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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・ニューヨーク州のバッファロー動物園に凝縮した新施設建設の問題 ~ 主役は来園者か動物たちか?

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ルナとカリー Photo : World News Network

アメリカ・ニューヨーク州のバッファロー動物園で昨年11月27日に札幌・円山動物園のデナリの妹であるアナーナから生まれ人工哺育で育てられているルナ、そしてアラスカ州の海岸で3月12日に野生孤児として保護されたカリー (Kali)、この2頭が飼育されているバッファロー動物園がホッキョクグマなどの新施設の建設資金の募金活動を行っているものの苦戦している件については今まで何度かご紹介してきました。 そしてバッファロー動物園は、このAZAの飼育基準を満たす新施設が用意できなければルナ(及びカリー)は他園に移動させなければならなくなると言い続けている点、そして地元ではこのバッファロー動物園の資金集めのやり方に首をかしげる向きもあるという点についても逐次投稿してきました。

札幌のマルルとポロロの従妹であり人工哺育で育てられたルナ、野生孤児として飼育下で保護されたカリー、この2頭の幼年個体の成長を追い続けることは興味深いことですし、この2頭の同居によってなされている「適応化 (Socialization)」 についても注目していく必要があることはもちろんですが、彼らの暮らすバッファロー動物園の置かれている状況、すなわちホッキョクグマの最新の飼育基準とその意義、そしてそれを満たす施設を建設するための巨額の費用とその調達など、これらはすべて現在の世界のホッキョクグマ界における「先進国」であるアメリカにおいて、ホッキョクグマという種の飼育に突き付けられた重要な問題の全てがこの今回のバッファロー動物園の件に凝縮している点に最も注目すべきでしょう。 これらの問題のほとんどは我々日本のホッキョクグマ界にとっては「未知・未体験」の領域といえるわけで、日本の動物園からホッキョクグマの姿が消えることを回避しようと努力を行っている日本のホッキョクグマ界が将来必ず直面するだろう状況を先取りした形で、今このバッファロー動物園の件を追い続けることには非常に意義があると私は考えています。そしてまさにそれは、そもそもホッキョクグマを飼育する意義は何なのかという点にまで問題は広がっているわけです。
アメリカ・ニューヨーク州のバッファロー動物園に凝縮した新施設建設の問題 ~ 主役は来園者か動物たちか?_a0151913_22564750.png
Photo(C)Buffalo News

総工費1400万ドル(約14億円弱)と言われる新施設建設計画ですが結局のところ現在200万ドル(約2億円弱)が不足しているという状況で、同園としては引き続き寄付を募集するものの、建設計画の修正を行わざるをえなくなっています。展示場内に設置する予定の滝を取りやめ、また費用のかかる人工の岩場も省略して、今までの展示場に使われていた岩石を再利用するなどとコストの削減案を作成したそうです。 バッファロー動物園の資金不足について最近の地元TVのニュース映像をご紹介しておきます。 冒頭はCMです。


そもそもアメリカの動物園で最近建設されつつあるホッキョクグマ展示の新施設は、来園者が快適にホッキョクグマを見ることができるようにと実際にホッキョクグマが暮らす展示場よりも来園者サイドの観覧施設に力点が置かれ過ぎているように思われます。 以前、「スコットランドのハイランド野生公園におけるホッキョクグマ飼育場 ~ 『量』を軽視せぬ簡素な設計思想」 という投稿でスコットランドのハイランド野生公園のホッキョクグマ展示場の設計思想をご紹介したことがありますが、要するに主役はホッキョクグマたちであるという事実を忘れてしまっては困るわけです。 飼育場の面積の拡大をまず考え、来園者の快適さはその次の課題であるはずです。 これはアメリカという国のお国柄でしょうか、コミュニティーからの寄付によって建てられた施設がもたらすものはコミュニティーに還元されるということが第一となっているわけです。 ですから来園者の側の快適さや利便性が必要以上に重要視されるということです。 極言すれば、動物園は動物たちの暮らす場所である以上に人間のためのものであるという思想が背景にあるものと思われます。 だからバッファロー動物園の計画修正案には飼育場のコスト削減が優先され、展示場の建物の建設コスト削減については見直しがないということなのでしょう。

バッファロー動物園は同時期にやはり新ホッキョクグマ展示施設建設計画が進行しているセントルイス動物園を相当に意識しているそうです。 セントルイス動物園はすでに資金調達に成功しているわけで、あとは工事の終了を待つのみです。 バッファロー動物園に所有権のあるルナはともかくとして、カリーはやはりセントルイス動物園に移動することは必至と思われます。 バッファロー動物園のこの今回の新ホッキョクグマ展示場建設計画は相当に無理のある計画だったと言えそうです。

ここでごく最近のルナとカリーの様子をご紹介しておきます。 もちろん彼らは暫定的な展示場に暮らしているわけです。 なかなか栄養状態が良いようで、丸々としています。



(資料)
WGRZ-TV (Sep.12 2013 - Fundraising for Zoo Polar Bear Exhibits Misses Target)
The Baffalo News (Sep.16 2013 - Fund-raising shortfall puts Zoo’s two polar bears cubs at risk of being moved)

(過去関連投稿)
動物園による情報公開 ~ アメリカ・バッファロー動物園でのホッキョクグマ連続死亡事件
繁殖のために住み慣れた動物園を旅立ったホッキョクグマ ~ ヘンリー・ヴィラス動物園のナヌークへの期待
アメリカ・バッファロー動物園のホッキョクグマ新展示施設建設へ篤志家の多額な資金寄付
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園の苦悩 ~ ホッキョクグマ新施設建設の資金不足
アラスカで保護された野生孤児カリーをめぐるバッファロー動物園とセントルイス動物園との微妙な関係
アメリカ ・ ニューヨーク州、バッファロー動物園で遂にルナとカリーが初顔合わせ
アメリカ ・ バッファロー動物園でルナとカリーの正式な同居展示が開始 ~ カリーの今後について
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園でのルナとカリーの同居は順調に推移
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の新施設建設の不足資金を州政府が一部負担の意向示す
アメリカ・バッファロー動物園がルナの移動可能性に言及 ~ 報道されている状況は本当に事実なのか?
アメリカ・バッファロー動物園の新施設建設資金の露骨な寄付募集活動に眉をひそめる地元の財団・基金

(*以下、ルナ関連)
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ その姿が突然公開
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃんの追加映像 ~ ララの子供たちの従妹であるルナ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の人工哺育の赤ちゃんのルナが初めて戸外へ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナの近況を伝えるTVニュース映像
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナが雪の舞う戸外へ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナが遂に一般公開へ
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園の赤ちゃんの「ルナ」が仮称から正式の名前となることが決定
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園のルナの近況 ~ 人間の視線への意識と興味
(*以下、カリー関連)
アメリカ・アラスカ州の北西岸でホッキョクグマの孤児の赤ちゃんが保護!
アメリカ・アラスカ動物園で保護された野生孤児のカリーが今春に期限付きでバッファロー動物園へ
アメリカ・アラスカ動物園で保護されている野生孤児のカリーの一般公開が始まる
アメリカ・アラスカ動物園で保護されている野生孤児のカリーを間近で撮り続けている専属カメラマンの視点
アメリカ ・ アラスカ動物園で保護されている野生孤児の赤ちゃん、カリーの近況と今後について
アメリカ・アラスカ動物園の野生孤児カリー、来週後半に ニューヨーク州のバッファロー動物園へ
アメリカ・アラスカ動物園の野生孤児カリーがニューヨーク州のバッファロー動物園に無事到着
by polarbearmaniac | 2013-09-17 23:55 | Polarbearology

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