街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア南部 ロストフ動物園のテルペイとコメタの飼育展示場改良工事にロスネフチ社が資金援助

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テルペイ (Белый медведь Терпей)
(2015年9月27日撮影 於 ロシア、ロストフ動物園)

ロシア最大の石油会社であるロスネフチ(Роснефть)社がロシア国内の動物園で飼育されている全てのホッキョクグマを援助するために、そういった動物園の飼育展示場の改良工事の資金を援助していることは以前から何回かご紹介しています。今回ロスネフチ社が援助を行うのはロシア南部の都市であるロストフ・ナ・ドヌの動物園に暮らす推定13歳の雄のテルペイ(現地では「ヤクート」の愛称で呼ばれることが多いです)と3歳の雌のコメタです。
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ロストフ動物園ホッキョクグマ飼育展示場(2015年9月27日撮影)

この上の写真は昨年私がロストフ動物園 (Ростовский-на-Дону зоопарк) を訪問した際に撮った写真ですが、このように一応は広い飼育展示場がありプールもあるのですが、やはり同園としては改良の必要性を感じていたそうで、それはなんといっても全てがコンクリートで作られている点と、プールの端が鋭角的になっている点、そして晴天には日陰となる場所が非常に少ないといった点だったそうです。このたびロスネフチ社の援助のもとでこうした飼育展示場の欠点に改良がほどこされるそうで、コンクリート部分には自然の岩石を使用した部分を設け、またプールの端の鋭角的な部分を取り除くと共に天幕などを用いた日除けの設備を設けることとなるそうです。またバックヤードにあるケージの部分についても新しいものに替えるということを行うとのことです。そういったことや最近のこの二頭の様子を報じる地元のTVニュースをご紹介しておきます。





そもそも自然下の環境には直線というものは存在しません(顕微鏡で見た雪の結晶くらいでしょうか)。にもかかわらずこうしてすべてが直線で仕切られた飼育展示場、しかもほとんど全てがコンクリートでできている場所というのは見ている側にとっても苦痛です。日本の動物園のホッキョクグマ飼育展示場にも実にこの「直線」が多いのです。設計者の感性といったものに疑いを持たざるを得ません。

それからロストフ動物園はこのテルペイとコメタの間の繁殖を期待しているそうですがペルミ動物園が場所を移転する新動物園の建設工事が今年の秋から開始されるはずで、それが完成するとテルペイはペルミ動物園に戻ることになっていますから、彼と現在まだ3歳のコメタとの間での繁殖は時間的にもやや無理なような気がします。このテルペイは野生出身ですので血統的には非常に有利なわけでコメタのパートナーtしては年齢差はともかくとして申し分ない雄なのですがテルペイは単なるペルミ動物園の預託個体でありBL契約でロストフ動物園に一時出張しているだけですので、その点からもテルペイとコメタの間の繁殖には難がありそうです。
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ロストフ動物園の園内(2015年9月27日撮影)

実は私は以前からテルペイの性格や年齢を考えてあくまでも机上の考え方として、彼は血統的にツヨシ、ピリカのパートナーとしては最高の雄だと思っているわけですが、彼はロシア政府が自国の野生個体の国外移動や所有権移転を認めない方針に転換した後に野生孤児として保護されたわけでテルペイの来日の可能性は全くないと考えてよいでしょう。

(資料)
Дон-ТР (Apr.29 2016 - Компания ‘Роснефть’ взяла под опеку белых медведей Ростовского зоопарка)

(過去関連投稿)
(*ロスネフチ社の援助関連)
ロシア最大の石油会社 ロスネフチがロシアの動物園の全ホッキョクグマへの援助・保護活動開始を表明
ロシア・ヴォルガ河流域、ペンザ動物園の野生孤児ベルィの新飼育展示場建設にロスネフチ社の援助決定
ロシア・西シベリア、ボリシェリェーチェ動物園のグーリャにロスネフチ社より飼育場整備の資金援助
ロシア・ウラル地方のエカテリンブルク動物園のホッキョクグマ展示場の改修完了 ~ 新園長さんの手腕を期待
モスクワ動物園のホッキョクグマ飼育展示場から、遂に待望のライブ映像配信が開始!
ペルミ動物園での待望のアンデルマ、ユムカ、セリクとの再会 ~ 整備された飼育展示場
(*テルペイ関連)
ロシア・ペルミ動物園におけるセリクとユムカの近況 ~ テルペイがロストフ動物園に移動か?
ロシア・ウラル地方 ペルミ動物園のテルペイがロシア南部 ドン河下流のロストフ動物園に無事到着
ロシア南部 ・ ドン河下流のロストフ動物園に移動したテルペイの近況 ~ 飼育員さんに惚れ込まれる
ロシア・ロストフ動物園、テルペイ(Терпей) の「国際ホッキョクグマの日」
(*コメタ関連)
ロシア南部・ロストフ動物園とウクライナ・キエフ動物園との間の紛争 ~ 「ホッキョクグマ詐欺」事件の概要
チェコ・ブルノ動物園のコメタがロシア・ロストフ動物園へ ~ ブルノ、モスクワ、ロストフの巧妙な三角関係
チェコ・ブルノ動物園の双子の雄のナヌクがウクライナ・ムィコラーイウ動物園へ移動か?
チェコ・ブルノ動物園のコメタのロシア・ロストフ動物園への移動が大幅に延期 ~ 複雑な背景を読み解く
チェコ・ブルノ動物園のコメタとナヌクの将来への不安 ~ 忍び寄るロシアとウクライナの紛争の暗い影
チェコ・ブルノ動物園のコメタが4月にロシア・ロストフ動物園へ ~ 表向きのニュースの裏側を探る
チェコ・ブルノ動物園のコメタがロシア・ロストフ動物園に向けて出発 ~ 双子に遂に別れの日来る
チェコ・ブルノ動物園のコメタがロシアのロストフ・ナ・ドヌに無事到着 ~ 早速ロストフ動物園へ

(*2015年9月 ロストフ動物園訪問記)
ロストフ動物園へ ~ サーカス出身のホッキョクグマ、イョシ(Ёши)との5年ぶりの再会
イョシ(Белый медведь Ёши) 、素顔とその性格
ロストフ動物園二日目 ~ 好男子テルペイ(Терпей)との二年ぶりの再会
テルペイ(Белый медведь Терпей)、その素顔と性格
by polarbearmaniac | 2016-04-30 06:00 | Polarbearology

ロシア・ノヴォシビルスク動物園に最後のお別れに戻ってきた故シロ園長、そして市民との最後の別れ

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シルカと故シロ園長(Белый медвежонок Шилка и Ростислав Шило)  Image :CHERNOVFILM



先日27日に亡くなられたノヴォシビルスク動物園のラスティスラフ・シロ (Ростислав Шило)園長に対するロシアの方々の心のこもった弔辞や故人との思い出の回顧文などを今日一日、眼を通していました。ロシア人が故人に抱く感情の深さといったものに心打たれずにはいられません。そしてロシア語という言語の表現の深さと豊かさにも驚かざるをえないわけです。上の映像の通りシロ園長はその生涯を通じて働いてきた懐かしいノヴォシビルスク動物園に本日29日に最後のお別れに戻ってきたのでした。



棺を送り出す前に白い鳩と白い風船を空に放つのはロシアの習慣だろうと思います。そして最後に棺を送るときに亡くなった故人を最後は拍手で送るというのはあのダイアナ元英皇太子妃のときもそうでした。ロシアでもやはり同じであることが上のニュース映像でもわかります。シロ氏との動物園でのお別れにこれだけ多くの方が集まってきているということは、生前の故人の人柄が偲ばれます。



(資料)
НГС.НОВОСТИ (Apr.29 2016 - Прощание с Шило: тысяча скорбящих и черная карета на аллеях зоопарка)
СибКрай.ru (Apr.29 2016 - Новосибирск прощается с Ростиславом Шило) (Прощание с Шило: «Другого такого не было и не будет»)

(過去関連投稿)
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシロ園長逝く ~ シルカ来日に貢献したロシア動物園界の重鎮の死

(*後記 - 当日夜の地元のTVニュースです)



by polarbearmaniac | 2016-04-29 22:30 | 動物園一般

チェコ・ブルノ動物園、コーラお母さんの「水泳教室」 ~ 娘のノリアへの関与性を高める

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コーラお母さんとノリア Photo(C)Zoo Brno

チェコのブルノ動物園で昨年の11月24日にコーラお母さんから誕生した雌の赤ちゃんのノリアですが、いよいよプールに入るような時期になってきているようです。今回のこの親子はなかなか興味深いと思います。特に母親の育児という点で過去の2回のコーラお母さんお双子に接したケースとの違いなどに興味が出てきます。 まずこの下の映像ですが、これは一種の「水泳教室」だと位置付けてよいように思います。娘の後ろにピッタリと付いて支え、娘が陸には上がれないようにしているわけですが、無理やりという感じには見えません。要するに水から上がれないようにするという「水泳教室」といったところです。



赤ちゃんが双子ではなく一頭なので明らかにこういったやり方は有効でしょう。今回のコーラお母さんは最初は非関与的な母親であるように見えましたが最近はそれとは反対の方向に行っているように見えます。

(*追記 - 以下は28日の朝の映像のようですが、コーラお母さん実に巧みです。母親がこれだけ「水泳教室」を根気強くやっている例は珍しいでしょう。)



ここで前回2012年11月にコーラお母さんから誕生したコメタとナヌクの映像をご紹介しておきます。これが撮影された時期はもうこの双子は水に入っていたわけですが、コーラお母さんの動きはなかなか興味深いところです。最初は双子が水に入った状態を上から監視しているわけですがタイミングを見計らって自分も水に入っていくコーラお母さんです。あとはまた適当に切り上げ、コーラお母さんは陸に上がるという感じで双子の場合ですとこういった形で子供たち同士が遊ぶように仕向けていくということですね。



今回はこうやってコーラお母さんがサッと身を引くということがやりにくいようです。今回のノリアへの接し方も最初の頃はそうしていましたが最近は要所要所でかなりノリアの面倒をみて相手にしてやるという感じに変わってきているようです。それが象徴的に表れているのが最初の「水泳教室」だと思います。こうやって途中から育児の方向性を変えることができるという母親は非常に能力の高い母親だと思います。コーラお母さん、やはり母親として今までより一段高いステージに上がったようです。実に見ていて魅力的な親子だと思います。

(過去関連投稿)
チェコ・ブルノ動物園のコーラ、今年も出産なるか? ~ 産室の準備万端整えたブルノ動物園
チェコ・ブルノ動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ コーラお母さんが待望の出産
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃん、最初の関門を突破 ~ 屋外で出産していたコーラお母さん
チェコ・ブルノ動物園から遂に待望の産室内ライブ映像の24時間配信が開始!
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんの産室内映像ハイライト ~ コーラお母さんの手堅い育児
チェコ・ブルノ動物園の赤ちゃん、元気に間もなく生後二カ月へ ~ ライブ映像のみに託した情報発信
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんの近況 ~ コーラお母さんに少量の給餌が再開
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんが生後80日を無事経過
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃんが突然短時間、戸外に姿を現す ~ 想定外の早さに驚く同園
チェコ・ブルノ動物園で誕生の赤ちゃん、明日3月18日より一般へのお披露目が同園より告知
チェコ・ブルノ動物園の赤ちゃん一般公開開始の様子がネットでライブ生中継
チェコ・ブルノ動物園のコーラ親子の一般への公開が開始となる ~ 深夜でも動き回る親子
チェコ・ブルノ動物園のコーラお母さんの育児スタイルに変化 ~ 経験よりも頭数が重要な要素か?
チェコ・ブルノ動物園のコーラ親子の映像を解釈する ~ 育児方法の転換が不十分なコーラお母さん
チェコ・ブルノ動物園の赤ちゃんの性別は雌(メス)と判明 ~ 名前の公募始まる
チェコ・ブルノ動物園のコーラお母さん、プールに転落した赤ちゃんを救出 ~ 落ち着いた対応
チェコ・ブルノ動物園の雌(メス)の赤ちゃんの名前が「ノリア(Noria)」に決まる
チェコ・ブルノ動物園、幾分どっしり構えるコーラお母さんと遊び好きで活動的な赤ちゃんのノリア
by polarbearmaniac | 2016-04-29 01:30 | Polarbearology

ロシア極東・沿海州 ハバロフスク動物園、改装された展示場のイョシの新しいプール開き

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イョシ Photo(C)Новости Хабаровска на dvnovosti

ロシア南部のロストフ動物園から今年の2月にサーカス出身のホッキョクグマである推定14歳の雄のホッキョクグマであるイョシが極東・沿海州のハバロフスク動物園(正式には「シソーエフ記念・プリアムールスキー動物園」 - Зоосад Приамурский имени В.П. Сысоева)に移動してきたことはすでにご紹介していました。同園には以前にもサーカス出身のホッキョクグマで巡回動物園に入れられた経験のあるゴシが飼育されていたわけですが、ゴシの死後に飼育展示場が改装され、プールが新設され新展示場として生まれ変わり、イョシはそこの住人としてロストフ動物園から移動してきたわけです。

さて、とうとうその新しいプールに昨日から水が入れられたそうです。
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Photo(C)Зоосад Приамурский
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Photo(C)Зоосад Приамурский

現地も気温が14℃となったのでプールに水を入れることにしたそうですが、このプールの水の温度は14℃で保たれるような装置が施され、最大限に上昇しても20℃までということだそうです。いよいよこの極東の動物園のホッキョクグマの飼育展示場も本当の姿を現してきたようです。ロシアの地方都市の動物園の施設の改良と新設、そしてホッキョクグマの飼育から繁殖へという方向性が目に見える形で出てきているわけです。

(*追記 - 映像が入ってきましたのでご紹介しておきます。)



(資料)
Новости Хабаровска на dvnovosti.ru (Apr.26 2016 - Круглогодичный бассейн для белого медведя начали заполнять водой под Хабаровском)
Губерния (Apr.27 2016 - Подводная жизнь белого медведя: Ёши из зоосада под Хабаровском готовится нырять в бассейн)
АиФ-Хабаровск (Apr.28 2016 - Белый медведь Ёши принимает водные процедуры)
(追記資料)
Новости Хабаровска на dvnovosti.ru (Apr.30 2016 - Белый медведь Ёши открыл купальный сезон под Хабаровском)

(過去関連投稿)
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by polarbearmaniac | 2016-04-28 18:30 | Polarbearology

ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシロ園長逝く ~ シルカ来日に貢献したロシア動物園界の重鎮の死

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赤ちゃんの名前が「シルカ」となったことを発表するシロ園長
Photo(C)Photo(C)Михаила Перикова

