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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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山口県・周南市徳山動物園の苦闘の繁殖記録 ~ 二世代目のユキに見せた同園の良心

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ユキ (Yuki the Polar Bear/Белая медведица Юки - #489 & #1266 1984~2016)
(2012年6月30日撮影 於 周南市徳山動物園

山口県の周南市にある徳山動物園のホッ キョクグマ飼育と繁殖への試みについて世界の飼育下のホッキョクグマの血統情報を管理しているドイツのロストック動物園の記録を辿りながら見ていきたいと思います。このロストック動物園の膨大な記録を読み解く作業はかなりのリテラシーが要求され、表面的なことだけではなく書いてあることの背後の意味をも解き明かし、記録のどの部分が誤りなのかも見つけ出す作業はおいそれと単純にはいかず、いつも苦心しています。ホッキョクグマが大好きだからこそこういった作業をやっていられますが、そうでなければ、とてもではないですがやっていられない作業です。
山口県・周南市徳山動物園の苦闘の繁殖記録 ~ 二世代目のユキに見せた同園の良心_a0151913_23455525.jpg
徳山動物園に初めてホッキョクグマが導入されたのは1961年のことだったようです。その年の11月20日に2頭の野生出身と考えられるホッキョクグマが入園した記録が残っています。雄(オス)の個体 (#1220 1960~1985) 、そして雌(メス)のシャイン (Shain #1221 1960~1987) という2頭でした。このペアに関してロストック動物園の資料では以下のような繁殖の試みへの結果を記録しています。

① 1967年12月31日 2頭誕生 性別不明     共に同日死亡

雄(オス)の個体 (#1220) が1985年4月に亡くなりますと同園は残った雌(メス)のシャイン (Shain #1221) を動物商に売却しています。そしてシャインは1987年5月19日に東北サファリパークに移動したのですが、彼女はその約一ヶ月半後の7月6日に東北サファリパークで26歳で亡くなっています。この件については「福島県、東北サファリパークの苦闘の繁殖記録 ~ 歴史と記憶の彼方のホッキョクグマたち、ダイスケとチビ」という投稿でご紹介していました。ホッキョクグマに限らずいくつかの動物では、飼育と展示は必ずペアで行うといった考え方が当時では(現在でも?)支配的だったようです。1頭で残った老年に差し掛かろうという個体を売却などの方法で他園に移して、さっさと新しい若いペアを導入する.....そういった考え方だったのでしょう。そういえば最近でも関西の某都市に1頭で飼育されている超人気某種の個体について、しきりに若いペアの導入を求めた「政治勢力」があったのをふと思い出しました。
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ユキ (Yuki the Polar Bear/Белая медведица Юки - #489 & #1266 1984~2016)
(2012年6月30日撮影 於 周南市徳山動物園)

さて、次の世代です。登場するのは2頭のホッキョクグマですが、ロストック動物園は非常に混乱した記録を残しています。まず雄(オス)のホクト (Hokuto #488 1983? ~2011) です。彼は1986年4月9日に徳山動物園に入園しています。そして彼と同じ日に入園したのが雌(メス)のユキ (Yuki #489 1984~2016) です。このホクト (#488) とユキ (#489) という野生孤児出身個体は、共に1985年8月17日という全く同じ日にカナダのトロント動物園で保護された記録が残っているのです。ということは、この二頭は双子だったのではないかという疑念も湧くのですが、ところが孤児として捕獲された日が異なるのです。ホクトは1984年10月に孤児として捕獲 ("capture") されていますが、ユキは1985年7月15日に孤児として捕獲 ("capture") されています。ですからホクトとユキは双子ではないということです。そしてホクト (#488) の生年は1984年ではなく1983年 (10~12月)であることはほぼ決定的だということです (ただし1984年1月の誕生ということならばホクトの1984年誕生説も成立し得ますが、それはほとんど意味のない議論です)。 さて、ところがユキが孤児として捕獲 ("capture") された同じ日の1985年7月15日ににやはり孤児としてユキと共に捕獲 ("capture") され、そしてやはり同じ1985年8月17日にユキ(そしてホクト)と一緒にトロント動物園で保護された個体があるのです。これが南アフリカのヨハネスブルグ動物園で飼育されていたギービー (Geebee #490 1984~2014) なのです。彼女は札幌の円山動物園で1985年12月にシロお母さん(写真は前投稿でご覧下さい)から誕生した雄(オス)のポロ (Polo #681 1985~2014) のヨハネスブルグ動物園におけるパートナーとなった個体です。
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ヨハネスブルグ動物園でのポロ(左)とギービー(右)Photo(C)CNN

