街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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モスクワ動物園がロシア国内でのホッキョクグマ繁殖の方針を再び示す ~ 「新血統」への強い指向

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ハバル (Белый медвежонок Хабар)(左 - 現ハバロフスク動物園)
スネジンカ(スネジャーナ Белый медвежонок Снежинка/Снежана)(右 - 現ソスト動物園)
(2015年8月7日撮影 於 モスクワ動物園)

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シモーナ (Белая медведица Симона/Eisbärin Simona)
(2015年8月7日撮影 於 モスクワ動物園)

2月27日の「国際ホッキョクグマの日 (International Polar Bear Day/Международный день белого медведя) を目前にしてモスクワ動物園がロシアの動物園におけるホッキョクグマの飼育と繁殖について簡単にその方針を自身のサイトで明らかにしています。その内容は今まで私が各場面で気が付いたことを当ブログで折に触れて述べてきたこととほとんど同じなのですが、いくつかの点において行間に示唆されている内容は興味深い点もありますのでご紹介しておくことにします。箇条書きにしておきます。

① モスクワ動物園は2008年から飼育下のホッキョクグマの頭数維持について欧州の繁殖計画(つまりEEPを指すと思われます)に参加してきた。

② 2016年の暮れから2017年にかけてロシア動物園・水族館連合はロシアの動物園のホッキョクグマを保護する計画を立案し、この計画の枠組みのもとで2016年と2017年に二頭の野生孤児個体を保護した。同じように野生孤児として保護されたドゥムカとアイオンの間にはすでにイジェフスク動物園で赤ちゃんが誕生している。このことは計画全体にとって非常に大きな意義があることを意味している。それは飼育下のホッキョクグマにとっては今までとは異なる「新血統」の誕生を意味するからである。

③ この「新血統」が続いていくことを我々は望んでいる。

④ 近親交配 (Инбридинг) を行わせようかという傾向はすでにあるが、ロシアの動物園においてはこれを決して受け入れることはできない。

......といったことが内容です。

まず①ですが、欧州の繁殖計画に参加した主体はモスクワ動物園単独であり、それに該当したのが同園でムルマから誕生したラスプーチン(現 アンティーブ・マリンランド)であることは間違いありません。ただしモスクワ動物園が欧州の繁殖計画に参加したといっても、それは単に欧州がモスクワ動物園にホッキョクグマを入手したいと申し入れてきたことに対してモスクワ動物園がそれに応じたといった程度の話であって「繁殖計画に参加」といった表現はやや誇張されているということです。つまり①の段階では欧露は緻密な繁殖計画を共有していたというわけではないということです。その証拠にラスプーチンと交換になった欧州個体はないからです。

次に②ですが、2016年の暮れから2017年にかけての時期に至って主体はモスクワ動物園単独からロシア動物園・水族館連合へと変わり、その対象はロシアの動物園全体が対象になったわけです。ここにおいてロシア国内で移動となったのはモスクワ動物園(ヴォロコラムスク附属保護施設)からイジェフスク動物園に移動した雄(オス)のアイオンです。アイオンは野生孤児出身であり、同じく野生孤児出身のドゥムカと繁殖のためのペアを形成することになったわけです。そのためにそれまでドゥムカとペアを組んで三頭の子供をもうけた雄(オス)のノルドはデンマークのコペンハーゲン動物園に移動してしまい、そしてイジェフスク動物園でノルドとドゥムカの間に生まれた三頭の子供たち(ニッサン、シェールィ、ビェールィ)は全て欧州に移動してしまったのです。アイオンの将来のパートナーとしてモスクワ動物園で期待されていたミラーナ(シモーナの娘)も欧州(ハノーファー動物園)に移動となりました。そしてミラーナの母親であったシモーナも繁殖の舞台から「引退」させられたわけです。これらから言えることは②があくまでロシア動物園・水族館連合(実態はモスクワ動物園が主導的立場に立つ)が主体となってその意思が明確に現れてきたということを意味するわけです。その隠れた意図のうちの一つが「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」がロシアにおいて繁殖に寄与することを中止したいということだとみて間違いないでしょう。欧州側にとっては「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」はまだ受け入れる余地があったわけで、それによってさらにシェールィ、ビェールィ、スネジンカ(スネジャーナ)が次々と欧州に移動したわけです。しかしロスチクについてはストップがかかってしまったのが現状であり、ロシア動物園・水族館連合としてはロスチクの今後についてはノヴォシビルスク動物園に任せるといった姿勢になってしまったわけです。

③については、イジェフスク動物園におけるドゥムカとアイオンの野生出身同士のペアにこれからも引き続いて繁殖に期待したいという意味でしょう。さらにクラスノヤルスク動物園のフェリックスとオーロラの野生出身同士のペアの繫殖にも期待を寄せるだろうということです。次なる段階としてはヤクーツク動物園のコルィマーナとロモノーソフのペア、イジェフスク動物園のザバーヴァとバルーのペアがやや微妙な位置に置かれるかもしれません。この二つのペアはいずれも片方が野生孤児出身、もう一方が「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」ですが、ロモノーソフもザバーヴァも母親がシモーナであるならばまだしも、彼らの母親はウスラーダであることが問題なのです。つまり「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」の血が一世代前ではさらに濃くなっているからです。これらのペアが繁殖に成功していくとすればまた「アンデルマ/ウスラーダ系(カザン血統)」の頭数が増加します。となれば、この二つの動物園では将来的にペアの組み換えが行われる可能性があるかもしれません。さて、そうなっていくとすればノヴォシビルスク動物園のカイ(クラーシン)とゲルダのペアにも影響が出てくるかもしれません。

④については、そういったことをやりたいと考えているロシア以外の国の動物園に対する警告であると理解すべきでしょう。と同時に、これは今後のロシアの動物園で誕生する個体の価値は大きいということを言うのが意図であるように思います。それらの「新血統」の個体はロシア動物園・水族館連合が主体となってロシア国内と欧州の動物園に送られるということは確実でしょう。

こういったことから読み取れるのは、日本の動物園が(JAZAを通じて)ロシアの動物園との協力関係を構築するのであれば2015年までにやっておきべきだったのです。現在の時点で日本の動物園がロシアに活路を見出すとすれば、ロシア動物園・水族館連合の繫殖のスキームでは居心地の良くないノヴォシビルスク動物園からの個体導入が最も可能性が高いでしょう。あるいはペルミ動物園も幾分は可能性のある選択肢として残るかもしれません。


モスクワ動物園の産室でのシモーナと三つ子の赤ちゃん(2011年12月)


モスクワ動物園のシモーナと三つ子の赤ちゃん(2012年3月1日)


モスクワ動物園のシモーナと三つ子の赤ちゃん(2012年3月4日)


モスクワ動物園のウランゲリとムルマ、そしてシモーナと双子
(2015年8月)


故アンデルマ、ウスラーダ、シモーナというロシアにおける三世代によるホッキョクグマたちがあまりに素晴らしいですので(でしたので)、彼女たちの子孫の多さで日本の動物園は逆に苦しくなってきてしまったというわけです。

(資料)
Московский зоопарк (Feb.22 2018 - Да здравствует белый медведь!)

(過去関連投稿)
ロシア動物園水族館協会(RAZA)が設立 ~ ロシアでモスクワ動物園の主導的地位が一層強まる
ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか
モスクワ動物園 ヴォロコラムスク附属保護施設のアイオンがイジェフスク動物園へ ~ 「新血統」への挑戦
ロシア・イジェフスク動物園のノルドが欧州へ ~ 水面下で始まっている欧露の協力体制の兆候
モスクワ動物園が、今後ロシア国内で誕生の個体はロシア国内と欧州だけで飼育の意向を表明
by polarbearmaniac | 2018-02-24 00:30 | Polarbearology

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