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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(2) ~ ドナウ河岸から来た謎の双子兄妹とデンマーク王女の闇の世界

愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(2) ~ ドナウ河岸から来た謎の双子兄妹とデンマーク王女の闇の世界_a0151913_00415133.jpg
ピース (Peace the Polar Bear #1654 1999~ )
(2013年12月7日撮影 於 愛媛県立とべ動物園)

(*前投稿よりの続き)

まさに絵に描いたような近親交配の申し子だったバリーバ (Ballyba #976 1990~ ) が来日後、とべ動物園でパートナーとなったのは雄(オス)のパール (Pearl #1305 ?~2001) でした。このパールという男も、その「正体」が容易には見定め難きホッキョクグマなのです。このパールについてとべ動物園や愛媛でピースを愛する方々の運営しているサイトの情報、その他などからは以下の二つの情報が読み取れます。

(1)パールはハンガリーから来日した。
(2)パールは1988年に3歳で来園した。

さて、ところが上の二つの条件を共に満たすホッキョクグマは、飼育下の歴史上存在していないことになっているのです。
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(2) ~ ドナウ河岸から来た謎の双子兄妹とデンマーク王女の闇の世界_a0151913_00401211.jpg
ロストック動物園の記録の語るところを見ていきましょう。このパール (#1305) についてロストック動物園の記録は、出生地は不明であるものの飼育下の誕生であることを示し、そしていきなり1987年11月12日にとべ動物園に来園し、そしてそこで2001年10月11日に死亡したとしています。死因については不明だそうです。さて....一方、上の(2)ではパールは1988年に来園したことになっていますのでロストック動物園の記録である「1987年来園」とは来園年が合致しません。ロストック動物園の情報ではパールがハンガリーから来日した個体であるかについては全く不明となっているわけです。さて....そこで以前に釧路市動物園のコロの「正体」を突き止めるために行った方法をここでもパールに対して行ってみることにします。すなわち、「1987~88年から遡って2~3年間ほどの時期にわたって世界の動物園で飼育下で生まれた個体のうち、1987年11月に近接した時期で消息不明となっている飼育下で生まれた雄(オス)の個体」を探すという時間のかかる作業です。
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(2) ~ ドナウ河岸から来た謎の双子兄妹とデンマーク王女の闇の世界_a0151913_01370055.jpg
ブダペストのドナウ川と国会議事堂(2019年1月1日撮影)


相当の時間を費やしましたが、いくつかの候補となりうる個体がピックアップでき、それらのうちからさらに条件を絞っていくと以下が有力候補となることが判明しました。

(A)#655 ハンガリーのブダペスト動物園で1986年12月6日に誕生し、上野動物園が購入して翌年1987年11月4日に東京に到着するも、それ以降の消息が不明となっている雄(オス)の個体。

(B)#701 ポーランドのカトヴィツェ動物園で1984年12月6日に誕生し、1985年5月以降消息不明となっている雄(オス)の個体。

さて上記の(A)ですが、上の条件の(1)には合致しますが(B)の「1988年に3歳」という条件には合致しません。次に(B)ですが、(1)には合致しませんが(2)にはほぼ合致しています。 しかし常識的に考えれば(A)がパールの「正体」と考えて間違いないでしょう。ハンガリーという特殊な場所が一致しているということと、上野動物園が購入しているわけですからいずれにせよ日本に来る個体だったわけです。とべ動物園はパールを上野動物園から入手したのでしょう。というよりももっと正確には、上野動物園に依頼してホッキョクグマ輸入に際して名義上の輸入者になってもらったということだったろうと思います。 1987年当時はハンガリーはまだ社会主義国で、そういった国からホッキョクグマを購入する場合は相手側(ハンガリー)の輸出者は「輸出入公団」であったはずで、そこと取り引きするためには上野動物園、つまり東京都といったネームバリューのある団体が輸入者となることが必要だったということだろうと推測しています。  さて、そうなると、(2)の「1988年に3歳で来園」というのは情報の間違いではないかということが十分に考えられます。
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ブダペスト動物園 (2018年12月29日撮影)

(A)と(B)の両方に合致する個体が本当にないのかをさらに深く検討するためには、ここでハンガリーのブダペスト動物園におけるこの時期の繁殖記録を見ていく必要があるのです。そしてそれが以下です。

・1980年11月19日 2頭誕生 (#646, #647) 共に1~3日後に死亡
・1980年12月4日  1頭誕生 (#648)          翌日死亡
             (*上の2つは母親が異なります)
・1981年12月1日  1頭誕生 (#649)        28日後に死亡
・1982年11月14日 1頭誕生 (#650)       23日後に死亡
・1983年10月31日 1頭誕生 (#651) これがとくしま動物園のシロ
・1985年11月24日 3頭誕生 (#652,#653,#654)
                     1~6日後に全頭死亡
・1986年12月6日  2頭誕生 (#655,#656)      共に成育

.......こういった記録です。(2)の「1988年に3歳で来園」というホッキョクグマが仮にブダペスト動物園生まれだったとすれば1984年または1985年生まれでなければなりません。ところが1984年にはブダペスト動物園では赤ちゃんの誕生は無く、翌年1985年にブダペスト動物園で誕生した個体については全て産室内で死亡しているのです。ということは、「1988年に3歳で来園」というのは間違いであるということを意味していることになります。そもそも私がざっとではありますが簡単に調べた限りではパールの写真というのはネット上に存在していないように見えます。地元の愛媛のファンの方々はピースばかりに関心を持ち、彼女の父親であるパールについては関心がないように見えるのが残念です。
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(2) ~ ドナウ河岸から来た謎の双子兄妹とデンマーク王女の闇の世界_a0151913_01051095.jpg
ピース (Peace the Polar Bear #1654 1999~ )
(2013年12月7日撮影 於 愛媛県立とべ動物園)

