街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ウクライナ・ハリコフ動物園の偉大なる母であったセヴェリャンカの姿 ~ 写真という実相を語らぬ媒体の限界

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故セヴェリャンカと三つ子の赤ちゃん (Белая медведица Северянка с малышами) Photo(C)Харьковский Зоопарк

世界の動物園で飼育されてきたホッキョクグマたちには過去に偉大な母であったホッキョクグマが何頭か存在していますが、そういったホッキョクグマたちの大部分は死後に忘れ去られてしまうといったことは珍しくありません。そういった偉大なホッキョクグマたちが飼育されていた当時に担当していた飼育員さんも年月を経て動物園から去り、そういった過去の素晴らしいホッキョクグマたちを語る証人はいなくなってしまうわけです。実に惜しいことだと思います。私は少なくとも現在、動物園で活躍しているホッキョクグマたちについては単に写真や動画だけでなく、彼ら(彼女ら)の生き様についてしっかりと記述して残しておいてやりたいと常に思っています。そうしたことはウスラーダやシモーナやララといった偉大な母であるホッキョクグマたちがいかに母親として子供たちを育て、そして彼女たちがどのようなホッキョクグマであるかを記録し続けることで実践している(してきた)と思っています。

ウクライナのハリコフ動物園で1960~70年代に偉大なる母として君臨したセヴェリャンカ(1955~?)については以前に「ウクライナ ・ ハリコフ動物園に到来した暑い夏とサーカス出身のティムの近況 ~ 同園での繁殖の歴史」という投稿の中でご紹介したことがありました。彼女は1966年から1977年にかけて13頭の子供たちを産み育てた、当時としては世界屈指の名ホッキョクグマであり、幸運なことに少なくともその名前と功績だけは現在のハリコフ動物園でも「伝説のホッキョクグマ」として記憶されているわけです。しかし彼女がどのような母親であったかを記述した文章は見つかりません。現在大規模な改造工事のために閉園中の同園の前には過去に飼育していた動物園たちの記録写真が展示されているそうで、そういった中にこのセヴェリャンカが三つ子の赤ちゃんと共に写っている写真があるそうで、冒頭の写真がそれなのです。このたった一枚の写真が何を語るかですが、私の見たところたった一枚であっても、ある程度はセヴェリャンカの偉大さを見せてくれているようにも感じます。

このセヴェリャンカはおそらく、長い時間にわたって彼女の三頭の子供たちそれぞれに対して注意力を払い続けることのできたホッキョクグマだったように推測します。そうした彼女であっても一日のちょっとした時間ではこうして居眠りをしていたのでしょう。しかし子供たちは勝手に遊び回るということをせずに母親に寄り添っているという姿を見せています。こうしたことから想像できるのは、セヴェリャンカは私の分類で言えば「関与性」の高い母親であったのではないかと考えます。そして「理性型」であるよりも「情愛型」のタイプではなかったかと推測します。ウスラーダはこういったシーンを見せることは極めて稀だったのです。つまりウスラーダは自分の子供を自分の外に存在しているものと認識するホッキョクグマであり、セヴェリャンカは子供たちを自分の一部として内側に認識していたホッキョクグマではないかとおいことです。つまりセヴェリャンカはシモーナやララに近いホッキョクグマだったのではないかと想像することはあながち間違いではないように思うわけです。

このセヴェリャンカの母親としての在り方は私の経験から導いた単なる推測にすぎず、実際はどうだったかについては今となってはわからないということです。近年において私は感じるのですが、写真といものは実はあまり多くのものを語らないと思うようになりました。動画は写真以上のものを語ることが比較的多いとも感じるようになりました。しかしそういったものよりも、「セヴェリャンカはどういう母親であったか?」、つまりセヴェリャンカの母親としての実像を明らかにできるのは当時彼女を実際に観察した人の書いた文章、あるいは証言だろうと思います。そういった当時のものを読むことができないのは非常に残念です。

(過去関連投稿)
サーカスを「引退」し余生を送るホッキョクグマ ~ ウクライナ・ハリコフ動物園のティムの夏
ウクライナ・ハリコフ動物園のティムの近況 ~ 繁殖の「過去の栄光」をどう考えるか
ウクライナ ・ ハリコフ動物園に到来した暑い夏とサーカス出身のティムの近況 ~ 同園での繁殖の歴史
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ウクライナ東部、ハリコフ動物園のティムの無事を願う ~ ウクライナの動物園に蔓延した根深い腐敗
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ウクライナ・ハリコフ動物園のティムの知られざる過去 ~ 1998年にキエフで起きた悲劇
ウクライナ・ハリコフ動物園の最低二年間の閉園期間中での老齢のティムの健康状態と将来を憂う
ウクライナ・ハリコフ動物園がホッキョクグマ飼育にEAZA(欧州動物園・水族館協会)への依存に傾斜深める
# by polarbearmaniac | 2017-09-25 03:00 | Polarbearology

