街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum
by polarbearmaniac
モスクワ動物園のシモーナ親子の近況と双子の移動先 ~ 次世代の血統面を無視すれば札幌は有り得るが...

一昨年2014年の11月10日にモスクワ動物園でシモーナお母さんから誕生した雄と雌の双子ですが、ロシアの動物園には珍しく親子の同居はすでに二年目に入っています。こういったことはシモーナが前回2011年11月に三つ子を出産した際にやはり親子同居の二年目があったぐらいでしょう。前回の三つ子の時にはシモーナへの負担を考えてロシアでは異例の三年サイクルの繁殖が採用され、その結果としてシモーナは2014年11月にこの双子を出産したということになります。今回も結局は次に繁殖までは三年サイクルが採用されているわけですが、これが当初から狙っていたことかと言えば、どうもそうではないらしい形跡もあります。今年2月の「モスクワ動物園、シモーナ親子の「国際ホッキョクグマの日」 ~ 雄雌の双子は近々国外の動物園へ」という投稿の中でご紹介したモスクワ動物園の飼育主任の方の発言では、双子は間もなく国外に移動するということになっていたからです。ところが現在に至るまでこの双子は母親であるシモーナと同居しているというのは、何かの方針変更があったものと思われます。モスクワ動物園が公開した最新のこの親子の映像をご紹介しておきます。さすがに丁々発止としたこの親子の様子がご覧いただけます。やはり母親であるシモーナを中心とした親子の関係は変化に富んでいておもしろいわけです。それから御注目いただきたいのは、この双子はもう完全に「ロシアのホッキョクグマ」という体型をしている点です。
私は昨年の秋にロシアの地方紙の報道内容から推察して、この双子のうち雌はペンザ動物園、雄はシベリアのバルナウル動物園に移動する可能性が高いと判断していたわけですが、ペンザ動物園に関しては秋にもホッキョクグマの新飼育展示場が完成する予定になっていたはずで、やはりこの双子がまだシモーナと暮らしているということは、双子の雌(メス)はペンザ動物園に移動して野生出身の雄(オス)のベルィのパートナーになるのではないかと依然として推察しています。一方、双子の雄(オス)についてはなんとも言えません。シベリアのバルナウル動物園の園長さんが昨年の秋にホッキョクグマの導入計画を発表したことで地元は大いに盛り上がっているようですし、バルナウルはノヴォシビルスクに近いためにノヴォシビルスクのファンの方々もバルナウルに行ってみたいという方がいらしゃるようで、やはり非常に期待が大きいようです。ところが今年の2月にバルナウル動物園の園長さんは、「ホッキョクグマはいつ来るのですか?」という期待に膨らむ市民の声に対して、「EARAZA(ユーラシア地域動物園水族館協会)にホッキョクグマ購入の申請を行い、その際には飼育展示場の写真などを添付し、EARAZAの許可が下りなければホッキョクグマの導入はできず、それも順番待ちという状態となるのでホッキョクグマの導入は一年間でできるような問題ではない。」と非常に慎重な言い回しに変わってしまいました。私が思うのには、おそらくバルナウル動物園の飼育展示場には問題があってEARAZA(すなわちモスクワ動物園)が飼育許可を出さなくなってしまったのではないかと考えています。そうなるとこの双子のうちの雄はバルナウル動物園ではなく欧州のどこかの動物園に移動するのではないかという気もします。
すでにいろいろとここでも述べてきましたが、今までのようにホッキョクグマはロシアから金銭で購入すればよいといった時代ではなくなっているわけで、移動先(売却先)におけるパートナーの存在、そして飼育環境の問題をEARAZA(つまり事実上はモスクワ動物園)は問題にしてきているわけです。それがノヴォシビルスク動物園の故シロ園長がシルカを金銭面で最も有利に単純売却しようという最初の意図をEARAZAの横槍によって修正せざるを得なくなってしまった(つまり、シルカの移動先の動物園にはシルカのパートナーとなる雄の個体の存在が不可欠であることを故シロ園長はEARAZAから「繁殖計画」の名目で必要条件として付きつけられ、金銭的では有利な条件をノヴォシビルスク動物園に提示していたはずの複数の中国の動物園が全て脱落し、ゴーゴを有していた大阪が移動先として決定的に有利になった)という一連の経緯に見て取れるわけです。ロシアから中国へのホッキョクグマの移動はここのところピタリと止まっています。つまり、中国の地方の大都市の動物園がいくら金を積んでもロシアからホッキョクグマを購入できなくなっているということです。中国ではホッキョクグマは展示消耗品にしかすぎず繁殖などという観念は希薄であり、従って「繁殖計画」などあるはずもないわけで、つまり購入個体のパートナーの存在を提示できないのです。こうして「ホッキョクグマの市場価格」という概念はほぼ消滅してしまったわけです。

Photo(C)Московский зоопарк/Лариса Кибардина
札幌・円山動物園がモスクワ動物園に話を持って行っていれば、このシモーナの双子のうちの雄(仮称「ポリちゃん」)の購入はいとも簡単(だった)でしょう。ノヴォシビルスク動物園で現在ゲルダお母さんが育児を行っているロスチクの導入も、札幌市の市長が姉妹都市であるノヴォシビルスクのローコチ市長経由で話を持って行けば実に簡単でしょう(ローコチ市長というのはノヴォシビルスク市と日本との繋がりを求めている方のようです)。アイラ、マルル、ポロロ、リラと、「ポリちゃん」やロスチクのパートナー候補となり得る雌(メス)の個体を札幌市は四頭も有しているのです。しかも札幌市は資金力も豊富です。かつ、アイラ、マルル、ポロロ、リラというのはロシア血統とは何の血の繋がりもないという優位性があります。
しかし日本国内での今後の世代の血統を考慮すれば円山動物園がモスクワ動物園(あるいはノヴォシビルスク動物園)からの雄の個体の導入を行うことは決して好ましくないでしょう。しかし好ましくなくても少なくとも現在は血統上の関係はないからパートナーにしてもよいという考え方は、やはりあり得るでしょう。現在すでに日本のホッキョクグマ界はルビコン川を渡っており、「ロッシー/ヴァニラ」、「ゴーゴ/シルカ」は血統上の繋がりがありますから、これらに比べれば「ポリちゃん(仮称)」やロスチクを血統的には無関係のマルルやポロロやリラのパートナーにすることは全く問題はない、いやむしろ好ましいという考え方は十分有り得るのです。 次世代におけるペアの組み合わせに繁殖の血統上の問題が生じたにせよ、ともかく現在の世代(つまりアイラ、マルル、ポロロ、リラ)がまず問題であり、その次の世代は「後は野となれ山となれ」といった考え方は、現在の日本のホッキョクグマ界に関するならば有り得る考え方だとも言えるのです。しかしどうでしょうか、次世代は深刻な問題となることは事実なわけです。私はシモーナの息子の「ポリちゃん(仮称)」もゲルダの息子のロスチクも、その札幌導入にはやはり到底賛成できません。しかし有り得る考え方であることだけは認めます。何故なら「ポリちゃん(仮称)」やロスチクとアイラ、マルル、ポロロ、リラは全く血の繋がりがないからです。モスクワ動物園のシモーナは、彼女の第一子であるイワン(旭川)については彼女の経験不足による「失敗作」なのではないかと思いますが、しかし現在の彼女の世界最高ともいえる熟練した育児能力によって育てられた子供たちについては、私はその姿を日本で見てみたいという気持ちはあります。あくまで一般論としての話ではありますが。
ロシア・第一チャンネルで今年の二月にTVで放送された「モスクワ動物園の舞台裏 ("Закулисье Московского зоопарка"」、及び2014年に中央テレビ放送された「モスクワ動物園の動物たちと担当者の仕事」("Киперы Московского зоопарка читают посетителям лекции о животных")という短い番組をご紹介しておきます。
(資料)
ПолитСибРу (Feb.17 2016 - Когда в Барнаульском зоопарке появится белый медведь?)
Московский зоопарк (Белые медведи)
(過去関連投稿)
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| 2016-07-07 23:30
| Polarbearology
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