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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア南部・ロストフ動物園とウクライナ・キエフ動物園との間の紛争 ~ 「ホッキョクグマ詐欺」事件の概要

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ロストフ動物園 旧展示場でのイョシ Photo(C)Отзовик

ロシア南部の都市であるロストフ・ナ・ドヌ (Росто́в-на-Дону́) の動物園には現在サーカス出身のホッキョクグマで間もなく12歳になろうというイョシが1頭で暮らしています。 彼はサーカスで不適格の烙印を押された後、長年サンクトペテルブルクのレニングラード動物園で飼育された後に2010年の12月にこのロストフ動物園に移動したわけですが、その経緯や移動の様子などは過去関連投稿をご参照下さい。 私は2010年4月にレニングラード動物園でこのイョシに会っていますが、狭くて間隔の狭い格子のある暗い部屋で暮らしている彼を見て不憫に思いました。 その時に写真は撮っていますが良い写真が撮れず現地からのレポートにはアップしていません。 ここでごく最近のロストフ動物園の新しい展示場でのイョシの姿をご紹介しておきます。



さて、このイョシの近況については昨年10月に「ロシア南部・ロストフ動物園のイョシ、安住の地で元気に暮らす ~ ロストフ動物園の奇妙な計画」 という投稿でご紹介しています。 その投稿を今一度ご参照いただきたいのですが、その後半部分でロストフ動物園よりキエフ動物園にアジア象の幼年個体1頭を送り、キエフ動物園よりホッキョクグマの幼年ペアをロストフ動物園へ送るという個体交換の契約について触れ、そのようなホッキョクグマは存在していないのでキエフ動物園が詐欺を行っているようなものだと書きました。 それから1年が経ちましたが案の定、ロストフ動物園とキエフ動物園 (及びそれを管轄するキエフ市) との間で大変な紛争が生じています。 その事件の推移を些末な枝葉は取り除いてわかりやすい形で簡単に概要をご紹介しておきたいと思います。

この個体交換契約に基づいてロストフ動物園は昨年夏にホラス(Хорас) というベルリン動物園生まれのアジアゾウをキエフ動物園に送ったわけです。 このゾウはベルリン動物園のブラスキエヴィッツ園長がクヌートのパートナーとするためにモスクワ動物園生まれのトーニャを入手する目的でその交換としてロストフ動物園に送ったゾウのうちの一頭です。 このあたりの事情は非常に複雑ですので過去の投稿のうち、「ロシア・ロストフ動物園の損得勘定 ~ 雌のホッキョクグマの等価交換価値対象は?」 及び 「モスクワ動物園がカザン市動物園に1頭のホッキョクグマを贈与 ~ 帰属意識と権利関係の狭間で」 の2つをじっくりとお読みいただければ幸いです。 そうやってベルリンからロストフ・ナ・ドヌに送られたアジアゾウのうちの一頭であるホラスですが、今回はそのロストフ動物園がホラスに追加の金銭をプラスして(これは報道によれば邦貨換算で900万円)、キエフ動物園から交換として2頭のホッキョクグマを得ようとしたわけです。 つまり、「(アジアゾウ1頭+追加金額) = ホッキョクグマの幼年ペア」 という交換となるわけです。
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キエフ動物園でのホラス Photo(C)Киев сегодня

さて、この契約に基づいてホラスは昨年夏にロストフ・ナ・ドヌからキエフに輸送されましたが、今度はキエフ動物園はその代わりに2頭のホッキョクグマの幼年個体をロストフ動物園に送る義務があるわけです。 ところがそれが果たされないまま1年が経過してしまいました。 実はその間にロストフ動物園と交換契約を締結したキエフ動物園の園長は市長からの解任同然の状態でキエフ動物園を去ったわけですが、新園長はこの前園長が締結したロストフ動物園との交換契約は何も知らなかったということです。 少なくとも新園長自身は「知らなかった。」と発言しています。 ロストフ動物園からホッキョクグマ2頭を早く送ってほしいという催促を受けたキエフ動物園の新園長にとってこれは寝耳に水の話でした。 新園長が相手では埒が開かないと感じたロストフ動物園はこの話をキエフ市で動物園を管轄している部署に持ち込んだわけです。 この話を知ったキエフ市長は激怒し、キエフ動物園の前園長を詐欺・背任で検察庁に告発すると息巻いているといった状態です。 その一方でキエフ動物園の新園長はゾウのホラスをロストフ動物園に返還して事件の解決の糸口を見つけようとしましたがロストフ動物園はホラス返還の受け入れを拒否し、あくまでキエフ動物園に対してホッキョクグマ2頭を送る契約上の義務を果たせと強硬な姿勢を見せています。 困り果てたキエフ市長はどうしてもホッキョクグマ2頭をどこからか入手してロストフ動物園に引き渡さねばならない状況になってしまったわけです。 

