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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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よこはま動物園(野毛山動物園 & ズーラシア)の苦闘の繁殖記録 ~ 健闘の野毛山動物園、不毛なズーラシア

よこはま動物園(野毛山動物園 & ズーラシア)の苦闘の繁殖記録 ~ 健闘の野毛山動物園、不毛なズーラシア_a0151913_0522124.jpg
野毛山動物園にやってきた。
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横浜市には現在ホッキョクグマが飼育されている施設が二つある。一つは「よこはま動物園ズーラシア」、もう一つは「横浜・八景島シーパラダイス」である。前者は横浜市の公益法人が運営している公営の施設であり後者は営利企業が運営している施設である。今回のテーマは前者におけるホッキョクグマ繁殖の実績についてである。この「よこはま動物園ズーラシア」(以下、「ズーラシア」と略記)の前身的な存在だったのが現在訪れているこの野毛山動物園であり、ズーラシアが1999年4月にオープンするにあたって多くの飼育動物が野毛山動物園からズーラシアに移動した。そういった動物の中にはホッキョクグマも含まれる。よって今回はこの野毛山動物園におけるホッキョクグマ繁殖、そしてズーラシアにおけるホッキョクグマ繁殖についてドイツのロストック動物園が収集した記録を紐解くことによって振り返ってみたい。尚、野毛山動物園はスーラシアがオープンした後も小規模の動物園として今日まで存続している。
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この野毛山動物園で最初に繁殖を担ったホッキョクグマは、雄(オス)のシロキチ (Shirokichi #3207 1959~1972) と雌(メス)のユキ (Yuki #3208 1959~1975) というペアである。シロキチもユキも野生出身(おそらくカナダ出身)の個体であり、共に1960年12月に野毛山動物園に入園した記録がある。このペアの間での繁殖の結果の記録は以下である。

① 1964年12月15日 1頭誕生(#3240) 性別不明   翌日12月16日死亡
② 1965年11月21日 1頭誕生(#3213) 性別不明        同日死亡
③ 1969年12月25日 1頭誕生(#3221) 性別不明        同日死亡

注目すべきなのは雌(メス)のユキが満4歳となって繁殖可能な年齢に達したその年の繫殖シーズンにいきなり出産しているということである。さて、ところがユキの出産が記録されているのはこの3回である。大変残念なことに雄(オス)のシロキチは1972年6月に12歳という若さで亡くなってしまった。パートナーだったシロキチを失ったユキは翌年1973年の8月に鹿児島の平川動物公園に移動し、そこで1975年8月に15歳で亡くなっている。惜しいことをしたものである。
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野毛山動物園は次なるホッキョクグマのペアを導入した。雄(オス)のカンタ (Kanta #226 1972~1990)、そして雌(メス)のユキコ (Yukiko #225 1972~1999) である。この二頭はいずれも野生出身でロシア (当時はソヴィエト連邦)で捕獲された個体であり、共に1973年4月に野毛山動物園に入園している。このカンタとユキコとのペアの間での繁殖記録は以下のようになっている。

④ 1980年10月16日 2頭誕生(#686 #687) 性別は1頭が雄(オス)他頭は不明   1頭は同日死亡、もう1頭は10月18日に死亡
⑤ 1982年11月11日 1頭誕生(#688) 性別は雄(オス) 11月13日死亡

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雄(オス)のカンタは1990年2月に17歳で死亡している。カンタというパートナーを失ったユキコだが、その後数年間は彼女1頭だけで飼育されていたというのがロストック動物園の記録で読み取れる。さて、ここからが問題である。野毛山動物園は1998年の6月になって雌(メス)のチロ(本名はチロリン Chirorin #1316 1990~2011)を導入するのである。このチロの出自に関して一部のファンの方は彼女がロシアのカザン市動物園生まれであると主張しているのだが、それを示す根拠を私は探し続けたものの発見できなかった。しかしロストック動物園の記録ではこのチロに関して野生出身個体であるとされている。彼女は1991年12月に阿蘇のカドリードミニオンに入園し、そして1998年6月に野毛山動物園に移動してきたという記録をロストック動物園は保持している。ロシアのカザン市動物園における謎に満ちた繁殖実績については近日中に稿を改めて述べる予定である。
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さて、ズーラシアのオープンの時期も近づき、野毛山動物園はホッキョウグマたちをズーラシアに移動させる作業を開始していたようだが、その時に悲劇が起こった。ユキコの移送のために使用された麻酔によってユキコが死亡してしまったと広く伝えられている事件である(ただしこの事件には概要が不明な点が多い)。ロストック動物園はこの「事件」の発生日を1999年1月25日と記録している。ユキコは26歳でこの世を去ったのである。
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これ以降は舞台が1994年4月にオープンしたズーラシアに移る。1999年5月にロシアのロストフ動物園からズーラシアに来園したのが雌(メス)のユノナ (Юнона #1191 1988~2002) である。彼女は1988年12月5日にロシアのロストフ(・ナ・ドヌ)動物園で誕生している。彼女の母親はウクライナのハリコフ動物園生まれのザルーシュカ (Зо́лушка #305 1970~1993) であるが、このザルーシュカの母親は以前に御紹介している伝説的なホッキョクグマであったセヴェリャンカ (Северянка #733 1955~1984) なのである。つまりズーラシアに来園したユノナはセヴェリャンカの孫ということになる。会ってみたかった....。
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さらに1999年12月にズーラシアに来園したのがロシアの野生出身の雄(オス)のジャンブイ (Ямбуй #1619 1991~ ) である。ズーラシアは彼の名前を「ジャンブイ」と呼び、ファンもそう呼んでいるのだが、実はその呼び方は間違いである。「ヤンブイ」と呼ぶのが正解だったのである。彼については「「ロシア血統の謎」に迫る(4) ~ 横浜・ズーラシアのジャンブイの誕生・血統の真相を探る」、及び「「ロシア血統の謎」に迫る(5) ~ ジャンブイ(横浜・ズーラシア)の幼年時代の映像が示す深い謎」という投稿を御参照頂きたい。ジャンブイがズーラシアに来園したのは彼をチロ(本名はチロリン)とユノナという二頭の雌(メス)のパートナーとするためだっただろう。ところがユノナは2002年の6月に13歳の若さで亡くなってしまう。これは痛恨のことだった。そして2003年7月には宝塚ファミリーランドから雌(メス)のオリーヴ (Olive #1251 1977~2004) が来園したのだが、その理由は宝塚ファミリーランドが閉園することになったからである。このオリーヴはズーラシアに来園した翌年の2004年8月に亡くなってしまう。その責任はズーラシアにあるというのが一般のファンの認識ではあるが彼女の死の真相も具体的部分には不明な点も多い。 こうしてズーラシアでは雄(オス)のジャンブイ(ヤンブイ)と雌(メス)のチロ(本名はチロリン)という二頭が残ることになり繁殖に挑戦していくことになる。

ところがロストック動物園の記録ではチロが出産した事実は全く見い出せない。そういった状態のままチロは2011年5月に20歳で急死してしまうのである。これでジャンブイ(ヤンブイ)のパートナーはいなくなってしまった。そして彼のパートナーとしてズーラシアに来園したのは愛媛のとべ動物園で飼育されていたバリーバ (Ballyba #976 1990~ ) である。彼女はデンマークのオールボー動物園で近親交配の結果で生まれた個体であるがズーラシアにおいて約4繁殖シーズンにわたって野生出身個体であるジャンブイ(ヤンブイ)とのペアが形成されるという、繁殖資源の大いなる浪費状態を生みつつ2016年2月にとべ動物園に帰還している。ジャンブイ(ヤンブイ)の次なるパートナーとなったのは釧路市動物園から2016年3月に来園したツヨシ (Tsuyoshi #1759 2003~ )である。彼女はロストック動物園の記録、及び血統台帳上では依然として雄(オス)として登録されたままである。このジャンブイ(ヤンブイ)とツヨシとのペアの間での繁殖についてロストック動物園では出産の事実の情報は得ていない。「実は〇〇だった」はあるかもしれない。しかしあくまでもロストック動物園の記録では上記のように述べてきた通りである。

こうしてロストック動物園の情報からまとめると、よこはま動物園(野毛山動物園 & ズーラシア)におけるこれまでのホッキョクグマの繫殖については6頭が誕生したものの成育した(つまり生後半年を超えた)個体はまだないということになる。あくまでもこれはロストック動物園の収集した記録によるものである。

こういったことからわかるのは、ズーラシアがオープンして以降この20年間、ホッキョクグマの繫殖はことごとく失敗しているという事実である。よこはま動物園(野毛山動物園 & ズーラシア)として繁殖を担った雄(オス)は3頭である。シロキチ、カンタ、ジャンブイ(ヤンブイ)である。この三頭のうちパートナーである雌(メス)を一度も出産させることができなかったのはジャンブイ(ヤンブイ)だけである。こうした非情な事実を示しているのがロストック動物園の記録である。
よこはま動物園(野毛山動物園 & ズーラシア)の苦闘の繁殖記録 ~ 健闘の野毛山動物園、不毛なズーラシア_a0151913_1424622.jpg
よこはま動物園(野毛山動物園 & ズーラシア)の苦闘の繁殖記録 ~ 健闘の野毛山動物園、不毛なズーラシア_a0151913_147258.jpg
ここ野毛山動物園に今日も悲しく「しろくまの家」が立っている。今は亡きシロキチ、ユキ、カンタ、ユキコを偲ぶ場所はここだけである。

LUMIX G9 PRO
LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH.
(Sep.17 2020@横浜・野毛山動物園)

(過去関連投稿)
ジャンブイの素顔 ~ 彼の出自の謎を追う
夏の日曜日の昼下がりのジャンブイ、再び彼の出自の謎を考える ~ 彼は果たして豪太の伯父なのか?
モスクワ動物園のウムカ (ウンタイ – 男鹿水族館・豪太の父) 闘病生活の後、すでに死亡の模様
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「ロシア血統の謎」に迫る(5) ~ ジャンブイ(横浜・ズーラシア)の幼年時代の映像が示す深い謎


by polarbearmaniac | 2020-09-18 02:00 | Polarbearology

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