街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum
by polarbearmaniac
モスクワ動物園、ホッキョクグマ繁殖に三年サイクルを導入か? ~ バルナウル動物園の個体入手希望に不承諾

今回の内容はロシアのホッキョクグマ界にかなり関心があるという方以外には全く興味を持っていただけないであろうややディープな内容の話です。モスクワ動物園で2014年11月にシモーナから誕生した雄と雌の双子ですが、ロシアの動物園には珍しく今年は母親との二年目の同居が行われているわけですが、何故モスクワ動物園は伝統的に行ってきた二年サイクルの繁殖を今回は行わないのかという点についてです。実は母親のシモーナは2011年に三つ子を出産した際にも次の繁殖(つまり2014年のシーズン)まで三年サイクルが採用されていたのですが、これは三つ子の出産と育児ということから母体に配慮して特別に三年サイクルが採用されたということをモスクワ動物園から私は聞いています。ところがこの「特別」とも言えるシモーナに対する扱いが今回も行われている(つまりまた三年サイクル)ということが興味のある点なのです。
私は昨年の秋にこのシモーナの二頭の子供たちの移動先有力候補としてロシア国内のペンザ動物園とバルナウル動物園の名前を挙げました。そしてバルナウル動物園に関しては非常に難しくなっているという事情を先月に投稿しています。実は今月8月に入ってからのバルナウル動物園に関する報道から一つ興味深い内容が報じらています。それは、このバルナウル動物園の園長さんは同園の飼育展示を充実するために熱心に活動しているものの昨年から入手を狙っているホッキョクグマに関して、「行列での順番待ち("в порядке очереди его можно приобрести,")」ということを言われたという内容の発言しているということです。記憶の良い方ならばお気付きかと思いますがこの表現は数年前に上野動物園がホッキョクグマの購入を求めてモスクワ動物園に接触した際に言われたことと全く同じであるわけです。上野動物園はモスクワ動物園からこう言われたために、モスクワからのホッキョクグマの導入を断念せざるを得なくなったというわけです。そしてモスクワからではなくイタリアからデアを購入したということです。
この「行列での順番待ち」ということは、要するに「不可能」の意味を婉曲に表現した言い方であるというわけで、その真の意味を上野動物園は理解したというわけです。ところが今回、シベリア・アルタイ地方にあるバルナウル動物園がホッキョクグマの入手に関してこのような状況であると語っているということは、要するにバルナウル動物園がホッキョクグマを入手しようとした交渉の相手方が間違いなくモスクワ動物園であり、そしてそのモスクワ動物園から「不可能」という回答しか得られなかったということを意味するわけです。つまりバルナウル動物園における現状の飼育環境の問題点、そして直近の死飼育展示場建設計画の不備を指摘されたことに間違いないでしょう。バルナウル動物園はホッキョクグアの導入について旧態依然とした意識しかなかったのだと思われます。もうそういう時代ではなくなっているわけです。
さて、ここまでを踏まえた形で再度、何故シモーナは今回も三年サイクルの繁殖にシフトされているのかの理由を考えてみたいと思います。飼育下のホッキョクグマの繁殖の「二年サイクル」と「三年サイクル」の違いについては「札幌・円山動物園のマルルが熊本、ポロロが徳島の動物園に移動が決定 ~ ララの2年サイクル繁殖が継続へ」、及び「ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のシロ園長が批判する近年の欧米の 「三年サイクルの繁殖」」という二つの投稿をご参照下さい。 さて、今回三年サイクルとなった理由について可能性としては以下の三つがあります。
A.モスクワ動物園はホッキョクグマの繁殖について今後は動物福祉を考慮して三年サイクルを方針とするようになった。
B.シモーナの過去の繁殖成功頭数が増えたため血統的な偏りを避けるための調整として今回も三年サイクルが採用された。
C.双子の移動先はすでに決定しているものの、移動先の動物園の飼育展示場の新設(or 改良)工事が終了しないためにモスクワ動物園で待機状態にあり、結果として母親のシモーナと一緒に暮らしている。
これは私の推測ですが、多分BとCの両方が正解なのではないかと思います。まずAについてですが、「モスクワ動物園、シモーナ親子の「国際ホッキョクグマの日」 ~ 雄雌の双子は近々国外の動物園へ」という投稿でご紹介していました通り、今年の2月の時点でモスクワ動物園はこの双子は近々モスクワ動物園を離れる(つまりシモーナと別れる)と主任のエゴロフ氏は述べていたわけです。要するにこの時点ではシモーナは今年の繁殖シーズンに繁殖に挑戦する予定であったことは明らかだったわけです。これは「二年サイクル」での繁殖という今までの考え方をこの時点でモスクワ動物園は維持していたということになります。こういったことから、モスクワ動物園はホッキョクグマの繁殖について「二年サイクル」から「三年サイクル」といった重大な方針転換を行ったということは考えにくいのではないかということです。