ロシア・ノヴォシビルスク動物園で1969年以来、約46年間の長きにわたって園長を務めてきたラスティスラフ・シロ (Ростислав Шило) 氏が本日未明、亡くなられたとのことです。シロ氏は心臓発作を起こして手術を受けたという報道が数か月前にあったわけですが、本日の報道によりますと癌を患っていたということだそうです。シロ氏はモスクワ動物園の園長を長く務めたヴラディーミル・スピーツィン (Владимир Спицын) 氏と並ぶロシア動物園界の重鎮でした。享年75歳。
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Photo(C)Влад КОМЯКОВ/Комсомольская правда
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Photo(C)Влад КОМЯКОВ/Комсомольская правда

シロ氏は1940年10月23日に極東・沿海州の当時のイマン(Иман)、現在のダリネレチェンスク (Дальнереченск)に生まれ、1961年にノヴォシビルスク動物園に獣医補助士として採用され頭角をあらわし1969年に当時はまだ小さかった同園の園長に就任され、それ以来このノヴォシビルスク動物園をロシア屈指の動物園に成長させました。同園はロシアだけではなく世界的にも非常に高く評価される動物園となったわけで、そこにはこのシロ園長の多大な功績があったわけです。現在までノヴォシビルスク市評議会の評議員であると同時に同市の名誉市民であり、率直かつ開放的で人に好かれる性格によっても地元の名士として有名でした。ノヴォシビルスク市と札幌市が姉妹都市であるため、このシロ園長もかなり以前ですが円山動物園を訪問されたことがあったと記憶しています。そしてなかなか日本贔屓の方であったことが過去のいくつかの報道で見てとれます。
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シロ園長(左)とモスクワ動物園のスピーツィン園長(右)
Photo(C)Комсомольская правда

私が一昨年の秋にノヴォシビルスク動物園を訪問した際に、シロ園長は客人数人を引き連れてホッキョクグマ飼育展示場に姿を見せ、そしてゲルダやシルカを客人に紹介しているのを近くで目撃したわけですが、シロ園長というのば独特の風貌の方で、そしてなかなかユーモアのある話しぶりだったのが印象に残っています。以下はシロ園長の死を報じるTVニュースと映像です。









このシロ園長と日本との繋がりで最も記憶に新しいのは、なんといっても現在大阪の天王寺動物園で飼育されているシルカの来日にまつわる諸々の件についてでした。当時私の受けた印象では、シロ園長は当初からシルカの移動先は日本が良いと考えていたことがなんとなくわかっていました。ちなみにシルカ(Шилка) という名前は公募で決まった名前なのですが、それはノヴォシビルスク動物園で41年振りに誕生したホッキョクグマの赤ちゃんに対してノヴォシビルスク市民は、長年ノヴォシビルスク動物園の園長を務め同園の発展に大きく貢献し、そして敬愛されていたシロ(Шило)園長の名前を由来とした由緒ある名前をこの赤ちゃんの名前として選んだ市民が多かったことは今更言うまでもありません。シロ園長はシルカの日本への移動について、特に母親ゲルダからシルカが引き離されて以降は市民からの批判を受けたわけですが、その件については今回は申し上げることはいたしません。私利私欲の全くない方であったことはシロ氏を知る多くの人々の証言で明らかです。そして園長という動物園のトップとなっても、最後までフットワークの非常に軽い "Playing Manager" として、徹底的に現場重視の姿勢を貫かれた方でした。以下はソ連時代のシロ園長の若き日の姿を伝えたソ連時代の1981年の極めて興味深いTVドキュメンタリーです。



以下は2015年3月26日、シロ園長がシルカの大阪への移動、そして天王寺動物園について記者会見で紹介しているTVニュースの報道です。シロ園長はシルカの搬出の際にも自ら指揮を執っていた姿が映っています。



謹んでシロ園長のご冥福を祈ります。

(資料)
Новосибирский зоопарк (Apr.27 2016 - НОВОСТИ/Умер Ростислав Шило)
«НГС.НОВОСТИ».(Apr.27 2016 - Умер директор зоопарка Ростислав Шило) (Прощайте, Ростислав Александрович)
Вести Новосибирск (Apr.27 2016 - Скончался директор Новосибирского зоопарка Ростислав Шило) (Беспокойная должность: документальный фильм о Ростиславе Шило)
Комсомольская правда в Новосибирске (Apr.27 2016 - Ростислав Шило: Зачем мне курорт, я лучше по тайге поброжу!)
ТАСС (Apr.27 2016 - Скончался директор Новосибирского зоопарка)
Interfax Russia(Apr.27 2016 - Скончался директор Новосибирского зоопарка, возглавлявший его с 1969 года)
Новосибирские новости(Apr.27 2016 - Умер директор Новосибирского зоопарка Ростислав Шило) (Мэр Новосибирска Анатолий Локоть выразил соболезнования родным и близким Ростислава Шило)
Сиб.фм(Apr.27 2016 - Директор Новосибирского зоопарка Ростислав Шило умер на 76-м году жизни)
ГТРК «НОВОСИБИРСК» (Mar.26 2015 - Новосибирцы обсуждают переезд медвежонка Шилки)
Российской газеты(Apr.27 2016 - Умер директор Новосибирского зоопарка Ростислав Шило)

(過去関連投稿)
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園の雌の赤ちゃんの名前が 「シルカ」 に決定
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のゲルダとシルカの母娘をめぐってシロ園長の発言
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のシルカの旅立ちの日近づく ~ 移動先は日本の動物園か?
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のゲルダとシルカの母娘が本日突然永遠の別れ ~ ゲルダお母さんの動揺
ロシア・ノヴォシビルスク動物園で別離したゲルダお母さんと娘のシルカの近況 ~ 母娘共に依然として動揺
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のゲルダとシルカの母娘をめぐってシロ園長の発言
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園で母親と別離したシルカの奇妙な常同行動への同園の解釈
ロシア、ノヴォシビルスク動物園でクラーシン(カイ)とゲルダの再会、同居開始の光景に割れる市民の意見
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のシロ園長が批判する近年の欧米の 「三年サイクルの繁殖」
ロシア、ノヴォシビルスク動物園のシルカの今春来日が決定的! ~ 日本の動物園との契約の締結が完了
ロシア、ノヴォシビルスク動物園のシルカは3月に来日の模様 ~ 地元のファンのシルカへの熱い想い
ロシア、ノヴォシビルスク動物園がシルカの出発情報に職員に固い緘口令を敷く ~ 約一か月半後に来日
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカの移動日程を知らされぬ現地ファン ~ 送り出す側の方々の心境
ロシアのコムソモリスカヤ・プラウダ紙がノヴォシビルスク動物園のシルカの移動日程、移動先を報じる
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカがノヴォシビルスクを出発し空路モスクワへ ~ 日本への旅立ち
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカの出発に感じた後味の悪さ ~ 大阪市発表を知らなかったロシア側
大阪・天王寺動物園のシルカの一般公開が開始 ~ 「園付き個体(Polar Bears in residence)」の意義
ロシア・ノヴォシビルスク動物園、及びマスコミがシルカの大阪での「お披露目式」を一斉に報じる
ロシアのノヴォシビルスク市長が日本の原田駐露大使に大阪・天王寺動物園のシルカへの配慮を要請
by polarbearmaniac | 2016-04-27 18:30 | 動物園一般