さて、有名なピースの父親であったパール (#1305 = #655) の生前の情報が極端に少ないわけですから、ましてや彼と同時にとべ動物園に入園した(であろう)この雌(メス)のミルク (Milk #1306 1986~1997) についてはネット上では写真はおろか名前すら出てきません。果たしてこの個体がとべ動物園に存在していたのかについてすら懐疑的になるほどの情報の無さなのです。彼女はパールとは双子であり、1986年12月6日にブダペスト動物園で誕生しています。このミルク (#1306) もなんと上野動物園か購入した個体 (#656) であり、パール (#1305 = #655) と同じ日に東京に到着し、そしてパールと同じ日にそろってとべ動物園に入園した記録があります。このミルク (#1306 = #656) は1997年1月13日にとべ動物園で亡くなった記録も残っています。こういったことから以下が言えるのではないでしょうか、すなわち、

「とべ動物園は雄(オス)のパール (#1305 = #655) と雌(メス)のミルク (#1306 = #656) を上野動物園から入手したものの、この二頭が双子の関係にあって繁殖上のペアには適さないことを知らなかった。ところがパールのパートナーとしたはずのミルクが1997年1月13日に亡くなってしまったためにパールの新しいパートナーとして別の個体を導入することになり、その結果としてバリーバ (Ballyba #976 1990~ ) を購入することにし、バリーバはミルクの死の半年後の1997年7月22日にとべ動物園に来園した......。」

こう考えると時系列的に全て説明がつくのです。何故とべ動物園がパールとミルクが双子の関係にあることを知らなかったと言えるのかといいますと、ミルクが死亡した時には彼女も(そしてパールも)10歳になっており、すでに繁殖可能な年齢になって数年が経過していたのにもかかわらず、このどちらかの個体のパートナーとして来園していなければならないはずの「第三の個体」の来園が存在していないからです。この事実から、とべ動物園はパール (#1305 = #655) とミルク (#1306 = #656) というペア(実際は双子兄妹)で繁殖を行おうとしていただろう(つまりこの二頭が双子であることを知らなかったが故に)ということがわかるからです。仮にそうだったとすれば、双子兄妹のペアといった組み合わせが結果的にはミルクの死によって回避されたことになったはずだったにもかかわらず、ミルクの「代役」となったはずのバリーバ (#976) が、まさか近親交配による個体だったなどとは、とべ動物園は尚更知らなかったでしょう。ロストック動物園の記録はパール (#1305 = #655) とバリーバ (#976) との間での繁殖について以下を記録しています。

① 1999年12月2日 2頭誕生 性別はFとF 
 ピース(#1654)は人工哺育で成育、もう1頭(#1655)は同日死亡
② 2001年11月27日 2頭誕生 性別はF(#1722)とM(#1723)
                Fは12月1日死亡、Mは同日死亡
愛媛県立とべ動物園の苦闘の繁殖記録(2) ~ ドナウ河岸から来た謎の双子兄妹とデンマーク王女の闇の世界_a0151913_01073227.jpg
ピース (Peace the Polar Bear #1654 1999~ )
(2013年12月7日撮影 於 愛媛県立とべ動物園)

とべ動物園に登場した5頭目のホッキョクグマであった周南市徳山動物園から出張してきた雄(オス)のホクト (Hokuto #488=#1265 1983 ? ~2011) は繁殖に寄与することができずに徳山動物園に帰還しています。ですから当然、ロストック動物園の記録にもホクトとバリーバとの間の繫殖結果の記録は存在していません。

ピースの持つ癲癇(てんかん - Epilepsy)の持病は彼女の母親であるバリーバが近親交配によって誕生した個体であることが原因であることに間違いないだろうと私は考えています。

さて、ロストック動物園に記録をまとめますと、愛媛県立とべ動物園でのホッキョクグマ繁殖は誕生が合計4頭、成育したのは1頭となります。

太平洋戦争末期の1945年2月から3月にかけて栗林忠道中将率いる日本軍は「硫黄島の戦い (Battle of Iwo Jima)」 においてアメリカ軍と血みどろの戦闘を行いました。日本軍は兵力20,933名のうち96%の20,129名が戦死するという敗北こそしましたが大変に不利な状況下でも奮闘し、日米両軍の損害から逆算すると結果として日本兵1人の戦闘能力はアメリカ兵の4~5名の戦闘能力と等しかったほどの日本軍の大善戦でした。私はとべ動物園のTさんのピースに対する懸命な努力を大いに賞賛しますし大きな敬意も払いますが、しかしそもそも日本が1941年12月にアメリカと開戦したこと自体が議論の余地の非常に大きい重要な問題なのです。そこの根本のところを問わずして硫黄島における日本兵の英雄的戦闘やTさんの渾身の努力のみを称えるということは私にはできません。ですから私は愛媛の地元でピースを愛する方々、そして同じようにピースを愛する多くの日本のホッキョクグマファンの方々とは一線を画しているということです。

(資料)

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by polarbearmaniac | 2020-10-14 03:00 | Polarbearology

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