街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア・ペルミ動物園のホッキョクグマたちへの飼料量からロシアの動物園での繁殖成功の秘密を考える

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ミルカ(ユムカ) (Белая медведица Милка/Юмка в Пермском зоопарке)  (2017年7月20日撮影 於 ペルミ動物園)

ロシア・ウラル地方のペルミ動物園では昨年11月に4歳のミルカ(ユムカ)が出産したものの残念ながら赤ちゃんの成育には至らなかったわけですが、ミルカ(ユムカ)とセリクという共にまだ4歳のペアが春に繁殖行為を行い、そしてミルカ(ユムカ)が出産に至ったという事実には私はやはりロシアの動物園がホッキョクグマの繁殖に対する強さといったものを感じずにはいられません。過去にはウスラーダもシモーナもムルマもマレイシュカもゲルダも非常に若くして繁殖に成功しているわけで、そこになにかの秘訣といったものを探ってみたくなるのです。すぐに考えられる条件は「気候」でしょう。しかし私は今回はそれよりもっと違う条件、つまり彼らの食生活にこの繁殖成功の秘訣を求めてみたいと思います。
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アンデルマとミルカ(ユムカ)(Белая медведица Амдерма и Милка/Юмка) (2017年7月15日撮影 於 ペルミ動物園)

ペルミ動物園は昨年末に同園で飼育しているホッキョクグマたちの一年間の飼料(つまり給餌量)を公開しました。それは同園で飼育されているアンデルマ、ミルカ(ユムカ)、セリクの三頭の一年間の飼料量が述べられています。同園が公表した数字を三で割って一頭あたりの年間飼料量を計算しますと以下のようになります(少し順番を変えてあります)。

ペルミ動物園
・豚肉 (свинина)     1,128kgs
・鶏肉 (кура)       131kgs
・ウサギ肉 (кролик)     34kgs
・活魚のコイ (живой карп)  468kgs
・鮭 (скумбрия)     294kgs
・ホッケ (терпуг)      170kgs
・ニシン (сельдь)      157kgs
 合計          2,382kgs 

(*ただし、ニンジン、リンゴ、スイカなどの野菜や果物は含まない)

さて、上の数字を以前に「動物園でホッキョクグマ1頭を飼育するのにいくらかかるのか?」という投稿でご紹介したことのある仙台・八木山動物公園の2008年度(平成20年度)の数字と比較してみましょう。この仙台の数字から年間の飼料費を計算しますと上野動物園の数字とほぼ同じ数字になりますので仙台の数字は日本における典型的な数字と考えて間違いはないでしょう。その投稿の仙台の数字を上のペルミ動物園の数字を比較できるように一頭あたりの年間飼料量に計算し直してみます。
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ラダゴル(カイ)とポーラ (Медведь Ладогор и медведица Паула Зоопарка Ягияма в городе Сендай)
(2017年5月26日撮影 於 仙台・八木山動物公園)

八木山動物公園
・馬肉      1,460kgs
・煮サツマイモ    548kgs
・リンゴ       274kgs
・パン       219kgs
・ニンジン     110kgs
合計       2,611kgs


一目で気が付くのですが仙台では魚が通常の飼料としてホッキョクグマには与えられていないということです。しかし多分、特別給餌などで与えられる日もあるとは思いますが毎日定期的には与えられていないらしいということです。肉に関してはペルミも仙台も同じ程度の量ですし合計の数字も比較的近いもののペルミのほうが少ないのは、ペルミの数字には野菜や果物が入っていないからでしょう。ペルミの数字では年間に魚類だけで1,089kgsにもなります。これは大変な量です。一方で仙台では与えられているもののペルミでは見当たらないのはサツマイモやパンです。こういった事実をどう考えればよいでしょうか....? 要するにホッキョクグマたちが喜んで食べてくれれば、そして健康で毎日を過ごしてくれれば、という話であって彼らが何を食べようとそれは大した問題ではないと考えておいてもよいかもしれません。ラダゴル(カイ)、ポーラ、ナナの三頭はサツマイモが大好きだという程度の理解でよいかもしれません。 

さて、そこで次にモスクワ動物園の数字を挙げておきましょう。モスクワ動物園は言うまでもなくホッキョクグマの繁殖にかけては世界最高の実績を誇る動物園です。この数字は同園で行われたEARAZAの総会で発表された数字であり同園の2006年の年次報告に挙げられている数字です。
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シモーナ (Белая медведица Симона в Московском зоопарке)
(2014年9月20日撮影 於 モスクワ動物園)

モスクワ動物園
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(出典)ХИЩНЫЕ И МОРСКИЕ МЛЕКОПИТАЮЩИЕ В ИСКУССТВЕННОЙ СРЕДЕ ОБИТАНИЯ (2006)

上の資料の数字は一頭の一日あたりの飼料量であり、さらに冬季(зима)と夏季(лето)にわけて記載されていますので便宜上その中間値をとって一頭あたりの年間飼料量を算出してみます。上に挙げたペルミと仙台の数字と比較するために肉、魚、パンだけを抽出して算出してみます。そうすると以下のようになります。

・肉 (мясо)   1,186kgs
・魚 (рыба)    1,688kgs
・麦パン Хлеб ржаной) 1,095kgs


さて、肉だけを比較しますとペルミ(1,293kgs)、仙台 (1,460kgs)、モスクワ (1,186kgs) となります。仙台が多いのは肉が馬肉だからかもしれません。モスクワの資料では肉の種類は特定されていません。次に魚ですが、ペルミ (1,089kgs)、モスクワ (1,688kgs) と両園ともに非常に多量ですが仙台では魚は通常の毎日の飼料としては与えられていないということになります。これは驚くべき違いといってよいでしょう。下の写真をワンクリックしていただきモスクワ動物園での給餌の様子をご覧ください。飼育主任のエゴロフ氏はホッキョクグマに何をどれだけ与えるかを説明し、そしてシモーナ親子に与えています。まさに上のモスクワ動物園の資料の数字が事実であることがわかります。
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次の写真をワンクリックしていただきますとペルミ動物園での夏期恒例の毎週火曜日の活魚のプレゼントの様子を見ることができます。大変な量の魚が三頭のホッキョクグマたちに与えられていることがわかるでしょう。
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ごく簡単に考えれば、魚を多量に飼料として与えているペルミやモスクワの動物園と比較して日本の動物園としては典型的な仙台の動物園が魚を飼料として考えていないということに大きな差異があるわけです。ロシアの動物園と日本の動物園とのホッキョクグマの繁殖実績のあまりに大きな差はこれが理由ではないでしょうか。日本の動物園のホッキョクグマたちとロシアの動物園のホッキョクグマたちとの繁殖能力の差は歴然としているように思いますしロシアの動物園の雌(メス)のホッキョクグマの体型は魚を多く与えられているからだといってほぼ間違いないように思われます。札幌の円山動物園などはイベントも含め他の動物園よりもかなり魚をホッキョクグマたちに与えているように思いますし天王寺動物園もイベントでは大きな魚をシルカに与えています。しかし一頭当たりの魚の年間量についてはわかりません。少なくとも飼育環境などよりも何を食べているかのほうが繁殖の成否にははるかに関係があると思われます。

日本の動物園でもホッキョクグマたちにもっと魚を与えてみてはどうでしょうか?  ただし日本の気候では魚は傷みやすいですし飼育展示場には独特の臭気が漂いやすくて難しいのかもしれません。ただしどう考えても繁殖にはプラスになるのではないでしょうか。ちなみにペルミ動物園ではホッキョクグマたちの飼料費のほとんどはロスネフチ社が負担してくれるそうです。飼育環境は厳しいですがロシアの動物園のホッキョクグマたちは魚を多く食べて逞しくしたたかに毎日を暮らしているというわけです。
    
(資料)
Пермский зоопарк (Dec.28 2017 - Сколько едят белые медведи)
ХИЩНЫЕ И МОРСКИЕ МЛЕКОПИТАЮЩИЕ В ИСКУССТВЕННОЙ СРЕДЕ ОБИТАНИЯ (2006)
Polar Bear Husbandry at the Moscow Zoo (by I.V.Yegorov and Y.V.Davydov)

(過去関連投稿)
ロシア・ペルミ動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ 残念ながら食害で死亡するも来年への期待
動物園でホッキョクグマ1頭を飼育するのにいくらかかるのか?
モスクワ動物園の一歳半の三つ子ちゃんの近況 ~ 同園でのホッキョクグマ一頭あたりの飼料費は?
by polarbearmaniac | 2018-01-15 02:00 | Polarbearology

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