次にBについてですが、実はイジェフスク動物園で2013年の繁殖シーズンに誕生した雄のニッサン、そして2015年のシーズンに誕生した雄の双子であるシェールィとビェールィの三頭はいずれもモスクワ動物園が当初の所有権を持っているわけで、この三頭はいずれもシモーナの孫にあたるわけです。そして今回の2014年にモスクワ動物園で誕生した双子はシモーナの子供であり、こういったことからシモーナとの血統上の繋がりのある幼年個体ばかりをモスクワ動物園は国内外に移動(つまり売却、貸与など)を行わざるをえないということなのです。ここで前回に続いてまた三年サイクルの繁殖にしておいたほうが個体の移動(つまり売却、貸与など)先の幅が広がるだろうとモスクワ動物園が考えたとして不思議ではないからです。
次にCですが、たとえばペンザ動物園は遅れに遅れてやっと今年の9月に新しいホッキョクグマ飼育展示場がオープンすることになったわけで、それに合わせて双子の雌(メス)のほうをペンザ動物園に移動(つまり売却、貸与など)させようとしているためにモスクワ動物園でシモーナの元で待機させているとすれば一応は辻褄が合うわけです。そうだとすると問題は双子のうちの雄(オス)のほうです。彼がいったいどこの国のどの動物園に行くことになるのかが問題です。欧州ならばとりあえず雄の幼年個体の集中プール基地であるイギリスのヨークシャー野生動物公園が考えられるのですが、欧州域内のどこかの動物園がこのシモーナの息子を購入することが前提となるわけです。その動物園がどこかは予想が難しいです。
さて、ここまで考えてみると仮に今後日本の動物園がモスクワ動物園から個体を導入しようとすれば(これは血統的に次世代に問題を生むわけですが)、2015年イジェフスク動物園生まれの雄の双子のシェールィとビェールィ、2017年にモスクワ動物園でシモーナから誕生が期待される個体というあたりに絞られてくるというわけです。私が今年の春に浜松のキロルが釧路への移動が決定した際の投稿で、ミルクのパートナーをララファミリーのキロルではなく海外の個体を想定した理由は、こういったロシアの個体、特にモスクワ動物園で2014年に双子として誕生した雄を想定したほうがよいと考えたからです。「アンデルマ/ウスラーダ系」の雄の複数の若年個体は日本のホッキョクグマ界にとっては繁殖とそれがもたらす次世代のペアの組み合わせの面で脅威ではありますが、しかし現時点で繁殖に成功したのはゴーゴだけであるというのも事実なのです。旭川のイワンの繁殖能力には疑問符が完全に払拭されてはおらず、姫路のルトヴィク(ホクト)は飼育環境問題という障害が存在しており、静岡のピョートル(ロッシー)は繁殖成功個体のレニングラード動物園との権利問題(つまり誕生個体の国外流出)が大きく立ちはだかっているわけです。となればゴーゴを除けば残るは仙台のラダゴル(カイ)だけということです。「アンデルマ/ウスラーダ系」とはいってもゴーゴとラダゴル(カイ)の二頭だけの繁殖成功ならば日本のホッキョクグマ界にとってそれほど巨大な脅威とはならないのだと割り切ってしまう考え方はありえるでしょう。
ともかく、シモーナの子供たち(今後の誕生の個体も含めて)がどこの動物園に移動するかに十分に注意を払っておかねばいけないように思います。これは実は巡り巡って日本のホッキョクグマ界に少なからぬ影響を与えると言っても過言ではありません。これが日本の動物園にける今後の繁殖計画にも少なからぬ影を落とすわけです。日本のホッキョクグマ界は確かに非常に苦しい状態にあります。しかし、こういった苦境をかなり緩和させる手はいくらかはあるわけです。そのいくつかを私には暗闇の中の光としてある程度は明らかに見えてきてはいますが、そもそも個体を導入するといっても今まで各動物園(自治体)がばらばらにやってきたわけですし、これからもそうでしょう。仮に国として一元的にホッキョクグマを海外から購入して、そういった個体を血統面を考慮して国内の各動物園に割り振って繁殖を狙っていくといったシステムでも採用されていたとすればよかったわけですが、そういうことにはならなかったわけですし、もう2~3年後には仮にロシアからであってもホッキョクグマの導入はほとんど不可能となるはずです。私は動物園関係者ではありませんし、ともかく静観する以外にはないということです。
(資料)
ПолитСибРу (Aug.5 2016 - Почему Барнаульский зоопарк так нравится взрослым и детям?)
(過去関連投稿)
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| 2016-08-19 01:00
| Polarbearology
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