ロシア北東部サハ共和国で北極海岸より700キロも離れた内陸で野生孤児が目撃 ~ 保護に動く自然管理局

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Photo: С сайта Минприроды РС

非常に気になる報道がロシアから流れてきています。野生孤児の目撃情報に対してロシアの連邦政府の自然管理局がこの個体の保護に動きだし、モスクワ動物園がその捕獲作戦に協力する構えを見せているという現在進行形のニュースです。複数のソースは細部において内容がかなり錯綜していますが内容をまとめると以下のようなことだそうです。
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事の発端は9月の初旬のことだそうです。ロシア北東部のサハ共和国のスレドネコルィムスク地区の村に住む漁師が付近で一頭のホッキョクグマを目撃した情報が当局に寄せられたためその地区の自然保護官が確認に向かったものの、ホッキョクグマは発見できなかったそうです。そして数日後になってコルィマ河付近のスルギヤタールという村に一頭のホッキョクグマが現れ犬と遊んだりしていたものの、連絡を受けた自然保護官が到着する前にホッキョクグマは姿を消してしまったそうです。9月19日と22日に再びホッキョクグマは姿を現したそうです。その際に撮影された映像をご紹介しておきます。



この一頭のホッキョクグマは一歳と思われる幼年個体であり(ロシア大統領府は推定生後約9ヶ月だと述べていますが)、このような年齢のホッキョクグマは単独では生きていけないということと、この地域に生息している別種の熊たちに襲われる危険性があるため自然保護官はサハ共和国にある連邦政府の自然管理局の出先部署に連絡し、このホッキョクグマを保護するための捕獲の許可を求め、その許可を受けたとのことです(この許可がありませんとロシアでは野生のホッキョクグマの保護のための捕獲ができません)。この幼年個体は多分コルィマ河流域を移動するだろうという予測のもとで、サハ共和国の自然管理局は至急に捕獲のための専門家チームを集め、それにモスクワ動物園のスタッフも合流してなんとかこの幼年個体を保護したいと動き始めたそうです。しかし何故ホッキョクグマの本来の生息地である北極海の海岸から約700キロも離れた場所でホッキョクグマの幼年個体が単独で歩いていたのかは謎であると地元の報道は伝えています。

モスクワ動物園は実に素早い動きを見せていますね。多分連邦政府の自然管理局に対して日頃から、こういった野生個体が見つかったら保護に協力したいと申し出ていたのでしょう。うまく保護できればモスクワ動物園のヴォロコラムスク附属保護施設に収容するのでしょう。そしてロシアにおける飼育下のホッキョクグマの血統の遺伝的多様性の維持に協力してもらいたいということでしょう。ロシアにおけるホッキョクグマの野生孤児個体の保護政策とロシアの動物園における飼育下のホッキョクグマの個体数維持をこうした形で結び付けようとしているわけです。しかし最も重要なことは野生のホッキョクグマの生命を守るということにあります。飼育下のホッキョクグマの血統の多様性維持という問題はその次の話であることは言うまでもありません。

そういったことはともかくとして、なんとか今回目撃された野生の幼年個体を無事保護してもらいたいと思います。これから数日が正念場となるでしょう。ロシア大統領府のHP内のプーチン大統領のホッキョクグマ保護に関するサイトでも今回出現したホッキョクグマについて述べられており、ロシア政府の全面的な支援のもとでの捕獲・保護作戦となっています。

(資料)
Администрация президента России (ПРОГРАММА «БЕЛЫЙ МЕДВЕДЬ» Sep.22 2017 - В Якутии пытаются спасти белого медвежонка)
SAKHALIFE.RU (Sep.22 2017 - В Среднеколымском районе рыбаки заметили белого медведя. Мишка их тоже заметил)
РИА Новости (Sep.22 2017 - В Якутии пытаются спасти белого медвежонка)
SakhaNews (Sep.23 2017 - В Среднеколымском районе появился… белый медведь)
Российской газеты (Sep.23 2017 - В Якутии белого медвежонка заметили в 700 километрах от берега моря)
YakutiaMedia.ru (Sep.22 2017 - Белого медведя заметили рыбаки на реке Колыма в Среднеколымском районе Якутии)

(過去関連投稿)
ロシア極北で負傷、ペルミ動物園で保護されたセリクについて ~ ロシアでの野生孤児の個体保護の問題点
ロシア極北・チュクチ自治管区 リィルカイピ村でホッキョクグマの生後約8ヶ月の孤児が発見・保護される
# by polarbearmaniac | 2017-09-23 22:00 | Polarbearology

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