街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

モスクワ動物園のシモーナ(5) ~ 消息不明の息子は何処に? (中)

a0151913_20412795.jpg
a0151913_20414570.jpg
a0151913_2042217.jpg
イワン(旭山動物園)の母、シモーナ
Nikon D3s
シグマ 70-300mm f/4-5.6 DG OS
(2010年5月2日撮影 於 ロシア・モスクワ動物園)


前投稿よりの続き)
モスクワ動物園のシモーナが2000年11月20日に生んだ双子の一頭である旭山動物園のイワン、彼の兄弟が何処にいるかの探求についてです。

2000年11月20日という誕生日の記録を持つ姫路市立動物園のホクトが同動物園に編入されたのが2002年3月29日であることは前投稿でご紹介した通りです。そしてイワンの兄弟がモスクワ動物園を旅立ったのは飼育記録より2002年5月31日であることもご紹介しました。そしてイワンがモスクワ動物園を旅立って旭川に向かったのは2002年6月24日です。つまりこれらの事実は以下を意味します。ホクトが姫路市立動物園に編入された時点ではシモーナが2000年11月20日に生んだ雄の双子は2頭ともまだモスクワ動物園にいたということです。ですので、ホクトがイワンの兄弟ということはありえませんしシモーナの息子でないことも明らかです。ちなみにイワンは2002年6月26日に旭山動物園に入園している記録を旭山動物園は昨年6月4日の「道内ホッキョクグマ飼育4園共同声明にかかる中間報告」で公式に明らかにしています。モスクワを6月24日に出発した航空機が成田に到着するのは翌日25日です。そこで輸入検疫、輸入通関が行われ、さらに空輸で北海道に移送されたのは翌日の26日のはずですから、イワンについてはモスクワ動物園の飼育記録と旭山動物園の記録はピタリと完全に符号しています。それはそうでしょう、飼育記録というのは日々、時系列で記載されるものですのでモスクワ動物園側の日付記録の誤りを想定することは困難だからです。かつて流布していた「イワンとゴーゴ兄弟説」などは明白な誤りですが、「イワンとホクト兄弟説」ならば成立する可能性は無きにしもあらずと言えたでしょう。いや、むしろこちらのほうが可能性があったはずなのに、なぜ「イワンとホクト兄弟説」が流布しなかったかについては原因があるように思えます。それは後で述べます。

さて、シモーナが2000年11月20日に生んだ双子のうち、イワン以外の1頭は果たして現在どこにいるのか、これを追及することは中国側の記録を参照できなければ暗礁に乗り上げたような感じもするのですが、ここで発想を転換してみることとします。それは、姫路市立動物園のホクトのロシア時代の軌跡を追及してみる試みです。これを追及する過程で何かが明らかになるかもしれないと考えたからです。私は以前、「アンデルマ/ウスラーダ系日本飼育個体血統図」というものを作成しています。ここでは姫路のホクトと大阪のゴーゴを兄弟として記載しています。ホクトをゴーゴの「兄」としたのは、ホクトがモスクワ動物園でシモーナから生まれた個体であることを否定すれば、ホクトの血統をペルミに落っことさざるを得ないということだったからです。傍証として、ロシア側の報道でペルミ動物園から日本に行ったホッキョクグマの個体は「複数(2頭と考えてよいでしょう)」いるという記載がなされていたこと(その記事の記録が今見つからないのが痛恨事ですが)、そして私が昨年ペルミ動物園を訪れた際に職員の方がそれを肯定していたという事実からです。つまりホクトについては「消去法」で必然的にゴーゴの兄としたわけです。しかし私には何故か非常にひっかかるものを払拭できません。

それはあのアンデルマの顔、特に口の周りの独特な雰囲気です。大阪のゴーゴはアンデルマのそのあたりの雰囲気が生き写しのように見えます。そしてゴーゴの姉のロシア・エカテリンブルク動物園のアイナの写真を見ても非常にこの雰囲気が似ています。それどころではありません、なんとあの「世界で最も偉大な男」でありゴーゴの父親違いの兄であるサンクトペテルブルクのメンシコフもこの雰囲気を持っているのです! ところが....ホクトにはこの雰囲気は皆無です。直感的にはホクトにはアンデルマの血は無いように見えます。それどころか、「似ている」「似ていない」という観点だけで言えば、意外なことにホクトはイワンに比較的似ているという感じはします。そしてイワンはシモーナの夫のウランゲリに似ています。もっとも、ホッキョクグマの親子、あるいは兄弟だから「似ている」というのは注意を要します。意外にあてにならないことが多いからです。旭川のルルと札幌のララは双子の姉妹ですが、それを知らないでこの2頭を見ると双子の姉妹と言い当てるのはまず不可能でしょう。ですから、ホクトがアンデルマに似ていないから血の繋がりはないと断じることもできないでしょう。

