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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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北海道・釧路市動物園の苦闘の繁殖記録 ~ 「タロとコロの鮮烈なる一代記」、そしてコロの「正体」を探る

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ミルク (Milk the Polar Bear/Белая медведица Милка)
(2014年6月14日撮影 於 釧路市動物園)


世界の飼育下のホッキョクグマの血統情報を管理して血統台帳を作成しているドイツのロストック動物園が収集した情報により、今回は北海道の釧路市動物園におけるホッキョクグマ繁殖への挑戦を辿っていきたいと思います。
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タロ(Taro /フロスティ二世 1973~1999)とコロ (Coro 1974? ~2008) (1995年2月20日) Image:十勝毎日新聞/釧路市動物園

同園では最初に導入したペアが実績をあげています。まず雄(オス)の個体ですが、一般的にはタロ (Taro) という名前で知られているものの血統情報上では "フロスティ二世" (Frosty II 個体番号1240 1973~1999) という名前で記録されている個体です。このタロ(フロスティ二世)の「正体」については先日、「名古屋・東山動植物園の苦闘の繁殖記録 ~ ユキコ、そして二世代の「トロイカ体制」実らず」という投稿で考察していますので本投稿では繰り返しません。この タロ(フロスティ二世)は1975年9月29日に釧路市動物園に入園している記録がロストック動物園にあります。そのパートナーとなったのが雌(メス)のコロ (Coro 個体番号1242 1974?~2008) です。このコロの「正体」については本投稿の後半で考察を行うつもりです。彼女も1975年9月29日に釧路市動物園に入園した記録があります。 さて、このタロ(フロスティ二世)とコロというペアの繁殖についてですが、ロストック動物園の記録では以下のようになります。性別については雄(オス)を M、雌(メス)を F とします。あくまでもロストック動物園の記録です。その点に御注意下さい。

① 1980年11月5日 2頭誕生 性別は M、F
                   Mは同日死亡、Fは12月20日に死亡
② 1981年8月10日 2頭誕生 性別は M、F           同日死亡
③ 1982年11月21日 1頭誕生 性別は F           同日死亡
④ 1984年1月20日 1頭誕生  性別は M            コタロウ
⑤ 1989年10月28~29日 3頭誕生 性別はMが1頭、Fが2頭 全て同日死亡
⑥ 1990年12月18日 3頭誕生 性別はMが1頭、Fが2頭  アイス、オーロラ
                     ポウラーは翌年4月22日に死亡
⑦ 1996年12月26日 1頭誕生 性別は F             クルミ

個別に見ていきましょう。①1980年誕生の双子ですが、雌(メス)が生後約45日間生存していたということになります。②1981年誕生の双子の誕生の日ですが、ロストック動物園は "10 Aug.1981" としています。8月出産というのは南半球でもなければあり得ないわけです。おそらく日本から情報を送った際に "10.8. 1981" と送ったのではないでしょうか? これですと欧州やロシアでは "1981年8月10日" と理解します。こういった場合、月については "Aug" として情報を送っておくべきだったでしょう。こういったことから考えますと②の誕生の日は正しくは1981年10月8日であったと考えるのが正しいでしょう。④の1984年1月誕生の雄(オス)のコタロウ (Kotarou 1984~2001) ですが同年12月に旭山動物園に移動し、そこで2001年5月に17歳で亡くなっています。⑤1989年誕生は三つ子だったようですね。雄(オス)の1頭と雌(メス)の1頭の誕生は10月28日、残る雌(メス)の1頭の誕生は10月29日となっています。要するに日付けをまたいで出産したということでしょう。そして⑥1990年誕生も前年に続いて三つ子でしたが、ここで誕生したのが王子動物園のアイス (Ice 1990~2015)、東山動物園のオーロラ (Aurora 1990~2016)です。もう一頭のポウラー (Poular) は1991年4月22日に亡くなっています。生後4ヶ月を過ぎてからの死は惜しまれます。水での事故だったと聞いています。ロストック動物園の資料ではポウラーの性別は雌(メス)となっています。そして最後は⑦1996年誕生のクルミ (Kurumi 1996~2018) です。多くのファンの記憶にはまだ生々しく残っているクルミについては別の機会で述べてみたいと思います。
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クルミ (Kurumi the Polar Bear/Белая медведица Куруми, 1996~2018)(2013年7月27日撮影 於 男鹿水族館)

