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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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「ロスチク問題」の本質とは何か? ~ 時計の針は何故急に大きく昔に戻ったのか?

「ロスチク問題」の本質とは何か? ~ 時計の針は何故急に大きく昔に戻ったのか?_a0151913_1745820.jpg
青島で検疫中のロスチク Photo(C)Новосибирский зоопарк

昨年2018年の12月初旬にロシアのノヴォシビルスク動物園で飼育されていた雄(オス)のロスチクが彼の三歳の誕生日の直前に忽然と同園から姿を消し、数日後にノヴォシビルスク動物園から彼が中国の青島(チンタオ)に移動したことが告知されたという件がありました。ロスチクのその後については中国で報じられた情報は一切なく、彼は「中国」というブラックボックスに入ったことが実感できたというのは皮肉といえば皮肉な話だったわけです。ところが1月23日に突然ノヴォシビルスク動物園から、依然として検疫状態に置かれているロスチクの写真が一枚公開され、彼が周囲の環境に適応しつつあることが中国側の施設のスタッフの情報としてノヴォシビルスク動物園が得ていることも明らかにされました。こういったロスチクに関する情報のこれまでの欠缺についてノヴォシビルスクの地元ファンの嘆きには大いに同情すべきものだったわけです。

しかし私は今回のロスチクの中国行きに関する情報の隠匿そのものが問題の本質なのだとは全く思っていないわけです。何が本質的な問題なのかといえば、それはロスチクがロシア国外に移動するに関してどんな条件が付されたかという問題なのです。一般的にロシアのホッキョクグマが国外に移動する場合、あるいは移動が検討される場合にその条件には以下の四つのパターンがあります。そしてこれらは時代が新しくなるにつれ、①⇒②⇒③⇒④ の順で行われるようになってきたわけです。

①単純売却

②他種との交換

③移動先の条件付与(完備した飼育展示場の有無、パートナーの存在の有無、etc)

④繁殖計画による個体移動

上のうち①と②とは非常に近い関係にあり考え方によっては①と②は本質的に同じものであると言えなくもありません。こういった①②③④について、①と②が行われたのは2009年頃(一部例外はありましたが)まで、③が行われたのは2015年頃までで、現在では建前上は全て④で行われるという状態になっているわけです。ところが今回のロスチクの中国への移動に関しては報道されている情報によれば、彼はウォンバット、フラミンゴ、チーターなど複数種の複数頭との交換という条件を含んだ契約で中国に移動しているそうです。これはつまり、彼は②の条件に付されてロシア国外に出たというわけです。もうすでに10年も前に時計の針を戻したような古色蒼然とした形でこうしてホッキョクグマがロシア国外に出たのはどうしてかということが今回の「ロスチク問題」の本質であり(ちなみに大阪のシルカの移動の場合には③の条件が付されました)、「とうとうロスチクの姿が確認できた」ということは必ずしも最も重要なことではないというわけです。

上の四つのパターンで考えれば、①⇒②⇒③⇒④の順番で繁殖という視点が強くなっていくわけであり、現在ではホッキョクグマの移動は全て繁殖の重要性という視点なしには行われないわけですが、そうなるとロスチクの移動は繁殖という視点は極めて希薄なものであることを示していることになります。時計の針を10年も前に戻したような形で行われたロスチクの移動の理由は彼の血統にあるのだと考える以外に説明がつきません。一部の報道によりますと、今回のロスチクの青島の施設への移動にアドバイザーとして関与した人物にEAZAで重要なポジションにあるスコットランドのハイランド野生公園のダグラス・リチャードソン氏の名前が挙げられています。私は昨年9月にハイランド野生公園を三日間訪問した際にどうしてもダグラス・リチャードソン氏と話してみたいと思っていたのですが姿をお見かけすることがありませんでした。リチャードソン氏は私がウクライナのムィコラーイウ動物園を訪問した時期の直前にやはりムィコラーイウ動物園を訪問していたことがウクライナで報道されていましたので、おそらくウクライナからまた別の国に行っていたのだろうと思います。それはさておき、リチャードソン氏がロスチクの移動に幾分なりとも関与したのが事実であれば、いかにEAZAがロスチクの欧州行きを回避させたかったかが逆の意味でわかろうというものです。一度はロスチクの受け入れを決めておきながら結果的に受け入れることができなかったために一種の「贖罪」のような形でロスチクの新しい移動先である中国・青島の新施設の飼育条件の整備のために一肌脱いだというのが考え得る真相だったでありましょう。





さて、そうなると今後ノヴォシビルスク動物園でカイ(クラーシン)とゲルダのペアの間にできる子供は血統的にはロスチクと同じ評価を得ることになるはずで、そうなると今回のロスチクのように将来の移動先は中国と事実上は決まってしまうであろうことを意味しています。同じカイ(クラーシン)とゲルダのペアの間にできたシルカですが、その血統的評価は欧州の考え方で言えば厳しいものであることをも意味するでしょう。こういったことは現在の血統情報、つまりゲルダはシモーナの娘であるということから生じてきているわけです。私は、ゲルダの本当の母親はシモーナではなくムルマであるのが真相であり、ゲルダとコートダジュールのラスプーチンは双子であるという説を主張しています。私の説が仮に正しければシルカもロスチクも、その血統的価値は飛躍的に上がると考えていますが、繁殖計画は全て血統情報が正しいという前提でなされていますので、そうなるとシルカもロスチクの血統的価値は下がってしまうわけです。

何か真相なのかを確かめるたった一つの手段があります。大阪のシルカ、男鹿の豪太、旭川のイワンの三頭から血液サンプルを採取してDNA鑑定を行いこの三頭の血統的な関係を明らかにすることです。ただし性別すら間違って判定するような現在のDNA鑑定の状況ではあまり期待できないかもしれません。

(*この血統問題、「「ロシア血統の謎」に迫る(1) ~ ラスプーチン、ゲルダ、血統番号2893個体の三頭の謎を追う」を御参照下さい。)

(資料)
Новости Новосибирска (Jan.24 2019 - Плавает в бассейне, ест с аппетитом: в зоопарке рассказали, как белый медведь Ростик живёт в Китае)
НДН.ИНФО (Jan.24 2019 - Медвежонок Ростик привыкает к китайской еде)
Сиб.фм (Jan.7 2019 - Новосибирский зоопарк получит вомбатов в обмен на медвежонка Ростика)
Коммерсантъ Новосибирск (Dec.24 2018 - Новосибирский зоопарк получит вомбатов в обмен на белого медвежонка Ростика)

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by polarbearmaniac | 2019-01-25 00:15 | Polarbearology

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