街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る
更新通知を受け取る

ウスラーダの母性とは何か? ~ 魅せられる芯の強さと筋の一本通った強靭なる母親の姿

a0151913_1657046.jpg
今回で彼女自身16頭目となった赤ちゃんを出産したウスラーダである。 
a0151913_16571265.jpg
彼女こそ現在世界で最も偉大な母であることに全く疑いはないが、ではいったい彼女の母性はどう発揮されているかに対して写真と映像で説明しようとするとこれは実に難しいことを痛感せざるを得ない。
a0151913_16572434.jpg
何度も指摘しているように、モスクワ動物園のシモーナ(彼女はウスラーダの長女である)や円山動物園のララが私の母親タイプ分類上では「情愛型」の母親であるのと比較すると、このウスラーダは「理性型」の母親である。
a0151913_16573966.jpg
この「理性型」の母親というのはその特徴が典型的に現れるシーンを映像としてとらえることが難しい理由は、それが長い時間のスパンにわたって行われる子育てにおける一種の「姿勢」とでもいったものだからである。 一方で「情愛型」の母親がその母性を発揮するシーンは、その「情愛」が形をとって行動に表れてくるため映像につかみやすいのある。  写真や映像は「情愛型」の特徴である「行動」は捉えられても「理性型」の特徴である「姿勢」は捉えにくいということである。  私がこのウスラーダを実に偉大な母親であるとようやく実感できたのは彼女の前回の出産であるロモノーソフに対する彼女の育児を見た一昨年2002年の訪問の最終日に至ってである。それほどまでにこの「理性型」の母親の特徴を理解するには時間がかかるということである。
a0151913_16575444.jpg
「理性型」の母親は子供たちに対して「正しいこととそうでないこと、行うべきこととそうでないこと」を示すことを最も優先するのである。 だからそういった母親は人間が認識できるようなスキンシップの愛情表現は行わない。 だから表面的に見れば物足りなく思うのである。 ところがいざ彼女の行動を長い時間観察してみれば、ウスラーダは自分の子供に対して透徹した視線を送り、その子供の行動の正当性の実現という視点で子供たちを監視・観察するのである。危険なことがあれば直ちに対応する用意をしている。 しかしこのウスラーダは長年の育児の豊富な経験により、自分の子供が何を考えどう行動しようとしているかを全て理解できるために絶えず子供たちを監視し続ける必要はないらしい。 こういったことをなんとか映像を用いて説明したいと今日は意気込んでいたのだが、やはりかなり難しいのである。だから以下の映像は何もドラマのない理解が晦渋な例となってしまっているので全て無視していただいて結構である。

歩きながらもそれとなく赤ちゃんへの注意を怠らないウスラーダ


おやつタイムのウスラーダと赤ちゃん

a0151913_1658599.jpg
赤ちゃんが下の段に降りて水に向かう雰囲気を察するとウスラーダはその後を追う。しかしいつもそうだとは限らないのである。そうしない場合もあるのだ。 
a0151913_16581643.jpg
私は今日一日じっくり観察していたが、要するに水辺におもちゃがあって赤ちゃんがそれを取ろうという強い気持ちがあるらしい場合だけウスラーダはこうして赤ちゃんの後にぴったりくっついて赤ちゃんを監視する傾向があることがわかった。 つまりこれは赤ちゃんの息づかいや行動によって監視すべき場合としなくてもよい場合をうまく切り分けているということである。 ウスラーダの並々ならぬ母親としての力量を感じる。
a0151913_16582869.jpg
つまり、赤ちゃんが何かに夢中になっている周りへの注意力がなくなり、そして何かに突進しようとする場合は注意が必要だというウスラーダの感じ方だとみて間違いないだろう。

水に接近する赤ちゃんをそれとなく見守るウスラーダ

水に入った赤ちゃんの状態を見とどけるウスラーダ


おやつをもらった赤ちゃんにウスラーダお母さんの監視は不要

a0151913_16583936.jpg
実はこの親子の関係は何かさばさばしていて見ていて実にスッキリとした気持ちになる。 何か「理の勝った味わい」といったものを感じる。 こういったものはシモーナやララからは感じ取れない。
a0151913_1659551.jpg
ウスラーダは赤ちゃんを水に誘うでもなし誘わないでもなし、非常にべたつかない関係を維持するのである。
a0151913_16591542.jpg
ウスラーダは自分だけで泳いで遊ぼうという気はないが、しかし赤ちゃんをなんとか水に入れようという気もない。 なんとなくリラックスした姿を見せてくれる。 だから赤ちゃんに精神的な焦りは生じない。

