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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ラトヴィア・リガ動物園のロメオの飼育環境への非難を迅速に鎮火する同園 ~ 「カザン血統」の実像

ラトヴィア・リガ動物園のロメオの飼育環境への非難を迅速に鎮火する同園 ~ 「カザン血統」の実像_a0151913_151214.jpg
ロメオ Photo(C) Sergejs Čičagovs

バルト海沿岸のラトヴィアの首都であるリガの動物園に暮らしているのが28歳の雄(オス)のホッキョクグマであるロメオ (Romeo) です。彼が同園のHPやSNSのページにほとんど姿を見せなくなってからもう数年経っています。何故このような状態になってしまったかについては「ラトヴィア・リガ動物園のロメオ、「隠者」のように暮らし「幻のホッキョクグマ」への道を歩む」という投稿で述べたことがあります。ホッキョクグマは動物園においては人気動物なのですがリガ動物園においてはその存在はあたかも隠匿されたようになってしまっているというのは世界でも稀なケースでしょう。要するにHPやらSNSに彼の姿を登場させると動物保護活動家が騒ぎ出し、EAZA加盟の欧州の動物園が彼のリガ動物園からの移動を要求してくるわけで、リガ動物園としてはロメオを守るために彼の存在の情報を事実上消してしまっているということなのです。

さて、ところが先日ある来園者が自己のSNSのページにこのロメオを見たときの不快感を投稿しました。彼の体が汚れていて到底ホッキョクグマには見えないといったことや、プールに全く水がないといった状態についてその来園者はロメオに同情して怒りの声を上げたわけです。その来園者が撮影したのが下の写真です。
ラトヴィア・リガ動物園のロメオの飼育環境への非難を迅速に鎮火する同園 ~ 「カザン血統」の実像_a0151913_24869.jpg
Photo(C)Julija Supatashvili

確かにこの写真を見るとロメオは悲惨な飼育環境に暮らしているといった印象を強く与えるわけです。そしてこの来園者のSNSによる「告発」が一部のメディアによって紹介されました。早速、リガ動物園の代表者から「火消し」を行う弁解が報道されています。ロメオは砂のある場所で転げまわるのが大好きでありそれによって体が汚れてしまうことや、冬に期間にはロメオは水に入ることをしないためにプールには水を入れなくしてしまったというや、彼は室内で水を飲むといったことなどの説明が行われました。このロメオが1991年にリガ動物園に来園した時には飼育展示場は現在の六分の一の面積しかなかったものの、その後に段階的に飼育展示場の追加改造が実施され現在では1000㎡の広さになっており、またコンクリート以外の部分もあることなどの説明が行われています。以前に「ラトヴィア・リガ動物園、創立100周年を迎えての苦悩 ~ ホッキョクグマのロメオを守る園長さんの決意」という投稿を行っていますが、リガ動物園としてはなんとかこのロメオを守ろうとしており、そのためならばホッキョクグマのイベントを行わないことによって注目を浴びないようにさえしているわけです。そういったことから、「火の粉」は早めに振り払ってしまおうということなのでしょう。ここで一つだけこのロメオのプールの中での姿をご紹介しておきます。これは2012年の映像のようです。ワンクリックして下さい。
ラトヴィア・リガ動物園のロメオの飼育環境への非難を迅速に鎮火する同園 ~ 「カザン血統」の実像_a0151913_1553636.jpg

このロメオは1989年11月21日にロシアのカザン市動物園であの神秘的でカリスマ的なホッキョクグマであったディクサ (1973~2006) から誕生しています。つまりあのウスラーダのすぐ下の弟ということになります。その時代のカザン市動物園ではディクサの他にマーシャという雌(メス)のホッキョクグマも飼育されており、このマーシャも何頭もの子供たちを産んでいるのですがマーシャの産んだ子供のうち何頭かはディクサの子供として血統登録されているといった奇怪な状況が存在していたのです。
ラトヴィア・リガ動物園のロメオの飼育環境への非難を迅速に鎮火する同園 ~ 「カザン血統」の実像_a0151913_425469.jpg
カザン市動物園のカリスマ的ホッキョクグマ、ディクサ (1973~2006)
Photo(C)Вечерняя Казань
*仙台のラダゴル(カイ)、静岡のピョートル(ロッシー)、静岡のヴァニラの祖母、旭川のイワン、大阪のシルカの曾祖母

ディクサが本当に何頭の子供たちを産んだのかについては諸説あり最も多いものでは16頭という記述があるのですが私が複数の現地の資料を突き合わせて丹念に確認してみた限りでは11頭ではないか(あるいは12頭)というのが現在までの調査の結果の数字です。ウスラーダやロメオはそういった間違いなくディクサの子供であることに確認がとれています。一方でズーラシアの故チロはカザン市動物園生まれではありますがディクサの子供でないということです。カザン市動物園というのは謎の多い動物園で血統登録が正確に行われていないのが難点なのです。ディクサの産んだ娘たち、つまりサンクトペテルブルクのウスラーダ、カザンのマレイシュカ、バンコクのウディ(静岡のヴァニラの母)はことごとく複数回の繁殖に成功しています。ところがズーラシアの故チロは成功しなかったわけで、そういったことからも故チロがディクサの実際の娘ではなかったことの傍証にもなっているということでしょう。ディクサの娘であるウスラーダとマレイシュカは大変に気の強いホッキョクグマです。ではディクサの息子であるロメオはどういった性格なのでしょうか? これは興味のあるところです。

ロシアを支配し、そして日本を席巻して欧州にもその勢力を拡大している「カザン血統(アンデルマ/ウスラーダ系」というのは二つのラインから成立してシモーナ(コーラ、クラーシン/カイ etc.)の代で合体するわけです。つまり、

(A)アンデルマ - メンシコフ - シモーナ(コーラ、クラーシン/カイ etc.)
(B)ディクサ - ウスラーダ - シモーナ(コーラ、クラーシン/カイ etc.)

というわけです。リガ動物園のロメオは(B)のラインにのみ属するホッキョクグマということになります。日本に暮らすホッキョクグマたちの中でやはり同じく(B)のラインにのみ属するのは静岡のヴァニラです。一方で姫路のルトヴィク(ホクト)、白浜のゴーゴ、浜松のモモは(A)のラインにのみ属します。そして(A)(B)の両方のラインに属しているのが仙台のラダゴル(カイ)、静岡のピョートル(ロッシー)、旭川のイワン、大阪のシルカということです。ロシアのホッキョクグマ界で「カザン血統 ("происходят от одной казанской линии")」という場合には一般的には(B)のみを指すようです。私は少なくとも(A)(B)のどちらか片方にでも属すれば「アンデルマ/ウスラーダ系」という集合で呼ぶわけです。

(資料)
DELFI.lv (Mar.23 2018 - Читательницу шокировали условия содержания белого медведя в Рижском зоопарке)
Mixnews.lv (Mar.23 2018 - Очевидица: какого чёрта белый медведь в рижском зоопарке совсем "не белый"?!)
info.riga.lv-ru (Mar.23 2018 - Рижане спрашивают: почему белый медведь такой грязный?)

(過去関連投稿)
ラトヴィア・リガ動物園のホッキョクグマ・ロメオの不本意な「引退」
ラトヴィア・リガ動物園のロメオ、21歳の誕生日の苦渋 ~ 雄の繁殖能力年齢の上限は? 
ラトヴィア、リガ動物園のロメオに外国の動物園が食指 ~ 「小さくて弱い」 動物園に対するイジメか?
ラトヴィア・リガ動物園、創立100周年を迎えての苦悩 ~ ホッキョクグマのロメオを守る園長さんの決意
ラトヴィア・リガ動物園のロメオ、「隠者」のように暮らし「幻のホッキョクグマ」への道を歩む
by polarbearmaniac | 2018-03-25 06:00 | Polarbearology

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