街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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札幌・円山動物園の北京での提案を批判する ~ ありえない北京動物園とのホッキョクグマ交換

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イコロ (2011年6月11日撮影 於 おびひろ動物園)
Nikon D7000
TAMRON 18-270mm F3.5-6.3 Di II VC PZD

現在ロシアのペルミに滞在している私に、ある方からメールがありました。その内容によりますと、北海道新聞の報道で円山動物園が北京動物園とのホッキョクグマの交換を北京で提案したということのようです。私はその北海道新聞の記事をネット等で確認することができませんでしたので、この件に関する中国側の報道がないかと調べてみましたら北京より人民日報(9月13日付)の報道で案の定、大変気になる記事が出ていました。 記事によりますと北京訪問中の札幌・円山動物園の園長さんと関係者、その他の随行の一行が北京動物園を訪問し、希少動物についての交換可能リストを双方の間で交換したとのこと。そして円山動物園のリストの中にはホッキョクグマが含まれているとのことです ( "..据北京动物园副园长张金国介绍,北海道圆山动物园园长一行人,来到北京动物园考察,提出想与北京动物园在“稀少动物的繁殖”方面进行交流,在其提交的一张想引进的动物名单中,包括黑猩猩、北极熊和小熊猫。" )。 北京動物園の言うには現在ホッキョクグマ飼育展示場を建設中で、来年に完成後に他の動物園に預けてある本来飼育していたホッキョクグマが北京に戻ってくるので、ホッキョクグマ交換に関しては早くても来年末からの話し合いになるだろうとの内容です。

驚きました。まさか円山動物園がホッキョクグマを交換可能リストに入れていたとは知りませんでした。まったく馬鹿げた話だと思います。その理由は、北京動物園がいくら飼育環境を整備してもそれは十分でないからホッキョクグマを日本から北京に送るのは可哀想だとか、中国人は世界最低の品性の持ち主だから日本から送ったホッキョクグマがどうなるかわからないとか...そういう種の話なのではありません。また、イコロやキロルやアイラが可愛いから日本から外に出したくないとか、そういった話でもありません。問題の本質は「血統」なのです。

現在円山動物園の所有している個体は、ララ、デナリ、サツキ、イコロ、キロル、アイラの5頭のはずです。そもそもホッキョクグマを交換するというのは繁殖を目的とすること以外にはありえません。 となれば、円山動物園(札幌市)に所有権がある幼年個体、つまりイコロ、キロル、アイラの3頭のうち1頭を北京に送り、代わりに北京から1頭を繁殖目的のために札幌に連れてくるということを考えているのでしょう。具体的にはおそらく帯広にいるイコロを北京に送り、北京の雄の幼年個体を札幌に連れてきてアイラのパートナーにしようということでしょう。 しかし、それは全く不可能です。

北京動物園所有のホッキョクグマは彼らに言わせると6頭とのことですが、私の調べた限りでは5頭のはずです。そのうち幼年個体は今年の冬にモスクワ動物園から北京(中国)に送られ、現在某所に預けられているという雄のサイモンと雌の1頭(名称不明)です。彼らはイコロとキロルより1年下の個体です。雄のサイモンはロシア・サンクトペテルブルクのウスラーダメンシコフの息子です。つまりロッシー(静岡)とカイ(仙台)の弟です。このサイモンを札幌に連れてきてアイラのパートナーとすることなどできないことは明白です。サイモンは「アンデルマ/ウスラーダ系」の個体ですから繁殖に成功しても次の世代の繁殖ができません。 そういう理由で「クーニャ系(ララ系)」と「アンデルマ/ウスラーダ系」の組み合わせは禁手のはずですよ。それから、北京動物園所有の雌の1頭の方は母親がモスクワ動物園のムルマです。ということはこの雌は男鹿水族館の豪太の妹です。これをアイラと交換して札幌に連れてきてイコロのパートナーとさせることなどできません。男鹿水族館の豪太と血統が重複してしまいます。
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さらに次に北京動物園所有の壮年個体を見ていきましょう。雄(10歳)は旭川のイワンと双子の兄弟ですからやはり「アンデルマ/ウスラーダ系」です。雌(10歳)は姫路のホクトの双子の兄妹である可能性が濃厚」で、これはアンデルマの娘ということになります。ですから、この2頭もダメなのです。 さらにもう1頭、16歳の雄のピンピンがいますが、彼は血統は不明ですが、まだ繁殖に成功していません。この個体を繁殖実績のある壮年個体の雄のデナリや雌のララのどちらかと交換しますか? あるいは旭川にいるサツキと交換しますか? 全くあり得ない話です。今まで何度も申し上げていますが中国・韓国のホッキョクグマ界は「アンデルマ/ウスラーダ系」が制圧しているのです。この「アンデルマ/ウスラーダ系(俗に”ロシア系”などと言う人がいますがその用語使用は全く不正確です)」と「クーニャ(ララ)系」との組み合わせはダメだという正論を言ったのはどこの動物園の飼育員さんだったか考えてみて下さい。

以上から、円山動物園(札幌市)と北京動物園のホッキョクグマの交換はあり得ないという結論になります。スポンサー筋や市長が圧力を加えようが、あるいはひょっとしてK飼育員さんが交換を望もうが、「血統は変えられない」という厳粛な事実の前には彼らは沈黙せざるを得ないのです。ちなみに、日本のホッキョクグマ界の繁殖に必要なのは欧州で余ってしまっている「ロストック系」の雄の幼年個体です。これをピリカとアイラのパートナーとすることが必要なのです。

どうして北京動物園所有のホッキョクグマの血統のことも調べずに、このような単なる思い付きでしかない提案が深い考えも無しにいとも簡単に出てくるのでしょうか? ちなみに人民日報の記事には北京動物園の担当者の話としてチンパンジーが交換の確率が高いと述べています。

札幌・円山動物園は私にとって全国の動物園の中でも断トツに訪問回数が多く、私の馴染んでいる動物園です。 しかし、批判すべき不合理なものがあると考えるときはその根拠を述べて決然と批判する...それをこのブログの基本的な姿勢としています。今回の件はまさにそのケースに当たります。

(ロシア、ペルミにて記す)

(資料)
人民日報 (Sep.13 2011)

(過去関連投稿)
モスクワ動物園の幼年個体、ペアとして中国・北京動物園へ
モスクワ動物園のシモーナ(4) ~ 消息不明の息子は何処に? (上)
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モスクワ動物園のシモーナ(6) ~ 消息不明の息子は何処に? (下)
新たに”行方不明”となった2頭のホッキョクグマ ~ 北京動物園の怪
by polarbearmaniac | 2011-09-14 03:00 | Polarbearology

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