ロシア・イジェフスク動物園の双子の赤ちゃんシェールィとビェールィへの飼育員さんの水泳教室

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Photo(C)Зоопарк Удмуртии

育児を行う母親のいないホッキョクグマの赤ちゃんはなにかと大変です。飼育員さんの労力と負担も並大抵のものではないようです。

昨年11月28日にロシア連邦ウドムルト共和国のイジェフスク動物園(現在では公式にはウドムルト動物園 - Зоопарк Удмуртии)でドゥムカお母さんから誕生したものの生後2ヶ月で人工哺育となってしまった雄(オス)の双子の赤ちゃんであるシェールィ (Серый) とビェールィ (Белый) がなかなか水に親しめないでいることは前回もご紹介していました。しかしどうも最近では飼育員さんが安全のために水の中まで付き添ってくれてこの赤ちゃんたちは水に親しめるようになっているようです。イジェフスク動物園はそういったことの説明なしに冒頭の一枚の写真をいきなり公開しました。写真だけで状況はよくわかります。こういった人工哺育の赤ちゃんの水遊びに飼育員さんが水の中まで一緒に入っていくというシーンは初めて見たような気がします。このイジェフスク動物園のプールの水深は深く、まだこの季節は水が冷たいのでしょう、飼育員さんは潜水服らしきものを着用しています。こういった写真を見ますとホッキョクグマの母親の存在というもののありがたさがわかろうというものです。
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Photo(C)Зоопарк Удмуртии

さて、ここでこのシェールィとビェールィの姿が地元のTVニュースの一コマとして紹介された映像を御紹介しておきましょう。まだ水には入っていない時期のものです。




(過去関連投稿)
ロシア連邦ウドムルト共和国のイジェフスク動物園でホッキョクグマの双子の赤ちゃん誕生!
ロシア連邦・ウドムルト共和国、イジェフスク動物園で誕生の双子の赤ちゃんは順調に成育
ロシア・イジェフスク動物園の双子の赤ちゃんが戸外へ ~ ドゥムカお母さんが病気で人工哺育となる
ロシア連邦・ウドムルト共和国、イジェフスク動物園の双子の雄の赤ちゃんを日本のTV局が取材
ロシア・イジェフスク動物園の双子の雄の赤ちゃん、広いメインの展示場へ ~ 来日の可能性は?
ロシア・イジェフスク動物園の双子の赤ちゃん、シェールィ(Серый)とビェールィ(Белый) の近況
ロシア・イジェフスク動物園の双子の雄の赤ちゃん、シェールィとビェールィの性格と行動の違い
ロシア・イジェフスク動物園の双子の赤ちゃんのシェールィとビェールィ、なかなか水に親しめず
by polarbearmaniac | 2016-04-27 00:30 | Polarbearology

チェコ・ブルノ動物園、幾分どっしり構えるコーラお母さんと遊び好きで活動的な赤ちゃんのノリア

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コーラお母さんとノリア Photo(C)Zoo Brno

昨年の11月24日にチェコのブルノ動物園でコーラお母さんから誕生した雌(メス)の赤ちゃんであるノリア(Noria)の最近の様子を伝える映像が公開されています。以前にも似たような映像が公開されていたのですが、今回もコーラお母さんの背中の上に乗っかっているノリアの姿です。以前同様、実に素晴らしいシーンだと思います。



このノリアはまだプールで泳ぐことはできないようで、プールの中にいるコーラお母さんの姿をプールの周りから眺めているという状態のようです。そうした映像を一つご紹介しておきます。



以前にも書きましたが、このコーラお母さんは育児経験は豊富なのですが、それらは全て過去の赤ちゃんがいずれも双子の場合だったわけで、今回は初めて一頭の赤ちゃんへの育児となるわけなのですが、担当飼育員さんも一頭だけの赤ちゃんの成長を見るのは初めてだったらしく、このノリアは以前の双子(トムとビル、コメタとナヌク)と比較すると、それ以上に非常に遊び好きで活動的だと感じているそうで、こういったことはあまり予想していなかったようです。
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ノリア Photo(C)Zoo Brno

このブルノ動物園のコーラ親子について、死角の多いモニターカメラの映像を時々見ている者にとっても有益な情報を報道は伝えています。飼育展示場と寝室の間が出入り自由となっているこのブルノ動物園ですが(といっても非常に多くの欧米やロシアの動物園はみなそうですが)、このコーラ親子は朝の7時頃から飼育展示場では非常に活発に動き回り、親子は午後2時あたりを中心とした時間帯には1時間から2時間のお昼寝を寝室でするそうです。そういったことから考えて、やはりコーラお母さん(現地での愛称は「コリンカ」というそうです)は、うまくその育児スタイルを過去の双子の場合から一頭のノリアに合わせたやり方に転換を図り、そして成功しつつあるということのように思われます。ブルノ動物園の飼育員さんは今回のコーラお母さんは以前とはやや異なって赤ちゃんに対しては幾分どっしりと構えているという印象を持っているようです。私もなかなか魅力的な親子だと思います。そしてウスラーダの娘でありシモーナの妹であるコーラ、一つひとつ「偉大なる母」への階段を確実に登っているようです。

(資料)
iDNES.cz (Apr.22 2016 - PŘÍMÝ PŘENOS: Sledujte, jak lední medvídě řádí ve výběhu a zlobí matku)

(過去関連投稿)
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by polarbearmaniac | 2016-04-26 14:00 | Polarbearology

オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園の22歳のフギースの繁殖へのさらなる挑戦

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フギース (Белая медведица Хугис)
(2015年5月1日撮影 於 オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園)

欧州屈指のホッキョクグマの繁殖基地であるオランダ・レネンのアウヴェハンス動物園(Ouwehands Dierenpark Rhenen)で飼育されている現在22歳の雌のホッキョクグマであるフギース(フヒース - Huggies)については彼女の長女であるフリーダム (Freedom)と共に、この一つ前の投稿でご紹介した通りです。彼女は現在まで7頭の子供たちの出産・成育に成功している欧州の「横綱格」のホッキョクグマです。考えてみれば札幌のララは8頭の子供たちの出産・成育に成功しているわけで(リラは当然生後半年以上になっていますのでもう成功例にカウントできるわけです)、この8頭という数については現在欧州ではララを凌ぐ母親は存在していないわけです。これは欧州では「3年サイクル」の繁殖を採用しているものの日本やロシアでは「2年サイクル」の繁殖を採用しているという違いによって繁殖成功頭数の観点ではララに有利に働いているという考え方もできるでしょう。
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フギース (Huggies the Polar bear)
(2015年5月3日撮影 於 オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園)

さて、このフギースの最近の出産は2011年12月1日に雄のルカと雌のリンを出産した時であり、私は翌年の3月にモスクワ動物園でシモーナの産んだ三つ子の公開後の姿を見た後にオランダに飛び、このフギースの育児を終日じっくりと観察することができました。実はこのアウヴェハンス動物園におけるフギースのパートナーだった雄のヴィクトルはフリーダムのパートナーでもあったわけで、彼の血の入った個体が多く誕生したことによってヴィクトルはEAZAの繁殖計画からは外されてしまい、イギリスのヨークシャー野生動物公園に移動したのは2014年8月のことでした。その年の春にヴィクトルと繁殖行為を行っていたフリーダムは年末の2014年11月22日に二頭の赤ちゃんを出産したわけで、この雄のアキアクと雌のスラについても昨年私は現地でゆっくりと観察ができました。繁殖の順番でいけば昨年2015年はフギースが繁殖に挑む年だったわけですが、雄のヴィクトルがイギリスに去ったためにフギースにはパートナーがいなくなってしまったわけで彼女の昨年は繁殖からは遠ざかったシーズンとなってしまったわけでした。果たして彼女は今後繁殖に関してはどうなるのかと思っていたわけですが、ドイツのニュルンベルク動物園のやはり繁殖に関しては欧州での「横綱格」である14歳の雄のフェリックスが昨年11月にシュトゥットガルトのヴィルヘルマ動物園経由でアウヴェハンス動物園に移動し、そして今年2016年にフギースと共に繁殖に挑むこととなった件については過去関連投稿をご参照下さい。アウヴェハンス動物園の22歳のフギース、そしてすでに三頭の雌を出産させて合計6頭の子供たちの父親となった実績を引っ提げて同園に出張してきたフェリックス、この二頭の春先の様子とこのペアについて語っている同園の担当者の話をニュース映像でご紹介しておきます。



そしてこの下は今年の1月26日のこの二頭の映像です。



そして今年の2月19日の映像ではこの二頭の繁殖行為が確認できます。



なにしろ繁殖には実績のあるこの二頭であり、今年の年末のフギースの出産の確率は極めて高いと考えられます。一昨年の暮れの出産シーズンで私は世界のホッキョクグマで出産が確実と考える3頭のホッキョクグマを世界の 「大本命(S)」 の 「三羽烏」としてSランクを付けたことがありました。それはモスクワのシモーナ、札幌のララ、そしてレネンのフリーダムという3頭でした。そしてこの三頭は全て順調に出産したわけです。昨年についてはアメリカ・トレド動物園のクリスタルがやはり「大本命(S)」の最高ランクだったわけで、やはり彼女も順当に出産したわけです。今年の繁殖シーズンについてはまずこのフギースが文句なく最高ランクの「大本命(S)」のホッキョクグマでしょう。こういった「大本命(S)」ランクというのは、それこそ世界トップクラスのレベルの母親たちであるということです。2~3年後にはこういったクラスに仲間入りすることが確実なのはノヴォシビルスク動物園のゲルダでしょう。ただし、ゲルダには育児能力という点ではまだ課題が多いわけです。現時点では上に挙げた大物たちには、とてもまだ及ばないということです。特にシモーナやララには大きく水をあけられていると思いますし、フギースにも到底及びません。以下、2012年3月の映像ですが、フギースが双子の赤ちゃん(ルカとリン)と一緒に昼寝している映像です。親子は一緒に寝ているわけです。



そして同じ時期に私が撮った次の映像を見て下さい。赤ちゃんたちが活動的であるときにはフギースも歩き回って活動的になっているのです。



こういった姿を見ただけでもフギースの母親としての能力の高さというものがわかるのです。つまりフギースは自己の活動量を子供たちの活動量と一致させることができているからです。これはシモーナやララやフギースにはできてもゲルダにはまだ無理なのです。

さて、話をまたフギースに戻しますが、彼女は今年年末の確実な出産のあとに約2年間の育児期間があり、さらにその次に繁殖に挑むとすればそれは2019年のことになるでしょう。その時に彼女は25歳となるわけですが、その時点でさらにもう一度繁殖に挑むかどうかということです。その場合パートナーが問題となってくるでしょう。再びフェリックスの出張があるか、それとも他の雄かということです。欧州域内の雄の個体たちがここ2~3年にどのような活躍を行いどのような成果をあげていくかによってフギースの2019年の繁殖挑戦の成否が大きく影響されてくるでしょう。このフギースのような繁殖経験のあるホッキョクグマの場合は25歳でもさらに繁殖に挑ませるということは決して回避すべきことにはならないということです。ところが、繁殖成功経験のない個体の場合ですと大いに問題となるだろうと私は考えています。この差異は体力的な消耗という要素に対する耐性、慣性といったもので説明が付くと考えます。そういう身体的・生理的リズムが確立しているのがウスラーダに代表されるタイプのホッキョクグマの特徴であり、こういったタイプは出産や育児を自らの体調のリズムに合わせる術を会得していることに間違いないだろうと思われます。フギースもそういったタイプでしょう。下は昨年11月下旬のフギースの姿ですが、通常ならば彼女は産室入りしている時期なのですが昨年の春には彼女にはパートナーがいなかったため、こうしてこの時期にも歩き回っているということなのです。彼女はこうして神経質に何か落ち着きなく動いているよりも、出産準備で産室に入っているということが彼女の精神と健康にはむしろプラスだろうと思います。つまり彼女は繁殖の舞台に立っているほうがその本領を発揮でき、そして健康でいられるという感じを強く持ちます。



欧州のホッキョクグマ界、なかなかおもしろいですね。外野のファンは大きく騒ぐものの肝心の主役たちの活躍に今一つ精彩のない日本とは逆に、欧州のファンは静かに見守り主役たちは大いに活躍するというのが欧州のホッキョクグマ界です。しかしその欧州といえども、主役たちの個性の強さ、魅力という点ではロシアの動物園のホッキョクグマたちには及ばないのです。飼育環境の整備された欧州のホッキョクグマたちは「優等生」タイプが多いわけですが、貧弱で立ち遅れた飼育環境に暮らすロシアのホッキョクグマたちは「大物」タイプが多く、彼らは人生(Bear's life)を彼ら独自の強い個性で楽しんでいるようにすら見えます。ホッキョクグマ界というのはやはり地域でかなり様相を異にしているというのは事実です。

(*追記)オランダ語の発音と日本語表記は同国に居住経験のある私にとっても非常に難しいです。上でご紹介した映像のうちニュース映像でのナレーターの発音は非常に助かります。まず "Ouwehands" ですが、これは「アウヴェハンス」と発音しています。そして "Huggies" ですが、これも「フギース」と発音しています。この-gg と綴りが重なるのがオランダにはあまりない綴りですね。通常は "Hugies" と綴るはずで、これならばオランダでは「フヒース」と発音するのですが、このホッキョクグマの場合は "Huggies" ですので、この場合は「フギース」となるというのが正解らしく、本ブログでは以前からそう表記していますが、時々「フヒース」も併記することにしています。それから地名の "Rhenen" ですが、これは耳で聞くと「レーネン」と聞こえるのですが、実は最初の音に強いアクセントがあるために「レー...」と聞こえ易いということにすぎず、私は「レネン」と表記しています。これについては表記というものの考え方の違いもあり、非常に微妙です。オランダ語(そしてデンマーク語)には唯一の正しい日本語表記はない言語であるという理解をせざるを得ません。本ブログでは海外のホッキョクグマを多く取り上げますので、彼らの名前についてはいつも緊張感を持って最大限の注意で日本語表記を行っているつもりです。

(資料)
veenendaalsekrant.nl (Jan.13 2016 - Romantische ontmoeting in Ouwehands Dierenpark Rhenen)
Bild (Nov.25 2015 - Eisbär Felix verlässt seine Corinna und die Wilhelma)
The Telegraph (Polar bear twin dies: one of the cubs born at the Ouwehands animal park in Rhenen, the Netherlands, has died)

(過去関連投稿)
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(*アウヴェハンス動物園訪問記)
(2011年5月)
遂にレネン、アウヴェハンス動物園に到着!
シークーとセシ、その伸びやかさと無邪気さの大きな魅力
フリーダムを称える
(2012年3月)
レネン、アウヴェハンス動物園でホッキョクグマたちに御挨拶
アウヴェハンス動物園のフギースお母さんの双子の性格
フギースお母さんの性格と子育て
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(2015年5月)
フリーダムお母さんお久しぶりです、二頭の赤ちゃん、初めまして! ~ レネン、アウヴェハンス動物園へ
欧州屈指の偉大なる母フギースは今何を考える?
アウヴェハンス動物園二日目 ~ 三世代同居の問題点
アウヴェハンス動物園の双子の赤ちゃんの性格と素顔 ~ 「冒険家ちゃん」 と 「甘えっ子ちゃん」
フリーダム、偉大なる母のその素顔 ~ 「細心さ」から「鷹揚さ」を取り込み、咲かせた大輪の花
by polarbearmaniac | 2016-04-26 00:30 | Polarbearology

生後僅か三ヶ月の娘と一緒にスウェーデンからオランダへ移動した母フギース ~ バフィン親子の先例

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生後三ヶ月の娘のフリーダムと一緒にスウェーデンからオランダに到着したフギース(2002年3月14日) 
Photo(C)Ouwehands Dierenpark Rhenen

すでに先週金曜日に大阪市からバフィンとモモの6月の浜松市動物園への移動が明らかにされていることは御承知の通りです。実はこのホッキョクグマ親子が同時に他園に移動するという事例は少なくともこのブログを開設した2009年以来、海外では全くその事例がありません。まず親子が同時に他園に移動せねばならないという状況自体が想定しにくいわけだからです。ホッキョクグマ親子の姿というのは以前にも申し上げましたが世界中の動物園のどこでも 「神聖ニシテ侵スヘカラス」といった存在だからです。ホッキョクグマを飼育している動物園にとってはホッキョクグマの繁殖に成功すること自体が至難の技であり、それに成功した世界でも極めて限られた数の動物園だけがホッキョクグマ親子の存在を来園者に見せることができるわけで、そういった親子を同時に他園に移動させてしまうという状況そのものが極めて不自然で特殊な状況下でないと起こり得ないことだからです。

バフィンとモモ (Apr.23 2016)

さて、前回の投稿でも述べましたがバフィン親子を移動させるために使用する移動用ケージなのですが、通常の場合ですと親子をそれぞれ別のケージに入れるのが普通でしょう。そのためには親子を一度引き離さねばなりません。二頭を同時に麻酔にかけて、それぞれを別のケージに入れてしまうというやり方ならば比較的楽に行えそうな気はします。今さら「移動用訓練」(最近欧州ではこれを行う場合がよくあります)などやっていられる時間や余裕などないでしょう。
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フギース(2015年5月1日撮影 於 レネン、アウヴェハンス動物園)
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フリーダム(2015年5月3日撮影 於 レネン、アウヴェハンス動物園)

さて、このホッキョクグマ親子の同時の他園への移動について、では本ブログ開設前にそういった事例があったかということですが、実は一つだけあるのです。その時に同時に他園に移動した親子のホッキョクグマは、現在ではどちらも極めて偉大で有名なホッキョクグマとなっています。それは、オランダ・レネンのアウヴェハンス動物園で飼育されている現在22歳の雌のフギース(Huggies)と、現在15歳の雌のフリーダム(Freedom)です。この母娘は二頭ともに現在欧州でも屈指の「偉大なる母」となっています。

時は2002年3月13日、場所は北欧スウェーデン中東部のコルモルデン動物園 (Kolmårdens djurpark)のことでした。前年2001年の12月6日に当時8歳だった野生出身の雌(メス)のフギースは一頭の雌(メス)の赤ちゃんを出産しました。当時のコルモルデン (Kolmården)動物園は飼育展示場が全て岩、またはコンクリートだったためにホッキョクグマの飼育に適さないと厳しい批判と評価を受け、自園で飼育していたホッキョクグマ数頭を順次、欧州域内の環境の整った他園に移動させることを余儀なくされていたわけです。このフギースはロシア極北出身の野生孤児個体でありモスクワ動物園によって保護されたあとにオランダに移動し、その所有権はアウヴェハンス動物園が獲得していたわけです(当時はまだロシア政府が自国の野生保護個体を国外に出すことを認めていたと同時に所有権の国外移転も認めていました)。このフギースがオランダのアウヴェハンス動物園からスウェーデンのコルモルデン(Kolmården)動物園に移動したのは繁殖計画のためだったわけですから、そこで生まれた第一子であるフリーダムの権利は慣習的なBL契約の考え方では当然フギースを送り出したアウヴェハンス動物園にあり、母娘が帰還するとすればそれは当然アウヴェハンス動物園以外にはあり得ないということだったわけです。(*追記 - この関係は大阪の天王寺動物園と浜松市動物園との関係に酷似しているわけです。バフィン親子が移動せねばならない「事情」があるならば、その移動先はこの親子の権利を持つ浜松市動物園以外には考えにくいということと同じなのです。)
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コルモルデン動物園の飼育展示場(2000年8月) Photo:~U&M~

そしてフギースと生後たった三か月の赤ちゃんだったフリーダムは母娘一緒にスウェーデンのコルモルデン (Kolmården)動物園からオランダ・レネンのアウヴェハンス動物園に移送されたのです。赤ちゃんはコルモルデン (Kolmården)動物園で一般公開されることなく、母娘はオランダに移送されたのでした。ここが肝心なところなのですが、その際にいったいこの母娘をどのような方法で輸送したかについては文章としての詳細な記録が残っていません。途中にフェリーを用いた陸路で行われたことだけはわかっています。以下の写真をご覧ください。これはコルモルデン(Kolmården)動物園よりの搬出なのですが、生後三ヶ月という体の大きさならば母親と一緒にこのケージ(これは当時の欧州内での移動用のものです)に入れることは可能だったような気もしますが、微妙かもしれません。ただしバフィンと現在のモモでは無理でしょう。
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Photo(C)Folkbladet

さて、こうして一日かけてスウェーデンのコルモルデン(Kolmården)動物園からオランダ・レネンのアウヴェハンス動物園に移動したフリースと生後三ヶ月のフリーダムでしたが、無事にオランダに到着し、そして到着翌日に母娘一緒に飼育展示場に姿を見せたのでした。それが冒頭の写真です。 そしてさっそくフギースお母さんは娘のフリーダムに泳ぎを教えようとしたそうです。下がその様子を伝える写真です。
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フギースお母さんと娘のフリーダム(2002年3月14日) 
Photo(C)Ouwehands Dierenpark Rhenen

さて、こうしてこの母娘は無事にアウヴェハンス動物園に到着してすぐに飼育展示場に慣れていったというわけです。

この現在22歳のフギースはフリーダムを含めて現在まで7頭の子供たちの出産と成育に成功しています。実はもう一頭、2008年にスウィマーという赤ちゃんを産んでいるのですが戸外初登場の4日後の2009年3月21日、つまり生後104日目に悲劇がおこりました。 それはスウィマーの突然の死です。 この日はあのイコロとキロルの一般公開日の翌日だったわけです。スウィマーはプールで溺死と思われる「謎の死」を遂げているわけで、この赤ちゃんが無事に育っていれば8頭となっていたはずです。
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死亡した赤ちゃんに悲しむフギース Photo(C)EPA

このスウィマーの「謎の死」については「『ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual) 』よりの考察(8) ~ いつ頃から赤ちゃんを水に親しませるか?]、及び「オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生!」、及び「「情愛型」 と 「理性型」、「対象関与型」 と 「対象非関与型」 のそれぞれの母親像の違いを探る 」という三つの投稿をご参照下さい。一方、フリーダムは5頭の出産・成育に成功しています。

フギースの授乳(2012年3月3日) - Huggies nurses her twin cubs at Ouwehands Dierenpark, Rhenen (Mar.23 2012)

フリーダムの授乳 (2015年5月1日)- Freedom the polar bear nurses her twin cubs at Ouwehands Dierenpark, Rhenen, the Netherlands (May.1 2015)

