イワンとゴーゴは本当に兄弟なのか？ （終）

(３よりの続き)
日本の動物園側のデータは血統台帳(Studbook)に付随したデータであると思われます。ですから、（旭山）動物園はそれを公表したのでしょう。一方、私がここでご紹介したモスクワ動物園の資料で実際にその個体を飼育したモスクワ動物園のエゴロフ、ダヴィドフ氏が提示しているデータは、まさか両氏が頭で全て記憶したものを表にしたわけではなく、何か「別の記録」を参照してまとめられたデータに違いありません。その「別の記録」とはなんなのでしょうか？　私が推測しますに、それは個体の「飼育日誌」「飼育記録」のようなものなのではないでしょうか。交尾の日付が特定されていたり、また移動先に一般のロシア人が知らないような地名である「旭川(Asahikawa)」という具体的な地名が入っていることから考えて、これは特定の個体の飼育記録に基づいてまとめられた表だろうと考えます。とすれば、紙の上の「血統台帳(Studbook)に付随したデータ」がいかに権威のある記録であったにせよ、実体はあくまで個体の飼育に付随している今回ご紹介したモスクワ動物園の資料のほうが正しいと考えるべきです。　つまり、

イワンはモスクワ動物園で生まれで、母親はシモーナ、父親はウランゲリ、ゴーゴはペルミ動物園で生まれ母親はアンデルマで父親はユーコン、これが事実だということです。　ですから、この２頭が兄弟だなどということはありえません。

ところが先にも申し上げましたように、「道内ホッキョクグマ飼育4園共同声明」にはイワンもゴーゴと同じペルミ動物園で生まれたことになっており、また某動物園で掲示されている血統図ではイワンとゴーゴは兄弟として図示されています。これらの情報は動物園側が得た血統台帳(Studbook)に付随したデータをそのまま引用しているからです。

ただしかし、公的機関である動物園があくまで公式な記録である血統台帳(Studbook)に付随したデータに基づいたことを発表をするのは立場上いたしかたない話で、一般的にそれ自体を批判すべきではないですし、私もそれを批判する気はさらさらありません。　ただし、私たちしろくまマニアはそうした矛盾を含む「公式記録」をただひたすら信じるのではなく、本当に個体と結びついている生の情報に接しておく必要があります。　しろくまマニアとしては今後ともこういう情報を収集したいと思っています。

＊「ロシアのホッキョクグマ界を覆う闇　(上)」という次の投稿に続きます。


＊(後記）先日ある方が旭山動物園の方に「イワンとゴーゴは兄弟ですか？」と尋ねられたそうです。旭山動物園の方はnot affirmativeという態度だったそうです。それを考慮に入れると、旭山動物園でもこの問題の存在について認識している可能性がないわけではなく、同園ではこの２頭の兄弟関係については懐疑的であることを意味します。しかし、あくまでもこのことは伝聞(hearsay)ですので、私としてはこれ以上何とも申せません。