さて、実は「被害者」であるはずのロストフ動物園の側ですが、大方のロシア人がそうであるように、これがなかなか「したたか」です。 ロストフ動物園はキエフ動物園とのホッキョクグマ入手交渉のかたわらで、驚くべきことに実は密かにモスクワ動物園と接触して2頭のホッキョクグマの入手を図ろうとしたわけで、どうもその話はまとまっているようです。 ただしそれについてモスクワ動物園は一切口をつぐんでいます。 (*追記1 - 最新の報道である昨日18日付けのコムソモリスカヤ・プラウダ紙の記事によれば、モスクワ動物園の園長さんはロストフ動物園との間でホッキョクグマの2頭の幼年個体の売買についてすでに合意がなされたと同紙の取材に対して発言しています。 モスクワ動物園の側からとれた初めての裏付け情報となります。) そしてロストフ動物園はモスクワ動物園から入手するホッキョクグマの代金をキエフ動物園に払わせようとしているのです。 ゾウのホラスがロストフからキエフに送られた時にロストフ動物園はキエフ動物園に邦貨換算で約900万円を追加金額として支払っているわけですから、キエフ市はその金を2頭のホッキョクグマの購入資金の一部にあてようとしたわけですが、この金の行方が不明になっているそうです。 さて、キエフ市はロストフ動物園に送るホッキョクグマのために、いったいどれほどの金額をモスクワ動物園に支払ってホッキョクグマ2頭を入手するつもりでしょうか? 報道では2頭で10万ドルだとされていますが、実際のところは全く不明です。 ここまでのところが大まかな事実関係です。 そしてこれからが諸々の情報を総合しての私の推理です。

私の見たところ、これは魑魅魍魎としたスラヴ世界独特の海千山千の人たちが繰り広げているドラマだと思いますね。 ロストフ動物園はキエフ動物園にはホッキョクグマなど飼育してはおらず、またキエフ動物園が権利を持つホッキョクグマもロシアやウクライナの国内にいないことを知りながらこの交換契約を結び、そして結局はキエフ市がホッキョクグマ入手のためにモスクワ動物園に対して購入資金を払わざるを得ない状態に追い込まれるであろうことを予測していただろうと思います。 つまり、個体交換では済まなくなり金銭のやり取りが生じるであろうことを予想していたのではないでしょうか。 金銭のやり取りがあれば、誰かがそこで個人的に利益を得る人間がいるわけです。 ロストフ動物園は表面上はキエフ動物園に騙された被害者という形をとっていますが、実は案外そうではないように私は感じます。 そしてそこにモスクワ動物園が一枚かんでくるわけです。 これでこのドラマの役者が勢ぞろいしたわけです。 先日、上海動物園がモスクワ動物園とホッキョクグマ入手の交渉を行ったことをご紹介しています。 そしてそれが障害のために進展していないこともご紹介しています。 どうもその障害というのがこのロストフ動物園とキエフ動物園との間の紛争に関係しているのではないでしょうか? モスクワ動物園は上海動物園との交渉の途中で今回の話、すなわちロストフ動物園から相談を受けてホッキョクグマを融通してほしいロストフ動物園の依頼を優先したがために今度は上海動物園に対して条件のハードルを高くしたということではないでしょうか。 これまでの経緯を考えれば通常ではモスクワ動物園と中国の大都市の公営動物園、つまり北京や大連の動物園との交渉は比較的楽に進展していたはずです。 それが今回はモスクワ動物園がやはり中国の大都市である上海の動物園と交渉がうまくいっていないという理由は、このロストフ動物園とキエフ動物園とに間の紛争が関係していると考えうる余地が大いにあると思われます。 少なくとも時期的にはピッタリ一致しています。  さて、この話の結末がどうなるかはわかりませんが、その背後にある真相は闇の中にあり続けるような気がします。
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ロストフ動物園 新飼育展示場 Photo : leha-1982

ロストフ動物園はホッキョクグマ飼育展示場が新しくなったわけで、ペルミ動物園からテルペイが移動してくる可能性があります。 そしてさらにモスクワ動物園生まれの個体、つまりシモーナの三つ子の一頭が移動してくる可能性があります。 ただし現在暮らしているイョシも含めて、これらの個体は全て雄です。 ノヴォシビルスク動物園に待機しているムルマの子供も雄です。 その個体もロストフ動物園に来るかもしれません。 さて、いったいどういうことになるのでしょうか? 事態の推移に注意して見守りたいと思います。
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ロストフ動物園 旧展示場でのイョシ Photo(C)maximz.ru

(*追記2 - モスクワ動物園の園長さんは昨日18日付けのコムソモリスカヤ・プラウダ紙の記事で取材に対して2頭のホッキョクグマの売買に関する合意がロストフ動物園との間でなされたと述べているものの、一方でモスクワ動物園には2つのペア、すなわちシモーナとウランゲリ、及びムルマとウムカの他に幼年個体は1頭であると発言しています。 そうなると2頭の幼年個体をペアにしての契約というのはできないはずです。 近親交配にならないペアとして考えうるのは、現在 ノヴォシビルスク動物園に待機しているムルマの息子 と、シモーナの三つ子の一頭ですでにウクライナのムィコラーイウ動物園に移動させることが決まっているはずの雌の1頭 をペアにしてロストフ動物園に売却しようということなのでしょうか? そうなると、雌の1頭の飼育展示はムィコラーイウ動物園にさせておいて所有権はロストフ動物園に移動させるということでしょうか? こうなるとロストフ動物園はムィコラーイウ動物園との間でBL契約を締結する必要があるでしょう。 あるいはひょっとして2頭ともロストフ動物園で飼育展示させ、繁殖に成功した場合にその個体の所有権についてはモスクワ動物園が獲得するというモスクワとムィコラーイウとの間で取り交わされた合意に定められたモスクワ側の権利をムィコラーイウ側に譲渡するということなのでしょうか? ますます複雑な話になってきました。 いずれにせよこれではっきりしたことは、上海動物園は今回はモスクワ動物園から幼年個体を入手できる可能性がほぼ無くなったということです。 なるほど、だから上海動物園は今頃になって1年も前に亡くなった小北の死亡情報を公表 したわけですね。 モスクワ動物園から幼年個体の導入が困難となったため当分の間はホッキョクグマの展示はできないからこそ、小北の死亡の事実を今になって公表せざるをえなくなったわけです。 そう考えると辻褄が合うわけです。 背景が読めてきました。)

(資料)
Киев сегодня (Jul.14 2012 - Слоненок принял гостей в Киевском зоопарке)
Деловой квартал (Oct.8 2013 - Ростовскому зоопарку задолжали 100 тысяч долларов)
Юга.ру (Oct.8 2013 - Киевский зоопарк задолжал Ростову двух белых медведей)
Комсомольская правда (Oct.8 2013 - Ростовский зоопарк решил не забирать слона Хораса за долги)
Деловой квартал (Oct.18 2013 - Ростовский зоопарк договорился о покупке медведей за $100 тысяч)
Фраза (Oct.18 2013 - «Киевский зооконцлагерь» в очередной раз крупно опозорился. Теперь «зоогестаповцы» срочно ищут белых медведей, которых они должны россиянам за слона Хораса)
(*追加資料)
Комсомольская правда в Украине (Oct.18 2013 - Экс-директора зоопарка могут посадить за аферу с Хорасом)

(過去関連投稿)
(*以下、イョシ関連)
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のイョシ、ロストフ動物園に引き取られる
サンクトペテルブルクに別れを告げるイョシ ~ サーカス出身のホッキョクグマの境遇
ロシア・サンクトペテルブルクのイョシ、新天地ロストフへ出発
ロシア南部 ロストフ・ナ・ドヌーのロストフ動物園のイョシ ~ 安住の地での近況
ロシア南部・ロストフ動物園のイョシ、安住の地で元気に暮らす ~ ロストフ動物園の奇妙な計画
(*以下、ロストフ動物園関連)
雌の入手を求めてペルミ動物園を訪問したベルリン動物園のブラスキエヴィッツ園長
ロシア・ロストフ動物園の損得勘定 ~ 雌のホッキョクグマの等価交換価値対象は?
ベルリン動物園、ロシアのロストフ動物園よりホッキョクグマを入手か?
モスクワ動物園がカザン市動物園に1頭のホッキョクグマを贈与 ~ 帰属意識と権利関係の狭間で
(*以下、キエフ動物園関連)
ウクライナ・キエフ動物園 ~ 動物連続怪死事件の謎(前)
ウクライナ・キエフ動物園 ~ 動物連続怪死事件の謎(後)
(*以下、モスクワ動物園生まれ幼年個体関連)
ロシア、西シベリアのノヴォシビルスク動物園にモスクワからやってきた 「謎の幼年個体」 の正体は?
モスクワ動物園のシモーナお母さんの三つ子の一頭の雌がウクライナ・ムィコラーイウ動物園に移動へ
by polarbearmaniac | 2013-10-19 08:00 | Polarbearology

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