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ロシア・ペンザ動物園のベルィに待望のパートナーが決定か? ~ 野生出身個体の飼育下での繁殖の将来

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ベルィ (Белый медведь Белый /Eisbär Bely)
(2017年7月22日 於 ロシア、ペンザ動物園)

今年2018年のロシアのホッキョクグマ界で最もその動向に注目しなければならないのがモスクワの南西625kmの位置にあるペンザの動物園に一頭で暮らしている野生出身の7歳になった雄(オス)のホッキョクグマであるベルィでしょう。ペンザ動物園としては彼のパートナー探しを行っているようなのですが現在に至るまで目ぼしい成果がないようです。7歳の野生出身のホッキョクグマにパートナーがないなどということはありえず、ましてやここ1~2年にわたってロシアのホッキョクグマ界はモスクワ動物園主導のもとに野生出身同士のペアを形成させることに注力を注いてきており、そうなるとこのペンザ動物園のベルィのパートナー選びはかなりの急務となっていておかしくはないものの、そういった気配があまり感じられないのが不思議です。ここで今年1月1日のペンザ動物園におけるイベントでのベルィの姿をご紹介しておきます。





野生出身の個体同士でのペア形成が行われると、そのペアが繁殖に成功した場合には「新血統」が生まれることになるわけで、この「新血統」を求めて欧州のEAZAはロシアの動物園と共に「繁殖計画」を題目としてその個体を欧州の動物園に導入しようということになるのは必然といってよいでしょう。このベルィのパートナーとなりうる雌(メス)の野生出身の若年・幼年個体はロシアに数頭存在しているものの、もともと野生孤児の保護、そして飼育場所を決定する権限のあるのはロシア連邦政府のロシア天然資源・環境省 (Министерство природных ресурсов и экологии Российской Федерации) の自然管理監督局 (RPN - Росприроднадзор) なのですが、この組織はそうやって保護した野生孤児個体が飼育下において将来どのように繁殖させていくかという視点に欠けているのがロシアの野生孤児保護行政の欠陥であるといってもさほど大きな間違いにはならないでしょう。モスクワ動物園のヴォロコラムスク附属保護施設には二歳のニカと一歳のアヤーナという二頭の雌(メス)の野生孤児出身の幼年個体が飼育されているのですが、この二頭について自然管理監督局は「永住許可 ("Постоянная прописка в Москве")」を出していますのでモスクワ動物園から他園への移動はほぼないといってよいでしょう。そうなるとペンザ動物園のベルィがモスクワ動物園に移動するということ以外には解決はないように見えるものの、一方で自然管理監督局はベルィの保護・飼育に関する権利をペンザ動物園に認めたという経緯がありますのでベルィの他園への移動にはかなり難しい行政手続きが必要になるということです。そして、ペンザ動物園はホッキョクグマの飼育を開始したのがわずか5年前であり、ましてや繁殖の実績などまるでないわけですからモスクワ動物園が貴重な野生出身の雌(メス)のニカやアヤーナをペンザに移動させることに同意する可能性はほとんどないだろうということです。そうなるとゲレンジークのサファリパークのスネジンカやセレジュカといった野生出身個体の名前を挙げざるをえなくなるのですが、このサファリパークもやはり自然管理監督局からこの二頭の保護と飼育の指定を受けた施設ですのでペンザへの移動に関しては大きな疑問符が付くのです。困った状況です。ただし昨年末に地元ペンザの一部のメディアは一月中旬頃にベルィはパートナーが得られるといったような報道を行っていますので、その真偽を見極める必要があるでしょう。
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私は、こういった現在のベルィの状態をモスクワ動物園が主導するロシアのホッキョクグマ界、そしてペンザ動物園がどう打開していくかが今年のロシアのホッキョクグマ界では最も注目されることではないかと思っています。そしてそのロシアの動物園界の背中を押しているのが欧州のEAZAだろうと思います。この問題はロシアにおける野生孤児の保護、飼育、そして飼育下のホッキョクグマの血統の適正な管理がいかになされていくかを知る絶好のケーススタディであると思っています。こういった世界は日本のホッキョクグマ界には全く無縁の世界ですから日本の同好の方々には興味がないだろうと思います。しかしそういったことでは現在、世界の飼育下のホッキョクグマたちの抱えている問題についての理解の深化にはつながらないでしょう。

(資料)
Prо Город Пенза (Dec.21 2017 - Белый медведь из Пензенского зоопарка попросил у Деда Мороза подружку)
ГТРК Пенза (Dec.31 2017 - Белый мишка пожелал пензенцам исполнения заветных мечтаний)

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(*2017年7月 ペンザ動物園訪問記)
・快晴の土曜日、ペンザ動物園でのベルィとの対面へ ~ 抑制、洗練された行動を行うベルィの趣味の良さ
・ベルィ、謙虚さと「大陸的」なスケールの大きさを兼ね備えたロシア・ホッキョクグマ界の逸材
・ペンザ動物園訪問二日目 ~ 生活のペースが確立したベルィ、待ち望まれる彼のパートナーの決定
by polarbearmaniac | 2018-01-11 00:15 | Polarbearology

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