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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(1) ~ "The Tragedy of Ballyba, Princess of Denmark"

愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(1) ~ \"The Tragedy of Ballyba, Princess of Denmark\"_a0151913_02433608.jpg
バリーバ (Ballyba the Polar Bear) 
(2013年2月10日撮影 於 横浜動物園ズーラシア)

愛媛県立とべ動物園におけるホッキョクグマ飼育の歴史と繁殖の試みについて、世界の飼育下のホッキョクグマの血統情報を管理しているドイツのロストック動物園が収集した記録をたどりつつ見ていきたいと思います。実はこの動物園で暮らしている(いた)ホッキョクグマたちについて調べあげていく作業は相当の時間を要し、そしてそこから得られた結論というものは、驚くほど謎に満ちたものなのです。この動物園に関わっている(関わった)ホッキョクグマたちは合計5頭です。今回はあの有名なピースの生物学的な母親であるバリーバ (Ballyba #976 1990~ ) から取り上げていきます。
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(1) ~ \"The Tragedy of Ballyba, Princess of Denmark\"_a0151913_04161053.jpg
バリーバとヤンブイ(ジャンブイ Белый медведь Ямбуй)
(2013年2月10日撮影 於 横浜動物園ズーラシア)

このバリーバ (Ballyba #976) がとべ動物園に入園したのはロストック動物園の記録によれば1997年7月22日のことでした。彼女はその前はスイスのバーゼル動物園で飼育されていたのですが生まれたのはデンマークのオールボー動物園 (Aalborg Zoo) で、それは1990年12月17日のことでした。ここでまずオールボー動物園におけるこの時代のホッキョクグマ繁殖について述べておきませんとバリーバというホッキョクグマを理解することは難しいのです。オールボー動物園におけるホッキョクグマの飼育と繁殖の歴史を徹底的に調べ上げていくこととします。
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(1) ~ \"The Tragedy of Ballyba, Princess of Denmark\"_a0151913_01280130.jpg
オールボー動物園 (2017年7月29日撮影)

オールボー動物園が初めてホッキョクグマを導入したのはロストック動物園の記録によりますと1955年5月のことだったようです。最初に入園したのは野生出身の雄(オス)の個体 (#1054 1954~1967) で、続いて入園したのは野生出身の雌(メス)のシニェ (Signe #928 1958~?) が1959年5月に入園しています。この最初のペア (#1054 & #928) によって1965年11月24日に誕生した個体 (#2341) はその後にドイツの動物園に移動しています。次に1967年12月8日に誕生したロベルト (Robert #929) とソーベル (Thorval #936) はその後、エジプトのギーザ動物園に移動しています。さて、次に登場してくるペアからが問題なのです。

まず野生出身の雄(オス)のミキ (Mikki #73 1962~1994) です。彼こそがバリーバの父親です。そのミキとペアを組んだのはグリーンランドの野生出身の雌(メス)のピーパリウク (Pipaliuk #2306 1962~1970) だったわけです。以前の投稿である「1964年のデンマーク・オールボー動物園 ~ バリーバ(愛媛)の父親ミキ (Mikki 1962~1994) の姿」を開いていただき、そして 2015年11月28日 と書かれた部分をクリックしていただきますと、1964年におけるミキとピーパリウクの幼年期の映像を見ることができます。実に貴重な映像です。
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(1) ~ \"The Tragedy of Ballyba, Princess of Denmark\"_a0151913_03523197.jpg
ミキ (Mikki #73 1962~1994) 
Image:TV2 Nord/Aalborg Zoo
(*注 - この写真のホッキョクグマがミキであるというキャプションはありませんが、デンマークのTV2が放送したオールボー動物園の歩みに関する番組の中で登場し、年代考証の結果、消去法でミキ以外の個体ではありえないと考えられますので「ミキ」としておきます。)

このミキとピーパリウクのペア (#73 & #2306) によってオールボー動物園におけるホッキョクグマの繫殖は引き継がれていくわけですが、ロストック動物園の記録はこのミキ (#73) とピーパリウク (#2306) とのペアの繫殖への試みについて以下のような記録を残しています。

・1968年12月3日 1頭誕生(#2421) 翌年3月1日に死亡

残念ながら生後3ヶ月で赤ちゃんは死亡してしまったということです。そしてそれからそう年月も経過しない1970年1月1日に雌(メス)のピーパリウクは僅か7歳でこの世を去ってしまいます。

パートナーを失った雄(オス)のミキ (Mikki #73) に対してオールボー動物園が新しく彼のパートナーとしたのは雌(メス)のマルグレーテ (Margrethe #74 1969~1980) でした。このミキ (#73) とマルグレーテ (#74) との間には以下のような繁殖記録がロストック動物園に残っています。

・1974年12月7日 1頭誕生(#2635) 2日後に死亡
・1975年12月2日 1頭誕生(#2668) 3日後に死亡
・1976年12月6日 1頭誕生(#75)  ヌカⅡ世 (Nuka Ⅱ)
・1977年1月3日  1頭誕生(#2707) 同日死亡
・1977年12月4日 1頭誕生(#2732) 5日後に死亡
・1979年11月26日 1頭誕生(#2771) 8日後に死亡