さて、ここでコロが2008年5月29日亡くなったことを報じる「釧路市動物園ニュース」の記事をご覧下さい。そこにはこう書いてあります。

- 「これまで8回の出産で15頭を出産、このうち3回の子育てに成功して4頭を育てています。」

ロストック動物園の記録ではコロの出産は7回です。そして出産頭数は13頭です。そうすると釧路市動物園の記述とは出産回数と出産頭数が異なるわけです。これをどう理解すべきでしょうか? 一番可能性があるのはロストック動物園に送られたある年のコロの出産のデータの内容に不備があって情報としては受け入れられなかったものがあったということではないでしょうか。現にロストック動物園は円山動物園の「幻の2007年誕生個体」を公式の記録としては採用していないからです。本当にコロの生涯の出産が釧路市動物園が述べているように「8回の出産で15頭を出産」ということであれば、ロストック動物園の記録にはないもう1回の出産は双子だったということを意味します。
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最晩年のコロ (Coro the Polar Bear/Белая медведица Коро 1974?~2008) Photo(C)釧路市動物園

さて....こうした偉大な母であったコロ(血統番号1242)の出自についてかなり時間を費やしてロストック動物園の記録を調べてみました。まずロストック動物園の記録にはやや奇妙な点があるのです。それは、このコロは必ずしも野生出身ではないかもしれない可能性をも示唆しているからです。コロの入園日はロストック動物園の資料では "1975年9月29日" となっていますが、上でご紹介した釧路市動物園のコロの訃報の記事では入園日は "1975年6月25日" となっています。ロストック動物園の記録では、彼女が釧路市動物園に入園する3日前の1975年9月26日に突然、権利の移転を示唆させる文言で「突如として」この世に出現した個体として記録されているのです。そうなると、この時期に比較的近接した日付で「消息不明」(多くの場合に動物商に権利が移転した)個体を探すという作業が必要になります。これを非常に長い時間をかけて行ってみたところ、以下の個体の存在が判明しました。

A.個体番号2552 - 1974年10月にカナダ・マニトバ州で野生個体として捕獲され、同年10月17日にアシニボイン公園動物園に入園して保護され、その後1975年1月14日に神戸の王子動物園に入園したらしいものの、その後の消息が不明となっている雌(メス)の個体。(実はこの個体については先日の「神戸・王子動物園の苦闘の繁殖記録 ~ 「アイス、みゆき」は「デナリ、ララ」へのアンチテーゼだった....」という投稿でその存在について触れています。)

B.個体番号2627 - 1975年6月にカナダで野生個体として捕獲され、同年6月7日にカルガリー動物園へ、そして同年9月12日にエドモントン・バレー動物園に移動後、ただちに何者(おそらく動物商)かに権利が移転し、その後は消息不明となっている雌(メス)の個体。

C. 個体番号3039 - アメリカ・ミネソタ州のコモ動物園で1973年12月25日に誕生し、1974年10月9日に動物商に売却された後に消息不明となっている雌(メス)の個体。

釧路市動物園の訃報記事によればコロが1975年 (6月 or 9月)に来園した時には「まだ小さな子どもで....」と述べられています。そうなるとコロは前年1974年の11~12月に誕生したのではないかという推測は可能です。仮にそうだとすれば、上の三つの可能性のうちAとCの可能性は低くなるでしょう。何故ならAとCは1974年ではなく 1973年(11~12月)の誕生個体だからです。そうなるとコロの「正体」は B に決まりそうですが、しかしここでBにも問題があるのです。思い出してみて下さい、釧路市動物園はコロの入園日を1975年6月25日であると述べているのです。その日付ですと B はまだカナダにいたということになるのです。しかし、仮にロストック動物園の記録が正しくでコロの入園日が1975年9月29日だとしたら、カナダからの輸送のスケジュールにピッタリとなりますので B がコロの「正体」となるでしょう。それから、コロが入園したときに「まだ小さな子どもで....」という釧路市動物園の印象が、コロはその時にまだ1歳になっていなかったからそう感じたのか、それとも1歳にはなっていたものの「まだ小さな子供で....」と感じたのかも大きな問題となります。後者だったとすればコロの「正体」としてはAが急浮上してくるでしょう。なにしろ A は日本国内(神戸)にいた個体なのですから.....。Cの可能性も出てきます。Cをコモ動物園から購入したアメリカ側の動物商はおびひろ動物園がスバルとサツキを購入した動物商、そして円山動物園がデナリを購入した動物商と全く同じなのです。仮に C がコロの「正体」だったとすれば、彼女が野生出身であるといった認識は全く崩壊してしまうことになるわけです。


