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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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モスクワ動物園でのシモーナ親子への「エンリッチメント (Обогащение) 」

モスクワ動物園でのシモーナ親子への「エンリッチメント (Обогащение) 」_a0151913_058258.jpg
Photo(C)Московский Зоопарк/Надежда Май

モスクワ動物園で一昨年2014年の11月10日にシモーナお母さんから誕生した雄と雌の双子(*モスクワ動物園は性別を全く公表していませんが、現地で雄と雌であるというモスクワ動物園の見解を得ています)は間もなく二歳になりますが、依然として母親であるシモーナと同居しているようです。先日ロシア極北で保護された野生孤児のニカがモスクワ動物園のヴォロコラムスク附属保護施設に収容されたという投稿の中で同施設内で映っていた個体がこの双子のうちの一頭ではないかと推測したものの、どうもあの個体はそうではなかったようです。
モスクワ動物園でのシモーナ親子への「エンリッチメント (Обогащение) 」_a0151913_0335282.jpg
Photo(C)Московский Зоопарк/Надежда Май

さて、モスクワ動物園というのはホッキョクグマの繫殖実績においては世界最高の実力を持ち、繁殖の主役として飼育展示のメインに据えたペアはことごとく繁殖に成功させるという実力を持っているわけですし、モスクワ市民もホッキョクグマの赤ちゃんの存在を当然のものだと考えているののの、それでも毎回多くの人々がその親子を見るために動物園にやってきます。そしてその赤ちゃんの登場シーンは多くのメディアによっても写真や映像で報じられるわけです。ところが意外かもしれませんが実はその「舞台裏」というものについては、まるで一種の秘密主義ででもあるかのように外部に出してくる情報は非常に少なかったというわけです。6~7年ほど前といった段階では飼育しているホッキョクグマの名前すら明らかにしないというほどだったわけでした。良く言えば、これは「種としての展示」に徹していたということにもなるでしょう。どの個体がシモーナなのか、どの個体がムルマなのか、などといったことはまるでわからなかったというわけではなく、それ以前に同園は飼育しているホッキョクグマの名前すら全くメディアを通じて外部に知らしめるということもなかったということです。そうした情報の閉鎖的状態を少しずつこじ開けたいというのが私がこのブログで試みてきたことなのです。シモーナやムルマといったホッキョクグマがいったいどういった性格であり、どういった育児を行うかについてかなり明らかにしてきたと思っていますし、そういったことを追及したファンは欧州やロシアを見渡しても私だけだろうと思っています。ロシアの動物園というのは、それがたとえ首都モスクワにあったとしても欧米のファンの方々には遠い存在の動物園だということです。
モスクワ動物園でのシモーナ親子への「エンリッチメント (Обогащение) 」_a0151913_0244035.jpg
Photo(C)Московский Зоопарк/Надежда Май

ところがモスクワ動物園もここ2~3年は少しずつ情報を外に出すようになり、少なくとも飼育しているホッキョクグマの名前くらいは公にするようになってきたわけです。それにつれて、シモーナやムルマといった偉大な母親たちの名前がマスコミにも登場することになり、そして飼育員さんたちがニュース映像で語るシモーナやムルマやウランゲリの性格というのは私が実際にこういったホッキョクグマたちをまとまった時間観察して感じた内容とほとんど同じであるということです。
モスクワ動物園でのシモーナ親子への「エンリッチメント (Обогащение) 」_a0151913_025754.jpg
Photo(C)Московский Зоопарк/Надежда Май

今回モスクワ動物園はシモーナ親子に対して与えられたエンリッチメント (Обогащение) としてのおもちゃと、それで遊ぶ親子の映像を公開しました。まずその映像を見てみましょう。特に取り立てて変わったシーンというものはないようです。双子のうち雄(オス)の体が成長して母親であるシモーナとそう変わらない大きさになっています。



こういったホッキョクグマ親子とおもちゃのシーンというのは札幌や大阪でさんざん見慣れているわけですしモスクワ動物園では今までも良く見られたシーンなのですが、それをあえて「エンリッチメント (Обогащение) 」という言葉を用いて一般に紹介したのは多分これが初めてではないでしょうか。上の映像ではシモーナがかなり子供たちの持っているおもちゃを奪おうとしていますが、そういったことは子供たちにとっての良い刺激になっているように思えます。 さて、比較的最近のこの親子の姿を別の映像で見てみましょう。





次の映像が双子も体の大きさからしてひょっとしたら今年の春の映像かもしれません。この映像では子供たちが退屈そうにしているのに気が付いているシモーナは、いったいどうやったら子供たちに手劇を与えてやれるかを思案しているような姿に見えます。



さて、この「エンリッチメント」に話を戻しますが、一般的にホッキョクグマなどにおもちゃを与えて退屈しないように刺激してやるといったことは英語圏では "Behavioral enrichment" (「行動エンリッチメント」)という概念カテゴリーに当たるものと考えられます。ところがこの「エンリッチメント」にはもう一つ、"Environmental enrichment” (「環境エンリッチメント」)という概念が存在しています。日本ではどうもエンリッチメントというと、それは全て "Environmental enrichment” として位置付けられているようです。この "Behavioral enrichment" と "Environmental enrichment" との関係は微妙ですね。私の理解では後者は前者を内包した上位概念であると考えています。ですから実は日本の動物園でホッキョクグマに対して行われているエンリッチメントは内容から言えばまさに "Behavioral enrichment" であるにもかかわらず、これは全て "Environmental enrichment" に含まれているのだという言い方をしても良いという理解です。
モスクワ動物園でのシモーナ親子への「エンリッチメント (Обогащение) 」_a0151913_035567.jpg
Photo(C)Московский Зоопарк/Надежда Май

さてところがドイツ語圏ではこの二つを区別せず単に "Enrichment" という単独概念で扱っているようです。ではロシア語圏ではどうかといいますと、これは調べてみたのですがどうもドイツ語圏に近い概念で理解されているようです。つまり「エンリッチメント (Обогащение)」という単独概念で理解されているようです。こういった概念カテゴリーの区分は実に難しいです。私はこの問題についてはあまり深入りしたいとは思いません。ただし日本でよく言われているように「動物園での展示には"形態展示"と"行動展示"の二つがあり、旭山動物園は"行動展示"を採用している。」などという考え方が海外では全く通じない誤った概念規定に基づく言い方(考え方)であるということだけははっきりさせておきたいと思います。「形態」と「行動」は相反する概念ではないことは明白だからです。

(資料)
Московский Зоопарк (Oct. 10 2016 - Обогащение среды обитания белых медведей в Московском зоопарке) (vk/Oct.13 2016)

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by polarbearmaniac | 2016-10-15 01:00 | Polarbearology

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