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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア・ロストフ動物園の損得勘定 ~ 雌のホッキョクグマの等価交換価値対象は?

ロシア・ロストフ動物園の損得勘定 ~ 雌のホッキョクグマの等価交換価値対象は?_a0151913_21235471.jpg
ピム(カザン市動物園)   Photo (C) prokazan.ru

ロシアのペルミ動物園を訪問して将来生まれる雌のホッキョクグマの赤ちゃんの獲得を狙ったベルリン動物園のブラスキエヴィッツ園長については一昨日付けの記事で御紹介いたしました。しかしこのブラスキエヴィッツ園長、ペルミ動物園の園長さんの約束だけで満足するような能天気な人ではなかったようです。ロシアの別の動物園にもしっかりと接触を行っていたのでした。その動物園とはモスクワの南東約1000キロに位置する街、ロストフ・ナ・ドヌーの動物園(Ростовский Зоопарк ― 以下簡単に「ロストフ動物園」と略します)でした。

最初のペルミ動物園訪問から約2年後、ブラスキエヴィッツ園長さんは俊敏な動きを見せます。2007年の暮にカザン市動物園でホッキョクグマの赤ちゃんが誕生したことはすでにこのブログでも記事にしていますが、ブラスキエヴィッツ園長さんはカザン市動物園をターゲットにして直接この赤ちゃんの獲得を狙うような正面突破作戦はとりませんでした。ブラスキエヴィッツ園長さんが目をつけたのは、このウルマという赤ちゃんの両親だったのでした。園長さんはこの赤ちゃんの父親であるピムカがロストフ動物園から来た個体であることに目を付けました。ということは、カザン動物園で生まれる赤ちゃんの権利はロストフ動物園にもあることになります。この2007年暮に生まれた赤ちゃんは性別が雌だったためにカザン市動物園が優先的権利を持こととなったわけでしたが、ロシア国内でのホッキョクグマの繁殖を目的としてその後イジェフスク動物園に移動したことはこのブログの記事でもお伝えしています。ブラスキエヴィッツ園長さんが狙ったのは、この2007年暮誕生の雌の赤ちゃんのウルマではなく、その後に生まれてくるであろう雌の個体だったのでした。次に生まれてくる個体の権利がロストフ動物園にあることを知った上で、ベルリン動物園のブラスキエヴィッツ園長さんが接触したのはまさにこのロストフ動物園でした。

ブラスキエヴィッツ園長さんには目論みがありました。このロストフ動物園にはもう約20年間にわたって象が不在である事実に目をつけました。ブラスキエヴィッツ園長さんはロストフ動物園に対して以下のような条件を提示して、今後カザン市動物園で生まれてくる個体の入手を狙ったのでした。

「ロストフ動物園さんには象がいませんね。私たちベルリン動物園には象が19頭います。 どうでしょうか、私どもベルリン動物園のアジア象3頭と、ロストフ動物園さんが権利を持っているカザン市動物園で生まれるホッキョクグマの個体のうちの雌の赤ちゃん1頭を交換しませんか? アジア象は2頭の雄と1頭の雌で、いずれも若くてまだ4歳になっていない若い個体ですよ。」
ロシア・ロストフ動物園の損得勘定 ~ 雌のホッキョクグマの等価交換価値対象は?_a0151913_21271559.jpg
Photo(C)Berliner Zeitung

ロストフ動物園の園長さんはこの条件を受け入れたのでした。ベルリン動物園のブラスキエヴィッツ園長や関係者は「してやったり!」と感じたようです。「得な交換条件だった!」、それがブラスキエヴィッツ園長の本音の気持ちでした。一方、ロストフ動物園の園長さん以外の関係者やファンは複雑な気持ちだったようですね。何故かと言えばロシア側にとってこの交換は損だと感じたからでした。 「若い雌のホッキョクグマ1頭は若いアジア象3頭よりも価値かある...。」、なんとこれはドイツ側とロシア側の共通な認識だったということです。ロストフ動物園の園長さんは、「動物に価値の差異はない。展示動物の欠落を埋めるためには、どの動物園も協力し合っていかねばならない。」と発言していますが、この交換に不満を抱く関係者への言い訳のように思われます。なぜならベルリン動物園にはクヌートも含め東西2園で6頭ものホッキョクグマがすでに飼育されていたからです。

こうして2009年8月に旧東ベルリンのベルリン動物公園(FriedrichsfeldeのTierpark)から3頭のアジア象がロストフ動物園にやってきました。この象、それからはこの動物園で大変な人気者になっているそうです。一方、ベルリン動物園(東西2つ)にはロストフ動物園からの象と交換のホッキョクグマが来た形跡がありません。2009年暮にカザン市動物園で生まれた赤ちゃんについてはすでに何度が御紹介していますが性別は雄です。ベルリン動物園としてはカザン市動物園で生まれロストフ動物園に権利のあるこのピムという赤ちゃん(冒頭の写真)を取るのではなく、おそらく2年後にまた生まれるであろう雌の赤ちゃんについてロストフ動物園に権利を主張させ、そしてベルリンに連れてくるように思われます。 アジア象3頭は、そのための一種の「先行投資」なわけです。実に遠大な雌のホッキョクグマの赤ちゃん獲得計画のようです。

若い雌のホッキョクグマ1頭 > 若いアジア象3頭

意見はいろいろあろうかと思いますが、現実にはこれが比較的最近の欧州とロシアの動物園関係者の交換価値比較認識のようです。ホッキョクグマの雌の赤ちゃん、現在ではいかに価値のあるものかを物語るものです。

*(資料)
РИА НОВОСТИ(Sep.7 2009
Российская газета (Oct.9 2008)
Дон-ТР(Sep.7 2009)
Berliner Zeitung (Sep.16 2008)

*(追記) ロストフ動物園でももちろん飼育されている個体がいます。以下はその個体の映像です。

by polarbearmaniac | 2010-09-01 21:30 | Polarbearology

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