Tsuyoshi the Polar Bear at Kushiro Zoo (2016)

ということで、偉大なる母であったコロ (Coro 血統番号1242 1974?~2008) の正体は上のA、B、C のうちのどれかである確率は非常に高いでしょう。釧路市動物園は⑦1996年12月26日のクルミの誕生以来、ロストック動物園の記録にはホッキョクグマが出産したという記録は全くありません。コロのパートナーだったタロ(フロスティ二世)は1999年8月2日に亡くなっています。コロは2008年5月29日に亡くなりました。そして現在ではコロの子供たちも全て亡くなっています。ただ一頭、コロの血を引いているのはコロの末娘だったクルミの産んだミルクただ一頭です。
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クルミ (Kurumi) とミルク (Milk)
(2013年7月27日撮影 於 男鹿水族館)


釧路市動物園ではその後、デナリ/クルミ、ユキオ/ツヨシといった組み合わせで繁殖に挑んできました、現在ではキロルとミルクのペアが釧路市動物園のホッキョクグマのペアとして君臨しています。ロストック動物園の記録では、その他の個体で釧路市動物園で飼育されていた形跡があるのは旭山動物園から移動してきた雄(オス)のハゲ(個体番号1240)が1975年から飼育されていたようですが、1999年5月以降は消息不明です。動物商に売却されたのでしょう。あと、雌(メス)の幼年個体でイザバール (Izabar 個体番号3230 1976~1977)というのが1977年5月から6月のかけて飼育されていた形跡があるのですが、その1977年の6月16日に来園後約1ヶ月で死亡した記録があります。このイザバールは飼育下の生まれで1976年11月9日に誕生したようですが、詳細は不明です。
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ツヨシとクルミ (Tsuyoshi and Kurumi the Polar Bears)
(2011年4月24日撮影 於 釧路市動物園)


こうして振り返ってみますと、釧路市動物園におけるホッキョクグマの繫殖は実質的には「コロ(とタロ)の一代記」ということになります。世界の飼育下のホッキョクグマの個体・血統情報を管理しているロストック動物園の記録では、釧路市動物園で誕生した個体は合計13頭、そのうち生後半年を過ぎて成育したのは4頭ということになります。ただし釧路市動物園は「誕生した個体は15頭、成育したのは4頭」としています。私の印象では、北海道のホッキョクグマファン、及びそこから影響を受けた一部の本州のファンに「実は〇〇だった」という話が好きな人が多いような気がします。私もそういった話は必ずしも嫌いというわけではありません。その「実は〇〇だった」の情報ソースはおおむね動物園関係者です。しかし、そもそも私は動物園関係者とは付き合いたくないと考えている人間です。ということであるならば、今回の投稿は徹底的にそういった動物園関係者すら知り得ないであろう話の領域まで資料を駆使して正攻法で切り込んでみたつもりです。

私としてはとりわけ釧路市動物園に関しては、ロストック動物園の公式記録(誕生した個体は合計13頭、そのうち成育したのは4頭)をもって当ブログの見解としておくこととします。

(資料)
釧路市動物園 (May.30 2008 - ホッキョクグマの「コロ」が天国へ行きました) (May.30 2008 - どうぶつえん日記)
PILOT (Feb.8 2010 - 『釧路市動物園』(釧路市))
十勝毎日新聞 (つなげ命のバトン - 第3回「追いつめられたシロクマ」

(過去関連投稿)
釧路市動物園の往年のホッキョクグマ、故コロ (Coro / 1974~2008) はどのようなタイプの母親だったのか?


by polarbearmaniac | 2020-09-26 03:00 | Polarbearology

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