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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ホッキョクグマの起源について(1) ~ 諸説の成立過程を整理する

ホッキョクグマの起源について(1) ~ 諸説の成立過程を整理する_a0151913_21314463.jpg
ピリカ (2012年5月26日撮影 於 旭山動物園)

これから何回かにわたってホッキョクグマの起源についての学説を整理してみたいと考えます。

このブログを開設してから約二年半になりますが、その間にホッキョクグマの起源に関する重要な説がいくつか出ています。というよりも正確には、ホッキョクグマの起源に関して科学的根拠をもとにその起源を明らかにしようという研究がここ3~4年めざましい成果をあげてきたということです。 その最たるものが先日の報道で大きく紹介されたホッキョクグマの起源に関する新説です。その報道を改めて引用しておきます。

>【ロンドン19日ロイター時事】ホッキョクグマとヒグマが別の種(しゅ)として進化を始めた時期が、以前考えられていたよりもずっと早いことが新たな研究で分かった。(中略)それによると、ホッキョクグマは約60万年前、遺伝的に最も近いヒグマから枝分かれした。これは、科学者がこれまでに一般に想定していたよりも5倍早い時期だ。(中略)体の大きさ、皮膚、毛の色やタイプ、歯の構造、それに行動様式という観点からするとホッキョクグマとヒグマは大きく異なるが、これまでの研究によると、両者は進化の過程でごく最近に枝分かれしたことが示されていた。これは母から子へ受け継がれるミトコンドリア系統の研究に基づいた結果で、遺伝子つまりDNAのごく一部の分析結果だった。今回、研究チームはホッキョクグマ19頭、ヒグマ18頭のサンプルを使い、細胞核内部にあるはるかに多くのDNAを調べた。その結果、ホッキョクグマとヒグマが別々の種としてはるかに長期間存在していることが分かった。 (後略)  (時事通信 Apr.20 2012

さて、比較的最近までこのホッキョクグマの起源については非常にレンジの広い複数の考え方が存在していたわけです。 3万年前~100万年前という広大なレンジの年代の範囲内で複数の説が存在していたわけでした。 傾向としては、ホッキョクグマの起源を比較的新しい年代、具体的には10万年前よりも新しい年代、特に7万年前あたりに想定する説が幾分主流だったようです。 しかしそれぞれの説の根拠というものは十分ではなかったように思えます。 そういった広い年代範囲の中でホッキョクグマの起源に関して複数の考え方が存在した理由は、ホッキョクグマはその生存分布領域内で遺体の痕跡を残さないため、化石という「一次材料」を用いての研究が非常に難しかったということです。

(1)11~13万年前説 (2007~8年登場)
そういった状況を打ち破る画期的な説が登場したのが2008年に登場した赤外光ルミネッセンス(infrared-stimulated luminescence)年代測定法を用いてノルウェーのスヴァールバル諸島で偶然に発見されたホッキョクグマの顎の骨の化石から年代を測定した新説でした。
ホッキョクグマの起源について(1) ~ 諸説の成立過程を整理する_a0151913_21572956.jpg
Photo(C)Ólafur Ingólfsson

この説に関しては以前の投稿、「ホッキョクグマの最古の化石が語ること」をご参照下さい。 この説を便宜上、「11~13万年前説」と呼んでおきます。 正確には、ホッキョクグマのヒグマ(Brown Bear/Ursus arctos)からの分離は少なくとも11~13万年前であったということの確かな根拠が得られたということでした。

(2)15万年前説 (2010年登場)
この説は上の化石からミトコンドリアDNAを抽出してその配列を現在存在している複数種のクマや絶滅したホラアナグマの配列と比較して系統図(下)を作り上げました。
ホッキョクグマの起源について(1) ~ 諸説の成立過程を整理する_a0151913_21442019.gif
Clade : Lindqvist, C., Schuster, S. C., Sun, Y., Talbot, S. L., Qi, J., Ratan, A., . . . Wiig, Ø. (2010)

この系統図作成の過程で判明したのは、ホッキョクグマのヒグマからの分離が約15万年前であるということでした。この件についてはやはり以前の投稿である「ホッキョクグマの最古の化石が語ること (続)」をご参照下さい。 この結果は(1)の赤外光ルミネッセンス(infrared-stimulated luminescence)年代測定法での結果と非常にうまく整合性がとれるということです。 これでホッキョクグマの起源、すなわちホッキョクグマのヒグマからの分離年代についての結論が出たかに見えたわけで、この説(便宜上「15万年前説」と呼んでおきます)が通説となったと言ってよいように思われました。 基本的にこの説に従ってホッキョクグマの起源について説明していると思われるのがこのイギリス・チャンネル4のInside Nature's Giants / Polar Bear Evolution の映像です。 是非ご参照下さい。

しかしこの説は後日、大きく揺らいたわけでした。 それについては次回以降の投稿で述べます。
続く

(資料)
Reuters (Apr.19 2012 - Polar bears are no new kids on the block)
時事通信 (Apr.20 2012 - ホッキョクグマ、種としての歴史ははるかに長い=独チーム)
Polar Research (Dec.2009 - Late Pleistocene fossil find in Svalbard: the oldest remains of a polar bear ever discovered)
The University Centre in Svalbard (Dec.17 2007 - Spectacular find could rewrite polar bear history)
Understanding Evolution (Apr.2010 – One small fossil, one giant step for polar bear evolution)
Scientific American (Mar.1 2010 - Climate Change Likely Caused Polar Bear to Evolve Quickly)
PLoS ONE (May.2010 - Biomechanical Consequences of Rapid Evolution in the Polar Bear Lineage)

(過去関連投稿)
ホッキョクグマの最古の化石が語ること
ホッキョクグマの最古の化石が語ること (続)
by polarbearmaniac | 2012-05-31 22:00 | Polarbearology

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