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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来..

ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来.._a0151913_050533.jpg
Photo(C)Greg Harvey

今までホッキョクグマの将来という観点から、いくつかの投稿でホッキョクグマの生息数評価の問題を折に触れて述べてきたつもりです。 11月初旬に南米エクアドルの首都キトで国連総会の補助機関である国際連合環境計画 (UNEP - United Nations Environment Programme)が所管する「ボン条約」 (CMS - Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals : 移動性の野生動物種の保護に関する条約)」 の「締結国会議」(COP11 - The Conference of the Parties) が開催され、そこでノルウェー政府がホッキョクグマをCMSの付属書Ⅱに入れる提案を行うことになっています。 これは以前にも話題にした「ワシントン条約」 (CITES - Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora : 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)とは別のものであり、その違いはおいおい述べていくつもりです。 このCOP11の開催が二か月後に迫り、欧米の識者やマスコミはホッキョクグマ保護に関するいくつかの議論を発したり記事に掲載し始めており、ホッキョクグマの保護を巡ってまた熱い議論が戦わされる季節が近づいてきたようです。 私もそういった議論については重要なものを可能な限りここでフォローしていきたいと思っています。
ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来.._a0151913_0504177.jpg
Photo(C)Greg Harvey

今回はまず根本の部分についてさらりと触れておきます。 そもそも問題なのはホッキョクグマの生息数とその近年における推移、今後の見通しというものに専門家の間で意見の食い違いがあることをまとめておきたいと思うわけです。 そこでカナダ放送協会 (CBC) の制作した17分ほどの特集番組を見ていただきたいと思います。 登場している論者はカナダ・アルバータ大学教授のアンドリュー・ドローシェー (Andrew E. Derocher) 氏とアメリカ・ミネソタ大学出身の生物学者であるミッチェル・テイラー (Mitchell Taylor) 氏です。 これは是非最後までご覧いただきたいと思います。 ドローシェー氏は近年におけるハドソン湾地域におけるホッキョクグマの生息数の減少傾向といった調査結果を基礎にして海氷の張る時期が遅くなり、そして解ける時期が早くなればホッキョクグマの狩りに大きな障害が生じ最悪の場合は今世紀半ば過ぎにはチャーチルにはホッキョクグマはいなくなると主張します。 一方のテイラー氏は、ホッキョクグマの生息数は近年は減少しておらず健全な状態にあり2005年と全く同じレベルであり、ホッキョクグマが近年減少しているという見解は調査の方法論に大きな問題があるからだと主張しています。 冒頭はCMが入ります。 番組は英語ですので詳しい解説は不要と思います。 できれば二回ほど繰り返したご覧いただきたいと存じます。冒頭はCMです。



(*上の映像がうまくご覧いただけない場合は下でご覧下さい。)



上の番組に登場しているドローシェー教授のような立場が現在ホッキョクグマ研究では「主流派」であり多数派です。 著名なホッキョクグマ研究者であるイアン・スターリング (Ian Stirling) 氏もスティーヴン・アムストラップ (Steven C. Amstrup) 氏もこの「主流派」に属しています。 団体では Polar Bears International もこの「主流派」の見解に沿った主張を展開しています。 AZA も EAZA もこの「主流派」の見解を受け入れており、世界中の動物園もこの「主流派」の見解に沿ってホッキョクグマの危機を来園者に訴えているわけです。 一方でテイラー氏のような立場は「反主流派」であり「少数派」です。 この「反主流派」の主張は実際にホッキョクグマの生息地で暮らしたり働いている人々の「経験」や「実感」といったものを根拠におき、そして「主流派」の主張の根拠となっているホッキョクグマの調査方法と生息数推定方法には重大な問題があると主張するわけです。 この「反主流派」の見解を支持するのがイヌイットのコミュニティーやカナダ政府の環境省といったところです。
ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来.._a0151913_051962.jpg
Photo(C)Greg Harvey

