人気ブログランキング | 話題のタグを見る


街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

チェコ・ブルノ動物園のコメタがロシア・ロストフ動物園へ ~ ブルノ、モスクワ、ロストフの巧妙な三角関係

チェコ・ブルノ動物園のコメタがロシア・ロストフ動物園へ ~ ブルノ、モスクワ、ロストフの巧妙な三角関係_a0151913_21123032.jpg
コメタ Photo(C)Zoo Brno

さて、本投稿は「超々マニア向き」の相当に複雑な話です。何故かと言いますと、スラヴ文化圏独特の複雑な思考を考慮に入れないと背景が読みにくいからです。 ご興味のある方のみ御付き合い下さい。

まず年末、チェコの複数の報道は以下の内容を報じています。 それは、チェコ・ブルノ動物園で一昨年11月24日にコーラお母さんから誕生した双子のコメタとナヌクのうち雌のコメタがロシアのロストフ・ナ・ドヌ (Росто́в-на-Дону́) の動物園(以下、「ロストフ動物園」と記載します) に3頭のアシカと交換で送られることになったとのニュースです。 そしてその3頭のアシカは早々とすでにブルノ動物園に到着したそうです。 それと交換でロストフ動物園にコメタが移送されるのは「冬の終わりごろ」だと報じられています。 アシカ3頭と雌のホッキョクグマの幼年個体1頭の交換は極めてバランスの悪い交換のように思います。 近年においては後者の価値は圧倒的なものがあるからです。 それはさておき、このブルノ動物園のコメタとナヌクの双子の将来の移動先についてブルノ動物園は昨年の春ごろからEAZAではなくEARAZA (Евроазиатская региональная ассоциация зоопарков и аквариумов / Еuro-Аsian Regional Аssociation of Zoos and Аquariums - ユーラシア地域動物園水族館協会) と話し合いを持っており、その移動先がロシア、または東欧、あるいはウクライナなどの旧ソ連諸国の動物園に移動する可能性が大きいであろうことをここでも投稿してきましたので、「チェコ・ブルノ動物園のコメタとナヌクの双子の一歳の誕生会が開催される ~ 注目すべき来春の移動先」という投稿を是非再度ご参照下さい。 そして実際にそれに沿ってこの双子の一頭である雌のコメタがロシアのロストフ動物園に送られることになったのだと理解すれば事は簡単ではあります。 ロストフ動物園には現在2頭の雄のホッキョクグマが飼育されており、一頭はサーカス出身でレニングラード動物園から移動してきた13歳のイョシ昨年11月にペルミ動物園から移動してきた11歳のテルペイです。 しかし間もなくロストフ動物園に移動する予定の雌のコメタはまだ一歳になったばかりですから繁殖可能となるまであと4~5年ほどはかかるわけで、これはイョシやテルペイのパートナーとしては考えにくいですね。 しかしこのことを度外視したとしても、事はそう単純ではないようです。

ここで以前、「ロシア南部・ロストフ動物園とウクライナ・キエフ動物園との間の紛争 ~ 『ホッキョクグマ詐欺』事件の概要」という投稿でご紹介しているロストフ動物園とウクライナ・キエフ動物園との間での「ホッキョクグマ詐欺」事件を思い出してみて下さい。 この事件は非常に複雑怪奇な事件です。 「被害者」であるはずのロストフ動物園ですが、密かにモスクワ動物園と接触して雄と雌の2頭の幼年個体を購入する契約がなされ、その代金を「加害者」であるキエフ動物園に支払わせようとしているわけです。 ところがその投稿の(後記2)にも書きましたが、モスクワ動物園は雌の幼年個体を1頭しか持っておらず(つまりシモーナお母さんの産んだ三つ子の一頭)、その雌の幼年個体はすでにウクライナのムィコラーイウ動物園に譲渡することが決まっているわけですから(「モスクワ動物園のシモーナお母さんの三つ子の一頭の雌がウクライナ・ムィコラーイウ動物園に移動へ」という投稿をご参照下さい)、モスクワ動物園にはもうロストフ動物園に売却する雌の幼年個体などいないわけです。

こういった状況下でブルノ動物園の雌の幼年個体であるコメタがロストフ動物園に移動するということは、すなわち以下を意味していると考えざるを得ません。 つまりブルノ動物園が双子の移動先を相談したEARAZAは実質上モスクワ動物園が牛耳っている組織です。 そこでモスクワ動物園はブルノ動物園のためにコメタを引き受けることを承諾し、その引き受け場所にロストフ動物園を指定したとみて間違いないのではないかということです。 ブルノ動物園の担当者はコメタの移動先について「ロシア」とだけしか明言していないようですが、おそらくその理由は本来コメタを引き受けてくれたのはモスクワ動物園であるものの、実際にコメタが移動するのは別の場所、すなわちロストフ動物園であるために単に移動先を「ロシア」としか言っていないように思われます。 ですから、まるで3頭のアシカと1頭のホッキョクグマの雌の幼年個体の交換であるように見えて、実はそう単純なものではないだろうということです。 ロストフ動物園はホッキョクグマの幼年個体のペアをモスクワ動物園から購入したわけですからモスクワ動物園はその売却代金を受け取るわけです。 それは「ホッキョクグマ詐欺」事件の加害者であるキエフ動物園から受け取るはずですが、そうとも限らず、やはりロストフ動物園から受け取るのかもしれません。 ところがブルノ動物園とモスクワ動物園との間でコメタの権利の移動があるのかどうかがはっきりしません。 権利の移動があるならモスクワ動物園はブルノ動物園からコメタを購入したことになるでしょう。 権利の移動が無ければ、モスクワ動物園はコメタの権利を取得していないにもかかわらずそれをロストフ動物園に売りつけたことになります。 ロストフ動物園からブルノ動物園にすでに移送されたアシカ3頭は、モスクワ動物園とロストフ動物園とのホッキョクグマ売買契約金額の単なる調整のためであり、モスクワ動物園はそのアシカ3頭を入手はしたものの、それをそのままブルノ動物園に贈るということであるように思われます。

さて、ロストフ動物園がモスクワ動物園から購入したのは雄雌の2頭の幼年個体であり、では雌のコメタのパートナーがどの個体になるかですが、考え得ることは現在もモスクワ動物園からノヴォシビルスク動物園に預けられているらしいムルマお母さんの息子以外にはないように思います。 これならば近親交配にもならないというわけです。

つまりこの個体の移動を考えてみますと、ロストフ動物園はキエフ動物園との関係においては「被害者」だったものの結局はモスクワ動物園から雌の幼年個体を入手することに成功し、ブルノ動物園はコメタの移動先が確保されたことになり、そしてモスクワ動物園は結局はブルノ動物園から雌の幼年個体を入手できたことになり、さらに幼年個体ペアの売却によって現金も手に入れたという三者三様のメリットがあったわけです。 これはモスクワ動物園が考え付いた一つのトリックのようなスキームだと思われます。 こうした複数の個体移動に伴って金の動きも生じてくるわけで、そのあたりは「闇の中」といったところでしょう。 以前に「モスクワ動物園がカザン市動物園に1頭のホッキョクグマを贈与 ~ 帰属意識と権利関係の狭間で」という投稿をしていますが、その時もロシアでは実に巧妙なやり方を行ったわけですが、今回もそれに近いやり方です。

実は報道によりますとこのブルノ動物園の雌のコメタについては中国の動物園も入手を狙っていたそうですが、ロシア側ですでにこのような個体移動のスキームが出来上がっており、中国側は結局は手も足も出なかったということでしょう。 中国の動物園というのは多分、上海動物園だと思われます。 何故なら「ロシア南部・ロストフ動物園とウクライナ・キエフ動物園との間の紛争 ~ 『ホッキョクグマ詐欺』事件の概要」という投稿でもご紹介している通り上海動物園はモスクワ動物園の三つ子のうちで雌の入手を狙っていたわけですが非常に苦戦していたわけですから、このブルノ動物園のコメタも入手を狙っていたと考えて間違いはないと思われるからです。 中国の動物園は単にホッキョクグマの入手を狙うだけで繁殖に寄与しようという考えは乏しいようです。例外なのは北京動物園だけでしょう。

さて、そうなると今度は双子のもう一方の雄のナヌクがどこへ移動するかということになります。 これは予想が難しいです。 考え得ることは、ウクライナのムィコラーイウ動物園へ移動してモスクワ動物園の三つ子の一頭の雌とペアになるということですが、しかしこの2頭は従妹同士になりますのでまず考えにくい話です。今後の動きに注目したいと思います。 あるいはこれから、もっと異なるスキームがもう一つ考えられ、ロストフ動物園以外のロシアの動物園がもう一枚噛んでくることも十分に予想できる話だからです。 ここでコメタとナヌクの最近の映像を見てみましょう。 画面に揺れがあるのが残念ですが、コメタとナヌク、そしてコーラお母さんの表情をよくとらえていると思います。



とにかくスラヴ文化圏のこうした水面下の動きは我々の通常の予想を超える奇々怪々とした姿をとるようです。

(資料)
Centrumnews.cz (Dec.20 2013 - Zoo vyměnila lední medvědici Kometu! Za vzácné lachtany medvědí)
Aktuálně.cz (Dec.30 2013 - Brněnská zoo ukáže naposledy lední medvíďata pohromadě)
deník.cz (Dec. 20 2013 - Místo Komety tři lachtani: brněnská zoo je chová jako jediná v republice)
Brnenskadrbna.cz (Dec.20 2013 - Brněnská zoo má nové lachtany. Výměnou za Kometu)
Centrumnews.cz (Nov.20 2013 - Lední medvíďata Kometa a Nanuk oslaví první narozeniny)

(過去関連投稿)
(*以下、コメタとナヌク関係)
チェコ・ブルノ動物園がコーラの出産に園の浮沈をかける ~ 食害の瞬間を映した貴重な映像記録の公開
チェコ・ブルノ動物園のコーラの出産準備万端 ~ 出産・成育成功の条件は?
チェコ・ブルノ動物園のコーラに出産間近の兆候! ~ モスクワ動物園担当者の助言を求め万全の体制へ
チェコ・ブルノ動物園でホッキョクグマの双子の赤ちゃん誕生! ~ 24時間 産室内ライブ映像の配信開始
チェコ・ブルノ動物園で誕生の双子の赤ちゃん、最初で最大の関門を乗り切るか? ~ 緊張のブルノ動物園
チェコ・ブルノ動物園の産室内ライブ映像に大きな反響 ~ 同動物園の映像配信サイトへのアクセス急増
チェコ・ブルノ動物園で誕生の双子の赤ちゃん、元気に生後一週間が経過
チェコ・ブルノ動物園で誕生の双子の赤ちゃん、順調に生後17日間が経過
チェコ・ブルノ動物園で誕生の双子の赤ちゃん、順調に生後7週間目に突入
チェコ・ブルノ動物園で誕生の双子の赤ちゃん、間もなく生後2ヶ月が経過へ
チェコ・ブルノ動物園の双子の赤ちゃんが生後2ヶ月を無事に経過 ~ 1976年の人工哺育事例について
チェコ・ブルノ動物園で誕生の双子の赤ちゃん、元気に生後70日が経過
チェコ・ブルノ動物園のコーラお母さんに約4カ月振りに給餌が行われる
チェコ・ブルノ動物園で誕生した双子の赤ちゃん、生後三カ月が経過  ~ 前回5年前の映像を振り返る
チェコ・ブルノ動物園で双子の赤ちゃんの名前をインターネットで公募中
チェコ・ブルノ動物園で誕生の双子の赤ちゃん、今週末から戸外へ ~ 日本のホッキョクグマ界との深い関係
チェコ・ブルノ動物園で誕生の双子の赤ちゃんがコーラお母さんと共に待望の戸外へ! ~ 性別への憶測
チェコ・ブルノ動物園の双子の赤ちゃん危機一髪! ~ 水に溺れかかりコーラお母さんに救出される
チェコ・ブルノ動物園の双子の赤ちゃんの性別判明 ~ 雄(オス)と雌(メス)!
チェコ・ブルノ動物園の双子の赤ちゃんが地元で大人気 ~ 週末は入園者が長蛇の列となる
チェコ・ブルノ動物園の双子の赤ちゃんの名前が決定 ~ 「コメタ」 と 「ナヌク」
チェコ・ブルノ動物園の双子の赤ちゃん、コメタとナヌクの命名式が盛大に行われる
チェコ・ブルノ動物園の双子の赤ちゃんの一頭のナヌクが消化不良で一時体調を崩す
チェコ・ブルノ動物園の双子の赤ちゃんのナヌクが右前脚を負傷 ~ ブルノ動物園の抱く思惑への憶測
チェコ ・ ブルノ動物園の双子の赤ちゃんコメタとナヌクは順調に間もなく生後7か月が経過へ
チェコ ・ ブルノ動物園で誕生の双子、コメタとナヌクが順調に生後8か月が経過
チェコ・ブルノ動物園のコメタとナヌクの人気で入園者数は好調 ~ 双子は1頭の場合より常に魅力的か?
チェコ・ブルノ動物園のコメタとナヌクの性別の異なる双子の性格と行動を探る
チェコ・ブルノ動物園のコメタとナヌクの双子の淡々として着実な成長 ~ 雌雄の双子に生じた体格差
チェコ・ブルノ動物園のコメタとナヌクの双子の一歳の誕生会が開催される ~ 注目すべき来春の移動先

(*以下、移動・権利関係)
モスクワ動物園がカザン市動物園に1頭のホッキョクグマを贈与 ~ 帰属意識と権利関係の狭間で
モスクワ動物園のシモーナお母さんの三つ子の一頭の雌がウクライナ・ムィコラーイウ動物園に移動へ
ロシア南部・ロストフ動物園とウクライナ・キエフ動物園との間の紛争 ~ 「ホッキョクグマ詐欺」事件の概要
by polarbearmaniac | 2014-01-06 20:30 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
飼育・繁殖記録
街角にて
未分類

最新の記事

........and so..
at 2023-03-27 06:00
モスクワ動物園のディクソン(..
at 2023-03-26 03:00
ロシア・ノヴォシビルスク動物..
at 2023-03-25 02:00
ロシア・西シベリア、ボリシェ..
at 2023-03-24 02:00
鹿児島・平川動物公園でライト..
at 2023-03-23 01:00
ロシア・ノヴォシビルスク動物..
at 2023-03-22 03:00
名古屋・東山動植物園でフブキ..
at 2023-03-21 01:00
ロシア・ノヴォシビルスク動物..
at 2023-03-20 02:00
モスクワ動物園のディクソン ..
at 2023-03-18 22:20
ロシア・サンクトペテルブルク..
at 2023-03-18 03:00

以前の記事

2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索