ということで、ユキ (#489) とギービー(#490) はやはり双子姉妹だったということになるのです。ちなみに「徳山動物園のユキとヨハネスブルグ動物園の故ギービー(札幌生まれのポロのパートナー)は双子姉妹だった!」という投稿を開いていただき、ユキとギービーの姿を是非比べてみて下さい。この2頭はルルとララが似ている以上によく似ていることがわかると思います。1985年8月17日にカナダのトロント動物園で保護された野生孤児個体は3頭いました。そのうちの2頭が徳山動物園に来園したホクトとユキという血の繋がっていない2頭だったということなのです。ユキと双子姉妹だったギービーはヨハネスブルグ動物園に行ったのでした。 以下はヨハネスブルグ動物園におけるギービーとポロ(ワンという名前になっています)の生前の映像です。手前側を歩いている体の白いホッキョクグマがギービー、つまりユキの双子姉妹の姿です。



さて、ここからが厄介なのです。可能な限り簡単に述べることにします。実はホクト (#488) はもう一つの血統番号を持っていたのでした。それが #1265 なのです。それだけではありません、ユキ (#489) ももう一つの血統番号を持っていたのです。それは #1266 です。ロストック動物園の記録では、1986年4月9日に徳山動物園に入園した個体は4頭、つまり #488、#489、#1265、#1266 の4頭として記録されているのです。ロストック動物園はホクトの亡くなったあとに徳山動物園で飼育されているホッキョクグマは2頭であることを示し、それは #489 と #1266 の二頭であるとしてホクトの死亡の事実を反映した2013年版の国際血統台帳においてそう記載しているわけです。しかし実際はユキが一頭で暮らしていたのです。こういった情報の混乱が何故生じたのかを考えてみますと、情報の送り手の側に問題があったように思います。そして奇妙な記録が生じていることに気が付くほどロストック動物園には時間がなかっただろうということです。ちなみにこの #1265 と #1266 はホクトとユキがトロント動物園で保護された日付や実際に捕獲された日付が欠損したものとなっており、この二つの血統番号は結果的には「ダミー」の番号になってしまっています。よって #1265 と #1266 の二つは authenticity に欠けていると言えるでしょう。

ユキの表情の変化 - A variation in Yuki the Polar bear's facial appearance, at Tokuyama Zoo, on Jul.5 2014

さて、肝心のホクトとユキのペアによる繁殖の試みですが、その結果についてはロストック動物園の記録には存在していません。つまりユキの出産はなかったということです。この二頭は相性が良くなかったそうですが、私は実際にその相性の悪さを自分の眼で見ていませんので何とも言うことができません。ホクトは2006年12月から2009年5月まで愛媛のとべ動物園に繁殖目的で出張し、2009年5月15日に徳山動物園に帰還しています。彼は2011年3月5日に亡くなっています。ホクトの訃報については「徳山動物園のホクト逝く ~ 閉塞状況打開を目指したその功績と意義」という投稿を御参照下さい。 ユキは2016年11月28日に亡くなっています。ホクトの死後に1頭となったユキでしたが、徳山動物園は彼女を他園に移動させて若いペアを導入しようとした動きを見せなかったのは幸いでした。そこに同園の良心を見ることができたと思います。 以下は心を打つ素晴らしい映像です。

Farewell to Yuki.....

このユキは強烈な印象を与えるホッキョクグマでした。彼女の姿は純粋に、そして直線的に私たちの眼と心に真っ直ぐに届いてきたのでした。その点に関しては多くの方々に賛成して頂けるでしょう。そして更に私の感想を言えば、彼女を見ていると彼女のイメージは現実の中で結晶化して顕在化されていく美の世界そのものだったように感じました。観念性を排した実体そのものがダイヤモンドのような輝きを持つイメージを持ったホッキョクグマでした。私は欧州やロシアでいろいろなホッキョクグマたちに会ってきましたが、このユキと似たタイプのホッキョクグマを見出すことはできませんでした。ユキが亡くなってそろそろもう4年にもなりますが、私たちの記憶に残っているのは「彼女の思い出」というよりは、「彼女の生前の姿」そのものだろうと思います。それほどまでに強烈なイメージを持つホッキョクグマでした。私の想像ですが、彼女の双子姉妹のもう一頭のギービーとは正反対の性格を持つホッキョクグマだったような気がします。

ということで、ロストック動物園の記録によれば周南市徳山動物園におけるホッキョクグマの誕生は合計2頭、成育した個体はなかったという結論になります。

(過去関連投稿)



by polarbearmaniac | 2020-10-07 00:30 | Polarbearology

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