ここで実に奇妙な事実を指摘しておかねばなりません。それは,昨年1月28日の「道内ホッキョクグマ飼育4園共同声明」における記載です。ここで旭山動物園はイワンについてこう記載しています。「2000年12月8日  ロシア・Perm動物園生(注 - Permというのはペルミ/Пермьの英語綴りです)」。これは明らかに誤りであうことは言うまでもありません。そしてその半年後の昨年6月4日の「中間報告」ではイワンについて「2000年11月20日 モスクワ動物園生」と訂正されて正しく記載されています。そして私が10月に旭川に行った際に動物園内のイワンの情報に関する手書きの表示も訂正となっていました。では旭山動物園が当初訂正前に記載していた「2000年12月8日  ロシア・Perm動物園生」というのは、いったい何なのでしょうか? 日本の動物園において飼育されているホッキョクグマの血統管理を行っている旭山動物園が何故、よりにもよって自分の園で飼育している個体(イワン)の生地や生年月日を事実ではない情報で昨年1月の時点で記載していたのでしょうか? そして何を根拠に半年後になって正しい情報に訂正したのでしょうか? イワンに関して当初の誤った情報である「2000年12月8日  ロシア・Perm動物園生」は血統登録の情報でしょうか? それとも後から訂正したほうが血統登録の情報でしょうか? どちらにせよ間違いなく言えることは、旭山動物園にはイワンに関して2つの情報があったということです。私が重要だと考えるのは、血統登録という紙の上だけで屹立している情報ではありません。それは裏付けのない単なる「点」でしかないからです。もっと重要なのは彼らの生きてきた姿、つまり個体生身に関する本当の情報、つまり生きてきた軌跡という「線」の情報です。私はこの件で旭山動物園を非難するつもりは全くなく、むしろその逆です。園内のホッキョクグマの誕生日の表示パネルなど来園者にとってはそれほど重要ではないにもかかわらず、ちゃんと注意書きを入れて訂正していた旭山動物園の誠意のほうを高く評価します。

謎は深まります。旭山動物園がイワンの誕生情報として訂正前に記載していた「2000年12月8日  ロシア・Perm動物園生」...これは実は、どこかにいる全く別の某個体Xの情報ではないか? その謎の「個体X」の正体は何者なのか....?
 
探究は続きます。

続く

(*後記)ペルミ動物園で生まれたホッキョクグマが2頭日本に送られたことを示す記事を見つけました。 それはコムソモリスカヤ・プラウダ紙の2010年4月8日付の記事です。
Комсомольская правда (Apr.8 2010)

(資料)
Polar Bear Husbandry at the Moscow Zoo (I.V.Yegorov, Y.S. Davydov)
Вести/Государственный интернет-канал "Россия" (Jul.12 2010)
Первый канал (Nov.13 2010)
道内ホッキョクグマ飼育4園共同声明(2010年1月28日)
道内ホッキョクグマ飼育4園共同声明にかかる中間報告(2010年6月4日)
(過去関連投稿)
モスクワ動物園のシモーナ(1) ~ 偉大なる母の娘、やはり偉大なる母となる!
モスクワ動物園のシモーナ(2) ~ その初産への道のり
モスクワ動物園のシモーナ(3) ~ 豊かなる母性の輝き
モスクワ動物園のシモーナ(4) ~ 消息不明の息子は何処に? (上)
秋の日の御大イワン
否定された「イワンとゴーゴ兄弟説」
ロシア 「アンデルマ/ウスラーダ系」の日本飼育個体血統図
独居生活終焉間近のゴーゴを拝見 ~ 遂にバフィンとの柵越し御対面
ロシア・エカテリンブルク動物園の仲良しペアへの大きな期待 ~ ロシアの新しい繁殖基地を目指して
ロシア・ペルミ動物園、アンデルマの表情(1) ~ 捕捉し難き素顔
ロシア・ペルミ動物園、アンデルマの表情(2) ~ その存在への認識
ペルミ動物園訪問の印象
by polarbearmaniac | 2011-04-22 21:00 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ドイツ・シュトゥットガルト、..
at 2018-07-23 17:00
大阪・天王寺動物園のシルカに..
at 2018-07-23 01:00
ロシア・ロストフ動物園で進む..
at 2018-07-22 03:00
ロシア・サンクトペテルブルク..
at 2018-07-21 02:00
ロシア極北・カラ海沿岸でロシ..
at 2018-07-20 02:00
ロシア・南ウラル地方、チェリ..
at 2018-07-19 03:00
ロシア北東部・ヤクーツク動物..
at 2018-07-18 02:00
ロシア、ニジニ・ノヴゴロドの..
at 2018-07-17 00:30
フィンランド・ラヌア動物園の..
at 2018-07-16 03:00
スコットランド、ハイランド野..
at 2018-07-15 03:00

以前の記事

2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Lenin's Tomb: The Last Days of the Soviet Empire


Resurrection: The Struggle for a New Russia


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag