街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

デンマーク・コペンハーゲン動物園のボリスとノエルにも殺処分・解体されたキリンの肉のプレゼント

a0151913_2047221.jpg
ボリス Photo(C)Zoologisk Have

すでに多くの方々が御存知だと思いますが、以下に2月10日付けのCNNニュースの日本語版、及び同日のロイター電の日本語版の内容、及びデンマークの報道を参照して事実関係をまとめますと以下のようになります。

デンマーク・コペンハーゲン動物園が昨日の日曜日、近親交配を防ぐ目的でキリン1頭を非公開で殺処分し、その後に解体する様子については子供たちも含め希望した見学者のみに公開したそうです。 2万7000人の署名をネットで集めてこのキリンの助命嘆願活動を展開していた愛護活動家などは大きなショックを受けているようです。 殺処分されたのは18ヶ月の雄のキリンであるマリウスで、コペンハーゲン動物園は事前にこの安楽死計画を公表した上で、日曜日にマリウスに大好きなライ麦パンを与えている間に彼の頭部を銃で撃ちマリウスは即死したそうです。 そして、遺体を解体する様子を一般に公開し、子供たちを含め大勢の見学者が集まったそうです。

殺処分した理由について同動物園のバンク・ホルスト氏は、「キリンは国際的な繁殖計画の一環として飼育している。同計画の目的は、安定した健全な群れの維持にある」と説明。去勢などの選択肢はなかったのかという質問に対しては、「去勢すれば、遺伝子的にもっと価値の高いキリンのためのスペースが取られてしまう」と語ったとのことです。 解体の様子を一般公開したことについては、「われわれには来園者を啓発する役割もある。キリンがどんな姿をしているか見てもらう良い機会でもあった」と話しているそうです。 同動物園が加盟する欧州動物園水族館協会 (EAZA) には、キリンの同系交配防止を定めた規定があり EAZAもコペンハーゲンの動物園の対応を支持すると表明したとのことです。 この下の2つのニュース映像のうち最初のものはイギリスのChannel 4 のニュース映像で、その前半では今回の件についてよく解説がなされています。 後半はコペンハーゲン動物園の園長さんへのインタビューですが、ヒステリックにコペンハーゲン動物園の今回の措置を糾弾しようとするキャスター、それに答えるコペンハーゲン動物園の園長さんの冷静で毅然とした応対、さらに園長さんのキャスターに対する切り返しと反撃、それにたじろぐキャスター、...これを見ていると、この件はディベートでは「勝負あった」 という感じがします。 このキャスターと園長さんとでは相当に知的レベルの違いを感じさせます。 本当に情けないキャスターです。



(*追記 - このチャンネル4のインタビューは本来はもっと長いものだったようです。 下にその全体をご紹介しておきます。 このキャスターの無能振りがより一層如実に現れています。 この園長さんはさすがです。 冷静で、そして理路整然としています。 強い説得力を感じますね。)

 



確かに多くの子供たちが解体の様子を見ています。 コペンハーゲン動物園の言うように本当に啓発の目的を結果的に達成したかについては何とも言えません。

ロイター電によりますと、このキリンの肉はホッキョクグマにも与えられたようです。 同園で飼育されているホッキョクグマのボリス(豪太の弟)とノエル(デアの姉)にとっては、思いがけないプレゼントだったでありましょう。 多分、非常においしそうに食べたに違いありません。 報道ではさかんに「ライオンの餌」ということを強調していますが、殺処分した遺体の処分のためには廃棄ではなく猛獣の餌にしてしまうのが処分としては合理的であるということにすぎず、とりたててそれが「ライオンの餌」とすることを目的としているわけではありませんから、マスコミ報道の見出しには扇情的なものが感じられます。

欧州動物園水族館協会 (EAZA) はこのコペンハーゲン動物園の行ったキリンの安楽死を支持しているわけです。 我々とは文化も考え方も異なるのが欧州です。 また、欧州の中でも意見の相違は当然あるでしょう。 そういったことの意味を考えてみなければいけません。今回の件を直ちにコペンハーゲン動物園への非難に結びつけるのは非常に安易だろうと思います。 私の考えでは、こういう処置の背景にはやはりアングロサクソン、あるいはプロテスタントの文化環境が背景にあるように思います。 つまり、動物を管理して繁殖させ、そして一定の健全な血統の多様性のある集団 (healthy population) を維持させることが必要であり、それができていれば、それを妨げるような「余剰個体」は処分してもよい、いやそれどころか場合によっては処分すべきだという考え方です。 この考え方でいきますと、一方で鯨については人間が繁殖をさせて頭数を維持することができないので、捕鯨は許されないということになります。 今回のキリンならば殺処分は許されるが鯨では捕鯨は許されないというのは、こういった文化背景から出てくる考え方でしょう。 カトリックの文化圏からはまずこういう考え方は出てきにくいように思います。 今回の件はまさに文化の問題であるように私には思え、私にはこのキリンが「可哀想だ」という以上に、こういうことを行う考え方の背景にあるものについて考えてみることに興味が湧くということです。 ちなにみデンマークという国の国民は私の経験上では非常に素養の高い人々であり、動物園の来園者のマナーも実に素晴らしいものです。 

コペンハーゲン動物園は外部からの問い合わせに対してHPで "Why does Copenhagen Zoo euthanize a giraffe?" というページを開設して今回の件の理由を克明に説明しています。 私はこのコペンハーゲン動物園の説明に賛成できないまでも、しかし一つの考え方として一応は筋は通っているようには思えます。 デンマークの報道によりますとコペンハーゲン動物園の園長さんは今回のキリンのマリウスの安楽死については正しいことを行っていると考えており全く後悔しておらず、同じようなケースがあれば再び行うだろうと話しています。 つまり今回の件は欧州動物園水族館協会 (EAZA) の確固とした考え方と方針によるものであることがよく伝わってきます。 再度繰り返しますが、こういうことを行う背景にある考え方と文化を知ることこそが重要であるということです。 ですので、上の2つのニュース映像も是非ご覧いただきたいと思うわけです。

(*追記 - EAZAのEEPのキリンの繁殖について監督しているイェルク・イェブラム氏が今回の件について、何故キリンを殺処分にせねばならないかを語っているインタビュー記事がガーディアン紙に掲載されています ("Why did Copenhagen zoo decide to kill Marius the giraffe ?" )。 私の見たところ、先のニュース映像のコペンハーゲン動物園の園長さんの発言と同様、このイェルク・イェブラム氏の発言も論理的でかなりの説得力があります。 これくらいの責任感がないと繁殖計画の推進はできない、そういうことになりそうです。 やはりコペンハーゲン動物園の処置は正しい...ということになるのでしょうか。 現時点で私が「裁判官」のような立場でしたらマリウスには非常に同情しつつも、やはりEAZAとコペンハーゲン動物園に「勝訴」の判決を出すかな...。 あくまでも現時点での話ですが。)

(*追記2 - この話題は本来はキリンファンの方々や動物園一般を扱うブログなどで語られるべきものでしょう。 無理やりホッキョクグマに結び付けてしまったのが本投稿のタイトルです。 しかしホッキョクグマにもキリンの遺体の一部が与えられてというのも事実ですからタイトルに偽りはないと考えます。)

(追記3 - 今回のことは、①キリンの生命を奪い → ②その遺体の解体作業を見学者に見せ → ③肉をライオンに与えた、 という3つのプロセスを一連の流れとしてマスコミは捉えて報道していますが、それは違います。 全ての目的は①だけだということです。 そしてその後の②、そして③は、キリンの遺体を処分する過程において滅多に見ることのできないキリンの体の構造を解体作業の過程で見学者に見てもらって知識を得てもらおうということと、そして遺体は廃棄せず猛獣に処理してもらおうという単なる処理過程の簡素化が目的だったということです。 ですからこの問題は①の是非という点に限られているのだと考えるべきです。)

(*後記 - 本件に関しては後日二つの投稿をしていますので、以下をご参照下さい。)
再説 : コペンハーゲン動物園事件 ~ 「小さな者が一人でも滅びることは、天の父の御心ではない...」
ナショナルジオグラフィックの記事「キリンの殺処分に見る動物園の現実」(邦訳)と原文との論旨の乖離

(資料)
DR (Feb.9 2014 - Giraffen Marius er aflivet) (Feb.9 2014 - Zoo-direktør bliver truet på livet) (Feb.10 2014 - Zoo-direktør efter girafdrab: Vi kommer til at gøre det igen)
The Independent (Feb.9 2014 - "Copenhagen Zoo kills 'surplus' young giraffe Marius despite online petition")
CNN 日本語版 (Feb.10 2014 - 殺処分のキリン解体を一般公開、死骸はライオンの餌に デンマーク
ロイター (Feb.10 2014 - デンマークの動物園でキリン殺処分、解体しライオンの餌に
Zoologisk Have (Feb.9 2014 - Why does Copenhagen Zoo euthanize a giraffe ?)
TV2/NORD (Feb.9 2014 - Zoo-direktør: Vi vil fortsat være åbne om aflivninger)
The Guardian (Feb.9 2014 - Why did Copenhagen zoo decide to kill Marius the giraffe ?)
Channel 4 News (Feb.10 2014 - Zoo defends killing healthy giraffe and feeding it to lions)
EAZA (News & Events Feb.10 2014 - Giraffe euthanised at Copenhagen Zoo: EAZA response)

(過去関連投稿)
コペンハーゲン動物園のホッキョクグマたちに挨拶 ~ 豪太の弟に遭遇!
コペンハーゲン動物園のボリスとノエルに、魚とウサギのプレゼント
コペンハーゲン動物園での新施設建設とボリスとノエルの繁殖への期待
by polarbearmaniac | 2014-02-10 21:30 | 動物園一般

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ドイツ・シュトゥットガルト、..
at 2018-07-23 17:00
大阪・天王寺動物園のシルカに..
at 2018-07-23 01:00
ロシア・ロストフ動物園で進む..
at 2018-07-22 03:00
ロシア・サンクトペテルブルク..
at 2018-07-21 02:00
ロシア極北・カラ海沿岸でロシ..
at 2018-07-20 02:00
ロシア・南ウラル地方、チェリ..
at 2018-07-19 03:00
ロシア北東部・ヤクーツク動物..
at 2018-07-18 02:00
ロシア、ニジニ・ノヴゴロドの..
at 2018-07-17 00:30
フィンランド・ラヌア動物園の..
at 2018-07-16 03:00
スコットランド、ハイランド野..
at 2018-07-15 03:00

以前の記事

2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Lenin's Tomb: The Last Days of the Soviet Empire


Resurrection: The Struggle for a New Russia


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag