にロシアの自然宗教で熊は神だったという文化的背景があるそうです。この場合の「熊」とは本来はホッキョクグマを指しているものではなかったはずですが、ロシア人が極北の地域に進出してホッキョクグマたちと遭遇しても、やはりホッキョクグマに対しては通常の「熊」に対するものと同じ感覚を抱いているらしいことの理由にはこうした文化的・宗教的な伝統に基づくものだと考えてよいでしょう。なるほど、ロシア語でホッキョクグマのことを "Белый медведь(ベルィ・メドヴェーチ - 「白いクマ」)" と言いますが "Полярный медведь(パリャールヌィ・メドヴェーチ - 「北極のクマ」)" という言い方は滅多にしませんね。つまりこれは「蜂蜜を食べる白いお方」という歴史的・文化的理解を背景にした観念が根底にあるからなのでしょう(もちろん野生のホッキョクグマが蜂蜜を食べる情景は想像しにくいですが)。文化的・歴史的・言語的な背景でホッキョクグマを "Белый медведь(白いクマ)" というわけです。一方で科学的(生物学的)概念では "Полярный медведь(北極のクマ)" という言い方になるわけですが、これはロシア人が本来歴史的に持っている「熊」に対する敬意が出てこないわけで、あまりこの言い方は用いられないというわけなのでしょう。 さて、この下の映像は帝政ロシア時代の1912年から1914年まで行われた北極海探検の映像です。この映像の開始後1分20秒後あたりから以降をご覧ください。



上の映像のような感覚をロシア人は遭遇したホッキョクグマに対して抱いていたということです。その後の革命以降のソ連時代についても全く同様であり、以前の「ロシア極北・ネネツ自治管区のアンデルマの街とホッキョクグマたち ~ 人に身近な存在のホッキョクグマ」という投稿をご参照頂きたいのですが通常の感覚では理解しにくい住民たちとホッキョクグマとの関係を示す何枚かの写真をご紹介しています。
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Photo : AcidCow

さて次に、ごく最近公開された映像ですが、まずこれはロシア・ヤマロネネツ自治管区のナディム(Надым)という町の採掘所で働いている人々が現れたホッキョクグマの双子に食べ物を与えているシーンです。映像には映ってはいないものの実は母親も近くにいたそうで、この双子の様子を観察していたそうです。下をワンクリックして下さい。
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上の映像のようなシーンはまずカナダでは見ることができません。野性のホッキョクグマに食べ物を与えることの是非は脇に置いておき、ここで働く人々にとってはホッキョクグマが現れればこうした行動を行うことに全く疑問を持っている様子がありません。

最近ロシアでいくつか話題となったホッキョクグマに危害を与えようとした行動や、ホッキョクグマの密猟といった問題はあるにせよ、ロシア人のホッキョクグマに対する感じ方、接し方には他の国の人々とはかなり異なるものがあることは間違いないでしょう。ノヴォシビルスク動物園で来園者がホッキョクグマに食べ物を投げ入れるといった行動には、どこかでこのロシア人の「熊」というものに対する考え方の背景に存在している過去の文化的・歴史的な認識の一部が関係しているのかもしれません。私にはあれは単純にマナーの問題であると簡単には言い切れない何かの要素があると感じています。本来は投げ与える行為は全て禁止しなければいけないものを、動物園公認のものならばよいのだという発想の根底には、「与える行為」それ自体を否定しない考え方があるわけです。あそこには屈強のガードマンがいつも3~4人配置されていて来園者の行為に目を光らせています。仮に来園者が動物園公認以外のものをホッキョクグマに投げ与えたときのガードマンの注意の言葉は動物園という場所にはふさわしくないほどの拡声器を使用した実に乱暴で威嚇的・威圧的なものです。ところが、動物園公認のものを投げ与えるのは当然何も注意しないわけです。動物園側があれだけガードマンを配置させるのならば、最初から食べ物の投げ入れそれ自体をガードマンに厳しく注意させればよいものを、公認のものならばよいのだというのは不思議な話です。つまりあのノヴォシビルスク動物園のホッキョクグマ飼育展示場での「食べ物投げ入れ」は「投げ入れ行為」自体を是とする歴史的・文化的背景が根底にあるとしか私には解釈できません。つまりあの行為は、「蜂蜜を食べる白いお方」に対する敬意の表現である....そういう解釈がひょとして正しいのかもしれません。

(*追記)余談になるのですが、私が一昨年9月にノヴォシビルスク動物園に三日間通ったのですが最初の日は平日で小雨が降っていて肌寒い日でした。そんな日には動物園を訪れる人は非常に少なかったわけです。その日に私はゲルダお母さんとシルカとの初対面をしたのですが、ゲルダお母さんもシルカも最初の30分ほどはずっと私の顔ばかり見ているのです。来園者が非常に少ないためにゲルダお母さんは私に「今日はお客さんが少なくて食べ物を投げてもらえないのです。あなた、早く何か食べ物を私に投げてくださいな。」という表情をして期待して私の顔ばかり見ていたというわけです。私は何枚もこの親子のカメラ目線の写真を撮り、そして彼女たちを長い時間ずっと観察していました。しばらくしてふと気が付いたのですが、私の20メートルほど横で2名の屈強のガードマンが無言で私を睨みつけていたのです。要するに「こんな長い時間ホッキョクグマの前にいるお前は、きっと何か動物園公認のもの以外の食べ物をホッキョクグマに投げ与えるチャンスを狙っているのだろう。俺たちはそれを絶対見逃さないからな。」という態度に見えました。私は背筋が寒くなると同時に非常に腹が立ちましたね。私の訪問の初日は三時間ほどだったのですが、全てホッキョクグマ飼育展示場に張り付いていたわけです。その間中、このガードマンたちは私から一切視線を外すということがなかったというわけでした。

(資料)
Москва-Баку.ru (Mar.21 2016 - Шахтеры накормили белых медведей пирожками с рук)
Главная страница (Экспедиция Седова Г.Я. к Северному полюсу с 1912 по 1914 гг.)
AcidCow (feeding polar bears)
Blogos (Nov.4 2009 - 佐藤優の眼光紙背)
東京外国語大学(沼野恭子研究室 - ウォッカより古いロシアの蜜酒「ミョート」)

(過去関連投稿)
ロシア極北・ネネツ自治管区のウスチ・カラ村に現れたホッキョクグマ ~ 人とホッキョクグマの生命の尊重
ロシア極北・ネネツ自治管区のアンデルマの街とホッキョクグマたち ~ 人に身近な存在のホッキョクグマ
ロシア極北 チュクチ自治管区の村落、リィルカイピの人々とホッキョクグマとの関係
ホッキョクグマ・アイカ と レディン一家の物語 ~ 愛情の日々、そして悲劇的な終末へ
by polarbearmaniac | 2016-03-24 00:15 | Polarbearology

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