街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum
by polarbearmaniac
今年2015年の日本のホッキョクグマ界を振り返って ~ ホッキョクグマたちが描いた絵巻物


今年も残すところあと数日といったところになりました。ここで今年2015年の日本のホッキョクグマ界を振り返ってみたいと思います。大きな話題としては三つで、まず大阪・天王寺動物園でのバフィンとモモ、札幌・円山動物園でのララとリラという二組の親子の姿が大きな印象を残しました。あと一つはやはりロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカの来日でしょう。この三つはとりわけ印象が深かったと思います。
バフィンとモモ (2015年3月10日 - 一般公開日初日撮影)
ララとリラ(2015年4月1日 - 一般公開日初日撮影)
23歳になっていたバフィンの初めての育児姿は感動的でしたし、現在では世界屈指の育児技量を誇るララの夏頃から以降におけるその技量の惜しげもない発揮については世界でも稀有の光景であったと思います。前者については育児初体験の母親の年齢という点についてドイツのブロガーさんを驚嘆させ、後者についてはロシアのホッキョクグマファンの方々がゲルダを比較の対象として持ち出すことを不可能とさせるほどの、それはもう圧倒的なものであったということです。三つ目のシルカについては前稿の "Polar Bear of the Year (2015)" in Japan で述べた通りです。
シルカ (2015年6月27日撮影)
あとの話題としては、釧路市動物園のミルクの人間のような動作を行う遊びが話題になったこと、上野動物園にイコロが入園して遂にデアとのペア形成の前提が実現したこと、ゴーゴが白浜に移動してさらなる繁殖への挑戦を行うことになったことなどが話題でした。その一方で私たちはホクト(鹿児島)、ミリー(名古屋)、アイス(神戸)という三頭の貴重なホッキョクグマたちを失ってしまいました。ホクトについては彼は繁殖能力に非常に優れている血統に属していたという点と、ミリーについては孤立した貴重な血統であったという点においてなどを含め、高齢とは言えなかったこれらの三頭の死は残念でなりません。
今年2015年はまだ終わったわけではありませんが、繁殖に挑戦している数頭の雌たちに出産があったかどうかの情報は一部を除いては公に明らかにはされてはいない状況です。しかし残念ながら日本では今年2015年に誕生する(した)個体はないと考えておいてほぼ間違いはないのではないでしょうか。飼育下におけるホッキョクグマの繁殖がいかに難しいかを我々は改めて認識したという結果となるでしょう。世界を見渡してみれば、出産していることはかなり確実であるものの公式発表されていない雌が少なくとも二頭いると私は考えています。その一頭はアメリカ・トレド動物園のクリスタル、もう一頭はロシア・ノヴォシビルスク動物園のゲルダというこの二頭です。ロシア・イジェフスク動物園のトゥムカも私は出産していることは間違いなしと考えていたわけですが、その発表は年明け以降だと考えていたものの今回は不思議なことに年内に発表されたというわけです。慎重なロシアにしては早い発表でした。
バフィンとモモ (2015年9月5日撮影)
ララとリラ(2015年7月27日撮影)
飼育下のホッキョクグマには国によって繁殖能力に差があるようには思いませんが、しかし欧州では何頭もの雌が繁殖に成功しています。ロシアでは飼育環境は厳しいものの、そういったことを気にも留めないらしいように大物の母親たちが何頭も存在しています。一方で世界で最も数多くのホッキョクグマを飼育しているアメリカでは本当に確実に頼りになるのはクリスタルだけだということです。その彼女ですら生まれは欧州なのです。アメリカのホッキョクグマ界は何か日本のホッキョクグマ界と似た様相を呈しているように思います。クリスタルやララだけを頼りにしてきた状態ではアメリカや日本のホッキョクグマ界の将来は非常に厳しいでしょう。日本の場合で言いますと、ララに続くホッキョクグマとしてはバフィンは年齢的にもう限界でしょう。クルミは「単発打ち上げ花火型」、つまり「パルス型」のホッキョクグマのようですから、毎回確実に頼りになるかと言えばそうではないでしょう。その後の世代としてはユキ(姫路)とがポーラ(仙台)などがいるわけですが前者については環境面での不安が尽きません。しかし姫路の環境を逆手に取れば、仮にユキが出産に成功すればユキの育児中にホクトは否応なしにあそこから二年ほどの期間、BLでの他園出張となるでしょう。そうなればチャンスです。彼をその期間にピリカのパートナーにさせるわけですが、問題は場所です。場所がありません。やはり札幌以外にはないように思います。それからポーラ(仙台)ですが、彼女のパートナーはラダゴル(カイ)というウスラーダの息子ですから、それこそ最強のパートナーのはずなのですが、これがなかなか容易ではありません。ラダゴル(カイ)は人格者(人格熊)ですのでポーラのわがままにじっと耐えるという能力に優れていることが逆に災いしているようにも思います。女帝ウスラーダの子供たちの中でウスラーダと一年を超して同居しているためにウスラーダの教育が最も行き届いているのは娘のシモーナ(モスクワ)と息子のラダゴル(カイ)であろうことは間違いないはずです。前者はすでに世界的にも偉大な母親ですから、ラダゴル(カイ)にも当然その期待がかかっているわけです。性格的に言えばポーラにはゴーゴ、ラダゴル(カイ)にはピリカが向いているような気がしますが、性格的にうまくいくということと繁殖成功との間には明確な関連があるとは限りません。
そういったことはさておき、今年2015年はモモとリラという二頭の幼年個体が無事に一歳の誕生日を迎えたということで、日本のホッキョクグマ界も何とか面目を保った年であったように思います。来年はどんなドラマがあるでしょうか。誰にも予想はつかないでしょう。
(過去関連投稿)
今年2012年の日本のホッキョクグマ界を振り返って ~ 真の 「開国」 となるか?
今年2013年の日本のホッキョクグマ界を振り返って ~ 漠然とした期待感の中で封印されてきたもの
今年2014年のホッキョクグマ界を振り返って ~ 世界のホッキョクグマ界における日本の現在の位置確認
by polarbearmaniac
| 2015-12-28 12:00
| Polarbearology
カテゴリ
全体Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
飼育・繁殖記録
街角にて
未分類
最新の記事
........and so.. |
at 2023-03-27 06:00 |
モスクワ動物園のディクソン(.. |
at 2023-03-26 03:00 |
ロシア・ノヴォシビルスク動物.. |
at 2023-03-25 02:00 |
ロシア・西シベリア、ボリシェ.. |
at 2023-03-24 02:00 |
鹿児島・平川動物公園でライト.. |
at 2023-03-23 01:00 |
ロシア・ノヴォシビルスク動物.. |
at 2023-03-22 03:00 |
名古屋・東山動植物園でフブキ.. |
at 2023-03-21 01:00 |
ロシア・ノヴォシビルスク動物.. |
at 2023-03-20 02:00 |
モスクワ動物園のディクソン .. |
at 2023-03-18 22:20 |
ロシア・サンクトペテルブルク.. |
at 2023-03-18 03:00 |
以前の記事
2023年 03月2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月