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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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東京・上野動物園の苦闘の繁殖記録(2) ~ ユキコからレイコ、そしてデアへのバトン......老舗動物園の悲願

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ユキオ (Yukio the Polar Bear/Белый медведь Юкио)
(2014年8月17日撮影 於 東京・恩賜上野動物園)


前投稿からの続き)
世界の飼育下のホッキョクグマの血統情報を集めて管理しているドイツのロストック動物園の記録に沿って上野動物園におけるホッキョクグマ繁殖への試みを考察していきましょう。

さて、戦後になった上野動物園でホッキョクグマの繁殖を担った雄(オス)の個体 (#3197 1952~1959) と雌(メス)のユキコ (Yukiko 1949~1984) のペアでしたが、雄(オス)の個体 (#3197) が1959年に亡くなったしまったためにユキコにはパートナーがいなくなってしまいました。しかし幸運なことに上野動物園はソ連のモスクワのボリショイサーカスが1958年に初めての来日公演を行った際に、ボリショイサーカス団から日本側に贈与されたホッキョクグマの個体が1頭存在していたのです。後に雪男(Yukio) と命名されたこの個体が上野動物園に入園したのはロストック動物園の記録によれば1958年6月13日のことでした。ボリショイサーカスの1958年の初めての来日公演の様子が映像で残っていますのでホッキョクグマは登場していませんが下に御紹介しておきます。



さて、この雪男 (Yukio) の出自についてです。野生出身個体だそうですが、この個体がサーカス団に入団したのは1957年12月から1958年の早い時期であったことを示唆する情報が見てとれます。そうなるとこの個体はサーカス団に入団して数か月のうちに日本側に贈与されたということになります。ということは、おそらく「サーカス不適合個体」と判断されたために日本側に贈与されたのだと考えることが合理的です。この雪男(Yukio 血統番号224 1956~1993) は日本側に贈与されたときは「性別は雄(オス)である」とソ連側から伝えられたために上野動物園は雪男をずっと雄(オス)として飼育していたそうですが、この個体が亡くなった後になって(検死の結果ということでしょう)実は性別は雌(メス)だったことが判明したというのは比較的知られている話です。そうなると上野動物園はユキコ (Yukiko 1949~1984) と雪男(Yukio 血統番号224 1956~1993) という雌(メス)同士をペアにして繁殖させようとしていたということに結果としてはなるでしょうか? 仮にそうだったとすれば上野動物園はホッキョクグマの繫殖シーズンを何年間も失ってしまったことになります。尚、現在では雪男の性別は雌(メス)とロストック動物園の血統情報は訂正されています。
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さて、次に上野動物園で繁殖を担ったペアは雄(オス)のタツオ (Tatsuo 1982~1991) と雌(メス)のレイコ (Reiko 1983~2012) です。タツオは飼育下の個体であるか野生出身であるかがよくわからない個体です。飼育下の出身だとすればどの動物園で誕生したかですが、誕生した動物園がすぐに動物商に売却してしまって消息不明となっている個体のなかに彼が含まれていると考えられます。タツオは1991年4月に亡くなっています。一方、雌(メス)のレイコですが彼女に関しては実際に会った方が多いだろうと思います。
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レイコ (Reiko #741 1983~2012) Photo(C) 上野動物園

レイコは1983年12月に当時のソ連のレニングラード動物園で誕生しています(ウスラーダとメンシコフが君臨する前の時代のレニングラード動物園です)。ロストック動物園の記録ではレイコの母親はエジャ (Еджа 血統番号287 1964~1994) であることになっています。しかし私が以前にレニングラード動物園でスタッフの方に頂いた紙の資料(別の公開資料("АНДРЕЕВСКАЯ В.С. РАЗМНОЖЕНИЕ БЕЛЫХ МЕДВЕДЕЙ В ЛЕНИНГРАДСКОМ ЗООПАРКЕ (1932-1985 ГГ.)" のおそらく別紙追加部分だと思われます)によればレイコの母親はリトカ (Лидка 血統番号289 1964~1999) となっています。いったいどちらが正しいのでしょうか? 私は以前に「若々しさを保つバーレー ~ 偉大なる母の娘、ここにあり」という投稿で上野のレイコと徳島のバーレーは腹違いの姉妹であると書いたのはレニングラード動物園の資料を根拠にしているのですが、仮にロストック動物園の記録が正しければレイコとバーレーは同父同母の姉妹ということになります。いったいどちらが正しいのでしょうか? このあたりはもっと調査してみたいと思います。ちなみにレイコ(そしてバーレー)の父親はバレンツ (Баренц 1994~1991)です。上野動物園はこのレイコ (Reiko #741) の訃報の記事のなかで彼女はレニングラード動物園で誕生した後にドイツの「ルーア動物園」で飼育されていたと述べていますが、レイコが「ルーア動物園」("Ruhr Zoo" は日本語表記では "ルール動物園" とすべきです)で飼育されたという記録は全くありません。

ここで旧飼育展示場でのレイコの姿を見てみましょう(私の撮影した映像ではありませんが)。



さて、このタツオとレイコのペアの間には繁殖の成果はなくレイコの出産記録もありません。そうこうするうちに雄(オス)のタツオは1991年4月に8歳の若さで亡くなってしまいます。そこでレイコの新しいパートナーとして登場してきたのがファンの方々も良くご存じの雄(オス)のユキオ (Yukio 1987~2014) だったわけです。
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ユキオ (Yukio the Polar Bear/Белый медведь Юкио)
(2014年8月17日撮影 於 東京・恩賜上野動物園)