私の見たところ、この「主流派」の主張には説得力はあるもののいくつかの点において弱点も抱えているように見え、これは以前にも書きましたが短期的・中期的なスパンにおける海氷面積の増減をいとも簡単に特定地域のホッキョクグマの生息数の増減に結びつけて性急に説明しようとしたイアン・スターリング氏の主張に「反主流派」はその欠陥をうまく突いた批判を行ったわけです。 同じ「主流派」のスティーヴン・アムストラップ氏は近年の海氷面積の減少傾向をそのままホッキョクグマの生息数の近年の減少に結びつける主張をあえて回避しようという姿勢を見せており、将来の状況だけについて語る傾向が強いよう思います。 スティーヴン・アムストラップ氏の見解は、こちらの Polar Bears International のページで知ることができます。 先日ご紹介したアメリカのトレド動物園でAZAの飼育下のホッキョクグマの繁殖計画 (SSP) を作成しているランディ・メイヤーソン博士は「1960年代には世界のホッキョクグマの生息数は約5000頭しかなかった」 と語っていましたが、アムストラップ氏はその生息数はデータ的、資料的な根拠がないと一蹴しています。 アムストラップ氏の主張は要するに “For polar bears, it's all about sea ice.” という将来の見通しに非常に大きな力点を置いて語ることが非常に多いわけです。 アンドリュー・ドローシェー氏は「主流派」の中の「主流派」といったところで、ホッキョクグマの近年における状態、そしてその将来について最も厳しい見方をする専門家のようです。 このドローシェー氏によって「反主流派」のテイラー氏は「種の保存委員会」(SSC - Species Survival Commission) の「ホッキョクグマ専門家グループ」 (IUCN/SSC Polar Bear Specialist Group) のメンバーからはじき出されてしまったことを上の番組でも語られています。 ドローシェー教授の主張をさらに下の映像で聞いてみましょう。



私が考えるところでは、ホッキョクグマの生息数の増減は短期・中期的にはジグザグの増加、減少の線を描いて海氷面積の増減とはあたかも無関係に見える傾向を見せつつ推移するものの、長期的には確実に下降線をたどるだろうと思っていますが、短期・中期的なジグザグの要因については何がそれに当たるのかがまだ判明していないのではないかと思っています。 ですから「ホッキョクグマの生息数は近年は減少し続けているのだ。」 とは簡単には言えないだろうと思います。 先日ご紹介した衛星画像を用いたホッキョクグマの生息数調査によればカナダの特定地域に関するならば、従来の方法で行われた2005年の調査による頭数と現在の衛星画像を用いた調査で判明した頭数はほぼ同じであり、この9年間についてホッキョクグマの生息数は減少していないという調査結果すら出ています。 ただしかしその投稿でも書きましたが、この衛星画像による生息数調査はまだまだ実験段階であり、そして多くの課題が存在しているということも事実です。 ともかく、「反主流派」はホッキョクグマの将来についてはおおむね非常に楽観的な考え方をしています。 

それから、「反主流派」は「主流派」の主張は政治的なバイアスがかかっていると言いたいようですが私に言わせれば「反主流派」の方がイヌイットの利益や温暖化人為説否定論者の主張などを取り込んでいるように思えて、より政治的だろうという感じがします。 私はホッキョクグマの未来に関するならば、「主流派」は最終的には「生存圏が縮小すれば頭数は減少する。」 という生命界における絶対不変のテーゼを主張の最後の拠り所にしている分だけホッキョクグマの将来を楽観的に考える「反主流派」の主張よりもはるかに説得性があると考えている人間です。 ともあれ、今年の秋はこの「ホッキョクグマの生息数の評価とその将来の見通し」について何回かの投稿にわけてゆっくりと考えていきたいと思っています。 今回はその意見の対立の存在だけを述べておくことに留めます。 あと、過去関連投稿にはこの議論に関する今までの内容の多くを述べていますのでご参照いただければ幸いです。

(資料)
CBC News (Sep.4 2014 - Polar bears: Threatened species or political pawn?)
The Guardian (Aug.12 2014 - Quito summit is our chance to protect the polar bear by all means)
Huffington Post (Sep.3 2014 - The Polar Bear's Vanishing World)
IUCN/SSC Polar Bear Specialist Group
(The official website for the Polar Bear Specialist Group of the IUCN Species Survival Commission) 
(PBSG global population estimates explained)
(Global polar bear population estimates)
(Summary of polar bear population status per 2013)
(The status table) (PDF 114.5 kB)
Polar Bears International
(Polar Bear Status Report)
(Are polar bear populations increasing: in fact, booming ?)
U.S. Geological Survey (USGS)
(Polar Bear Research)
(New Polar Bear Finding)

(過去関連投稿)
カナダ北部、ヌナブト準州の村落近くでホッキョクグマ親子3頭が射殺される ~ 経験と科学の相克
ワシントン条約(CITES)第16回締結国会議とホッキョクグマの保護について ~ 賛成できぬWWFの見解
餓死したホッキョクグマの写真を掲載した報道記事の波紋 ~ イアン・スターリング氏のコメントをめぐって
温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎
カナダ北部・ヌナブト準州のアーヴィアト村落に現れるホッキョクグマたち
モスクワで「ホッキョクグマ保護国際フォーラム」が開催 ~ 保護協定締結40周年と今後の行動方針に向けて
ロシアでのホッキョクグマ生息数未調査地域で研究者チームが本格的に生態・生息数調査を開始する
by polarbearmaniac | 2014-09-07 23:45 | Polarbearology

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