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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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旭川・旭山動物園の苦闘の繁殖記録(2) ~ 繁殖成功の初代ペアの血統継承への強い執着心が生む未完のドラマ

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ルル (Lulu the Polar Bear/Белая медведица Лулу)
(2014年3月22日撮影 於 旭山動物園)


前投稿よりの続き)

さて、こうして旭山動物園におけるホッキョクグマの繫殖への挑戦は第二世代に突入していくことになります。それを担ったのは釧路市動物園で初めて生まれたこの雄(オス)のコタロウ (Kotarou #669 1984~2001) と旭山動物園で第一世代のペアから生まれた雌(メス)のハッピー (Happi #666 1981~2007) というペアでした。このペアによる繁殖への挑戦についてロストック動物園は以下の記録を記しています。

⑧ 1989年10月28日 1頭誕生 性別不明         10月31日死亡
⑨ 1991年11月1日 1頭誕生 性別不明            同日死亡
⑩ 1992年10月22日 1頭誕生 性別不明         10月24日死亡
⑪ 1993年10月25日 1頭誕生 性別不明         10月28日死亡
⑫ 1994年10月16日 1頭誕生 性別不明         10月18日死亡
⑬ 1996年 12月15日 2頭誕生 性別不明        共に12月17日死亡
⑭ 1998年 12月17日 2頭誕生 性別はM、F     共に12月19日死亡
⑮ 1999年 12月14日 2頭誕生 性別はM、F      共に12月16日死亡
⑯ 2000年 12月7日 1頭誕生 性別はM           同日死亡

......これが幼年期に父親に舌の半分を噛みちぎられてしまった雌(メス)のホッキョクグマのハッピー (#666) の出産に関するロストック動物園の記録の全てです。生後72時間という、最初にして最大の成育への第一関門を突破した赤ちゃんは全くいなかったという極めて残念な記録です。旭山動物園は後年、このハッピー(#666) が2007年に亡くなった時に以下のようなことを述べています。

「....赤ちゃんをなめてやることができないハッピーは、子供を授かりながらも、舌がないことが大きな原因で子どもを育てることができなかった可能性が高いと思われました...。」

そんなことをわかっていたのなら何故ハッピーにこれだけ続けて繁殖を強いたのか、と言いたい気持ちにもなるのですが、毎年のように産室に入って、そして毎年のように出産していたハッピーには、ただただ気の毒としか言いようがありません。私は旭山動物園で何回かハッピーに会っていますが、過去の写真のデータは瞬時には出てきませんので探すことにします。非常におかしな言い方になってしまいますが、出産しても育児を行う physical(物理的・身体的)な能力が欠けていた(舌の欠損によって)ハッピーに対して長年にわたって繁殖を期待し続けた旭山動物園は「ホッキョクグマの神様」に見放されてしまったのだろうとさえ感じてしまうほどなのです。ここでハッピー (#666) の映像を御紹介しておきましょうか。


Happi (#666) the Polar Bear at Asahiyama zoo (circa 2004)

私が思うに何故旭山動物園がハッピーの繁殖に固執したのかという理由は、やはり第一世代だったシロウ (Shirou #202 1966~1989) とユキ (Yuki #203 1966~1983) の間にできた個体であるハッピーを同園の繁殖の中心に据えようという強い意志が働いたからだろうと思います。つまり第一世代ペアの血統をあくまで受け継ぎたいという意志の現れだったのだろうということです。
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イワン (Ivan the Polar Bear/Белый медведь Иван)
(2014年3月22日撮影 於 旭山動物園)


さて、いよいよ次は第三世代です。登場してきた雄(オス)はイワン (Ivan #1698 2000~ )です。彼はモスクワ動物園で2000年11月20日にあのシモーナ (Simona #1616 1994~ ) の長男として誕生しています。父親はウランゲリ (Wrangel #1201) です。このイワンの祖母はウスラーダ (Uslada #1190 1987~ )、祖父はメンシコフ (Menshikov #1196 1988~2016) です。そして曾祖母はアンデルマ (Amderma #1195 1980?~2018) という、まさにロシアが誇る偉大なホッキョクグマの系譜に真っ直ぐに連なっている、超の上に超の付くほどの毛並みの良さなのです。イワンは2002年3月30日に旭山動物園に来園しています。このイワンのパートナーとなったのが札幌のララの双子姉妹であるルル (Lulu #1513) でした。ルルは別府の「ラクテンチ」から1997年5月22日に東北サファリパークに移動し、そして2004年10月19日に旭山動物園に来園しています。
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ルル (Lulu the Polar Bear/Белая медведица Лулу)
(2014年3月22日撮影 於 旭山動物園)


さて、このイワンとルルのペアでの繁殖結果についてはロストック動物園の記録には全く存在していません。つまり、出産は一度もなかったということです。イワンとルルとのペアに途中で重複した形でイワンのペアとして加わったのは札幌のララの娘であるピリカ (Pirka #1800) でした。ロストック動物園の記録ではピリカに出産があった記録は存在していません。円山動物園から移動してきたサツキ (Satsuki #1556) も旭山動物園に入園した当初の数シーズンはイワンのパートナーとなりましたが、彼女にも出産の記録は存在していません。といったわけで、イワンは今年2020年の5月20日にとくしま動物園に移動し、彼に代わって今年2020年の6月1日に来園したのが姫路市立動物園のルトヴィク(ホクト - Ludvig/Людвиг/Hokuto #1694) でした。彼はロシアのペルミ動物園生まれで母親はアンデルマ (Amderma #1195 1980?~2018) です。このあまりに偉大なホッキョクグマの息子であるルトヴィク(ホクト Hokuto #1694) が今後旭山動物園でイワンに代わって雄(オス)として繁殖を担っていくことになります。
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ピリカ (Pirka the Polar Bear/Белая медведица Пирика)
(2012年10月27日撮影 於 旭山動物園)


札幌の円山動物園でララの子供たちが公開されていた時期に集まっていた多くの全国のホッキョクグマファンはララの子供たちを見ながら、「何故旭山動物園はイワンにあれだけ固執するのか?」といった話題が出ていたのを記憶しています。しかしこうして旭山動物園におけるホッキョクグマの繁殖記録をロストック動物園の記録で改めて振り返っていきますと、旭山動物園が執着したのはイワンであったというよりも、日本で初めてホッキョクグマの繁殖に成功した第一世代のペアであったシロウ (Shirou #202 1966~1989) とユキ (Yuki #203 1966~1983) の血統に固執したというほうが正しいということでしょう。つまり第二世代ではシロウとユキの子供だったハッピーの繁殖に固執し、そして次の第三世代ではシロウとユキの孫であるルルの繁殖に長年にわたってこだわり続けたということです。逆にそう考えないと、上の⑧~⑯というハッピーに長年にわたっての繁殖に非情なまでに執着し続けたことの説明がつかないのです。私たちが見て旭山動物園が(ホッキョクグマ飼育に関して)やっていることが不合理だと感じる点が仮にあったとしたならば、実は同園のこうした考え方が根底にあってのことだと考えれば理解はできるということです。それを是とするか非とするかは、また別の問題でしょう。
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旭山動物園は現在はシロウとユキの曾孫であるピリカの繁殖に腐心しています。ですから、要するに同園がイワンに固執したというよりもルルに固執したと言うほうがより正しく、イワンは同園におけるたった一頭の雄(オス)だったために「代役」がいなかったというに過ぎないわけです。円山動物園は以前に旭山動物園に対してルルを一時的に札幌に移動させてデナリと組ませてみたいという提案を行ったところ拒絶されたということはよく知られている話です。その理由はこうして考えてみると明らかなのです。つまり旭山動物園は第一世代のペアの孫であるルルはどうしても旭川で繁殖させたかったので彼女の繁殖を札幌で行わせるということはできないということなのです。だから今度はその次の段階として円山動物園に帰還したピリカは同園でララの後継とはならず、結局は旭山動物園に移動したということです。何故ならピリカは旭山動物園の第一世代のペアの曾孫だからなのです。そう考えれば全ての辻褄が合うのです。
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数字とアルファベットの羅列にしか見えないロストック動物園の記録は、今まで述べてきましたように実は多くのことを語っています。その記録によりますと、旭山動物園で誕生したホッキョクグマは合計21頭、そのうち成育したのは(つまり繁殖に成功したのは)合計5頭ということになります。

(資料)
旭山動物園 (Jul.25 2007 - 旭山動物園だより No.122)



by polarbearmaniac | 2020-09-28 03:00 | Polarbearology

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