ウスラーダと赤ちゃんの悠々たる泳ぎ

26歳のウスラーダの授乳

a0151913_1943196.jpg
このウスラーダは26歳になっているにもかかわらず、こうして動き回る赤ちゃんと一日中一緒にいても全く疲れた様子を見せない。 つまり、意識を集中すべき部分と気を抜いてよい部分との配分が実に巧みなのである。 ウスラーダは赤ちゃんを差し置いて自分だけが遊ぶということはやらない。 いつも子供に意識を向けているが、それは過度ではないために疲れを感じないということだろう。 「情愛型」のシモーナやララは展示時間中に赤ちゃんと体を寄せ合って昼寝をするが、ウスラーダは全く昼寝をしない母親である。 ウスラーダは子供のいない一頭だけのときは昼寝をするが、育児中はそれをしないのである。 つまり彼女はいつでも母親という高い立場にいて自分の子供に対する責任感を感じていることに間違いない。
a0151913_16592636.jpg
ウスラーダの母性はあくまで子供を上から見る姿勢によって維持されている。 それは、子供はまだ小さくていろいろなことを理解していないという考えからだろう。 子供の行動の物差しは母親であるウスラーダが握っているのである。 その物差しは「やってよいことといけないこと」、「すべきこととすべきでないこと」の明確な基準を持っているのである。 この物差しは「合理性」の目盛りが刻まれており、ウスラーダはその物差しを適用することによって自分の子供と接し、そして子供を育てていくのである。 これこそがウスラーダの愛情ということである。
a0151913_20161237.jpg
ウスラーダは見ていて実にスケールの大きな母親である。 そしてそこには一本、芯が通っている。 しかしこういったウスラーダの育児への姿勢を写真や映像から抽出することは極めて難しい。 それだけウスラーダの育児は高度な次元にあるからなのだろう。 昨年暮れに世界で一気に5頭もの「母親初体験」のお母さんたちが出現したが、あくまでも映像だけでの判断で断定的なことは言えないまでも、やはりどのお母さんも育児に精一杯で余裕が全くないのである。 そういったお母さんたちとこのウスラーダを比較すると、その差は歴然としているように感じる。
a0151913_20162766.jpg
こうしたウスラーダの子育ては見れば見るほど引き込まれてしまうのである。 私はシモーナやララのほうが、たとえタイプの異なる母親であることを考慮してもウスラーダよりは母親としての力量は優っていると最近まで考えていたが、こうして長い時間ウスラーダ親子と向き合っていると、そういった評価は一面的ではないかと改めて気が付いた。 シモーナやララとこのウスラーダの違いは、シモーナやララは自分の子供たちを自己の分身のように認識してその存在を自分の内側で把握するのに対し、このウスラーダは自分の子供たちを自己の外側に認識しているという点である。 つまりウスラーダの子供たちに対する態度にはある種のdetachment とでもいったような感覚が生じているように見える点である。 これも「理性型」の母親に見られる感覚のように思う。
a0151913_20164274.jpg
シモーナ、ララ、そしてこのウスラーダの母親としての力量は甲乙付けがたい。 この三頭の母親の子育てにはいずれも高度な能力が発揮されているのだ。 ウスラーダにあってシモーナやララにはないもの、それは芯の強さと筋の一本通った姿勢だろう。 これこそがまさに「理性型」の母親の典型であるウスラーダの見事な母親像なのである。 このウスラーダを見ていると、彼女の娘のシモーナや、そしてララが子供たちに示す愛情がややわずらわしくさえ感じるような気もするのである。 そういったウスラーダ親子の姿は、何時間、何日間でも見続けていたい気持ちになるのである。
a0151913_21555663.jpg
このウスラーダは、ただただ偉大であるという以外の言葉が見つからない。 崇高ささえ感じる母親ウスラーダの姿である。

Nikon D5300
AF-S DX NIKKOR 55-300mm f/4.5-5.6G ED VR
(May.3 2014 @ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園)

(過去関連投稿)
「情愛型」 と 「理性型」、「対象関与型」 と 「対象非関与型」 のそれぞれの母親像の違いを探る
女帝ウスラーダとシモーナ、コーラ、リアの三頭の娘たち ~ 偉大な母親たちの三代の系譜
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの歩む道 ~ 再説: 繁殖可能年齢上限
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園で26歳の女帝ウスラーダが16頭目の赤ちゃんを出産!
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの赤ちゃんの産室内映像が公開される
ロシア・サンクトペテルブルクのレニングラード動物園がウスラーダの赤ちゃんの産室内映像を一挙に公開
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園の女帝ウスラーダの15頭の子供たちの姿
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダの16頭目の赤ちゃんが遂に戸外へ!
by polarbearmaniac | 2014-05-04 04:45 | 異国旅日記

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ノヴォシビルスク動物園を三ヶ..
at 2019-07-15 23:45
成田からノヴォシビルスクへ ..
at 2019-07-14 21:45
盛夏のロシアへ
at 2019-07-14 08:00
ベルリン動物公園のヘルタの力..
at 2019-07-13 23:55
ウィーン・シェーンブルン動物..
at 2019-07-12 23:55
旭山動物園でサツキとピリカに..
at 2019-07-11 23:55
ドイツ・ミュンヘン、ヘラブル..
at 2019-07-10 23:55
モスクワ動物園がシモーナとウ..
at 2019-07-09 23:55
ロシア・クラスノヤルスク動物..
at 2019-07-08 23:55
チェコ・ブルノ動物園のコーラ..
at 2019-07-07 23:55

以前の記事

2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Lenin's Tomb: The Last Days of the Soviet Empire


Resurrection: The Struggle for a New Russia


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag