
街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum
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日本の飼育下のホッキョクグマたちの黄昏 - "Dämmerung der Eisbären in Japan"

(2011年12月18日撮影 於 札幌・円山動物園)
さて、ここのところ連載となっている十勝毎日新聞の「つなげ 命のバトン」の記事ですが第三回として国内の飼育下のホッキョクグマを取り巻く現状について触れています(「追いつめられたシロクマ」)。しかしこのテーマはさすがに記者の方にとっては荷の重すぎるテーマだったようで内容的な掘り下げが不足した記事となってしまったのは残念です。ですから記事の眼目がおびひろ動物園のアイラのパートナー問題という形に内容の一部が収縮してしまったのも同紙が帯広市に本拠を置くメディアであるために当然とも言えるという考え方もあるでしょう。そして「若いアイラの繁殖の優先順位は低い」という現状における認識のようなものを引き出したというわけです。まず日本の飼育下のホッキョクグマの種別調整者の方へのインタビューを聞いてみましょう。
「20歳を超えると一度も出産もしたこのとない雌(メス)の個体は限りなく繁殖の可能性が低い。」というのは全くその通りです。この件に関しては「アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯」、及び「北米の過去約100年間の飼育下のホッキョクグマ出産記録が語ること ~ 再び考えるキャンディの今後」という投稿を御参照下さい。この種別調整者の方が「データ上....」と述べているのはもちろんこの「北米の過去約100年間の飼育下のホッキョクグマ出産記録 ("Reproductive trends of captive polar bears in North American zoos: a historical analysis")」を意味していると考えられます。このデータについては以前に本ブログで何回もその内容を具体的に御紹介しています。

それから、「何年(同じペアで)成果が出なかったらペアを換えるかについては確固とした指標がない...。」と語っていらっしゃいますが、これについてはごく最近、AZAのホッキョクグマ繁殖推進委員会の座長であるランディ・メイヤーソンさんが文書化はしていないものの「5年(5繫殖シーズン)」という方針を明らかにしています。それから、「"繁殖に取り組む動物園" と "飼育に取り組む動物園" というように分けて考えなくてはならない...。」という考え方を述べていらっしゃいますが、これは欧州における幼年・若年個体のプール基地といった概念とも底流で繋がる考え方であると言えます。
それから、上のインタビュー映像では収録されてはいませんが記事の中で「それでも将来ホッキョクグマがゼロになってしまえば…。近親交配をどこまで許容できるのかデータもなく、岐路に立たされている。」という内容も語っていらっしゃいますが、私の知る限りでは例えばモスクワ動物園ではこれを「ペアの血統については五親等以上離す」という考え方を保持しているようです。これは以前にも書いたことです。

種別調整者の方は日本の飼育下のホッキョクグマの問題点について的確に把握し、そして熟考を重ねている真面目で真摯な方であることがよくわかりました。そして「出産」と「繁殖の成功」の二つを別のものだと理解した言葉の使い分けをしていらっしゃる点でも、なかなか能力のある方だと思いました。一点だけ難点を挙げれば、「雌(メス)のホッキョクグマを産室に閉じ込める」という言い方をされていらっしゃる点です。現在では世界の多くの動物園では「開放型産室」のシステムを採用しており、ある特定の日から雌(メス)の個体を「産室に閉じこめる」というやり方を採用してはいません。出産が期待されている雌(メス)のホッキョクグマたちは自由意思で産室の中と外の出入りが自由になっているのです。出産が近づくとホッキョクグマたちは自分の意思で産室に閉じこもるわけで、人間が彼女たちを「閉じ込める」という発想は過去の時代のものとなりつつあるわけです。こういったことは海外の動物園での映像や写真や報道などでよくわかるのです。どうか、世界の動物園でどういったやり方を行っているかについてもっと関心を払っていただきたいと思います。
次におびひろ動物園のい園長さんへのインタビューです。
内容的には特に述べることはありませんが、おびひろ動物園における人工哺育の写真は興味深いものがあります。

現段階に至っては日本の飼育下のホッキョクグマの繫殖はもう完全に手遅れになっていると思います。非常に残念なことに種別調整者の方が熟考を行うべき時期はもう当の昔に過ぎ去っているのです。何故このように日本における飼育下のホッキョクグマの繫殖への取り組みが遅れたかですが、私なりにその理由を述べますと、ホッキョクグマの生息地を自国領内に持つ国々の野生のホッキョクグマの保護政策(つまりカナダ、アメリカ、ロシア、ノルウェー、デンマーク)の進行状況について日本の動物園は全く注意を払ってこなかったということです。今世紀に入ってから以降に野生で誕生した個体の入手など原則的に不可能となっているという状況を理解することが不十分のまま、全てを動物商頼みにしてきたというわけです。そこに血統の管理といった考え方は乏しかったわけです。アメリカにおけるAZAのSSPとか欧州におけるEAZAのEEPなどといった飼育下のホッキョクグマの繫殖計画は全て、ホッキョクグマの生息国における野生のホッキョクグマの保護政策の進展に呼応した形で軌を一にして立ち上げられているのです。つまり欧米では野生のホッキョクグマの保護と飼育下のホッキョクグマの繫殖はコインの裏表の関係となっているのです。こういったことに無関心であった日本の動物園は、今頃その高い代償を払っているというわけです。購入価格の高騰などは物事の本質を外れた極めて瑣末な問題なのです。
アイラ (2010年12月生まれ) のパートナーといったことに問題を限定するならば起死回生の一手として円山動物園はカナダのトロント動物園で飼育されている雄(オス)のハドソン (2011年10月生まれ) かハンフリー (2013年11月生まれ) を札幌に移動させて熊本のマルルをトロント動物園に移動させるという提案をカナダ側に行ってみるべきでしょう。この二頭の雄(オス)の若年個体は人工哺育されたもののすでに「適応化 (socialization)」が行われており、また雄(オス)の場合は人工哺育が繁殖にマイナスに作用することがないことがほぼ証明されているからです。このハドソンかハンフリーのどちらかはいずれ欧州とカナダによる個体交換によって欧州に移動すると私は予想していますので先手を打ってこのどちらかを札幌に移動させるべくトロント動物園に提案してみるという手はあると思います。血統的には申し分のない個体だからです。
(資料)
十勝毎日新聞 (Nov.21 2018 - つなげ 命のバトン 第3回「追いつめられたシロクマ」)
(過去関連投稿)
アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯
北米の過去約100年間の飼育下のホッキョクグマ出産記録が語ること ~ 再び考えるキャンディの今後
欧州がホッキョクグマの幼年・若年個体をプールする 「集中基地」 を計画 ~ 雌はオランダ、雄はイギリスへ
by polarbearmaniac
| 2018-11-22 00:15
| Polarbearology
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