さて、こうしてフギースの娘であるフリーダムは生後三か月の時に母親であるフギースと一緒にスウェーデンからオランダへ移送されてきたわけです。そしてフリーダム自身も「偉大なる母」となったわけですが、現在でもフリーダムはフギースを自分の母親だと認識しているそうです。ただしこのアウヴェハンス動物園はフリーダムの育児中にフリーダムの母親であるフギースを同居させるなど、なかなか「刺激的」な試みを行ったりするわけですが、その時にはフリーダムは自分の母親であるフギースを大いに警戒するわけです。以下は私の撮った映像ですが、そういったシーンを再度ご紹介しておきます。

接近するフギースを警戒するフリーダム親子(2015年5月3日)Freedom the polar bear with her twin cubs is alert to Huggies, at Ouwehands Dierenpark, Rhenen (May.3 2015)

大阪のバフィン親子の浜松への移動ですが、移動中のストレスはあるかもしれませんが、到着後はバフィンもモモも通常の親子の姿に戻ると思います。別々のケージに入れられる可能性は非常に大きいと思いますが、それが原因で「親子の断絶」といったものは生じないでしょう。数時間程度で、そのようなことが起きる可能性は非常に低いと思います。

ただし母娘でも最低約半年近く離れていると、そのあとで再会しても母親は娘に非常に冷たくなったり敵視したりしたという事例を以前ご紹介しています。「ホッキョクグマの母娘の再会で何か起きるのか? ~ セシ、ヴィルマ、ピリカに冷水を浴びせた母親たち」を是非ご参照下さい。なんとこのフリーダムもその例外ではなかったというわけです。そして札幌のララ、彼女は娘のピリカと再会したのは三年後だったわけですが、ララはピリカに冷たかっただけでなく非常に機嫌を損ねたわけです。下の円山動物園の公式映像ではそのあたりはうまく感じ取れませんが、私は当時札幌でそのララの態度をよく見ています。



しかしこういったことは数時間母娘が離れた程度ではバフィンとモモの間には起こらないでしょう。

(*追記)このスウェーデンの動物園の "Kolmårdens djurpark" ですが、これを「コルマーデン」とか「コルマルデン」と表記する日本の動物園は明らかに間違いです。大阪大学のスウェーデン語講座のこのページを開いて発音を聞いてみて下さい。"å" は決して「ア」とは発音しないのです。ですから「コルマ...」ではなく「コルモ...」が正しいのです。こういったことは最初にちゃんと正しく表記しておかないと、間違いがどんどん広まってしまうわけです。

(過去関連投稿)
浜松市動物園のキロルが釧路市動物園へ ~ 注目すべきバフィン親子の浜松帰還時期
大阪・天王寺動物園のモモの将来のパートナーを考える ~ 「二大血統」の狭間で苦しい展開を予想
大阪・天王寺動物園のバフィン親子が6月に浜松市動物園へ移動することが発表される
ホッキョクグマの母娘の再会で何か起きるのか? ~ セシ、ヴィルマ、ピリカに冷水を浴びせた母親たち
『ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual) 』よりの考察(8) ~ いつ頃から赤ちゃんを水に親しませるか?
「情愛型」 と 「理性型」、「対象関与型」 と 「対象非関与型」 のそれぞれの母親像の違いを探る

(*アウヴェハンス動物園訪問記)
(2011年5月)
遂にレネン、アウヴェハンス動物園に到着!
シークーとセシ、その伸びやかさと無邪気さの大きな魅力
フリーダムを称える
(2012年3月)
レネン、アウヴェハンス動物園でホッキョクグマたちに御挨拶
アウヴェハンス動物園のフギースお母さんの双子の性格
フギースお母さんの性格と子育て
フリーダムお母さんと1歳になったシークーとセシの双子
(2015年5月)
フリーダムお母さんお久しぶりです、二頭の赤ちゃん、初めまして! ~ レネン、アウヴェハンス動物園へ
欧州屈指の偉大なる母フギースは今何を考える?
アウヴェハンス動物園二日目 ~ 三世代同居の問題点
アウヴェハンス動物園の双子の赤ちゃんの性格と素顔 ~ 「冒険家ちゃん」 と 「甘えっ子ちゃん」
フリーダム、偉大なる母のその素顔 ~ 「細心さ」から「鷹揚さ」を取り込み、咲かせた大輪の花
by polarbearmaniac | 2016-04-25 07:00 | Polarbearology

ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダとメンシコフの不屈の挑戦

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ウスラーダ(左)とメンシコフ(右)
Photo(C)Алены Бобрович/Газета Metro

ロシア・サンクトペテルブルクのレニングラード動物園で飼育されている28歳の雌のウスラーダと推定27歳の雄のメンシコフについては、つい一昨日に「ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の最近のウスラーダとメンシコフ」という投稿を行ったばかりです。レニングラード動物園は通常はこのペアのこれまでの繁殖行動期である3月から4月上旬の発情期には同居をさせず、それをあえて外して4月中旬頃からの同居を行ったことは、同園自体がこの年齢の高いペアについての繁殖はもう想定しないという意向であったことを十分に示すものであったはずです。つまり同園自体がこのペアは繁殖の舞台からの事実上引退を認めたものであったと理解してよかったはずです。
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Photo(C)Алены Бобрович/Газета Metro

ところが一昨日の投稿の「後記」にも追加しましたが、このペアに22日に繁殖行為が確認されたわけで、おそらく同園はこれを想定していなかったものと思われます。このウスラーダは現在28歳で1994年以来10回の出産に成功して16頭の子供たちの成育に成功しています。これについては「ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の女帝ウスラーダの15頭の子供たちの姿」という投稿をご参照頂きたいのですが、その投稿のあとでさらに一頭(ザバーヴァ)の出産・成育に成功していますので合計16頭ということになるわけです。札幌のララが現在まで6回の出産で8頭の成育に成功していますが、ちなみにウスラーダが現在のララと同年齢の時点では7回の出産で12頭という子供たちの数だったわけで、やはりララを上回るペースでの実績を上げていたというわけです。ところがこのウスラーダの長女であるモスクワ動物園のシモーナ(札幌のララと同年齢)も現在までで7回の出産で12頭という子供たちの数はウスラーダのペースと並んでいるというわけです。ただしシモーナの子供たちの場合は血統登録情報の不正確さのために実際は子供は11頭かもしれないという点と、彼女のパートナーであるウランゲリが現在推定25歳となっている点で、果たしてシモーナがウスラーダを子供たちの数において凌駕できるかどうかは微妙な点もあると思います。将来このウスラーダの記録に並ぶことのできる可能性があるのはノヴォシビルスク動物園のゲルダかもしれません。
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Photo(C)Алены Бобрович/Газета Metro

さて、話をウスラーダに戻しますが、こうして彼女がメンシコフとの間で繁殖行為を行ったことが確認されたからには、レニングラード動物園は夏ごろから彼女への給餌量を増加させて出産の準備を行うことになるはずです。同園は "Но мы по-прежнему надеемся на Усладу и Меньшикова." (「ウスラーダとメンシコフにはまだ期待している。」)と言い出しており、これは非常に注目せねばならないでしょう。ウスラーダが今年の年末に出産に成功しれば29歳での育児を一年間行うことになるはずで果たして母乳が出るかどうかという点も気がかりではあります。しかしこのウスラーダというのは並みのホッキョクグマでは到底ありえず、「奇跡」のようなことをやってのける可能性は十分にあるわけです。日本のホッキョクグマ界では旭川のサツキが現在24歳であり、仮に彼女が年末に出産に成功した場合は25歳での育児となるわけですが、間違ってもウスラーダと同じように考えてはいけないでしょう。日本のホッキョクグマ界ではどうも種別調整者の方が雌は25歳までは繁殖に挑戦させようと考えていらっしゃるらしいことが垣間見えてくるわけですが、留意しておかねばいけないのは母親はそれから最低一年間は子供のペースに合わせて遊んでやったりなどという育児を行い、そして母乳も与えねばいけないという点です。そのためには健康状態が良くなければならないわけで、年齢を重ねた雌の場合はそれが難しくなる場合があるということは大阪のバフィンの例を見てもわかるわけです。バフィンの場合は運良く回復したわけですが、ではサツキやキャンディがどうかと言えば、やはりかなり心配な点があります。「まず出産に成功しないことにはその後はありえない。」ということは事実なのですが、その出産年齢をデータから読み取る際に楽観的に考えてはいけない理由があります。
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ウスラーダ(左)とメンシコフ(右)
Photo(C)Алены Бобрович/Газета Metro

