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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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釧路市動物園クルミの行動、および人工哺育の場合への備えについて

釧路市動物園クルミの行動、および人工哺育の場合への備えについて_a0151913_20403475.jpg
デナリとクルミ Photo:釧路新聞社

28日付けの北海道新聞が興味深い記事を掲載しています。
>釧路市動物園は妊娠の可能性があるホッキョクグマ10件・クルミ(雌・13歳)の屋外展示を11月3日を最後に中止し、同4日に産室内に隔離する「出産準備」に入る。(中略)...釧路市動物園は1月、当時札幌の円山動物園から繁殖のために借りていたデナリ(雄・16歳)とクルミの交尾を確認。クルミは秋に入り、産室を出入りしたり、砂場に深い穴を掘ったりするなど、普段とは違う行動を見せるようになり、「妊娠の兆候か」と飼育員の期待が高まった。 (中略),,,1975年からホッキョクグマ10件の飼育・繁殖に取り組んできた釧路市動物園では、これまで15頭が誕生しているが、無事に成長したのはわずか4頭。過去の経験を踏まえ、今回は「万全の態勢」で出産に備える。8月には暗闇でも映る赤外線カメラを産室内に設置。24時間態勢で監視を続ける。初産のクルミが育児放棄をする可能性に備え、人工保育の準備も整えている。 山口良雄園長は「しばらくはクルミに会えないが、無事に赤ちゃんが生まれてくれるよう静かに見守ってほしい」と話している。2010年10月28日 北海道新聞
クルミの、普段とは違う行動が確認されているようです。しかしこれが直ちにクルミの妊娠の可能性を意味するものかどうかは慎重に考えたほうが良いでしょう。しかしそうはいってもクルミとデナリの繁殖行動時期がやや早かったこともあり、「出産準備」体制への移行が11月初頭から始まることは理解できる話です。クルミが育児放棄した場合に備えての人工哺育の準備も整えているということですが、先日も書きましたようにこれも十分に予想できることです。これはあのトスカしかり、あのヴェラしかり、さらにその他過去のアメリカの事例でもあるように、たとえ雌が初産の場合においても人工哺育を行った例はいくつもありますからクルミの年齢も考慮に入れて考えれば当然とも思われます。

ホッキョクグマの人工哺育については90年代末までにはアメリカで方法論としてすでに完全に確立していたわけですが、ここ数年の間に意識が非常に変化しており、人工哺育で育った個体のその後のsocializationについての研究と関心へと展開しています。人工哺育を行うか行わないかは産室内部の様子が把握できるか否か、赤ちゃんが食害を受ける前にお母さんから引き離すことができるかどうかといった技術面の障害さえクリアできれば、母親の育児放棄直後からそれを行う条件は整ってきているわけです。

あのフロッケを人工哺育で育てたニュルンベルク動物園の園長さんが人口哺育を行うか否かの決断はcase by case basisであると語っていますが、これは出産・育児放棄などの状況を技術面を考慮しつつ選択するという意味であり、たとえば一例を挙げれば出産・育児に失敗し続けた母親の次の出産は人工哺育で行うなどという選択を意味しているわけではありません。後者のような出産失敗回数が選択肢になりうるという議論には出会ったことがありません。今回のクルミのケースは、仮に幸運にも出産したにもかかわらず育児放棄があれば(そして人工哺育への移行についての技術面をうまくクリアさえできれば)、その後の対応策としての人工哺育を行う準備を整えるということですから、それはしごく当然と思われます。人工哺育の方法論の確立している現在では、よほどの低レベルの施設ではともかくも、一定水準以上の施設であれば選択肢として持ち得るわけです。

いずれにせよ私たちはホッキョクグマの出産に過度の期待を持つのではなく、リラックスして構えて「失敗して当たり前だ」という程度の認識でいるほうがいいでしょう。
by polarbearmaniac | 2010-10-29 17:00 | Polarbearology

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