さて、このユキオに関しては大きな問題が存在しています。それが彼の出自に関することである点についてです。これについては非常に複雑でデリケートな問題を含みますので後日、稿を改めて論じてみたいと思います。彼の出自に関する問題とはホッキョクグマファンのなかの「コア」な方々にとってはよくご存じなはずです。そして、そこでまことしやかに流布されている一見して非常に説得力のある説についてもご存じだと思います。今回、あらためて私はロストック動物園の情報を精査してみましたが非常に興味深いことがわかってきました。確かにこのユキオの血統情報には「後になって訂正(改竄とまでは言いませんが)された形跡があります。ただし奇妙なことにそれはむしろ、「実は〇〇だった」といった、現在流布されている説とは、逆の方向ベクトルの力が働いた形跡が濃厚です。さらに、ユキオは血統番号を二つ持つ個体なのです。本日のところは以下を述べるに留めます。以下は99.9% 事実です。

・ユキオは、もともと飼育下で誕生した個体である。
・ユキオはサーカス団には入ってはいない。


上記の二つが事実であることについては疑念の余地はないということだけは申し上げておきたいと思います。

ここでユキオとレイコの映像を見てみましょう。これも私の撮影した映像ではありません。



ユキオとレイコのペアの間での出産記録はないままレイコは2012年2月に28歳で亡くなってしまいます。ユキオは2012年4月に釧路市動物園に移動し、そして2014年4月に上野動物園に帰還しましたが、その年の11月に亡くなっています。このユキオは多くの人々に愛されたホッキョクグマでしたが、私は最後まで共感を持つことが難しかったですね。「生き方」そのものに共感できなかったということです。いや、もっと正確に言えば、ユキオを愛したファンの方々が彼に「振付け」して仮象させた「彼の生き方」に共感できなかったということになるでしょうか。

その他、上野動物園には名称不明の雄(オス)の個体 (血統番号294 1977~1999) と雌(メス)のマイ (Mai 血統番号295 1989~2000) という個体が存在したことになっておりペアを形成していた形跡があります。この二頭の出自についてははっきりとした情報はないようです。もちろん出産の記録もありません。

そしていよいよ次に登場してきたのが雄(オス)のイコロ (Ikor 2008~ ) と雌(メス)のデア (Dea 2008~ )という現在のペアです。
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イコロ (Ikor the Polar Bear/Белый медведь Икор)
(2015年9月11日撮影 於 恩賜上野動物園)


イコロについては今更申し上げることはありません。札幌・円山動物園で2008年12月9日にララから誕生した雄(オス)の双子のうちの一頭です。上野動物園はかなり早い時期からイコロとキロルのどちらかを上野動物園に導入したいと考えていたようで、イコロとキロルの双子兄弟が共におびひろ動物園に移動した後になって、キロルではなくイコロに白羽の矢を立てたようです。それはイコロの持つ「長男的」な性格がキロルの「次男坊的性格」よりも上野のキャラクターに合致していると考えたようですし繁殖の面でも優位性があるとも考えたようです。しかしイコロがおびひろ動物園から上野動物園に移動したのは2015年4月になってからのことでした。
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デア (Dea the Polar Bear/Белая медведица Деа) 
(2015年9月11日 於 恩賜上野動物園)


イコロの来園に先立つ2012年3月にイタリア・ファザーノのサファリ動物園 (Zoosafari di Fasano) から来園したのがデアでした。上野動物園はレイコが繁殖可能年齢を過ぎつつあたため彼女に代わる雌(メス)の個体をモスクワ動物園に求めて現地を訪れたのでした。しかしモスクワ動物園は「ホッキョクグマの幼年個体を求めて待つ世界の動物園の行列は長い」といった内容の応対をしたそうです。しかしそれはかなり「表向き」の返事に過ぎなかったであろうことは当時のロシアの動物園界の状況を振り返ると明らかでした。上野動物園がモスクワ動物園から雌(メス)の個体の入手に成功していたならば、その個体はミラーナ(現 ハノーファー動物園)かトーニャ(現 ベルリン動物公園)のどちらかであったでしょう。ここで2008年12月、デアが誕生してまだ数日間という時期のデアとマリッサお母さんとの産室内の映像を御紹介しておきましょう。これはかなり以前にもご紹介しています。



デアの父親であるフェリックス (Felix 1994~2008) はベルリン動物公園生まれですが鹿児島の故ホクトとは父親は同じですが母親が異なります。デアの母親であるマリッサ (Marissa 1993~ ) はスウェーデンのコルモルデン (Kolmården) 動物園生まれで浜松のバフィンとは父親は同じですが母親が違います。ですからデアは日本の飼育下のホッキョクグマの個体とは全く別の血統とまでは言えないものの非常に遠い関係にしかすぎずロシアの「カザン血統」などよりは遥かに血統の孤立性のある個体です。このイコロとデアとのペアによる繁殖挑戦は現在進行形として継続中ということです。デアの出産の記録はまだありません。デアの上の姉であるノエル(コペンハーゲン動物園)とジョヴァンナ(ヘラブルン動物園)は見事、出産と育児に成功しています。こういったことを考えるとデアもかなり繁殖成功は有望でしょう。あとはイコロ次第ということでしょう。

.......ということで上野動物園でのホッキョクグマの赤ちゃん誕生は合計4頭、そのうち成育した個体はまだないということになります。「実は〇〇だった」といったような大多数の動物園では存在している「裏話もどきの別情報」はあるかもしれません。あくまでこの投稿はロストック動物園の記録に沿っての構成としてあります。

(資料)
東京ズーネット 「上野動物園百年史」

(過去関連投稿)
(*デア関連)
イタリアから3歳の雌のホッキョクグマのデアが上野動物園へ!
イタリアよりデアが元気に上野動物園に到着
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by polarbearmaniac | 2020-09-21 02:00 | Polarbearology

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