以前に「ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの歩む道 ~ 再説: 繁殖可能年齢上限」、及び「北米の過去約100年間の飼育下のホッキョクグマ出産記録が語ること ~ 再び考えるキャンディの今後]という二つの投稿で自然下と飼育下でのホッキョクグマの繁殖可能年齢上限について言及したことがあるのですが、そこでご紹介したデータによれば旭川のサツキや札幌の(来シーズン以降の)キャンディも確かに出産成功の可能性はあると思いますが、しかしそのデータで24歳以上で成功した例というのは全てそれまで何回も出産・育児に成功した「偉大なる母」の例であり、サツキやキャンディに当てはめることはできません。さらに留意しておかねばならないのは、そのデータが示す年齢は出産年齢であって、それから最低一年間は育児期間があるということです。これが問題なのです。そしてそれまで何度か出産・育児に成功している「偉大なる母」であっても、やはり年齢というものが立ちふさがる可能性があるわけです。

札幌・円山動物園のデナリの母であるシヌック (1977~2002)は25年の生涯で10頭の子供たちの出産と成育に成功した「偉大なる母」でした。彼女は2000年12月に彼女が23歳のときに自身の最後の子供であるアナーナ(あのバッファロー動物園で人工哺育された有名なルナの母親)を生み、そして育児に入ったわけですが、その頃からやや内蔵機能の低下が見られたものの懸命に育児を行い、そしておそらくそれが原因で体に無理がたたって亡くなってしまったわけですが、詳細は以前の投稿である「アメリカ・ユタ州、ホーグル動物園のシヌック(1977~2002 デナリの母)が最後まで殉じた母親役」を是非ご参照下さい。当時の貴重な写真をその投稿でご紹介しています。大阪のバフィンがこのシヌックのような姿になっても何ら不思議はなかったということなのです。ましてやサツキやキャンディなどはバフィンよりももっと危なっかしい感じがします。

ウスラーダは体、特に内臓が頑強らしく、そう簡単に倒れてしまうということはないかもしれませんが、しかし29歳で育児を行うとすればやはり負担は大きいでしょう。仮にウスラーダが年末に出産し、そして来年春になって親子で戸外に出てくるとすれば、同好のホッキョクグマファンの方々に申し上げたいのは、是非サンクトペテルブルクに行かれ、そして「世界の頂点」であり既に「歴史上の名ホッキョクグマ」となっているウスラーダの母親としての姿を見ていただきたいということです。ウスラーダほどの偉大なホッキョクグマの、その母親としての姿を見ることができるチャンスは、これからももう多分ないでしょう。ウスラーダこそが容易に凌駕しえないホッキョクグマの「頂点」なのです。

メンシコフ、ウスラーダ、16番目の子供のザバーヴァ(2014年)

私はよく人から「繁殖至上主義者」と見られているようです。確かに私は繁殖のためにはホッキョクグマを将棋の駒程度にしか考えない過激で思い切った移動案をここで何度も述べてきました。しかし私は年齢の高い個体(サツキ、キャンディ、バリーバなど)については早めに繁殖の場から解放してやるべきだと考えてそう書いてきたわけです。ところが種別調整者の方を中心とした日本の動物園のホッキョクグマ担当の方々は、移動については抑制的であるものの、個体の年齢については相当に高い年齢まで繁殖に挑ませようとしているように思います。同じ「繁殖至上主義(?)」であってもベクトルの向きは私とは正反対らしいということです。私は後者の考え方は危険であると思っていますが、しかし旭山動物園、円山動物園を中心として日本のホッキョクグマ界は「飼育個体数維持」を至上目的にして実践しようとしているようです。「移動」を重視するのか「高齢繁殖挑戦」を重視するのかといった考え方の違いですが、そもそも私は動物園関係者ではありませんから、できることはここでせっせと海外の事例やらデータをご紹介することだけです。

(*追記 - 欧州でも年齢の高い雌のホッキョクグマにパートナーを与えて敢えて繁殖を狙わせた例はいくつかあります。24歳だったシュトゥットガルトのヴィルヘルマ動物園のコリンナなどもその例です。「ドイツ・ニュルンベルク動物園のフェリックスがシュトゥットガルトのヴィルヘルマ動物園へ ~ 仕事師登場」という投稿をご参照下さい。また、23歳の雌のビンバをわざわざブダペスト動物園まで移動させて繁殖に挑戦させよとした事例などです。これについては「トスカーナの丘からドナウの真珠へ ~ 繁殖への希望をのせてビンバがブダペストへ 」をご参照下さい。このビンバは移動後一か月で亡くなりました。「ハンガリー・ブダペスト動物園のビンバ死す! 」をご参照下さい。さらに、22歳だったロストック動物園のヴィエナに新しいパートナーを付けるべくイタリアから個体を移動させた例もあります。「年齢差18歳に挑戦した衝撃のEAZAの繁殖計画 ~ ドイツの壮年個体に新しいパートナー決定 」をご参照下さい。このコリンナ、ビンバ、ヴィエナはいずれも出産・育児経験があったためにさらなる繁殖を期待されて新しいパートナーがあてがわれた例です。一方でロッテルダム動物園生まれのターニャ(1990 ~ 2013)は何頭ものパートナーをあてがわれたものの20歳までに全く出産経験がなかった時点でEAZAのコーディネーターは彼女の繁殖を事実上断念したのです。「ウィーン・シェーンブルン動物園、ターニャの孤独(上)」、及び「ウィーン・シェーンブルン動物園、ターニャの孤独(下)」をご参照下さい。これらの例から言えることは、22歳以上の雌の繁殖を狙う場合は、その雌に出産・育児の経験がある場合だけなのです。それが無い場合には20歳あたりで繁殖計画からは外してやるというのが欧州のやり方なのです。こういった例を知ると、サツキ、キャンディ、そして場合によってはルルも繁殖挑戦から解放してやってもよいという見解は容易に出てきそうです。20歳まで全く出産経験が無く、その後に出産・育児に成功したのは近年ではデトロイト動物園のベアレしか存在しないのです。「アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯」をご参照下さい。日本には日本の事情や考え方があるのだろうということで、これ以上述べることは今回は止めておきます。)

(資料)
Газета Metro (Apr.23 2016 - Белые медведи из Ленинградского зоопарка снова задумались о потомстве)

(過去関連投稿)
女帝ウスラーダとシモーナ、コーラ、リアの三頭の娘たち ~ 偉大な母親たちの三代の系譜
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの歩む道 ~ 再説: 繁殖可能年齢上限
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の女帝ウスラーダの15頭の子供たちの姿
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の28歳間近のウスラーダ、その果て無き挑戦
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の28歳のウスラーダ (Услада)、出産ならず
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の最近のウスラーダとメンシコフ
by polarbearmaniac | 2016-04-24 00:15 | Polarbearology

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