さて、こうして繁殖への挑戦を続けてきたミキ (#73) とマルグレーテ(#74) のペアでしたが、雌(メス)のマルグレーテがなんと1980年の8月27日に10歳の若さで亡くなってしまったのでした。雄(オス)のミキはこうしてまたパートナーを失ってしまったのでした。

さて、そこでオールボー動物園はこのミキ (#73) の新しいパートナーを、なんと上記の1976年12月6日にミキを父親として誕生した雌(メス)のヌカⅡ世 (Nuka Ⅱ #75 1976~2006) としたのです。父親(ミキ)と娘(ヌカⅡ世) を繁殖上のペアとして繁殖を行うという、まさに 近親交配 (inbreeding) の道をオールボー動物園は真っ直ぐに突き進んだことになります。このミキ (#73) とヌカⅡ世(#75) という父娘のペアによる繁殖への試みについてロストック動物園は以下の記録を残しています。

・1981年12月16日 1頭誕生(#519)    7日後死亡
・1982年12月10日 2頭誕生(#520, #521)
    #520は翌年7月27日死亡、#521は3日後に死亡
・1985年12月6日  1頭誕生(#522)     セキーネク
・1988年12月12日 1頭誕生(#975)     2日後死亡
・1990年12月17日 1頭誕生(#976)     バリーバ
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(1) ~ \"The Tragedy of Ballyba, Princess of Denmark\"_a0151913_00020493.jpg
バリーバ (Ballyba the Polar Bear) 
(2013年2月10日撮影 於 横浜動物園ズーラシア)

飼育下において近親交配が生じるケースは、たとえば飼育場内の扉を閉め忘れたために近親個体が同じ区画に侵入して交配が行われるといった一種の事故である場合が想定されるのですが、上記のロストック動物園の記録が示すように人間で言えば1親等にあたる父と娘との間の近親交配(別の例にたとえると今上陛下と娘の愛子内親王殿下が結婚して子供をもうける、あるいはゴーゴがモモをパートナーとして繁殖を行う、あるいは豪太がミルクをパートナーとして繁殖を行う)が1981年のシーズンから1990年のシーズンまでという10シーズンにもわたってオールボー動物園で継続して行われていたという記録は、同園におけるこの近親交配が単なる事故ではなく十分に認識されて意識的に行われたということを示すものです。

ホッキョクグマの繫殖の歴史において、このような1親等同士のペアによる近親交配が10年間にもわたって延々と継続されたという例は他にはまずないでしょう。こういったことは「価値観の違い」では説明のつかないことです。 父と娘のペアによる反復・継続した繁殖がありというのならば、要するに「何でもあり」の世界になってしまうでしょう。これが「あり」というのならば円山動物園はリラのパートナーをデナリにすればそれで済むということになってしまうわけです。この時代のオールボー動物園はこういったことが「あり」という特殊な世界だったというわけです。そういった意味で、その近親交配の果実である1990年12月生まれのバリーバは非常に特異な個体であるということなのです。仮に血統的な評価があったとすれば彼女は「B級個体」どころか「C級個体」という評価になっても不思議ではありません。
*(追記) - ちなみに、上で1985年12月に誕生した雌(メス)のセキーネク (#522) つまりバリーバの姉は最終的には南朝鮮に行き、そして2002年以降は消息が不明となっています。結局のところセキーネクにしてもバリーバにしても、オールボー動物園における近親交配による果実は欧州には残らなかったということになります。ですからこの時代にオールボー動物園でホッキョクグマ繁殖のために近親交配が行われていたなどということは欧州ではほとんど知られていない話なのです。
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(1) ~ \"The Tragedy of Ballyba, Princess of Denmark\"_a0151913_00025324.jpg
バリーバ (Ballyba the Polar Bear) 
(2013年2月10日撮影 於 横浜動物園ズーラシア)

オールボー動物園においてこれに続くホッキョクグマの繫殖は、ミキ (#73) が高齢になって繁殖からは引退し、そして彼と「近親婚」の状態であったヌカⅡ世(#75) が今度はコペンハーゲン動物園生まれのナノク (Nanok #1532 1996~2001) とペアを組むことによって再開されます。そして2000年12月19日に誕生したのが現在もオールボー動物園で飼育されている雌(メス)のメーリク (Malik #1693 2000~ ) なのです。それ以降のオールボー動物園における繁殖については記述を省略しますが、この2000年のメーリク誕生以降はオールボー動物園におけるホッキョクグマの近親交配は全く行われなくなったということです。EAZA の EEP がしっかりと機能し始めたからでしょう。

"Frailty, thy name is woman." とはシェイクスピアが彼の作品の最高傑作である「ハムレット (正確なタイトルは "The Tragedy of Hamlet, Prince of Denmark")」のなかで主人公に語らせている台詞ですが、ホッキョクグマの世界にも当てはまるかどうかは、わかりません。

さて、愛媛県立とべ動物園においてこのバリーバのパートナーとなった個体.....これも謎多き男だったのでした.....。




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by polarbearmaniac | 2020-10-14 01:00 | Polarbearology

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