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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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ウクライナ・キエフ動物園 ~ 動物連続怪死事件の謎(後)

ウクライナ・キエフ動物園 ~ 動物連続怪死事件の謎(後)_a0151913_18581445.jpg
Photo(C)Таисии Стеценко, Корреспондент.net

(前投稿よりの続き)

憶測が憶測を呼ぶ原因が迅速で正確な情報が不足している場合にあることは洋の東西を問いません。ウクライナという国に情報の迅速さ、正確さを期待するのは無理なようです。そういった中で5月の終わり頃になってネット上で一人のジャーナリストの記事が現れましたが、この記事によってこの事件は新たな視点によって検討されることになりました。そのジャーナリスト、アンドレイ・カプスチン氏の述べる内容を大雑把にまとめてみます。

(a)ゾウが死亡したあと検死が行われる2時間も前に園長はゾウの死因は毒殺であると発表している点は不可解。

(b)ゾウの死因について園長も獣医も、何物かが与えた食べ物として与えた卵に毒が盛られていたのではないかと言っているが、通常ゾウはそのような蛋白は食べない。

(c)2頭のヤクの「毒殺未遂」事件だが、この事件自体の存在を裏付けるものがない。

(d)キエフ動物園の飼育員には動物の飼育の資格の無い者がなっており、動物のエサについても本来与えるべきものではないものを与えたりしている。

(e)キエフ動物園の経理処理に不明朗な部分が非常に多い。たとえば寄付金についての受領した額と計上額に大きな相違がある。

カプスチン氏は、こういった動物園側の問題点に触れたわけです。カプスチン氏だけではありません、他のジャーナリストも、このキエフ動物園の運営について多大な疑問を提起します。この動物園の元職員さんも告発のサイトを開設し、キエフ動物園の問題点を訴え続けています。そういった疑問の中でやや気になったのは、このキエフ動物園を廃園にして、この場所を再開発したいという野望を持つ建設会社や開発業者の存在という点です。そういった勢力の背後には政治的な力が働いていることは十分予想されます。そういう話になってくると、調査ジャーナリズムが大活躍する領域になってくるのですが、そういった多くのジャーナリストの取材の問題点は、憶測の上にさらなる憶測を重ね、仮定の上に仮定を重ねています。なるほど読んでいる分にはおもしろいですが、具体的な一つの事件と「大きな謀略」を根拠をもって結びつけることができていません。

たとえば、ロシアでチェチェン紛争を取材しプーチン批判の急先鋒であった女性ジャーナリストにアンナ・ポリトコフスカヤという人がいます。 彼女の著作の何冊かは日本語にも翻訳されています。 「プーチニズム~報道されないロシアの現実」とか、 「ロシアンダイアリー ~ 暗殺された女性記者の取材手帳」とかは、なるほど読んでいてなかなかおもしろいとは思います。彼女が取材し記事にした内容が原因かどうかは知りませんが、自宅の外で何物かに射殺されてしまったわけです。日本のジャーナリズムやロシア文学関係の方々は彼女を非常に評価する人が多いのですが、私の知る限り彼女は非常にロシア人には評判が悪かったですね。プーチンに批判的なロシア人でもそうでした。彼女の書いていることには過度な思い込みや憶測が多すぎるわけです。彼女の評価が低いことはロシア通ならみんな知っていますよ。

今回のこのキエフ動物園での動物連続死事件で、まるで百家争鳴のごとくいろいろな意見が出ているのですが、私に言わせれば重要な点は一つだけです。それぞれの動物の検死報告書、その中での毒物の存在の有無です。ジャーナリストはこれを軽視していますね。 動物園の不正経理だの寄付金の流用だの開発業者の土地開発計画だの、そういったことよりもなによりも毒物の存在の有無について徹底的な取材ができていないことに問題があります。あるジャーナリストは、「検死報告書をこっそり見る機会があったが、報告書には毒物の存在が記されていなかった。」などと言っていますが、これは多分うそでしょう。それを見る機会などあったはずがありません。

今回の事件、真相は以下の3つのどれかでしょう。
①外部の人間が動物に毒を与えた。
②動物園自体が動物に毒を与えた。
③動物が死んだのは自然死であった。

①はキエフ動物園の主張です。②は一部のジャーナリストの主張です。③は一部のジャーナリスト及び動物保護団体の主張です。

①が正しいなら犯人の動機はなにかということです。②が正しいとしたら、動物園は自然死として事実を隠蔽して処理すればいいものを、最初から「毒殺」と主張する意図がわかりません。③が事実ならば、動物園側は自分たちの動物飼育状態の劣悪さで動物が死んだことを隠蔽しようとして「毒殺」を持ち出したことになります。

キエフ動物園は暫定の新管理体制のもと6月から運営されていますし、新しい園長の任命も近くあるようです。モスクワ動物園が支援に乗り出すという話もあります。また、キエフ市は調査委員会が事実の究明に乗り出しています。 何事も魑魅魍魎としたウクライナでの事件ですから、本当に真相解明が可能かどうかにも不安が大きいと思います。いずれにせよ、今後の成り行きを注意して見守りたいと思います。
by polarbearmaniac | 2010-06-28 19:00 | 動物園一般

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